悩ましきかな色恋沙汰「……ごめんユウちゃん、もう一回最初から説明してもらっても良い?」
「えっと……オーディションに受かった人たちが本番に向けて合宿をすることになったところからで良いですか?」
「うんそっからでオッケーだよ」
「では──」
軽く咳払いをした後、監督生は先刻と同じ言葉を改めて口にする。
「合宿の期間は四週間ほどです」
「本番までの期間を考えるとそれくらいになるよね」
「合宿はオンボロ寮でやります」
「アウェイ感を無くすため、だったっけ」
「ついでに水回りのリフォームもやると学園長が言ってました」
「むしろまだやってなかったことの方が驚きかなー」
「合宿中は部外者の立ち入りに制限がかかると思います」
「ヴィルくんそういうのに厳しそうだもんねー」
「余程の理由が無ければ合宿の関係者がオンボロ寮から長期間離れることは出来ないかと」
「実際に許可が降りそうなのはカリムくんぐらいかなー」
「……自分から話せることは以上ですね」
「うんうん、つまり──」
極めて深刻な顔でケイトは抱いた懸念を言葉で示す。
「合宿が終わるまでの四週間を自慰で乗り切れと」
「……キツそうですか?」
「出来なくはないと思うけど合宿が終わったその日にユウちゃんを抱き潰す気しかしないなー」
「止めてください死んでしまいます」
率直すぎるケイトの返答に監督生は若干引いた顔をする。
「せめて週に一回……」
「自分はともかくヴィル先輩が承諾するかが問題じゃないですかね」
「やっぱそこだよねー……」
「……恥を忍んで直談判してみましょうか?」
「待ってユウちゃん、それやるならオレも同伴するから。一人で当たって砕けに行かないで」
「──泊まり込みじゃなければ良いわよ」
翌日、玉砕覚悟で臨んだ直談判が思いの外あっさり承諾されたことに監督生もケイトも目を丸くする。
「何よその顔は」
「問答無用でマッシュポテトにされると思ってました」
「ちょっ、ユウちゃんぶっちゃけ過ぎ!」
「裏方一人抜けたくらいで立ち行かなくなるようなスケジュールを組んだりなんかしないわよ」
「さすがはヴィルくん、そういうとこしっかりしてるよねー」
「……話は終わり?ならさっさと帰ってもらえるかしら」
「はいはーい」
「し、失礼します」
ケイトが監督生の手を引いてそくさと退散した後、ヴィルは深く溜め息を吐く。
「度が過ぎたらリドルにチクってやろうかしらね」