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    竜に砕かれる剣の国[国について]導入とある二国の関係遺品導入 ああ、竜がこの王国を食らいに来る──

     早朝、広い寝台の上で夢から目覚めた少年は、海の底のような深い藍色の目をしていた。一度、強く目を閉じ、それから改めて起き上がる。
     少年の名はデリクス・ノーラ・ネイリング、一国の王である。齢十と七つを数えたばかりだが、早世した父の後を継いでから五年、その治世に大きな問題は起こっていない。
     その国は平和である。特に周辺他国から攻められることはほぼ無いと言ってもよい。軍事力の高さと優れた外交手腕が大きな要因のひとつだが、それとは別に、この地を手に入れるにあたって発生するある不利益が周囲を牽制していた。
     この国は七十年に一度強大な古竜に襲われる。
     発達した軍事力も外交手腕もそのためであり、長い歴史に反して遺跡などの古い建造物が少ないのも、ある特定の地区に空き地が多いのもその影響である。
     そういった特殊な事情のあるこの国において、王に求められるのは圧倒的な「強さ」である。単純な武力の問題ではない。かつての王の一人は軍師としての才覚を使ってこの国を守り、また別の王は外交官としてこの国を守った。そして七十年に一度、襲竜の代に立つことになった王は、もれなく優れた神子を得て竜を退け続けてきた。
     次の襲竜の日まで五年。この少年王もまた、己と契る神子を探していた。
     ……その日、王は《神殿》に来ていた。未契約の神子たちの暮らす場所である。定期的に使者を送って神子を探してはいたが、こうして自ら向かい己の目で神子を見定めることもまれに行っている。神官の案内で神殿の中を歩きながら時折神子らしき人間とすれ違ったり、訓練風景を見学したりしながら己の運命を探すのだ。
     この王が神子に望むことはただひとつ、「戦うこと」。神子本人が戦っても良いし、王に戦う力を与えるのでも構わない。竜に対抗する力を得られなければ、国が滅ぶ。それだけは避けなければならなかった。
     ネイリンガルド。何度も古竜に襲われ、壊滅しては復興してきた国。民は強くしぶとくこの地に暮らし、来る災厄を王と神子が退けてくれることを信じている。その信頼は常に守られ、王は国を守ってきたし、これからも守り続ける。でなければ王ではいられない。ネイリンガルドの王はけして砕かれることのない剣でなければならないのだ。
     齢十七にしてそれを理解しているこの王は、「デリクス」である前に「王」であるこの少年は、その鋭い目で鍛錬場を見下ろしている。魔法の訓練などをしている神子たちを一人一人観察し、己の、国の第二の剣となるかもしれない者を探している。
     彼の運命は、まだ見付からない。


    とある二国の関係 ネイリンガルドの王、デリクス・ノーラ・ネイリング。十と七つを数えたばかりの少年が、この国の現在と未来を統べている。政務室で側近と顔をつきあわせ諸々について話し合っていたその王が、ふとのたまう。
    「そうだ、パエトーン王に祝いの品を。ネイリンガルド織りを何巻きかで良いだろう」
    「名目はどうされますか」
    「そうだな……『吉兆お慶び申し上げる』とでも」
     ――彼の王が神子を得たというしらせは今のところ吉報とも悲報とも言い難い。
     カルト・サーシュットとネイリンガルドは近接した国家である。関係はそれなりに良好ではあるが、かといって気の置けない相手というわけではない。ネイリンガルドがカルト・サーシュットに対して好意的で輸出入の規制もさほど厳しくないのは、七十年に一度壊滅的な被害を受けるネイリンガルドに彼の国が経済的な支援を惜しまないことへの見返りであり、また、カルト・サーシュットがネイリンガルドを支援する大きな理由は「ネイリンガルドが落ちればそこを通りすぎた古竜はどこへ向かうか」という点だ。……つまるところ二国は立地と災厄のせいで――おかげで――微妙なパワーバランスを保っていた。
     そこへきてのパエトーン王が神子を得たらしいという報である。
     彼の国に降りた神子がどのような神子なのかはまだ調査中であるが、両国の関係に影響を与えるだろうことは自明だった。その神子が武勇に優れたる能力の持ち主であり善良な人間であった場合、何らかの見返りを提示することによって古竜の打倒に協力を願うことも可能だろう。だが、武勇に優れたる能力の持ち主であるということは、「ネイリンガルドが落ちても構わない」という判断も可能なのだ。
     懸念事項はいくらでも。王は小さく息を吐くと、目頭を指で揉んだ。

    >>パエトーン王


    遺品 その部屋には代々の王と神子しか入れない。かつてこの国にいた神子の「遺品」が保管されている部屋だ。
     神子が世界を渡ってくる際に所持していたものは、神子が隠れる――死ぬ、あるいは帰還する――と同時に機能を停止する。寸分違わぬようにレプリカを作成しても何故か動かない。神子の魔力がなければそれらはただのオブジェであった。
     そのひとつひとつを検分し、埃を被っていれば払い、曇りがあれば拭う。この作業のおかげで、代々のネイリンガルド王は己の世話を自分で出来るかどうかとは別に、掃除だけは問題なく行える者が多い。
     デリクスもまたそうであった。自分以外の誰も入れないこの部屋で黙々と掃除をすることは思考の整理に役立ったし、……先王が急逝した直後はよくここに来ていた。今では定期的な掃除に訪れる程度だが。
     小さな箱型の火打ち石「ライター」や、細身で緩く湾曲している剣「カタナ」など、遺品たちは静かに眠っている。が、口々に語りかけてくるようにも思えて、デリクスはこの部屋に入るたびかつての王と神子について思いを馳せた。自分もこの国を守り導いた彼らのような王にならなければならない……。
     そのためには神子が必要だ。己の半身となり共に戦う神子が、無理矢理ではなく自らの意思でもって戦う神子が、強い神子が必要なのだ。
     ……無論、神子の存在に依存しきって何の対策もせずにいるネイリンガルドではない。七十年に一度やってくる彼の竜は同一個体であり、弱点や行動傾向についての情報の精度は上がりつつある。ネイリンガルド軍の中でも特に撃竜部隊は近隣諸国でもトップクラスの練度を誇り、士気も高い。理論上は神子が不在であっても竜の撃退だけなら可能だとされている。……だがあくまでそれは「理論上」であり、実際に竜と対決した際、不測の事態が起こる可能性は極めて高い。その場合最悪国が滅ぶことを考えると、楽観的に考えることなど到底できないのだが。
     遺品室を後にし軍の視察へやってきたデリクス。それを出迎えた将軍は王の祖父であってもおかしくない年齢であるが、その剣気衰えぬ熟練の兵である。彼は王に向かって敬礼をし少しだけ会話をしたあと、伴っていた兵士を王の案内役として残しすぐに職務へ戻った。その不敬を許されるほど、国からの信頼も篤い人物なのだ。
     がちがちに緊張している様子の兵士に案内されながら軍部を見て回るデリクスの行く先々で兵たちが足を止め敬礼する。膝を折ることはない。ネイリンガルドにおいて兵士の地位は高く、王族に偶然出会した際に膝を折らなくても構わない何種類かの立場のうちのひとつである。
     訓練の様子を眺めた後一言二言労いの言葉をかけるなどするデリクスは、歓迎されているように見える。この王に関しては即位直後こそその幼さや線の細さに特に軍部では不安の声もあったが、先王の代からの忠臣たち――そこには先ほどの将軍も含まれる――の尽力もあり、今ではおおむね好意的に受け入れられていた。
     デリクス・ノーラ・ネイリング、十七歳の王。
     やや小柄で肉付きも良くはないその姿は軍部においては多少場違いであるが、その堂々とした態度と鋭い眼差しが彼を軽んじさせない。マントを翻し歩く様には即位直後のどこか痛々しい雰囲気など欠片も残っておらず、逞しい兵士たちと相対してなお見劣らない。視察の最後に兵たちへ言葉を与える際には日差しがまるで後光のように差していた。
    「……われらが国だ。この大地と、空と、王と民、これらすべてが『ネイリンガルド』だ。それを重々忘れるな」
     全てを呑むような鮮やかで澄み切ったあおい目が見ているものを、今はまだ誰も知らない。
    新矢 晋 Link Message Mute
    2019/06/10 23:11:08

    竜に砕かれる剣の国[国について]

    #小説 ##屠竜

    屠竜の王と門の神子 @KDMG_tl より世界観をお借りした作品。
    王国についての諸々。

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