とこしえについて■
ふたりへのお題ったー
拓真と崚介へのお題:もっともっと、君を知りたい/(時間なんて、止まればいいのに)/シュガー不足 より。
時間など、止まれば良いのに。
窓の外は熱帯夜。空調機からの冷気をじわりと微温ませる熱に身を委ね、詮のない思考を巡らせる。理性を溶かしてありもしない永遠を願わせさえする体温が、くるおしいほど心地好かった。細い息をひとつ吐いてレンズ越しの目を細めると、自らに腹の上を明け渡した彼が低く喉をふるわせて拓真を見る。
「なにを、考えている?」
「……いえ、」
一切の無駄を削ぎ落としたしなやかな肢体を薄い汗に濡らし、わずかに呼吸を乱してもなお、拓真を見上げるルビーレッドは揺るぎない直線だった。
常に遥か高みを見据え、先へ先へと歩んでいく彼は、たとえ比喩と理解していても永遠の停滞を希求することなどないだろう。あえていま無粋を口にすることはあるまいと曖昧な言を返した拓真に、彼は整った眉をあからさまに顰めてみせた。彼のうつくしい低音が、拓真の名前を紡いで落とす。灰羽。
「俺は、もっとお前を知るために、こうしている」
それを、忘れるな。
シーツの水面から伸びてきた熱い指先が、頬を掠め眼鏡をさらう。「もう一度聞くが」
「……いま、なにを考えていた?」
拓真が眼鏡を大切にしていることを知っているからか、彼は真剣そのものといった表情でそう問いかけたあと、噛み合わせていた視線を外してまで気を払いながら枕元へ除ける。その律儀さに、知らずほんの少しの柔らかさが喉元をくすぐっていた。
「なにを笑っている」
訝しげに眉根を寄せる彼に「ああ、いえ」と間を繋いでから、答えを返す。彼はどんなときもあまりにまっすぐで――これだから、拓真は彼に隠しごとができないのだ。黒木崚介という男を求めた先に、退路や迂回路は存在しない。
「このまま時間が止まってしまえばいいのに、と。そんなことを考えていました」
「…………時間が?」
「……言葉通りの意味ですよ。このまま時間が止まってしまえば、……君にずっとふれていられる。叶うはずも、ないことですが」
彼の熱にふれるたび、溶け合うことのない彼の生に焦がれてしまう。せめてこのまま時間が止まってしまえば、自分はこの熱にずっとふれていられるというのに。
ルビーレッドが、言葉の意味を探して無防備にまばたく。何度かそれを繰り返し、そして言った。
「俺はこれを、お前以外に許すつもりはない。死ぬまで、な」
「…………、」
「それは、永遠の代わりにはならないのか?」
浅い息をひとつ吐いてそう尋ねた彼の唇がどんな形をかたどっていたのかは、食らいついてしまったからわからない。ただ、絶対的に糖度の足りないはずのトーンの睦言が、胸にひどく甘く響いた。
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20180725Wed.