冬の祝典 年始が近付いてきていた。
戦時であるため祝い事のための催しはいつからか一時期にまとめて行われるようになっており、その冬の部、冬の祝典の時期である。
その祝典で行われるダンスパーティーには騎士たちも招待されており、貴賓らしい振る舞いを求められる。護衛や警護の側面もあるが、騎士たるものみっともない姿は見せられない。騎士は傭兵でもなければ単なる戦士でもないのだから、それなりの体面というものがある。
グンヒルド・ノイマンという騎士がいる。象徴としての「騎士」も大切だと考える彼女は元よりパーティーに参加するつもりではいたし、実家の意向もあって新しいドレスを仕立てることとなった。……毎年この時期の仕立て屋は針を止める暇がない。
体格が良く長身の彼女に合わせるにはデザインに注意しなければならず、加えて彼女の母親が少々凝り性だったため、ドレスの仕立ては数ヵ月に及んだ……。
ダンスパーティー当日、会場には騎士の姿もちらほらと見える。日々国と民を守っている彼らもこの日ばかりは鎧ではなくきらびやかな衣装に身を包んでいた。
グンヒルドもまた、無事に完成したドレスを着て他の客と歓談していた。ネイビーのドレスは年相応に落ち着いた雰囲気で、結い上げた金髪に飾られた髪飾りも恐らくドレスと揃いで作られたものである。熟練の騎士である彼女は代々騎士を輩出し続けている名家の生まれでもあるため、こういった場での振る舞いは教え込まれており、特に違和感なく会場の客たちに紛れていた。が、当の本人は締め上げられる胴回りの苦しさでまともに飲食も出来ず、鎧の方がよほどましだと思いながら顔見知りに挨拶をして回っていた。
「エドワード叔父様、お久し振りです」
「おやグンヒルド、元気そうだな」
恰幅の良い中年男性は声をかけられると柔らかく目尻を下げたが、不思議とだらしなさは無い。肉付きこそ良いがどこか骨太な印象を与える雰囲気である。……それもその筈、彼もかつては騎士だったのだ。
「ええ、日々国のために働かせて頂いております」
軽く頷くとグンヒルドの耳元でイヤリングが揺れる。普段は槍を握っている手は体の前で軽く重ねられて手袋に包まれているため、令嬢のそれに見える。
少しの間親しげに話をしていた二人だったが、適当なところで話を切り上げると男はまた別の方向へ挨拶回りに向かった。
グンヒルドはそっと溜め息を吐き、テラスの見える場所へ近寄ると窓越しに夜空を眺めた。よく晴れた空には星が瞬いている。燃えるような彼女の目は、今は静かに星を映しているだけだった。