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    【緑高】和装 部活休みの日曜日、俺は朝から高尾と共にバッシュを買いに来ていた。一度も来た事のない場所のショップだったが、高尾が大坪さんに教えて貰ったのだと言うだけあって品揃えもサイズも豊かで店員の態度も好感の持てるものだった。
     高尾と二人何足も試着をし、吟味して選んだバッシュは普段自分で選ぶ物とは違う色合いだが高尾が俺に似合うと言って選んだ物なので購入時には「派手だ」とぼやいて見せたものの内心では満足している。高尾本人に素直に伝えるとすぐに調子に乗るので絶対に言わないが。
     買い物以外にも店員とのバスケ談義に花が咲き、気づけば昼飯時だったので高尾に連れられてスポーツ用品店から少し歩いた場所にある洋食屋に入った。こじんまりとしたその店は落ち着いた雰囲気で味もよく、金額の割に量も中々多かった。この辺りには高尾も余り来た事が無いと言っていたのに良く知っていたものだと問えば黄瀬に教えて貰ったと言う。思わず舌打ちをした俺に高尾が爆笑しているところに、机の隅に置かれていた高尾のスマートフォンが小さく鳴った。
    「あれ、噂をすれば黄瀬君からラインだ」
     スマートフォンを手に取った高尾が操作しながらそう告げる。更に盛大に舌打ちをする俺に高尾がぶふっと吹き出した。
    「どんだけ黄瀬君邪魔扱い……って真ちゃんこれ」
     手にしたスマートフォンと共に高尾が机の上に身を乗り出してくる。何だと思いながら同じように身を乗り出して小さな画面を覗き込むとそこには『高尾君、助けて!! 今緑間っちと一緒っスか!?』との一文と、あざとく可愛らしい耳の垂れたブチ犬が手を合わせて謝っている姿のスタンプが押されていた。
    「何だろな」
     そう言いながら高尾は俺の目の前で『真ちゃんと一緒にこないだ教えて貰った店にいるけどどったの?』とメッセージを返している。
    「どうせくだらない話だろうから、相手をする必要などないのだよ」
    「何で真ちゃん黄瀬君にはそんなに辛口なの?……ってもう返事来た」
     何故も何も、せっかく二人だけでゆったりと過ごせる貴重な機会なのに何故黄瀬如きに邪魔されなければならないのだよ、と思いはしたが口には出さない。高尾に対して抱き始めている相棒だけでは済まされない、自分でも説明しきれないこの感情をまだ伝える訳にはいくまい。
    「何か地図送ってきたけど」
    「何!?」
     改めて画面を見れば『助けると思って今すぐここに来て欲しいっス!!』と言う文と大ピンチと言う文字と共に爆風に吹き飛ばされているさっきのブチ犬のスタンプ。この状態では既にピンチは訪れているから助けに行っても無駄ではないかと思っている俺を横目に高尾は『りょーかい!今から行くわ』と打って送信してしまった。
    「な!?」
    「どうせこの後はおしるこ食べに行く用事しかないんだからちょっと位いいっしょ?地図見た感じすぐ近くみたいだし」
     確かに送られてきた地図を見る限り、黄瀬が指定してきた場所はこの店から程近い場所にあった。ゆっくり歩いても五分もあれば着くだろう。
    「何故俺が黄瀬を助けなくてはならないのだよ」
    「まあまあ、腹ごなしだと思ってさ。それに助けたら何かお礼持ってくるかもよ?こんばんは、私はあの時助けていただいた犬です。なんてさ」
     そんな事を言いながらけらけら笑って高尾が伝票を持って立ち上がる。後に続いて立ち上がり割り勘で会計を済ませると、楽しそうな高尾と並んで渋々指定の場所へと歩き出した。
     地図を見ながら移動した場所は何の変哲もないビルで、指定された階は『studio sunflower』と表記されている。
    「撮影スタジオ……か?」
    「黄瀬君、今日近くで撮影っつってたからそれじゃねぇかな」
     非常に嫌な予感がする、と思わず足を止める俺の腕に高尾がしがみついて来る。
    「何だ」
    「そんな顔すんなって!ここまで来ちゃったんだから行くっきゃないっしょ」
     何事も楽しむ事をモットーとしているらしい高尾は今にも跳ね回りそうな浮かれた様子で俺の腕を引く。行きたくもないがこんな顔を見てしまっては行かない訳にもいくまい。それに放っておけばひとりでも行ってしまいかねない。俺を置いて黄瀬と二人など業腹だ。これが惚れた弱みと言うものか、と低い天井を仰ぎながら高尾に手を引かれて狭いエレベーターに入った。
     指定階でエレベーターを降りてすぐに飾り気も何もない小さなエレベーターホールと扉があって、扉には先ほど入り口で確認したのと同じく『studio sunflower』と洒落た筆記体で書かれた看板が貼られていた。
    「ここっぽい?」
    「ああ」
    「どーしよ。黄瀬君に電話してみる?」
     さっきまでノリノリだった癖にいざ現場に着いたら急に怖気づいたのか、高尾が不安そうな顔をして上目遣いに聞いてくる。可愛らしいがあざといのだよ。内心舌打ちをしながらそう思う。
     来てしまった以上はグダグダしているのも面倒なので、高尾に返答するよりも先に扉の側にあったインターフォンを押した。
    「真ちゃん!?」
    『はい』
     びっくりしたように高尾が俺の腕に縋ってくるのと、返答が返ってくるのはほぼ同時だった。
    「緑間と申しますが、こちらに黄瀬涼太と言う者が来ていませんか?」
    『あー、はいはい!!鍵あいてるから入ってきて!!りょーちゃん、来たよー』
     インターフォンの相手は男性で、明るい声でこちらに対して返答を返すと後半は室内の相手に呼びかけているようだった。
    「りょーちゃんって黄瀬君の事かな」
    「だろうな」
     未だに俺の腕に引っ付いたままで高尾が視線を遣す。そんな会話をしているところに目の前の扉が開いた。
    「高尾君!緑間っち!!良かったー来てくれて!!」
    「あ、黄瀬君!!ピンチって何だよ、元気そーじゃん」
     満面の笑みを浮かべて出てきた黄瀬を見て緊張も吹っ飛んだようで、高尾がぱっと俺から離れて黄瀬の方に近寄っていく。そんな態度が腹立たしくて思わず間に割り込んでしまった。
    「一体何の用なのだよ」
     ズイッと立ち塞がった俺に、黄瀬が一瞬怯んだ様子を見せてからすぐにニヤリと笑った。
    「緑間っちそんな怖い顔しないでよ~。そりゃ、高尾君とのデートを邪魔されて怒りたい気持ちは分かるけど」
    「なっ!?でででデートなどではないのだよ!!俺達はただバッシュを買いに……」
    「そうそう。あ、黄瀬君が教えてくれた飯屋、すっげー良かった」
     デートなどと核心を突かれて焦る俺に対して高尾の方はのほほんとした口調で黄瀬に話しかけている。何一つ意識していないという事だろうと思うと、この鈍感めと蹴りの一つも入れたくなってきた。
    「お口に合って良かったっス!!あ、とにかく中に入って!!鈴木さん、佐藤さーん、この二人なんですけどどうっスか?」
     高尾と二人、黄瀬に手首を掴まれて室内に引きずり込まれる。
     入ってすぐに黒のカーテンが引かれていて、そこをくぐるとこじんまりとした撮影スタジオになっていた。中には女性一名と男性二名がいて、そのうちの男女一人ずつが俺達の近くに寄ってきて足元からつま先までしげしげと眺め回してきた。
    「え!?な、なんスか!?」
     この期に及んで状況が良く分かっていない高尾が挙動不審になっているのを見て、溜息しか出てこない。
    「黄瀬、ちゃんと説明しろ。状況も分からずに協力する気もさせる気も俺には無いのだよ」
    「って事は説明したら協力してくれるんっスね!?実はっスね~、今日一緒に撮る予定だったモデル二人が来られなくなっちゃってぇ」
    「却下だ」
    「え!?待って待って緑間っち!!話を聞いて!!」
     間髪入れずに断りを入れた俺に黄瀬が焦って縋り付いてくる。鬱陶しい事この上ない。そんな俺達の会話など気に留めてもいないのか、俺と高尾を吟味していた男女は「うん、これなら……」「予定の子よりこの子達の方がイメージかも」などと小声で言葉を交わしている。
    「え、これって俺達にモデルしろって話なの?」
     ここまで来てようやく事態を飲み込んだらしい高尾が焦って俺の側に寄ってきて小声で問いかけてくる。そんな俺達の元に後ろの方に控えていた男性が近寄って来た。
    「涼太が説明不足だったみたいですみません。僕はマネージャーの高橋と申します」
     挨拶と共に名刺を差し出してきて俺と高尾に手渡す。
    「あ、え、どうも!!ありがとうございます!!」
     慣れない手つきと様子で受け取る高尾が愛くるしいが、それとこれとは別問題である。
    「予定していたモデルの方が来られないと言うことですが?」
    「あ、はい。実は一人は今朝になって高熱が出て病院に行ったらインフルエンザだったらしくて。もう一人は午前中に関西から戻ってきてスタジオ入りする予定だったんですが事故で電車が止まってしまって」
     どちらも仕方が無いと言えば仕方の無い内容だ。だが。
    「そう言った場合は別のモデルを手配するものではないんですか?俺達のような素人を使うものではないでしょう」
    「時間があればそうするんですが……今回このスタジオを使える時間が限られているのと、モデルの条件がちょっと」
    「条件?」
     引っ付くように俺の隣で話を聞いていた高尾が口を挟む。
    「一人は身長180cmまでと言う事なので探せばすぐ見つかると思うんですが、もう一人が身長190cm以上でして」
    「でかっ!?」
    「モデルならばそれなりに普通の身長ではないか?」
    「え、そーなの?」
    「いやいや、日本人モデルだとかなり大きい部類っスよ!?」
     俺達の会話に黄瀬が割って入る。マネージャーとやらや他の二人も頷いているので嘘ではないのだろう。
    「今回は高身長の男性の方でも美しく着られる着物、と言うコンセプトの写真なので衣装の方も来る予定だった197cmのモデルさんの身長に合わせて作ってあるため、代役が中々難しくて。そうしたら涼太が、心当たりがあると」
    「お願いするっス、高尾君、緑間っち!!この通りっス!俺の顔を立てると思って!!」
     送ってきたスタンプのように両手を顔の前で合わせて黄瀬がぺこぺこと頭を下げる。別に黄瀬の顔を立ててやる義理などないが、隣にいる高尾がシャツの裾をくいくいと引いてきた。
    「……何だ」
    「黄瀬君だけじゃなくってマネージャーさんとかも困ってるみたいだしさぁ、協力してやんねぇ?」
     言うと思った。好奇心半分興味半分で黄瀬の事など一ミリ程度あれば良い方だろうが、高尾の事だからそう言うと思っていた。
    「助かります!!もちろんモデル代はお支払いさせて頂きます!!」
     俺が高尾に何か言うよりも先に、女性の方がそう言って頭を下げてきた。この写真の企画担当か何かなのだろう。
    「あ、いや、モデル代とかイイっス!!ってかうちの学校バイト禁止なんで貰うと多分ヤバい……よなぁ真ちゃん」
    「ああ。無償ならば言い訳も立とうが金銭の授受があったとなるとマズかろう」
     言い出したら聞かない奴だから、今更俺が帰ると言っても聞かないだろう。溜息と共にそう答えると「て、事なんで。俺達ボランティアって事で!!」と高尾が女性に笑いかける。
    「え、でもそれでは……」
    「まーまー佐藤さん、その辺は俺にイイ案があるんで!!二人ともあっちにスタッフさんがいるんで急いで準備してきて欲しいっス!」
     困惑気味の女性に声をかけ、黄瀬がスタジオの右手奥を指差す。そのカーテンの向こうからひょこりと女性が顔を出して手を振った。
     高尾と二人、顔に粉をはたかれ唇に何やら塗られ髪をいじられ……と着物を着付けられる前に既にぐったりしながら準備を整える。
     着物は俺には青磁色に細かい千草色の柄が入った地に錆青磁色でところどころ花の柄があしらわれた着物と百入茶の帯と半襟。高尾の物は柿色地に鳥の子色で大柄な麻の葉柄の着物で、黒い半襟と帯でアクセントがつけられている。
    「俺の女の子っぽくね?」
    「大胆ではあるが別に男が着て問題のある物でもなかろう。……似合わなくもないのだよ」
     目の前で袖を持ち上げてくるりと回る高尾にそう言うと、褒められると思っていなかったのかはにかんだ様子で「真ちゃんもすっげーカッコイイよ」と返された。
     その後いざ写真を撮る段になって高尾はそれまでの元気はどこへやら、ぎくしゃくとぎこちない動きになっていたが、写真のメインは黄瀬である事と、慣れないだろうし自然な方が良いからとポーズなど取らず俺と喋っているところを撮るスタイルをカメラマンが取ってくれた為、最後の方にはごく自然な表情で笑っていた。
     バスケで雑誌や新聞の撮影に慣れていた事も功を奏したのだろう。素人相手ながらそこまでてこずる事もなく相手サイドの満足のいく物が撮れたようで、スタジオ返却時間よりも随分早くに終わらせる事が出来た。
    「ほんっとーに助かったっス!緑間っち! 高尾君もありがとー!!」
    「いやいや、何か結局俺、真ちゃんとダベってただけなんだけど」
    「そんな事ないっスよ。鈴木さん、高尾君本格的にモデルやればいいのにって言ってたっス!」
    「させる訳がないだろう馬鹿め」
    「何で緑間っちが決めるんスかー!!」
     撮影が終わって俺達はワイワイとスタジオの隅で話しているだけだが、カメラマンと担当女性はパソコン画面で撮影した写真を見ながら打ち合わせをしているし、他のスタッフも片づけを始めている。俺達もそろそろ着替えた方が良いだろう。
    「高尾」
    「あー、うん。着替えなきゃなー」
     隣に声をかけると、少し名残惜しそうな顔をした高尾と目が合った。随分と楽しそうにしていたから、終わってしまうのが残念なのだろう。俺としても普段とは違う姿の高尾を見られなくなるのは勿体無いとも思う。裾がはだけるのを気にしてか、いつもよりも大人しめな動作で動く様子が斬新で愛らしかった。
    「それなんすけどー、その着物、着て帰っても良いっスよ」
     そんな俺達の様子を見ながらにやにやした顔で黄瀬が笑う。
    「え」
    「このブランド、撮影した衣装の買取可なんスよ。モデル代が駄目なら現物支給でって佐藤さんと話したんっス!ね、佐藤さん」
     黄瀬の呼びかけにパソコン画面を見ていた女性が振り返り、にっこり笑って頷いた。
    「ね!せっかくだし、このまま着て帰ったらどうっスか?着物デート、楽しいっスよ!!」
    「だから、デートなどでは……」
     茶化す気満々の様子の黄瀬を張り飛ばしてやろうかと手を上げかけた俺の腕を高尾が掴んだ。
    「せっかくだし、しちゃう?着物デート」
    「なっ!?」
    「多分俺、脱いだら二度と着られねーし。このまま真ちゃんお勧めの甘味処とやらに行こうぜ。おしるこ食べるならぴったりじゃん」
     確かに今日は、先日見つけた絶品のおしるこを出す店にも行こうと約束していた。していたが、決してデートなどでは……。
     眼鏡のブリッジに指を当て、返事を考えている俺に向かって、高尾はあざとくも小首を傾げた上目遣いで「な?」などとおねだりしてきた。
    「……仕方無いな」
     憮然とした俺の返事に、高尾も黄瀬も何がおかしいのかけらけらと笑い転げていた。
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    2018/10/18 1:50:35

    【緑高】和装

    20180317。 高校一年3月くらい。付き合ってません。

    ※ぷらいべったーに掲載しているものの転載になります。キャプションも当時のものです。

    #二次創作 #小説 #緑高 #腐向け #黒バス

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