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    【緑高】お歳暮 明日からいよいよウインターカップ本番。
     最後の調整に余念が無い監督の厳しい練習は通常通りの時間に終わり、居残り練習の方はここで無理をして明日からの本番に調子を崩しては元も子もないからといつもより一時間早めに上がるように指示された。
    「いっつもと同じ時間練習しない方が調子狂いそうじゃね?」
     もはや校門が閉められてしまう夜九時までみっちり練習するのが当たり前のようになっている身体には、一時間も早い上がりが物足りなく感じてしまう。
    「その分負荷のかかる練習を増やしたからそうでもないのだよ」
     微妙に身体を動かし足りない俺に、緑間はしれっとした顔でそう言った。そんな方法があるんならもっと早く教えてくれ。
    「まーでも今日は出来れば早めに帰って来いって言われてたしなー」
    「そうなのか」
     本番前と言う事で、ここ暫くはチャリアカー通学はお休みで、並んで歩く緑間はさっき自販機で買ったおしるこをチビチビと口にしながら返事をしてきた。俺の手の中には一緒に買ったカフェオレがあるが、暖を取る為に口は開けていない。
     育ちが良いから買い食いだの歩き食いだのにはうるさそうだと思った第一印象とは違い、緑間はわりと普通に歩き飲みだのに付き合ってくれる。
    「うん。ウインターカップ前だから、ご馳走準備しとくって!あー、楽しみ!!」
     手に持った缶をふりふりそう言う俺に、緑間は口元を緩めた。
    「そう言えばうちも今日はトンカツだと言っていた」
    「え、真ちゃんママもそー言うのしちゃう系?意外なようなそうでもないような」
    「どっちなのだよ。まあ普段はそう言った験担ぎ系よりは好物を準備してくれる方が多いか。インターハイの時には出発前までの一週間位、毎日デザートが餡子物だったのだよ」
     水羊羹に葛餅、きんつば、最中……と当時を思い出して指折り数える緑間を見て、既に口の中が甘ったるい気分になってきた。
    「弁当の中身がちょっと豪華になったりとかな!そー言うのに気づいちゃうとさぁ、絶対負けらんねーってなるよな!」
    「ああ」
     俺の母さんも緑間の親も、バスケの事なんて学校の授業程度の知識しかない。それでも息子が日々頑張っている競技だからとそうやって応援してくれている。
     それだけでありがたいし嬉しいし、力になる。それは俺も緑間も感じているから、その気持ちに少しでも応えたいって頑張れる。
    「真ちゃんちはトンカツか~。うちは何だろうなー」
     すき焼きとかあったかくって良いな、焼肉だったらキムチも一緒に出してくれるかな~などと希望を呟く俺を見て、「年中肉肉言っているから、少なくとも肉料理なのは確かだろう」と緑間が苦笑している。
    「だってさー、やっぱ肉が一番美味いじゃん!……っと、んじゃ真ちゃん又明日な~。朝迎え行くから!」
     そんな話をしている間にいつもの分かれ道まで来てしまった。軽く肩を叩いて別れの言葉を告げると、緑間の方は軽く手を上げて「浮かれすぎて転ぶんじゃないのだよ」と答えを返してきた。
    「ガキじゃねぇし!んじゃまったな~」
     余りな言葉に肩越しに振り返ってべーっと舌を出して見せるとくくっと笑い声がする。緑間は知り合った頃より随分と簡単に笑うようになった気がする。
     笑わない緑間よりは笑った緑間の方が良いな、などと下らない事を考えながら辿る家路はあっという間だった。
    「たっだいまー!」
    「お帰り~。今ならお風呂あったかいから、先に入っちゃいなさい。その間にご飯準備しておくから」
    「りょーかい!」
     台所から聞こえる母さんの声に大きく返事を返して二階の自室に駆け上がると、鞄を置いて中から練習着やタオルを突っ込んであるビニール袋を引っ張り出す。ついでに部屋着とタンスからパンツを出して引っ掴むとバタバタと階段を駆け下りた。
    「ちょっとカズ!そんなにバタバタしたら近所迷惑でしょ!!」
    「ごっめーん」
     母さんの怒鳴り声に軽く返事をして脱衣所の引き戸を開ける。と、風呂上りパンイチの父さんが立っていた。
    「あ、ごめん!」
    「いいよいいよ、もう出るから。今日も部活ご苦労さん」
     この場合、俺の方が父親に対して『いつも仕事お疲れ様』とか言うべきなような気がするが、先にそんな事を言われてしまうと「お、おう……」としか返せない。
     男同士気にするような事もないので部屋着を着始めた父さんの後ろでバサバサ服を脱いでいくと「和成、又逞しくなったんじゃないのか?」なんて嬉しい言葉をかけられた。
    「え、マジ!? 父さんもそう思う?」
    「ああ。腹筋とか硬そうだしなー。父さんなんか最近おなか周りが柔らかくなってきてなあ」
     そんな事を言いながら、部屋着の上から腹を撫でている。そこまで太ってきたような印象はないけど、本人としては気になるところなんだろう。
    「て言うか今日帰り早くね?」
     普段だったら部活終わって帰ってきた俺が飯を食い終わる頃に帰宅してくるのが常だ。ただでさえ普段に比べれば早上がりの俺より早いなんて珍しい。そう思って聞いてみれば「明日から和成大事な大会だって母さんから聞いたから、顔見とこうと思ってなあ」なんてこそばゆい事を言ってくる。
    「明日なんて開会式と一回戦なんだから、そんなトコで躓いてらんねーって」
     照れ隠しにへらへらと笑って言う俺の頭を、父さんはポンポンと叩いた。やめてくれ、恥ずかしい。
    「和成が頑張ってるのは父さんも母さんも知ってるから。全力を出してくれば良い」
     にこにこ笑ってそれだけ言うと、父さんは脱衣所から出て行った。普段は両親共にさすがは俺の親と思わずにはいられないほどに軽口叩きまくりのひょうきん者の癖に、急にそんな事言われたらどんな顔して良いか分かんねーじゃん。やめてくれよホント。
     ちらりと目に入った洗面台の鏡に写る自分の顔は、情けない位に嬉しそうだった。


     風呂から上がって台所に行くと、父さんはビールを飲みながら枝豆を食べていた。その前には土鍋。
    「ほら、カズ座って座って!今日はなんと!しゃぶしゃぶで~す!」
     やたらと明るい母親の声に素直に従うと、母親が冷蔵庫から木の箱を取り出した。その蓋には焼印で某高級ブランド牛の文字が押してある。
    「え、マジ!? マジで!?」
    「こんな事で嘘ついてどうするのよ」
     母さんはカラカラと笑って木箱の蓋を開けているが、確認してしまう俺の気持ちも分かって欲しい。
     うちの家は別に貧乏と言う訳ではないが、それでも日常的にこんな木箱に入った高級肉が食卓に並ぶようなセレブ家庭じゃあない。
    「すんごい奮発してくれてんじゃん。母さんと妹ちゃんの分は?」
     うきうきと箸を手に取りながら聞いてみる。いつも通りなら二人は先に食事を済ませているはずだけれど、二人もちゃんと同じ物を食べたんだろうか。俺と父さんだけだったりしたら申し訳なさ過ぎる。
    「先に頂いたわよ。二人だけだと食べ切れなかったからまだ少し冷蔵庫に入ってるのよ。あんた責任持って一杯食べなさいよ~」
    「責任って」
     机に置かれた木箱の中には、霜降りの美味そうな薄切り肉が詰まっている。取れと言われなくてもコレを食らい尽くす事が責任だと言うならばそんな物幾らでも取ってやる。だがしかし何で肉の責任者が俺なんだ。
    「このお肉、緑間さんから頂いたのよ。お歳暮に」
    「へ?」
     ご飯をよそって俺に差し出すと、母さんはそのまま父さんの隣に腰掛けてビールのご相伴に預かっている。そこから飛び出した予想外の言葉に、思わず鍋のダシ汁に浸けた肉を箸から取り落としてしまった。
    「ミドリマサンって……真ちゃんち?え?何で??」
     お歳暮って上司とか親戚に贈るモンじゃねぇの?何で真ちゃんちから俺んちに?
     疑問だらけの俺の顔を見て、母さんは呆れたように「カズ、せっかくのお肉なのに火が通り過ぎちゃうわよ」と声をかけてきた。
     その言葉に肉を取り落としたままだった事を思い出し慌てて引っ張り上げる。高級肉はお言葉通りに火が通り過ぎてちょっと悲しい食感になってしまった。
    「何でもなにも、あんたしょっちゅう緑間さんちにお世話になってるでしょうが。やれ宿題だ部活だ何だって」
    「あー……それは、まあ……」
     緑間と知り合ってそろそろ約二年、今ではちょくちょく遊びに行ったり泊まりあったりと俺達個人だけではなく家族とも仲良くなりつつある。
     特に緑間の家の方が学校に近いし広いので、俺達の間では何かあれば緑間の家にと言うのが定番化してきている節すらある。
    「それにね、一緒に試合見に行ったりしたから、緑間君のお母さんとも結構仲良いのよ、母さん」
    「試合?」
    「去年のウインターカップとか、緑間君のお母さんと一緒に見たのよ。言ってなかった?」
     枝豆を口に放り込みながら何でも無い事の様に言っているけれど、そんな話は聞いた事が無い。いや、ウインターカップ自体は見に来たって言ってた。特に準決勝と三決は妹ちゃんも一緒に来てたって。でも真ちゃんママまで一緒だったとは聞いてねぇ。
    「去年緑間君のお母さんがね、試合を見に行ってみたいんだけど一度も行った事がなくてって相談の電話をくれたのよ。じゃあ一緒に見に行きましょうよって話になってね、それからお友達なのよ」
    「お……お友達……」
    「何かね、緑間君中学の時は試合を見に来る必要無いって言ってたみたいで。それで緑間さん一度も行った事無かったんですって。でもあんたが遊びに来た時に試合見に来たら~みたいな事言ってたから興味が沸いたって」
     俺そんな事真ちゃんママに言ったっけ……記憶を探ってみるが言ったような言わないような……いや、多分俺の事だから物凄く気軽に『一度試合見に来ると良いっすよ!試合中の真ちゃんちょーカッコいいんで!』とか言ってる気がする。
    「そしたら試合見学の当日にお歳暮頂いちゃって。母さんも慌てて翌日お返ししたわよ。その流れで夏にもお中元頂いて……ほら、凄い立派なメロン食べた時あったでしょ。あれよ」
     メロン!それは覚えてる。とんでもなく甘くてジューシィな凄いメロンだった。あの時も貰ったとは聞いてたけどまさか緑間家からのお中元だとは思っていなかった。
    「毎回良い物頂くから、こっちから贈る物も考えちゃうわ~」
     そんな事を呟きながらも母さんはちょっとだけ楽しそうだ。取り敢えず最低でも後一年は緑間との付き合いも続く訳だから、親同士仲が良いのは悪い事ではないだろう。
     適度に火の通ったブランド肉を口の中に放り込みながら俺は気楽にそんな事を考えていた。


     翌日緑間にその話をすると「先々の事を考えても、親同士仲が良いに越した事はないからな」と俺と同じような反応だった。
     緑間を迎えに行った際に顔を合わせた真ちゃんママにお歳暮のお礼と凄く美味かったと言う話をしたら「今後も真太郎さんの事をお願いね、高尾君」と微笑まれたので、今後も頑張って緑間の面倒をみようと思う。決して肉につられた訳じゃない……はずだ。
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    2018/09/12 20:51:18

    【緑高】お歳暮

    20171228
    高2。付き合ってない。高尾両親、緑間母が力いっぱい捏造されています。注意。

    ※ぷらいべったーに掲載していたものの転載になります。キャプションも当時のものです。

    #二次創作 #小説 #緑高 #腐向け #黒バス

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