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    恋かもしれない 緑間真太郎と言う男は、実に鼻持ちならないやつだった。
     高校入学前の春休み、部活体験が出来ると聞いて勇んでやってきた体育館に緑間が立っていた時はそれはもう驚いたものだ。
     こっちとしては緑間が同じ体育館に、それも自分と同じ部活体験参加者として立っている事実が飲み込みきれなかったし、他の新一年も随分とざわついていた。先輩達も一部は明らかな敵対心に満ちた目で、そうじゃない場合でも珍獣でも眺めるみたいな表情でヤツを見ていたと思う。
     けれど緑間はその全てに興味が無いといったような冷ややかな目で、淡々と部活体験をこなしていった。ただボールとゴールネットだけを見て、淡々と。
     入学式までの間に何とか気持に整理をつけて声をかけた緑間は、案の定俺の事など覚えてもいなかった。ほんの数日前まで部活体験で一緒だっただろと内心で思いつつも、それ以上に手にしていたおかしな物と独特のおかしな語尾に気を取られてしまって毒気を抜かれた事は確かだ。部活体験中は特に気になった事はなかったはずだけど、と後々に聞いてみたところその期間はおは朝も空気を読んだのか目立たない小物がラッキーアイテムだったらしい。
     正式にバスケ部に入部してからはとにかく緑間に張り合って練習をした。秀徳バスケ部の練習は中学の部活なんて話にもならないくらいに辛く厳しい練習で、一緒に入部した奴らもバラバラと辞めていく。最初は一年だけで先輩達の二倍はいて、こんなに沢山いて一軍とか入れんのかよと思っていたけれど二週間もしたら二年、三年の先輩達と同じ程度の人数しか残ってはいなかった。
     そんな過酷な練習の後、緑間が更に残って練習をしている事に気がついたのは入部五日目の事だった。情けない事にそれまでは通常練習がキツすぎて、緑間のことなど頭の片隅にも残っていなかったのだ。あの日たまたま体育館にタオルを忘れていなかったら、もっと後まで気付かなかっただろう。
     タオルを取りに戻った体育館で、緑間は黙々とシュートを打ち続けていた。宮地さんに一人でゴールを独占するなと文句を言われても完全無視で、怒りの余り緑間の頭にダンクを決めようとする宮地さんを監督の許可が出てるからと大坪さんが止めていた。すぐにでも座り込みたいくらいに疲れた体で見たそのシュートは中学の時のあの試合と同じように高い高いループを描いて音もなくゴールに吸い込まれていく。ゴールネットをくぐって床に落ちたボールが立てるターンターンと言う音もあの時と同じはずなのに、絶望へのカウントダウンのように感じていたあの時とは違い酷く胸を高鳴らせた。同じ練習をこなしたはずなのに、この精度を保てるのかと言う驚きと、追い越せないまでも絶対にいつかコイツに一矢報いてみせると言う新たな目標と。
     その翌日からは俺も居残り練習をさせて欲しいと大坪さんに頼みに行った。倒れても面倒みねぇぞと木村さんに呆れられたけれど宮地さんからはその根性だけは買ってやると背中を叩かれた。とにかく、緑間よりも練習する。追いつきたいと思ってる相手より努力もせずにビッグマウス叩いてるなんてダセェ。そんな気持から始めた事だったけれど、緑間は俺の想像以上に凄かった。
     中学の頃に噂で聞いていたキセキの世代は、天賦の才があるからと禄に練習もしないでゲーム感覚でふざけた遊びをしながら試合をしているなんてものだった。だからこそとにかく練習さえすれば一泡くらい吹かせられるかもしれないと思っていたのにとんでもない。緑間は毎日居残り最終時間ギリギリまで黙々と練習をし続ける。そんな時間まで練習をしていくのはレギュラーの先輩達くらいで、その先輩達だって勉強との折り合いや家の事情もあって毎日居残るわけじゃない。それなのに緑間ときたら毎日毎日部活のある日は絶対に最後まで居残っていく。誰だよキセキの連中は練習なんてしないとかいったやつは!! と心の中で悪態をつきつつ既にヘロヘロの体でそれでも意地だけで一緒に居残り続けた。
     相変わらず緑間のシュートの音を聞くと心臓が跳ねる。どれだけ辛いと思っても、緑間のシュートの高い綺麗なループを見れば踏ん張れる気がした。アレにいつかきっと追いつくのだと、気合が沸いてきた。
     そんな中、ある日緑間が話しかけてきた。いつもは俺が勝手に話して、無視されるか溜息をつかれるか鼻であしらわれるかだったのにだ。何事にも興味が無さそうだったのに、一応は俺がずっと居残っていることに気づいていたのかと言う驚きと、それでもやっぱり思い出しはしないのかと言う諦めと。隠すものでもないしと手の内をばらした後の緑間の反応が余りにも予想外でまたもや毒気を抜かれてしまったけれど、それまでオイだのお前だのしか言わなかった緑間が、初めて俺の事を「高尾」と呼んだのは気分が良かった。
     もしかしたら、あの時にはもう。

    ・・・●・・・●・・・

     高尾和成と言う男は、実に軽薄で煩いやつだった。
     入学式後に馴れ馴れしく声をかけてきた時もいきなり人の語尾やラッキーアイテムに笑い出したりと、失礼極まりない態度だった。同じバスケ部に入るのだと言われてもこんな軽薄な輩はどうせすぐに音を上げて辞めていってしまうだろうと意識の端にすら置いてはいなかった。
     けれど厳しい練習にバラバラと新入部員が辞めていく中、高尾は一日たりとも練習を休むこともなく、それどころか誰よりも早く来て練習準備を始めていた。後にそのために掃除当番を疎かにしていた事がたびたびあったらしい事が発覚してクラスの女子に締め上げられていたが。
     通常練習中もシャトルランや外周時など妙に張り合ってきているような気はしていたが、こんな事は良くあることで大抵のやつは興味本位や下らない対抗心で張り合っては勝手に折れて消えていくので今まで通り無視をしていた。だと言うのに高尾はそこで張り合うだけでは飽き足らず、気付けば居残り練習まで始めていた。通常練習だけでもフラフラなくせに馬鹿なのだよ、と思いはしたが俺が気を揉むようなことでもないしすぐにへたばってやめてしまうだろうとこれも無視した。けれど高尾は大坪さんや木村さんからペース配分のアドバイスを受けたり、持ち前の負けん気と根性だかで何だかんだと俺が居残っている日には全て同じだけ居残り練習をしてのけた。
     この時点で今まで俺の回りにいた下らない負けん気を振り回して自滅していく輩でも、勝手に才能だ何だとレッテルを貼って僻んだり嫉んだりするだけのヤツでもないと気がついていた。ただ明らかに敵意がある風だったのが鬱陶しく感じられて、ある日向こうが話しかけてきたのを幸いに探りを入れてみた。案外あっさりと明かされた理由は思いもかけない話だったけれど、何よりも一度対戦して負かされたのに又練習して喰らいついてきたのだと言う事実に、内心では酷く歓喜している事に気づいていた。
     今まで、そんなヤツはいなかった。皆試合の途中ですらもう駄目だと諦め、勝つために努力することすら放棄し、負けるべくして負けていった。記憶にないという事は、こいつも対戦した時にはそうだったのだろうか。それとも俺の目が曇っていて見逃していただけなのか。どちらにしろ、そんな試合の後で尚、勝つために努力し自ら研鑽してこの男は今ここに立っているのだ。そう思ったらほんの少し胸が高揚した。こんな気持はいつ振りだろう。そう思いながら馴れ馴れしく真ちゃんなどと呼び出した相手の名前を初めて呼んだ。
     俺に手の内を明かしてからは高尾はもはや遠慮と言うものを捨て去ったようで、初めての席替えで前後の席になったことも相まって四六時中一緒にいるようになった。よく喋るし馴れ馴れしいし騒がしいしで何ともペースをかき乱される日々だったけれど、不思議と嫌ではなかった。
     いつか俺が唸るようなパスを、と言っていたものの高尾のパス技術は赤司にはまだまだ及ばず、けれど発展途上のその技術が高尾の努力と監督や先輩の指導で日々目に見えて進歩していく様は他人事ながら小気味がいいほどだった。正攻法な秀徳のバスケの中に入った高尾のトリッキーな動きは新たな可能性を感じさせたし、監督もそこを買ったのだろう。一年生ながら俺と共にレギュラー入りした時は驚きながらも心のどこかで当然だと思ってもいた。
     一年レギュラーが二人と言う事で先輩達からの当たりは厳しくなるだろうし、進学校だから無いとは思うが灰崎のような暴力的な輩がいないとも限らない、と気を揉んだりもしたけれどそんな事は一切無かった。随分後になってから、大坪さん達が俺や高尾と同じだけ練習して努力し、相応の実力をつけたものだけが文句を言えと先輩達をいなしていてくれた事を知った。
     インターハイ予選で誠凛に負けた時も一部先輩達の間では主に高尾に対して批判の声が出たらしいが、宮地さんが俯瞰で撮影されたビデオで見てすら黒子を見逃しているお前らが試合で高尾ほど黒子を抑えられるのかと一喝して黙らせたらしい。俺に対してもキセキの世代の癖にといった批判の声はあったらしいが、結局は皆スタメンの先輩方が収めてくれていたようだった。
     俺は本当にチームメイトに恵まれていたのだと、その頃の俺はまだ気づいていなかったけれど。
     そうしてウインターカップ出場が決まり、対赤司への対策のために切り出した方法は正直高尾にとっては余り益の無いものだとヤツも判っていたはずだ。チーム全体でも自分の力量アップでもなく、ただ俺の為だけのパスの技術を磨けというのだから。話を切り出した時は、ふざけるなと怒鳴られることすら覚悟していた。けれど高尾が最初に放った言葉は「それ、俺が失敗したら真ちゃんの手に怪我させるかもしれないんだぜ!?」と言う、俺の事を気遣う言葉だった。もしかすると俺が怪我をすればチームの危機になりかねないと言うポイントガードとしての気遣いだったのかもしれないけれど、その言葉を聞いた瞬間にコイツとならば絶対に成功させられるはずだという確信を抱いた。
     その後何度も練習し、確かにボールが頭を掠ったり手首に当たったりと言う事もありはしたけれど、初めて成功させたときに高尾が見せた表情を、俺は一生忘れないと思う。
     きっと、あの時にはもう。

    ・・・●・・・●・・・

    「うっわ、懐かしいなー」
    「お前は今と余り変わらんな」
    「え、それは俺がまだ若いって褒めてんの?」
    「……黙秘権を行使するのだよ」
     世の中全てが平成最後と沸き立っている中、卒業アルバムを引っ張り出してきたのは高尾だった。数日前に緑間のラッキーアイテムになったので本棚の目に着くところに置いてあったからかもしれないが。
     緑間の言葉に高尾はそれこそ子供っぽくぷっと頬を膨らませてからぷはっと笑った。
    「この頃からだと大体十年かー。俺達も長い付き合いになったなぁ」
    「そうだな」
     寄り添うように並んで座りながら、揃ってテーブルの上の缶チューハイに手を伸ばす。緑間は甘い桃の味。高尾はビールだ。期せずして同じ行動を取った所為で又高尾が笑い出す。普段から笑い上戸だと言うのに酒が入るともはや笑いっぱなしだな、と緑間が口元を綻ばせている事を知らない高尾は「あ、真ちゃん笑ったー」とご機嫌だ。
     お互い、いつからだとかどうしてだとか問われてももはや判らないけれど、互いの事が大切で、手放しがたい相手になっていた。だからと言って簡単に決められる道ではなかったけれど、それでも今もこうやって二人共に寄り添いあって暮らしている。
     恋かもしれない、そんなあやふやな気持を確かな愛情に変えてずっと。
    みたき Link Message Mute
    2019/04/30 23:11:38

    恋かもしれない

    平成最後の緑高です。
    令和も緑高宜しくお願いします。

    #二次創作 #小説 #黒バス #緑高 #腐向け

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