贈り物 何を贈ったら喜ぶだろうか。目下第一の懸案事項を口に出したら、同期の幼馴染は「お前が分からないなら俺たちが分かるわけねえだろ」とすげなくあしらった。
「いや剣司、そもそも一騎は──」
「『欲しいもの以前に物欲が存在しているかどうかも怪しく、単なる付き合いの長さや仲の深さだけで類推できるものではない』んだろ。もう耳タコだぜそれ」
「……そんなにか」
「そんなにだよ。まーったく、そんなに気になるなら本人に聞けよ」
「もう聞いた」
「一騎は何て? ……ああいや、わかった。『総士がくれるならなんでも嬉しい』だろ」
大正解。拍手の代わりに総士は軽く眼鏡を押し上げ頷いた。だろうなあと苦笑するこの男だって、総士と同じくらい一騎と付き合いは長いのだ。なんたって、一学年に一クラスしかないような離島で共に育った幼馴染なのだから。
「昔は気楽でよかったよなあ。適当に文房具やら駄菓子やら買ってさ。あ、そうだ、いっそ昔みたいに」
「却下だ。お前、それを要に出来るのか」
「まあそれはそうだ。だけどまあ、本人がなんでもいいって言うならいいんじゃないか?」
「彼奴、夕飯の献立に対して僕が『なんでもいい』と答えたら『それが一番困るんだって』と言ったくせに」
「……あー」
あはは、と乾いた笑いを漏らしながら剣司はボールペンの尻でこめかみを掻いた。「多分だけど」と小さく呟く。
「なんだ?」
「この時点で、一騎の一番欲しいものは与えられてるんじゃねえの?」
「……どういう意味だ?」
「つまり、総士はここ最近、思考のリソースを一騎に割いてるわけだろ」
物事を並列して処理することが得意な総士とはいえ、確かに、コンピューターで例えるならCPUの若干の割合は常に一騎のそれに割り振られている。
それが第一目標、というと。総士ははたと瞬いた。
「……成程」
「ま、本人が意図してるとは考えがたいけど、たくさん悩んで決めましたって言えば、あいつかなり喜ぶんじゃねえかな」
確かに、SMSで「何でもいいが一番困るんだぞ」と怒りつつも、今日は寒いからとか、昨日の飲み会は和食だったって聞いたからとか、何かと考えて献立を作ってくれることに、有り難さと同時に一種の充足感があった。
幼少期からのあのよそよそしさは、和解と共に打ち解けたが、時々まだ自己評価の低さを露呈させる友人の、何かをこれで満たすことが出来れば良い。
「ならば僕は、一騎のことについてうんと悩む必要があるということだな」
「そういうこった」
「目的と手法を確認したところで、初めの問いを評価するが、これは解決に有効だと判断できるな。──剣司、一騎が欲しいものはなんだと思う?」
「だぁかぁらぁ……」