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    ハムスターとチベットスナギツネなんだかんだ言って先生はコミュニケーションとしてキスを惜しまない人だ、ってことを私は最近痛感する。

    先生が登米に専従するようになって、私が登米に行くか、先生が東京に来るか、中間地点の仙台で会うかの3パターンが定番になって。天候次第で私の仕事が変わるから、先生が東京に出てくることの方が多いんだけど、私が登米に行くこともそれなりに。どうしても登米ではあなたを独り占めできないから、なんて先生はぼやいてみせるけど、二人でいることをいつも温かく見守ってくれるこの場所がまんざらでもないことも私は知ってる。

    登米に行けば先生のおうちに泊まるから、一番リラックスしてる先生を見られるのもいいところ。やっと私も先生の腕の中で夜を過ごすのに慣れてきたし。すーちゃんなんか、あまりに私たちがそうならないもんだから、信じらんない、あの人仙人か何かなの?霞食ってんの?なんて言ってたけど、私は知ってる。先生が、本当にゆっくり時間をかけて私が先生に追いつくのを待っててくれたこと。

    そして、その間も、先生は私へのキスは惜しまなくて、私もすっかりそれに慣れてしまって。先生の車に乗ってシートベルトを留めたときにそっと降ってくるキスも、一緒に台所に立ってるときに不意に髪に落とされるキスも、おやすみの時のおでこへのキスも、朝起きてコーヒーを淹れてる時に甘えたように頬に手を添えて贈られるキスも。別にその時はそうする、って決まってないんだけど、いつ先生がどんなキスをくれるか、大体わかるようになってきて、それが嬉しいような、照れくさいような。もう少ししたら、私も先生に自然にキスできるようになれたらいいな、なんて思ったり。

    と思ってたら。
    お寝坊な先生の腕からそっと脱出してコーヒーの準備をする朝。大体、お湯が沸いた頃合いで先生はのそりと起きてくる。クスリと笑って、「おねぼうさん、おはようございます」って見上げたら、先生もふわりと笑って「おはようございます」っていう。けど、いつものキスはない。一瞬、どしたのかな?って思うけど、そんな日もあるかな?って私はまたコーヒーの仕事に戻って、先生はパン焼きますね、って食パンにチーズのせてトースターにセットする。けど、何だかちょっと先生の動きが変な気がする。

    「せんせ、このレタスって食べきっちゃっていいです?」
    調理台に出してたレタスのことで声をかけたら、こっちに体ごと向き直って「もちろん」って言う。
    じゃあ、ってお皿の上にレタスを二等分して、昨日まとめて作ってた茹で卵のっけて。オレンジも半分こ。
    その間にできたチーズトーストを、あつつ、って言いながら先生がお皿にのっけてくれる。
    「持っていきますね」
    ってお皿を両方テーブルに運ぶ時も、何だかちょっと慎重な感じ。ん?

    私がコーヒーの入ったマグをふたつ運んでる間に、先生が冷蔵庫から牛乳を出して。戻ってきた先生が、テーブルに牛乳を置いたかと思うと、椅子に座った私の横にきて、手をとって私を立たせた。どしたのかな?って思ったら、立った私に膝を折って屈むようにして朝の温度のキスをした後、クシャって私の頭を撫でて自分の椅子についた。

    いただきます、って仲良く手を合わせて朝ごはんを食べながら、なんか分かった気がする。
    「先生?」
    「ん?」
    「もしかしなくても、寝違えてます?」
    チーズトーストを持った先生の手が止まって一瞬目が泳ぐけど、次の瞬間には「…はい」って不承不承頷いた。
    やっぱり。さっき、ほんの小さく「ぃてっ」とか言ったりしてたし。
    そっか、それで朝起きてきた時、いつものキスができなかったんだ。

    「大丈夫ですか?」
    「うん、大丈夫ですよ。これぐらいなら今日中に治ると思います」
    何でもないって顔して見せようとしてるけど、ちょっと強がってるようにも見える。

    とにかく首を安静にして、後で軽くストレッチでもします、ってお医者さんの顔してみせるけど、なんかもうただかわいいんですけど。平静を装って朝ごはんを食べ続けるけど、慎重気味に動いてる様子が何だかハムスターみたい。ハムスターにしてはとっても大きいけど。私もチーズトーストをかじりながら考える。

    先生は私にふいにキスする時、身長差もあるから首をかしげてる。だからさっき、いつものそれができなかったし、キスするのに私を立たせたんだ。だとすると、今日は先生からいつものキスはないのかも。って、そこまで考えて、それがちょっと寂しいなって思ってる自分にびっくりするし、そう思わせてる先生は責任取ってくださいね、って感じ。あぁ、そっか。先生からキスできないなら、私からすればいいんだ。なんだかいつもとは少し違う一日になりそうで、寝違えちゃった先生には悪いけど、なんだか楽しい気持ちにもなってしまう。

    今日は、雨予報なのもあって、一日おうちでゆっくり過ごすことにした日。二人でなかよく朝ごはんの片づけをしたら、最近、自社が出展したイベントの写真を先生に見せたり、先生からの在宅診療の患者さんたちに体調管理のためのオーダーメイドの天気予報を伝えるにはどうしたらいいかって相談をしたりしてのんびり過ごす。いつもなら、そうやって並んで座ってると、ふとした時に先生がキスをくれるのだけど、今日は毎回とても改まった感じになって、逆にくすぐったい。

    で、いつもなら先生がキスするな、って感じるタイミングでこっちからほっぺや唇にキスを仕掛けてみると、最初は驚いた顔して。でも、2回目からはまんざらじゃないって顔してる。で、私のキスを追いかけようとして、首がいたくなって、イテテってなって。その様子がなんだかかわいそうだけどかわいくて、何回目かのあとについ「かわいい」って言っちゃったら、ハムスターが盛大にチベットスナギツネみたいな顔をして不服そう。でも、先生、ご自分が全身かっこいいかわいいってことは、そろそろご自覚いただいた方が私の心臓がもつのでよろしくお願いしますね?

    結局、一日かけてちょっとずつマシになってった先生の寝違えは、でも夜になっても残ってて、歯磨きする時もうーん、って首をそわそわ触ってる。ちょこちょこストレッチもしてて、それをぐいぐいってお手伝いするのもなんだか楽しかったけど、やっぱり先生がつらいのは心配だし、早く良くなるといいな。

    って思ってたら、私の髪をいつものように高性能ドライヤーで丁寧に乾かした後、そっと手を引いて先生のお膝の上に誘ってきた。大人しく座って先生を見上げたら、私の頤に手をかけて夜の深いキスを落としてくる。私もそれに必死に応えるけど、でも、首、まだ痛いんです…よね?

    そっと指先で痛いってほうの首に触れて「大丈夫なんですか?」って聞いたら、「あなたがここにいるのに、大丈夫じゃないわけない」とか若干以上にロジックが通らないことを言って、また私の唇をはむ。それを、しかたないなぁって受けちゃう私も私なんだけどの夜、熱を分かち合いながらも、たまに「いてっ」って漏らす先生に、私は思わず笑っちゃって、そのたんびにチベットスナギツネが現れるものだから、素敵な仲良しの夜だけど、なんだか妙に締まらない時間にもなってしまったのだった。

    ねじねじ Link Message Mute
    2022/12/09 9:11:59

    ハムスターとチベットスナギツネ

    #sgmn

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