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    【緑高】くま 通い慣れたマンションの入り口、オートロックを開けてエントランスに入る。すっかり顔見知りになってしまった管理人のおじさんに軽く挨拶してエレベーターに乗り込むと、目的の階のボタンを押す。少しの間の後にドアが閉まり、微かなモーター音と共にエレベーターが動き出す。
     大学二年生、まだ親のスネを齧っている学生には不似合いな事極まりないこの場所に、高校時代の相棒が住んでいる。一人で。
     元相棒で現親友である緑間は、大学進学を機に一人暮らしを始めた。あいつが進んだ医学部は学年が進むほどに実習や研究で帰宅する事すらままならない状況が増えてくる為、自宅から通うよりは学校近くに住む方が良いだろうと言う判断からだそうだ。
     そもそも医者家系の緑間家は親戚が同じ学校の医学部に通うのに借りていたこのマンションが丁度空くからと言う事で、親戚(従姉妹だと言っていた)と入れ替わりで住む事になったらしい。
     そのお陰で電化製品は置いていってくれた為買い替え不要、一部家具も流用と言うある意味とてもリーズナブルな一人暮らしがスタートしたと緑間は言うが、60インチのテレビやら何人家族だよって言う位大容量の冷蔵庫なんかを置いて行く方も置いて行く方だし、それをそのまま貰い受ける方も貰い受ける方だと思う。金持ちの感覚はマジで分からない。
     そんな緑間は専業主婦の母親がいたから当然家事なんてやった事が無く、それでも頭や手際が悪いヤツではないので多少の練習と実践ですぐに掃除や洗濯など一通りの家事が出来るようになっていた―――料理以外は。
     何故だか不思議で仕方が無いけれど、緑間は料理だけは壊滅的に駄目だった。そんな緑間が心配で、大学に入学した頃は良くこのマンションに遊びに来ていた。自宅も大学も、まるで方向が違うのに。
     けれど、ゴールデンウィークが過ぎた頃、これでは駄目だと思った。
     だって俺は大事な相棒なのに、男同士なのに、いつの間にか気づけばどうしようもなく緑間の事が好きになっていた。それでもそんな気持ちはきっと一緒に居過ぎるから勘違いしているだけで、大学生になって会う頻度が少なくなれば自然と収まる筈で、将来二人とも恋人が出来て結婚した後なんかに実はあの頃好きだったんだーなんて笑い話が出来るようになってる筈で。それなのに自ら進んで距離を詰めてどうするんだ俺は。
     そう思ったから、ここに来るのは極力止めた。連絡も必要事項プラスちょっとばかりの近況報告だけに留めれば、用もないのに自主的に連絡をする癖のない緑間との繋がりは一気に減った。ちゃんと飯は食ってるのかとかまるで母親みたいな心配は尽きなかったが、緑間ももう成人間近なんだから幾ら何でもそこまで面倒を見る必要は無いんだと自らに言い聞かせ続けた。
     そうやって寂しい気持ちに蓋をして、便りが無いのは元気な証拠……などと思っている頃に事件が起きた。確かほぼ一年前、大学一年の秋も半ばの頃だった。
     その日は午後から久し振りに皆でストバスをしようと黄瀬から連絡が入っていた日だった。黒子や赤司、紫原、それに勿論緑間も参加予定で。だったら午前中も一緒にスポーツ用品店でも見に行かないかなんて珍しく緑間から俺に声をかけてきていた。
     にも関わらず。その日の朝、待ち合わせをした場所に緑間は来なかった。電話をしても出ず、メールもラインも返って来ない。愛想は無くともこの手の約束事はキッチリ守るヤツだし、ああ見えてメールなんかの返信もマメだ。その内容が『馬鹿め』とか『そうか』だけだとしても。
     嫌な予感がしてこのマンションにやって来た。インターホンで呼び出しをして電話もかけて、そうしているうちにオートロックは無言で外された。急いで緑間の部屋へ駆けつけると、今度は玄関の鍵がかかっている。呼んでも叩いても返事が無く、もう一度一階へと戻って管理人のおじさんに理由を説明して鍵を開けて貰う事になった。俺の話を聞いても最初は「寝坊してるだけなんじゃないのかい?」なんて言っていたけれど、そんなヤツじゃない絶対に何かあったんだと涙目で必死で懇願する俺に根負けしたんだと後になって聞かされた。正直とても恥ずかしい。
     けれど鍵を開けて中に入ってみれば、パジャマ姿の緑間がインターホンのところに力尽きたように倒れていて、救急車を呼ぶ騒ぎになった。
     結果としてはただの風邪だったんだけど、数日前から少し体調不良を感じていて、前日は特に熱っぽく寒気もしたので早めにベッドに入ったらしい。そして翌朝目覚めてみれば声も出ないし全身に力が入らず起き上がれないと言う大変な状況になっていて連絡すら出来なかったそうだ。
     間の悪い事に両親は海外の学会に参加とそのついでに旅行とかで国内にすらおらず、搬送された病院に勤務している親戚さんと当の緑間に頼まれて俺が着替えや何かを準備してくる事になった訳なんだが、その時改めて入った緑間の部屋が酷かった。
     いや、部屋自体は綺麗に整理整頓されて片付いていたし、ゴミもきちんと分類されていた。問題は冷蔵庫にあった。
     肺炎になりかけてたから大事をとって数日入院と言う話だったから、生物なんかが入ってると不味かろうと確認の為に開けた冷蔵庫の中には、大量のおしるこ缶と数本のポカリ、カロリーメイトだけが入っていた。
     余りの事に着替えなんかを準備して取って返した病院で緑間を問いただすと、普段はコンビニかデパ地下、もしくは外食で済ませているそうで、ここ数日は買いに行く気力が無かったためにほぼおしるこしか口にしていなかったと言う。
    「ばっ……かじゃねぇの!?」
     余りの話に病室で怒り狂う俺に、緑間は大きな身体を縮こませてしょんぼりしている。
    「そんな事になる前に、俺でも誰でも良いから連絡すりゃ良いだろ!?」
    「お前は最近忙しそうだったから……以前のように下らない連絡もして来なくなったし、うちに来る事も無くなっただろう」
    「だからって」
    「……忙しいのでなければ、ついに愛想を尽かされたのだと思っていた」
     ぼそりと続けられた言葉に、思わず返答に詰まってしまった。正直を言ってしまえば、緑間がそこまで俺の態度が変わった事を気にしているとは思っていなかったし、俺一人いなくなった所で緑間の人生にはなんら支障などないと思っていたからだ。
     けれど緑間の声はあからさまに寂しいと訴えているような小さな声で、でかい図体をしているのに何だか子供に酷い仕打ちをしてしまったかのような罪悪感に襲われてしまう。
    「…………真ちゃん、寂しかったの?」
     直球で聞けば否定するだろうと思ったのに、緑間は少しの間の後に黙ってこくりと頷いた。
     元々が憎からず思っている相手である。そんな姿を見せられてはこっちが折れるしかなかった。
     かくして俺は退院後の緑間から宜しく頼むと合鍵を渡され、帰国した緑間両親からは迷惑をかけたお詫びと共にこっちが恐縮するほどのお礼を言われ、そのついでに「真太郎の事これからも宜しくお願いします」とまで言われてしまった。
     まあ無理をして距離を取らなくても授業やバイトとの兼ね合いがあるから毎日通える訳でもなく、一週間から二週間に一度位様子を見に来たり、時々様子伺いに連絡を入れたりする程度の付き合いならば問題無いだろうし、緑間の方にその気がないんだから進展も無ければ俺の気持ちがバレる恐れも無いだろう。
     そんな訳でもう一年ばかり、つかず離れずと言った関係が続いている。
     エレベーターを降りて一番奥の角部屋『緑間』と表札の出ている部屋の鍵を開け、中へと入る。
    「お邪魔しまーすよっと」
     小さく声をかけながら玄関を見れば靴は無い。まあ当然だ、いつも通りならば緑間はこの時間まだ学校だし、そもそも俺もここに顔を出す曜日ではない。
     予定が合おうが合うまいが、適当に都合の良い日・時間にやってきて作り置きの煮物だの何だのを作って帰る。それが今現在の俺と緑間の関係である。時間が合えば一緒に飯も食うし泊めて貰う時もごく稀にだがある。ごく普通の友達同士の関係だ。それで良いんだと思う。
     買ってきた食材を広げ、緑間がいつの頃だったか俺用にと準備してくれていたオレンジ色のエプロンを身につける。胸元にコロコロとしたニワトリとヒヨコのアップリケがついているのが実に緑間らしいチョイスだと思う。
     今回は週末にもう一度来る予定なので、作り置きは筑前煮とほうれん草の浸し、豚汁でも作っておけば他に食べたい物は緑間が勝手に買って来るだろう。取り敢えずは米を炊いて一食分毎にレンジで暖めるだけに小分けしなくてはと米を量って研ぎ始める。
     鼻歌交じりに作業をしていると、唐突にガチャリと大きな音がした。
    「!?」
     慌てて音のした方に振り返ると、奥の部屋の扉が開いていて、ちょっと信じられないものがそこにあった……と言うか居た。
    「た……高尾……!?」
     密かに俺のお気に入りの低音イケボイスはやや掠れ気味で、髪はぼさぼさ、目の下にはくっきりとクマが出来、顎には無精ヒゲまで生えている。ここまで色々な意味で気の抜けたな感じの緑間は今まで一度たりとも見た事が無い。
    「え、真ちゃん何で居んの?」
     片手で口元を隠しながら大股でズカズカと近寄ってくる緑間にそう聞くと「……休講になったので昨晩からレポートを仕上げていた」と返事が返ってきた。
    「マジかー、お疲れちゃん。もしかして徹夜?目の下、クマすげーよ?」
     すぐ傍までやってきたので手を伸ばしてちょいちょいとメガネの下フレームをつつくと緑間があからさまに眉を顰めた。
    「……何故お前が居るのだよ」
    「いや、俺も休講になっちゃったからさー。バイトも無いしじゃあ飯でも作り行くかって。いやー、でも凄いレア物見れたなー。こんなヨレヨレの真ちゃんとか……」
     元の造りが男前だからヨレヨレだろうがクマがあろうが無精ヒゲが生えていようが、何となくカッコイイ。俺がこの状態だったら見れたモンじゃないだろう。
    「ジロジロ見るんじゃないのだよ」
     当の緑間はやはり気恥ずかしいのか、相変わらず口元を手で隠したまま黒いクマの出来た目で見下ろしてくる。
    「別にいーじゃん!カッコイイよ?」
    「茶化すな!!好いた相手にこんなだらしの無い姿を見られて嬉しい男など居ないのだよ」
    「えー、茶化してねーって。そりゃまあ惚れた欲目もあるかもだけどさー……ん?真ちゃんさっき何て言った……?」
     不機嫌な緑間の気持ちを少しでも和らげようとかけた言葉に、こいつ何て返しやがった?好いた相手って何だ。すいたって腹がとか道路がとかじゃなくてラブとかライクとかそっちの……などと思わず緑間の言った言葉を頭の中で反芻する俺の両肩を、緑間が物凄い勢いで掴んできた。
    「って!!何だよ真ちゃんいきなり……」
    「高尾、貴様今何と言った!?」
     掴んだ肩をガクガク揺さぶられて、少し纏まりかけた思考が吹っ飛んでいく。今って何だ。俺が何を言ったってんだ。
    「なっ……何って」
    「惚れた欲目、と言ったな!?その言葉、相違ないだろうな!!」
    「うぇ?」
     そんな事言ったっけ?って言うか何で真ちゃんそんなぐいぐい距離詰めてくんの!?
    「撤回は認めん!!良いな!」
    「は……はい……?」
     勢いに押されて思わず返事をすると、緑間は満足げに頷いて抱きついてきた。
    「しっ……ししし真ちゃん!?」
    「俺もお前の事を憎からず思っている。つまり今この瞬間より俺とお前は恋人同……士っ……」
     そこまで言うと緑間はズルズルと崩れ落ちた。
    「真ちゃーーーん!?」
     急に体重をかけられて緑間を抱きとめたまま尻餅をつく。又救急車騒ぎかと慌てて顔を覗き込むと、俺の腰を抱きこんだまま満足げな顔をして眠っている。
    「……起きたらぜーんぶ忘れてる、とか、あったりして?」
     壊れたりしてはまずいのでそっと眼鏡を外すと目の下のクマがより目立つ。それを指の腹でそっと撫でるとむにゃむにゃと口元を動かして「たかお……」なんてそれはもう甘えた声で呼ぶものだから、今だけの思い出でもまあ良いか、と軽く溜息をついて天井を仰いだ。
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    2018/09/15 22:13:40

    【緑高】くま

    20180106
    大学生緑高。付き合ってない。
    きっと絶対動物の方の「くま」だと思うんですけど、最初に浮かんだのがこっちだったので初志貫徹してみました。

    ※ぷらいべったーに掲載しているものの転載になります。キャプションも当時のものです。

    #二次創作 #小説 #緑高 #腐向け #黒バス

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