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    一等星の英雄譚

     藤村伊織はときおり、首筋がちりりと焼けつくような感覚を覚えることがある。それは稽古場で、あるいはステージの上で、少し遠くから、無心に注がれ続けるまっすぐな視線の質量だ。
    「伊織ー、駅まで一緒に帰ろうぜ!」
    「……ああ」
     劇場から一歩踏み出すと、稽古の余韻を残した体を初夏の夜風が撫でていく。心地好い風にわずかに目を細めながら、いつものように掛けられた軽やかな声に小さく頷いて返す。
     今日の稽古はああだった、こうだった、そういえば昼休みに誰それが――と、伊織の隣を歩く男の話題は目まぐるしくころころと変わっていく。伊織自身は決して饒舌なたちではないから、話しているのはほとんど相手ばかりなのだけれども、男はその現状に対して物足りない顔ひとつ見せない。城ヶ崎昴という男が、はじめて出会ったときから「そう」だったためになんの疑問も持たなかったが、ふと、何故だろう、と些細な疑問が胸中に去来した。
     頭半分ほど上にある男の顔を、伊織は改めて眺める。多分にあどけなさを残す無邪気な笑顔と、色素の薄い茶色の短髪が、そばを行き交う車のヘッドライトに照らされて滲んでいた。
    「伊織?」
     凝っ、と視線を向けていたものだから、さすがに気付いた男が首を傾げて伊織を呼んだ。幼くまるい双眸が、まっすぐに伊織を見ている。
    「お前は、」
    「うん?」
    「……その、俺といて、楽しいのか?」
    「え、」
     男の両目が、驚きに軽く瞠られたのが見えた。どうしたんだよ急に、とでも言いたげな男の先を取って、言葉を重ねる。
    「お前にばかり話させているし、俺は愛想も良くない」
    「んー……オレはべつに、気にしたことないけど……」
     伊織の言に、男はわずかに眉尻を下げながらつぶやく。困ったような色を載せた瞳は、それでも伊織から逸れることはない。
    「っていうか、……じゃあ、逆に、伊織はオレといて楽しい?」
     オレばっか喋っちゃってるし、たぶんオレうるさいし。
     そう続けられた問いに、今度は伊織が目を瞠る番だった。
     目の前の男を、厭っているわけではないのだ。ただ、あまりにまっすぐにあけすけに向けられる好意や憧憬を、扱いあぐねているだけで。
    「……あー……、……伊織?……もしかして、聞いちゃいけないとこだった……?」
    「っ、違う、」
     どう答えたものか迷っているうちに聞こえてきた苦笑混じりの声に、慌てて首を横に振る。なんの気なしの、感じたままに投げた疑問があらぬ誤解を招きかけていることにようやく気が付いて、伊織は自身の口下手さに珍しく歯噛みした。
    「……たしかに騒がしいと思うときもあるが、退屈は、していない」
    「あっ、やっぱうるさいんだ?!」
    「基本的に声が大きいんだ、お前は……」
    「うーん……、気をつけてるつもりなんだけどなぁ」
     少々ばつが悪そうに肩を竦めながら頭を掻く彼を見ながら、伊織は話を戻す。「それで、」
    「お前はどうなんだ。俺の質問に答えていないぞ」
    「へ?そりゃあもちろん楽しいよ。あと、嬉しい、かな」
    「……嬉しい?」
     さらりと返された肯定と、それに付け足された感情に、首を傾げる。伊織がいまひとつぴんと来ていないことが伝わったのか、男はちいさく笑ってから口を開く。
    「伊織はさ、オレのヒーローなんだよ」
    「…………」
    「自分がなにしたらいいかわかんなくなってたときに、『こんなふうになりたい』って思わせてくれた、ヒーローなんだ」
     だから褒めてもらえたらすっげーやる気出るし、笑ってくれたら嬉しいし、こうやって一緒に帰るのだって楽しい。
     なんの衒いもなく紡がれた言葉が、夜風と町の喧騒にさらわれて過ぎてゆく。伊織は頷くことも忘れて、まじまじと男の顔を見返した。男の瞳と視線が噛み合い、首筋が焼けつくようにざわめいた。ちりり。
     見上げれば目が眩むほどのステージライトが降り注ぐ舞台の上から、袖にいるこの男の真剣な眼差しをはじめて見たときの、得も言われぬ感情を、伊織は覚えている。こちらの一挙手一投足を追い、質量さえ錯覚させるほどの視線は、どこか野生の獣を彷彿とさせた。
     一度気が付けばそれは稽古場でも同じことで、ふとした折りにそんな視線を感じることがある。その眼差しが含んだ意味を、伊織はいま、この男の口から聞いた気がした。
     この男の言う「なりたい」は「なってみせる」ということなのだ。男の経歴を思い返せば、その実感はひどくすんなりと肺腑に落ちた。
    「オレ、まだまだなとこばっかりだけど、いつか絶対、伊織と同じ場所に立つから。見てて」
    「……、ああ」
     純朴な笑顔に、今度は自然と首肯を返していた。男の素直な心根が、心地好く伊織の感情を震わせる。こんな目をされて、こんなにもひたむきな憧憬を向けられたら、――この男の見ている前で生半な演技などできるはずもない。
    「待ちはしないぞ」
    「はは、そうでなくちゃ」
     もちろんどんな場所であっても、生半な演技をするつもりなど端からないけれども。
     肩を並べて舞台に立つその日まで、この男のヒーローでいられたら良い。そんな思いと初夏の風が、やわらかく胸裡をくすぐった。





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    20160516Mon.
    なっぱ(ふたば)▪️通販BOOTH Link Message Mute
    2018/06/13 17:42:44

    一等星の英雄譚

    #BLキャスト  #いおすば

    伊織くんお誕生日おめでとうございます! / お祝い感はありませんが、我が家のいおすばの原点はここかな、という小咄をそっと贈ります。これからも、昴くんのヒーローでいてください。//テキシブよりサルベージ

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    ##腐向け ##二次創作 ##Iori*Subaru

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    いおりくんとすばるくん
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