イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    拓崚小ネタログ6■3月21日:「あたたか」

     たった二色で構成された盤面の両岸に、つややかな木製の駒を並べていく。洗練された輪郭の、けれどもどこかぬくもりを与える駒の手ざわりと音色が自身の指先に馴染んできたと感じるようになったのは、少しばかり前のことだ。雪の舞う冬の午後をときおり盤面越しに過ごし、やわらいだ風が春めきはじめたこのごろになってもまだ、飽きもせずふたりで盤面を挟んで向かい合っている。
    「どうぞ」
     然るべき位置に然るべき駒をひとしきり並べ終え、ゆったりとした仕草で持ち上げられた男の掌中には、白と黒の歩兵がそれぞれひとつずつ握られている。この男を相手取るならどちらを選んでも一筋縄ではいかないことは、既に経験則で知っていた。
     細く開けたリビングの窓から、澄んだ朝の風がやわく滑り込んでかすかに頬を撫でる。晴れ渡った空からそそぐ日差しがもう少しの温もりを含むまでの時間を対局に充てようと提案したのは自分で、戯れるように昼食を賭けたのは男のほうだ。――なんにせよ、互いにこの時間を好ましく感じているには変わりがなかった。
    「……こちらで」
     さほどの間もあけず、男の片手を指先で示す。開かれたそこにあるのは、どちらの色か。

    ***
    20200321Sat.
    (エアvコレ様当日参加用小ネタ)
    ■残像は白昼夢

     きょうは、日中をひとりで過ごす休日だった。
     夕方には取材の仕事を終えた崚介と合流することになっているが、それまでにこなさなくてはならない予定も特にない。穏やかな昼下がり、地下鉄に揺られて市街まで足を運び、世話になっている園芸店に立ち寄ったあと、ドアベルの音色を背後に聞きながらさてと思考を巡らせる。むろんこのまますぐに自宅へ戻るという選択肢も存在したが、彼からの連絡が入るまでのほんの数時間の空白を今日はどうにも持て余してしまうように思われて――数秒の思案のあと、拓真は通り沿いに歩き出した。やわらかい日差しと風が、街路の喧騒と溶け合って頬と髪を撫でる。
     昼どきを過ぎて落ち着いた雰囲気の流れるベーカリー、店員が品出しをしている最中の書店、ジュエリーブランド店の華やかなショウウインドウ。沿道に立ち並ぶ店の前を横切りながらしばらく歩き、一軒のカフェの前で足を止めた。
     何度か訪れたことのあるそこはティータイムメニューの幅が広く、彼が好むハーブティーの取り扱いも他店に比べて種類が多い。つまるところ、彼とふたりで利用したことのある店のひとつだった。目を細める。
     通りに接した壁面と自動ドアはガラス張りになっており、窺い見えた店内はさほど混雑していないらしかった。腕時計をちらりと確かめてから、靴先を入口へ踏み入れる。メニュー表へ向けた視線は、自然とハイビスカスの赤を探していた。
     彼のひとみによく似たあざやかな赤の温度をこの手のひらにつつんでも、瞼の裏を掠めたルビーレッドの残像はまだしばらくは白昼夢のままであると、――理解してはいたけれども。


    残像は白昼夢
    ***
    20200322Sun.
    (フォロワさまよりタイトルお題「残像は白昼夢」)
    ■当たるも八卦当たらぬも八卦

    うつくしく整った彼の五指が、ふとなにかを思い出したように夜色のジャケットの内ポケットへ潜り込む。ジャケットをハンガーラックへ掛け終え離れた指先にあった包みに目を止めて、自身のコートから腕を抜いた拓真は目瞬きをひとつした。
    「珍しいですね」
    「今日の個別レッスンの帰りに白椋から渡された」
    「ああ、なるほど」
    ころん、と彼の手のひらの上で慎ましく座しているのは、小さな飴玉だった。フルーツのイラストが印刷されたカラフルなパッケージ。両端はビビッドな赤色になっており、苺味だろうか、と詮無い推測を呼び起こさせる。自ら進んで購入することはなくとも、拓真にとってはコンビニエンスストアや量販店などで目にする機会のあるものだったが、眼前の彼の食生活を鑑みれば彼の手にこうした菓子類があることはほぼ皆無だ。彼の答を聞き、合点がいった、と軽く頷く。
    帰り際に渡された純真な好意を無下に扱うこともできず、一旦ジャケットの内側にしまいこんだ彼の表情を想像して、思わず微かに口元を緩める。ひとまわり近くも年下の青年に、どうにも敵わないところがあるのは自分も彼も同じだった。
    「……黒木くん?」
    「いや、」
    普段ならば拓真の表情に聡く気付いて問いを投げてくるはずの彼の視線は、なにを思ってかまだ手元に向けられたままだった。応えと同時に、彼が指先で包みを摘んで拓真の前へと差し出してみせる。首を傾げつつ覗き込むと、パッケージの裏面に、二行ばかりの短い文章が綴られていた。
    どうやら接着部の折り返しを利用した占いらしい。子どものころにはよく目にしたものだ。どこか懐かしさに似たものを覚えながら文面を目で追って、コートをハンガーに掛ける途中の手が止まる。
    「論拠などないだろうが、ちょうど今夜は当たっているといえば当たっているのかもしれないと思ってな」
    柔らかに笑んだ彼がついと手を引き、小さな包みを彼のシャツの胸ポケットに滑り込ませる。
    慣れた歩みで洗面所へ向かったうつくしい背を、ハンガーを持ったまま見送る羽目になったことに気付いてかぶりを振った。――これだから、彼にも敵わない。
    ひとつきりしかないそれをどうするつもりかと尋ねるのは、食事のあとにすべきだろうか。


    ***
    20200329Sun.
    (フォロワさまよりタイトルお題「当たるも八卦当たらぬも八卦」)
    ■おやすみなさいまたあした

     かちゃり、と、金属のふれる微かな音がする。腕時計の留め具を外しアクセサリーケースへ置いた男の長い指の先に、ついと視線をつたわせた。
     外の仕事を終えたその足で夕飯も済ませてきたものだから、とうに夜更けと呼んで然るべき時刻に差し掛かってはいるけれども、明日はオフ日だ。
     このまま夜が深けて朝日が昇り、マンハッタンの街が夕日に染まりだすころまでは、時計の針の進みを気にする必要はない。窓越しに広がる空の色とかすかに滲む空気の肌ざわり、体に染み込んだリズムだけで時が経つのを感じながら男と過ごすひとときの休息が、崚介にはひどく好ましかった。
     他愛のない会話をひとつふたつと交わしながら、自身の人差し指に嵌っていた指輪を外す。使用頻度の高い普段使いの装飾品類を保管しておくための小ぶりなケースを、ふたりぶんの私物が並んでも充分な大きさのものに買い換えてから、気付けば随分と経っていた。
     夜の温度を含んでいた指輪を、男の腕時計の傍らへと置いてケースの蓋に手をかける。マットレザーのすべらかな感触は指先に馴染んだものだ。中身を透かすつややかな硝子の内側に二組の腕時計のひそやかな気配を残して、――かちり、蓋の留め具を掛けた。

    ***
    20200329Sun.
    (フォロワさまより小物お題「腕時計」)
    ■雪と桜の

     起き抜けにホテルの部屋のカーテンを開けると、窓の外では季節外れの雪が舞っていた。
     控えめに動かしていたはずの空調機の音が、いやに大きく聞こえたわけだ。昨日はあれほど暖かかったというのに。他愛のない思考を緩慢に巡らせながら、朝食の時間までに身支度を整えるべく窓辺からじわりと染み出す冷気に背を向け歩き出したところで――枕元に置いてあった私用の携帯端末が静かに鳴いていることに気が付いた。
    「っはい、」
     足早に駆け寄って端末を掴んで通話を繋ぐ。マナーモードに切り替えていたために、着信に気付くのが遅れてしまった。自身が碌に画面も確認せぬまま受話口を耳に当てたことは理解していたが、この時間に私用の端末を鳴らす相手はひとりしか思い当たらない。
    「起こしたか」
    「いえ、ちょうど起きたところで」
    「そうか」
     そうして拓真の耳朶にふれたのは予想通りのテノールで、呼出音代わりの振動が途切れる前に気付いてよかったと声音には出ぬよう心のなかでそっと安堵の息を吐く。胸中を知ってか知らずか、聞き慣れたひそやかさで彼が電話越しに拓真を呼んで声を継ぐ。
    「窓の外は見たか?」
    「ええ。忘れ雪ですね」
    「中庭の桜にも薄く積もっている。美しいな」
     彼らしい実直な言葉が、窓の外で静かに降りしきる雪のように沁み込んで滲む。拓真の泊まっている部屋の向かいに位置する彼の部屋の窓からは、不意の雪景色に染まった中庭の様子もよく見えるようだった。鼓膜を揺らす穏やかな声に耳を傾けてから、確かめるように彼の名を呼ぶ。黒木くん。
    「厚手の上着は持っていますか」
    「……そう長い時間は出ない」
    「そう言わずに、しっかり上着を着ておいてください。今日ばかりは、他の皆さんとも出くわすに決まっていますから」
    「……」
     珍しく、彼からいくらかの沈黙が返る。彼がいまどんな表情をしているものかと確かめられぬことは少々惜しく感じたけれども、まだかすかに冬の気配の残るニューヨークから着てきた上着をクローゼットから出してくるはずだと思い直して、胸裡を揺らした惜しさはひとまず飲み込む。
     目を覚まして忘れ雪に気付いた仲間たちが、各々身支度を整え朝食前の余興として雪見桜を楽しみにやってくるのは四、五十分後程度になるだろうか。聞き馴染んだ仲間の声のなか、横目でそっと見遣る彼の穏やかな横顔もまた、自身には春に似た温もりをもたらすものだ。
    「支度が済んだら連絡する」
    「ええ。……待っています」
     返ってきた声は先ほどの拓真の言葉への了承を含んでいた。出会ったころから変わらぬ躊躇いのない誘い掛けに、ちいさく微笑んで応える。
     自身もまた、クローゼットから厚めの上着を出さなくてはならない。


    ***
    20200329Sun.
    ■狭間の男(拓真)

     静まり返った会議室。刷り上がったばかりの台本の、真新しい手触りをひとり指先と手のひらで感じながら、表紙をめくる。乾いた紙の音とともに文字を辿り出せば、そこには荒廃した近未来の東京が広がっている。
     混沌。闘争。人種主義的な塗り分けと終わりのない諍いが続く世界のなかで、ふとした偶然が物語の歯車を動かしはじめる。
     物語の軸となるふたりの青年と、彼らがそれぞれに守るべき日常の象徴である存在が、退廃的な世界観に慎ましい温もりと彩りを与え偶然の出会いへの祝福を添える。そこには何の罪も咎もないはずだった。
     ひとつ、新しく現れた名前に、滑らかに文章を辿っていた視線をわずかに止める。二色で塗り分けられていた世界の影で暗躍し、ま白く塗り潰そうとするその男が、この劇団で自身が初めて演じる役だった。一考。言葉や仕草のニュアンスをよりつぶさに脳裏に描きながら、台本を読み進めていく。
     ――彼らはただ、出会っただけだ。
     互いの足元に絡みつくしがらみについて何も知らぬまま、偶然に出会ってしまった。それだけのことだ。
     そしてその偶然を、また偶然に知り得た男が闘争のために利用するに至るのも、――やはりただ、それだけのことだ。
     ひそやかに、けれども徐々に不穏さと速度を増して結末へ向かい流れ出す物語の拍動は、ページを繰る毎に確かなものになっていく。
     作為的に塗り替えられた悲劇の果てにある銃声が、舞台に立つ自身の胸にどう響いて聴こえるのかは、まだ知らない。


    ***
    20200405Sun.
    ■桜月夜と春の底

     今日の晩酌は室内灯を落とそうとどちらからともなく述べたのは、マンハッタンの夜景を望むリビングの硝子戸越しにある満月の明るさを、互いに知っていたからだ。
     小型のテーブルランプの薄橙の灯りを汲んだワイングラスには、透き通った薄桃色の淡い春がふたりぶん揺れている。ロゼ・ワインのやわらかな香りが、ひそやかな夜に溶けて五感を擽るのがひどく心地好い。
     半ばほどまで中身を減らした状態でテーブルの端に佇んでいる品の良いシルエットのボトルは、桜の花が咲き誇るころに栓を開けようとひと月ほど前から買い置いていたものだ。酒杯を傾けるたび、グラスの底で八重桜の花弁がゆったりと踊るように泳ぐさまは期待通りにうつくしかった。
     他愛のない会話をときおりひとつふたつと交わしながら、掌中の春と窓の向こうの月を眺めて過ごす。穏やかに耳朶を打つ彼の声も、夜の波間に揺れる花弁のようだ。潮騒に似たテノールへ相槌を打ちつつふと巡らせた思考回路には、いささか酒精が回りすぎているのかもしれない。そう思いはすれど、酔いを醒ます気にもならぬこともまた確かだった。
    「――ああ、注ぎ足しましょうか」
     どれほど過ぎたころだろう。彼のグラスの中身が残りわずかになっていることに気が付いて、そんな言葉を掛けながら心持ち自分の傍に寄せてあるボトルへ手を伸ばした。ちいさく頷いた彼が一度酒杯を空にするために飲み口を傾ける所作を何気なく視界に映し、……注ぎ口を持ち上げようとした動きが止まる。
    「どうした」
    「いえ、」
     透明な春の底に残っていた花弁のひとひらを、淡い色の葡萄酒ごとあざやかに呑み乾したかれのま白い喉のつやめかしさに言葉を取り落としたなどと、素直に返せるはずもない。
     思考の間を取るべく曖昧に応えた自身になにを思ってか、澄んだ赤がひとつ、まばたく。空になった酒杯を片手に持ったままついとこちらへ身を乗り出した彼が寄越した掠めるような口付けも、文字通りのまばたきの間のことだった。
    「桜の味がする」
     ほとんどそのままの近さで落とされた声が、月明かりのやわらかさで膚にふれる。手にしたボトルと、自身のグラスのなかにもまだ幾らかの花弁がたゆたっていると知ってはいたけれども、――いま目の前にある春の香りに、誘われずにはいられなかった。


    ***
    20200408Wed.
    ■パッションオレンジ

     秋の夕暮れはどこでも変わらずひときわ美しくあざやかに見えるのだと灰羽拓真が知ったのは、マンハッタンの街路に吹く風にかすかな冷たさが混ざり始めたころのことだった。
     こつりと靴裏を鳴らし、昼下がりの余暇を過ごしたカフェを、崚介とふたり並んであとにする。このあとは近場にある彼の気に入りの書店を散策がてら徒歩で訪ねてから、予約を入れてあるレストランへタクシーで向かう段取りになっていた。
     日没が差し迫ってきた時分、横合いの車道にはヘッドライトを灯した車が行き交い出している。ビル風と混ざって頬と髪にふれる雑踏の喧騒のなか、点滅する信号機を認めてゆるりと足を止めた。
     トラフィックライトの号令を待ちながら、拓真は横手にあるショウウインドウに目をやってひとつ呟く。
    「さすがに、店先も随分と賑やかですね」
    「ああ」
     拓真が彼の横顔越しに向けた視線をつと追って、彼の双眸が真隣にある店の硝子を見た。黒や紫、橙をメインカラーに賑々しく飾り立てられたディスプレイは、数週間後に迫ったハロウィーングッズを宣伝するものだ。気の早い店では夏の終わりごろから早々に関連商品を陳列しはじめていたが、このごろでは街中の至るところでジャック・オー・ランタンやデフォルメされた蝙蝠の姿を見かけるようになっていた。
    「毎年恒例の行事だが、やはり見映えがするな」
    「ええ。伝わりやすいオーソドックスなテーマですから、いつか演目の題材にしても良いかもしれません」
     ショウウインドウを見つめながら呟く彼の声音から、それとなく胸中を察して応えを返す。
     決してあからさまな表情に現れているわけではないが、演劇についての思案を巡らせているときの彼からは、ある種のニュアンスを感じられることがある。――有り体に言えばそれがいわゆる喜楽の類いだと、拓真とて知ってはいるのだけれども。
    「そうだな」
     横手から視線を戻し、ちいさな首肯とともに拓真を見上げた彼の瞳がほんのわずか眇められる。彼の名前を呼ぼうとして、然しなにを続けるべきかわからずただそっと沈黙を返す。
     進行方向、ビルの群れのあいだから覗く斜陽から、したたるような橙のひかりが射している。ありふれた言葉では足りない熱を湛えた双眸が、昼と夜の境目で際立ってあざやかに燃えていた。


    ***
    20200426Sun.
    ■没ネタ供養

     平生よりもいくらか遅い朝食のさなか、ふと窓の外に遣った視線と手を止める。リビングの硝子戸越しに広がる薄灰色の空を、知らずそのまま見つめていると、ダイニングテーブルの向かいに座る彼から問いが投げられた。
    「どうした」
    「いえ、……雨が」
     拓真が食事を摂る手を止めたのは、いつの間にか降り出した雨に気がついたためだった。
     まだ降り始めたばかりらしい細い春の雨が、テラスの床材や窓をかすかに濡らし出している。拓真の言葉とともに同じ方向へ視線を遣った彼の横顔を視界の端に捉えながら、「予定を変えなければいけませんね」とちいさく呟く。
     本来ならば今日は朝食を済ませたあと、ニューヨーク市内の緑化公園へ出掛けることになっていた。拓真が調べたところではそこにはすでに満開を迎えつつある桜並木がつらなっているはずで、うららかな春の日差しの下、彼とふたり遊歩道をゆっくりと散策する予定だったのだけれども――この様子では、それも叶わないだろう。
     せめて昨夜のうちに降り出していれば(あるいはインターネット上の気象予報に事前に降雨を報せられていれば)、いましがたひそかにこぼした息はそもそも落とさず済んだに違いない。生憎の空模様に対する、どこか子どもじみた恨めしさを表に出さぬよう気を払いながら、拓真は外へ向けていた視線を手元へ戻す。拓真のいらえを普段通りまっすぐに受け止めた彼の双眸が、不思議そうにまばたいた。
    「出掛けないのか?」
    「え?」
    「この程度の雨なら、服装にさえ配慮すれば多少の散策には差し支えないはずだが」
    「それは、そうですが」
     彼からの思わぬ言葉に、今度は拓真が目瞬きを返す番だった。朝用のブレンドハーブが香る陶杯を、何気なくも優雅な所作でひとくち傾けて、彼が言う。
    「カフェかレストランであたたかいものを食べて帰ろう。……お前とならば雨の桜も悪くない」

    ***
    20200311Wed.//20200606Sat.

    CAUTION!!
    次ページから2つ若干ふんわりはれんちです(おくちネタ)

    ■とけるゆらめく

     どうしてこうなったのだったか。手繰りたいのはおそらくまだほんの十分と経たぬうちに交わしたやりとりの一部だというのに、その端を掴むことすらできずにただ指先にふれたシーツにきつく爪を立てる。身じろごうとした背はすでにベッドヘッドへ行き当たってしまっていて、これ以上身を引くことは叶わない。眼下にある光景から目を逸らすべきだと脳内で繰り返し鳴り響く理性の声とは裏腹に、一度落とした視線は縫い留められたように動かせないままだった。
     下腹部を擽る掠れた息に紛れて、かすかに濡れた音がする。足の付け根に夜色の髪が柔く擦れる感触だけが、熱に揺れる五感のなかにあって確かな輪郭を保っていた。あつい。
     うつくしくととのった彼の右の五指が、膨らんだ欲をつつんで緩慢になぞる。滑りを良くするためか、唾液を纏わせた舌先に根元からつたいあげられるたびにぞくぞくと背がふるえた。うすく上気した頬に落ちる睫の影のいろと口唇の血色のコントラストに目眩がする。
    「……っ、」
     口を開けばひどく不格好な声が出てしまいそうで、名を呼ぶこともできない。ひときわ強くシーツに爪を立てる自身の指先を、ふいに彼の赤が横目で捉えた。
     足をゆるく割り開くために内腿に添えられていた左手が、ついと離れて伸ばされる。シーツを掴んでいた手のひらを搦め取るように握り直されて、はくり、息を飲む。
    「もう少しだけ待っていろ」
     掠れたテノールがちいさくそう呟いてこちらを見る。その直線の眼差しも、熱に濡れて揺れていた。


    ***
    20200517Mon.//20200606Sat.
    ■ふれるおちゆく

     熱い手のひらにそっと足首を掴み上げられたなら、じき与えられるそれに備えておかなければならない。
     両足を割り開き身を押し込む姿勢の直截さとは真逆の、恭しくさえある所作で崚介の足首を持ち上げた男が、ついと足先に唇を寄せる。踝にあまく歯を立てて、長躯を屈めながら脹脛、膝の内側へと緩慢につたい降りていく口付けが最終的にどこへ辿り着くのかを、互いにすでに知っていた。
     下肢の付け根の柔い膚を食む男の髪と耳朶が内腿にふれる感触に、僅かに吐息が掠れて揺れる。心地好さとしてそのままに受け止めるには少々過ぎたものが与えられようとしていることへの無意識の反応に聡く気付いたらしい男の双眸と視線が出会う。名を呼ぶ代わりにひとつ身じろいで返せば、自身の下腹部で微熱を帯び始めていた欲の先を熱い唇が迷わず含んで口腔へと迎え入れた。
     快楽としか形容できない感覚が、背すじを抜けて意味を成さない声に変わる。熱のなかでちいさく跳ねた足先と仰け反った背がシーツを乱す感触は他人事じみて遠く、下肢を押し開く男の手のひらのやわらかな強さだけがひどくあざやかだった。
    「ふ……」
     最初の波をやり過ごしたことを確かめて、シーツに爪を立てていた指先をついと持ち上げる。下腹部へ伸ばした手で男の髪を掠め、指の腹で熱い耳朶とこめかみを撫でてつたった。
     熱を与える手段のひとつとして理解はするが、こうしているあいだは自身が相手にふれられる場所が必然的に限られる。これほどそばにありながら手のひらの行き先を見失ったように感じるなどと、思考が熱に溶けかけているいま、口に出せはしないけれども。
    「……参りましたね、本当に」
     幾許かの沈黙ののち、熱を食んでいた口を離した男から、微苦笑めいた響きを帯びた声がする。濡れた欲に長い指先だけを絡めながら身を起こした男の首筋を抱き寄せてその唇に食らいつくまで、――あと数秒。


    ***
    20200517Mon.//20200606Sat.
    なっぱ(ふたば)▪️通販BOOTH Link Message Mute
    2020/06/06 22:51:54

    拓崚小ネタログ6

    #BLキャスト #拓崚 #R15

    拓崚小ネタログ×11。3~5月分です。
    フォロワさまからいただいたタイトルお題や小物お題、春を満喫してるあれやそれとか没ネタ供養とか。(構ってくださったフォロワさまありがとうございます…!)
    うしろ2つはワンクッションで若干のはれんちです。



    そしてのんびりしている間にぽちっとはーとの差し入れくださったかたありがとうございます…!;;;;とっても元気をいただきました;;;
    のんびりペースになってしまっていますがゆるりと見守ってやっていただけましたら幸いです…!(深々)

    -----
    ##二次創作 ##腐向け ##Takuma*Ryosuke

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品