イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    ひらがなトラップ椎の実で本格的に始まった勉強会のリズムは、菅波が参考書の読み下しと解説をし、その後に百音が自分で関連問題を解く。その間を菅波は自分の勉強に充て、百音の解答が終わったら、丸つけと、間違った・分からなかった問題を一緒に確認する、という流れになっている。

    その日もノートのチェックが一通り終わったところで、菅波がノートの数か所を指さした。『あられ』や『かすみ』といった語をひらがなで書いている箇所である。

    「このあたり、ひらがなで書いていますが、漢字で書くようにしましょう。試験の時には漢字で書くことが望ましいと思われますし、それに今から慣れておいたほうがいい」
    「やっぱり…ですよね…」

    菅波の指摘を受けて、百音がうーんと首をひねる。
    「漢字がまだ頭にはいりきってなくて、雨冠ばっかりで、まずは書いちゃえ!ってなっちゃうんですよねぇ。読んでるときも、あられ?もや?ってなっちゃうし」

    その百音の発言に、菅波の表情がよりけわしくなる。
    「まずは問題文をきちんと読み解くことが必須なわけですから、用語の読み間違いは致命傷です。つい細かく理解度を確認せずにいましたが、ちょっといくつか用語の漢字が読み取れてるか確認しましょう」

    そういうと、菅波が背後のホワイトボードにさらさらといくつかの漢字を書いた。
    霰・靄・霞・霜・雹・霈・霙
    「ひとまず、雨かんむりの漢字いくつかです。上からどうぞ」
    「えーっと、あられ、かすみ、もや…、しも、ひょう、みぞれ、ひさめ、です!」
    「靄(もや)と霞(かすみ)、霈(ひさめ)と霙(みぞれ)を取り違えていますね」
    「あぁあ、やっぱり…。いつもあいまいだなーって思いながら、先生がちゃんと読んでくれるから、あぁ、そうだったそうだった、で問題は解いちゃってて」
    「試験会場で僕は問題読み上げませんよ」
    「ですよねぇ」
    「そのためにも、ノートに書く時も、漢字で書いて覚えるようにしましょう」
    「はい」

    ホワイトボードを改めて見ながら、ノートに漢字と読みを大きめに書き写した百音が、ホワイトボード前で机越しにその様子を見守る菅波を見上げて聞く。
    「先生はこの辺の漢字、全部知ってたんですか?」
    「いや、後半の方はテキスト読むようになって改めて覚えました。まぁ、難読とはいえ、漢字一字ですし、覚えやすい方ですね」
    「へぇー。あ、先生、難しい地名とかも読めるほうですか?」
    「はい?」
    「どうでしょう、普通に知っている程度だと思いますが」

    その回答にふむふむとなった百音が、スマホを取り出して何やら検索をしながら席を立ち、ホワイトボードの前に来た。百音が立つ場所をあけながら、菅波が様子を見ていると、百音がホワイトボードにいくつかの漢字を並べた。
    舎人・九品仏・小豆沢・青梅・放出・膳所・京終・帷子ノ辻・十三・私市
    「東京とか関西のメジャーな難読地名だそうです。先生、読めますか?」
    「とねり、くほんぶつ、あずさわ、おうめ、はなてん、ぜぜ、きょうばて、かたびらのつじ、じゅうそう、きさいち、ですね」
    「うわぁすごい!え、全部あたりです!」
    「たまたま知っているところを出したのだと思いますよ。メジャーなものが多いし、基本的に難読地名というのは音を知っていないと読めないか、漢字が難しいかの二つですから」

    自分が出した問題をさらりと読まれて、百音が腕まくりをしてスマホで何やら検索をする。そのムキになっている様子に、これはしばらく付き合う流れだが、時間的にも終わりの頃合いだし、まぁいいか、と菅波は見守る。
    「ちなみに、北海道の地名はなしですよ。あれは本当に知らないと読めない」
    「分かりました」
    唇を尖らせながら、何やら検索した百音が、またホワイトボードに何やらを書く。

    金成・糺・実沢・将監・遠刈田・槻木・閖上・鴇波
    「全部、宮城の地名です!どうでしょう!」
    「かんなり、ただす…いや、ただし、かな。おそらくさねざわ、しょうげん。えん…違うな、とおがった。つきのき、ゆりあげ、ときなみ、で合ってますか?」
    「正解です!変すぎるのはやめましたけど、それでも全部読めます?!」
    「うーん、例えば実沢でいうと、ここに出ると言うことは、みざわ、ではないわけでしょ。で、実という漢字はさねとも読むわけで、さねざわ、かな、とか、遠刈田は、刈田郡って地名を知ってたから、かったは読めるから…とかそういう組み合わせですね」

    むむぅと唇を寄せた百音に、もういいですか、今日は終わりにしましょう、と菅波がクリーナーを手にすると、あ!と百音が声をあげて手をぱちんと合わせた。
    「先生、これは?」
    そういってマーカーを手にした百音が大書したのが『登米市登米町』である。
    「え、とめしとめちょうでしょう?」

    何を当たり前なことを、と菅波が答えると、百音がとても得意げに「不正解です!」と胸を張る。
    「えっ?」
    だって同じ字…と菅波が指さす下に、百音がフリガナをふる。
    『とめしとよまちょう』
    「え?あ!ひらがなで書いてあるあれ、漢字だと登米?!」

    そうなんです、と百音が自慢げな顔をする。明治時代のあれこれとか、市町村合併とかいろいろあって、こうなったらしいですよ、と百音が言うのに、知らなかった…と菅波がこめかみをかく。

    じゃあ、本当に終わりにしましょう、と菅波がホワイトボードを消して元の位置に戻し、百音がテキストを片付けてテーブルを拭くいつもの片付けのルーティンにはいる。ホワイトボードを片付けながら、こうして何かをふと教わる時間があるから、永浦さんの脱線にもほどほどには付き合うものだな、と菅波の口許はわずかに緩んでいるのだった。
    ねじねじ Link Message Mute
    2022/08/28 17:50:26

    ひらがなトラップ

    #sgmn

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    NG
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品