シックスマンメーカー~キセキの黒子育成プレイ日記~プロローグ
昔々、とある王国が存在していた。王国は緑豊かな土地にあり皆が平和に暮らしていたが、魔王軍の攻撃に遭い壊滅的な被害を受けた。
皆が未来への希望を失っていた時、一人の男が立ち上がり、見事魔王を退けたのだった。
救国の英雄と呼ばれるようになった男は、民の心の拠り所になればと、バスケというスポーツを人々に教えた。バスケは復興のシンボルと位置付けられ、瞬く間に国中に浸透した。
その様子を天から覗いていた天使が一人……。
「スゴイです、ボクもバスケしてみたいです!」
天使は先輩天使にバスケがしたいと頼み込む。天使は大人しい子供だったが、人一倍頑固だ。駄目だと言って、大人しく引き下がるとは思えない。
しかし、天使は天界で生まれ育った純真無垢な存在。欲望渦巻く地上に行かせるのは心配だ。
悩んだ末、先輩天使は救国の英雄に天使を預けることにした。
「この子の名は黒子テツヤ。黒子君をアナタに託すわ、彼を立派なバスケットプレーヤーにしてちょうだい」
こうして英雄は、黒子テツヤを18歳まで育てることになった。彼の未来は、英雄であるアナタ次第……。
プレイ日記~緑間真太郎の場合~
緑間はその日、携帯ショップでスマートフォンを買った。ガラケーで十分と思っていた彼だが、昨日誤って風呂に落としたのと今日のラッキーアイテムがスマートフォンだったので、買い替えることにしたのだ。
悪質なショップだと、客に黙って有料アプリを入れて渡すことがある。買ったらまず初期化した方がいい。相棒の高尾から事前にそうアドバイスを受けていた緑間だったが、初期化の方法がわからず取扱説明書を見ながら悪戦苦闘していた。
「これは?」
ようやく初期化の方法を見つけて操作を始めた矢先、変わったアプリを見つける。
「『シックスマンメーカー』」
水色の男の子のアイコンには、そう書いてあった。水色の髪のシックスマン、中学の時から気になっているあの子を連想させるには十分だった。
「高尾はああ言ったが、もしかしたら有益なアプリかもしれないのだよ。決して黒子のことが気になる訳ではないが、確かめもせずに消すのは人事を尽くしているとは言えないのだよ。そうだ、決して黒子のことが気になっている訳ではない。B型のオレとA型のアイツとでは……」
自分に対し長々と言い訳し、緑間はシックスマンメーカーを起動させた。
『昔々、とある王国が存在していた。王国は緑豊かな土地にあり皆が平和に暮らしていたが、魔王軍の攻撃に遭い壊滅的な被害を受けた。
皆が未来への希望を失っていた時、一人の男が立ち上がり、見事魔王を退けたのだった。
救国の英雄と呼ばれるようになった男は、民の心の拠り所になればと、バスケというスポーツを人々に教えた。バスケは復興のシンボルと位置付けられ、瞬く間に国中に浸透した。
その様子を天から覗いていた天使が一人……。
「スゴイです、ボクもバスケしてみたいです!」
天使は先輩天使にバスケがしたいと頼み込む。天使は大人しい子供だったが、人一倍頑固だ。駄目だと言って、大人しく引き下がるとは思えない。
しかし、天使は天界で生まれ育った純真無垢な存在。欲望渦巻く地上に行かせるのは心配だ。
悩んだ末、先輩天使は救国の英雄に天使を預けることにした。
「この子の名は黒子テツヤ。黒子君をアナタに託すわ、彼を立派なバスケットプレーヤーにしてちょうだい」
こうして英雄は、黒子テツヤを18歳まで育てることになった。彼の未来は、英雄であるアナタ次第……。』
シックスマンメーカーとは、どうやらシミュレーションゲームらしい。プロローグが終わると、前髪をセンターで分けた釣り目の男が現れる。
「どうも~執事の高尾ちゃんでーす! これからよろしく……って、真ちゃん電源から切ろうとしないでwwwww」
ゲームの目的は中1から高3までの6年間で黒子を伝説のシックスマンに育てることであり、高尾はそのサポート係のようだ。
~高尾執事のよくわかる解説~
それじゃあゲームの遊び方を説明するぜ。さっきも言ったけどこのゲームの目的は中1から高3までの6年間で、黒子を伝説のシックスマンにすることだ。
月の始まりにその月の上旬と下旬、黒子に何をさせるかオレが聞くから『習い事』・『アルバイト』・『休息』・『武者修行』の中から、黒子にさせることを選んでくれ。
『習い事』はそのまんまの意味。金払って黒子を鍛えてもらう。『学習塾』とか『バレエ』とかいろんな種類あるから、後で見てみて。ついでに何でかよくわかんないけど、バスケ部の練習は習い事のカテゴリーだから、金払って練習してねwww
『アルバイト』もそのままの意味。え? 学生の本分は勉強だ? いや、そうは言ってもね真ちゃん。真ちゃんの給料、月に500Gしかねーの。で、バスケ部で練習するのは1日50G以上かかんの。アルバイトもいろんな種類あるから、黒子にでもできるアルバイトして稼いでもらってくれ。
で、ゲームとはいえ習い事にしろアルバイトにしろ、やるとやっぱストレスが溜まんの。あんまりストレス溜まると黒子がぶっ倒れるから、適度に『休息』選んであげて。初めのうちは金がないから、『街に遊びにいく』で十分だと思うぜ。
最後に『武者修行』。王都の外にいる怖~いモンスター倒しにいくRPGパートなんだけど、行くなら『武器屋』で装備買ってから行けよ。
習い事なりアルバイトなりして、一月のスケジュールをこなすと、この基本画面に戻ってくる。基本画面では黒子の成長具合を確認する他にも、『会話』したり『街へ出かける』こともできる。街へ出かける時はオレも一緒に付いていくけど、『仕立て屋』だけは勘弁ね。そうそう。あと、一度オレがスケジュールを確認する画面に行くと、もうこの基本画面には戻れないから注意しろよ。
さっき黒子の成長具合が見れるって言ったけど、黒子の状態は『体力』・『筋力』・『知能』・『気品』・『色気』・『モラル』・『信仰』・『感受性』・『戦闘力』・『社交力』・『バスケセンス』・『ストレス』で表されて、この数値で黒子が伝説のシックスマンになれるかが決まってくる。最高999まで行くけど、まだ中1だからパラメーターはこんなモンだな。
体力:10
筋力:8
知能:16
気品:28
色気:20
モラル:30
信仰:5
感受性:38
戦闘力:17
社交力:24
バスケセンス:7
ストレス:0
ま、色々言ったけどやりながら慣れていけば……。
「ふざけるな!!!」
それまで黙って聞いていた緑間が、急に声を荒げた。
「急にどうしたんだよ」
「やりながら慣れていけだと? いくら気に食わない黒子とはいえ、オマエは子供の人生を何だと思っている! 子供の将来を思えば、一月たりとも無駄にはできないのだよ!!!」
「…………うん、ごめんね? 真ちゃん」
緑間が言うことは正論も正論なのだが、高尾は引いた。
その後緑間は街に出かけて売られているアイテムを確認し、続いて各習い事とアルバイトの増減するパラメーターを高尾から聞き出した。現時点で入手できる情報を全て仕入れたうえで、彼は6年間の育成計画書の作成にとりかかった。
「年齢上がるごとに、できるアルバイトの種類増えたりとかするからさ。今からそんな細かい計画立てても……」
「馬鹿め。新しい情報を入手次第、計画も順次見直しするのだよ。PDCAサイクルで最も肝心なのは、CとAなのだよ」
「男子高校生がPDCAサイクルとか言わないからね? 普通」
「そういえば、何故黒子の信仰はこんなに低いんだ? そんなに信心がないヤツとは思えないが」
「王国の国教は『おは朝教』だからね。5もありゃ十分でしょ」
「まったく、本当になっていない男なのだよ。まずは信仰を上げることから始めるのだよ」
【ED:NO.7 教皇/一般女性と結婚】
(先輩天使の総評)伝説のシックスマンにはなれなかったけど、初回プレイで教皇になれたのはすごいわ。それに緑間君はとても良い保護者だったみたいね、黒子君がバスケを捨て信仰の道に迷いなく進めたのはアナタのおかげよ。一つ難を言うなら、少し過保護過ぎたかしら。人生何事も経験よ、次回のプレイでは武者修行に行くのもいいんじゃないかしら? 伝説のシックスマンになるヒントが隠れているかも。
プレイ日記~紫原敦の場合~
「オレ貧乏英雄だから、とりあえずアルバイトさせるってことでOK? 雅子ちん」
「監督だ。ああ、その認識で構わない」
「は~い」
執事の荒木から一通りの説明を受けると、紫原はスケジュール選択画面へと移った。現時点で黒子ができるアルバイトは、『教会』・『農場』・『ベビーシッター』・『雑貨屋の店番』の4つだ。
「教会って何すんの?」
「仕事の内容は、牧師やシスターの手伝いが主だ。手当は出ることは出るが、ボランティア同然だな。ちなみに国教であるおは朝教の教会だ」
「あ~ないない絶対ない。農場は?」
「家畜の世話をする肉体労働だ」
「黒ちんには無理だね。じゃ今月はベビーシッターと雑貨屋の店番で」
紫原は上旬にベビーシッター、下旬に雑貨屋の店番を選択した。しかし、荒木から待ったがかかる。
「一月丸々アルバイトは無謀だろう」
「たかが子守と店番じゃん」
「子守は大変なんだぞ。オマエは氷室を見てて、何も思わないのか?」
「室ちんオレに隠れてそんなことしてんの?」
「隠れてはないよ」
「バスケと兼業できるくらいだから、子守って楽勝じゃん」
紫原は荒木の助言を無視し、アルバイトを決行した。ベビーシッターと店番は黒子に合っているらしく、黒子は順調に仕事をこなしていった。しかし紫原は知らなかった、ベビーシッターは農場で働くのと同じくらいストレスが溜まるということを。
一月のスケジュールが終わり画面は基本画面へと戻ったが、突如画面が点滅し始めた。
「も、もうダメです」
「黒子!!」
黒子と荒木の声がし、画面は真っ暗になる。そして再び基本画面が映った時、メッセージ欄に『黒子テツヤは病気になりました』と書いてあった。体力がないのに1ヶ月休みなく働いた黒子は、過労のために倒れてしまったのだ。
「あまりストレスを溜めるなと言っただろう」
「オレ悪くないしー、弱っちい黒ちんがいけないんだしー……イテッ!」
荒木に思い切り竹刀で叩かれた紫原は、黒子を王都唯一の病院『クリニック・ホワイトゴールド』に連れていった。そこで1,000G(給料2ヶ月分)を診察料として請求されたが、金に頓着しない彼は躊躇せず払った。
「今月は何もしないで静養しないといけないな。お子様に病人の世話は無理だろう、黒子の看病は私がするからオマエは仕事に行け」
荒木に悪気はなかったが、お子様の紫原がカチンときたのは言うまでもない。
「オレだって看病くらいできるし」
「無理だ。だいたい仕事はどうする? 王国には有給休暇の概念がないからね、休んだ分だけ減給されるぞ」
「金なんて元気になった黒ちん働かせばいいじゃん」
「病人を前にそれを言うのか……」
荒木の反対を押し切り、紫原は自ら黒子の看病をすることにした。しかし看病といっても、額のタオルを定期的に交換する程度で他にやることはない。
「黒ちん暇」
「そうですか……ゴホゴホッ」
「一緒にお菓子食べよ~」
「胸やけがして食べられないです……」
「えぇ~!?」
紫原は子供のように頬を膨らます。
「つまんねーの。さっさと元気になりなよ」
「ご心配かけてすみません」
紫原が働かせ過ぎたせいで倒れたのだが、天界育ちで箱入り息子な黒子はその理不尽さに気付いていない。
その後真面目に看病しろと荒木に怒られた紫原は、黒子のために料理屋『ルーツ』へバニラシェイクを買いにいった。そこで店主からやたら牛丼をお勧めされたが、一杯のかけそばの如く話を盛りに盛れば、感動した店主から特大サイズのバニラシェイクがもらえた。しかし特大サイズを一気に飲んだ黒子は腹を冷やし、また一月寝込むこととなる。
【ED:NO.96 家事手伝い/英雄と結婚】
(先輩天使の総評)能力は全体的に高いのに、もったいないわ。1度でもお城に行って人脈を築いていれば、貴族や王族になれるパラメーターだったのに。けど黒子君とはとても仲が良くて、紫原君はいい保護者……とは言えないわね。ええ、世話していた子供と結婚する人をいい保護者とは言わないわ。私今、心中複雑よ。
プレイ日記~青峰大輝の場合~
青峰のプレイは、彼の性格に反し堅実だった。農場でアルバイトをし、溜めたお金で習い事にいく。そして倒れる前に休息を入れる。模範的なプレイスタイルと言えなくもなかったが、彼の場合、選ぶ習い事がいけなかった。
「よ~し金溜まった。来月の上旬は『剣術教室』で、下旬は『らくらくマウンテン』に武者修行な」
「大ちゃん! いい加減テツ君にバスケさせないと」
「赤司と会う前のテツにバスケさせても無駄だろ。それよりイグナイトパスの土台になる『戦闘力』をだな……」
「大ちゃんのバカ!」
執事の桃井にいくら言われようと、青峰は黒子を『剣術教室』に通わせ続けた。武者修行はド〇クエ風のRPGパートとなっており、モンスターを倒せばお金やアイテムが手に入る。青峰はこのRPGパートを気に入っており、ダンジョンの奥まで行くには戦闘力が必要だった。
「邪魔するで~」
玄関の呼び鈴が鳴ったかと思うと、眼鏡をかけた男が屋敷に入ってきた。身なりを見れば商人とわかったが、王都では使われない言葉を使う男は怪しいことこのうえない。
「邪魔するなら帰ってくれ」
「そうかい、ほなまた…………って、なんでやねん!」
言葉とは裏腹に、彼の住む地方で人気の劇と同じやり取りができ、商人はどこか満足げだった。商人は肩に担いでいた麻の袋から商品を取り出すと、青峰の前に広げた。
「西方の珍しい商品や。安くしとくで」
「こんな怪しげなもの、買っちゃダメだよ」
桃井が言うように並べられた商品は、商人同様見るからに怪しく、何に使う物なのか見当がつかなかった。
「これは何だ?」
「『ビリケンさんのストラップ』や。誕生日になるとその年の数だけ、全パラメーター上げてくれるありがたい品や」
「いらね。これは?」
「『ドルオタのうちわ』や。武者修行で会う『ユニコーン』に渡すと、感受性上げてくれるで」
「いらね。これは?」
「『巨乳丸』や」
青峰の顔つきが変わった。錠剤の入った瓶を片手で摘まんでいたのが、巨乳丸と言われた途端、両手で包み込むように持ち替えた。
「これは何でございますか?」
「オマエが思ってるとおりの効能や」
「買うぜ!」
「テツ君のおっぱい大きくしてどうするつもり!?」
桃井が止めてくれたおかげで、黒子の胸は膨らまずにすんだ。
叩かれた頭をさすりつつ、青峰は隅に置かれた木箱を開けた。収められていたのは薄いピンクに染められたシルクの布で、所々に金でできた装飾品がつけられている。
「お、いいモンに目つけたな」
商人の細い目が更に細くなる。
「それは『傾国の美少年の服』や」
「ケーコク? って、これ服かよ!?」
青峰は改めて傾国の美少年の服を手に持ち広げたが、縫い目はどこにもなく、どう見ても布にしか見えなかった。加えて生地は薄く、青峰の向かいで眉を吊り上げる桃井の姿が透けて見える。
「その美貌で王を唆し、国を傾けた美少年が着ていた服や。ま、こんな乳首がすっけすけな服で迫られたら、どんな男も……」
「今、何て言った?」
「その美貌で……」
「その後だ!」
「乳首がすっけすけ」
「買った!!!!」
「大ちゃん!!」
再び桃井が止めに入るが、彼の頭の中には布としか思えない服を纏った黒子が、頬を染めて『青峰君のへんたい』と上目使いに言う姿で占められ、他のことは一切入らなかった。……いや、正確に言うと乳首がすっけすけな服を着た黒子と透ける乳首の色が何色かということ以外、頭に入らなかった。
「おおきに~。59,800Gになります」
「ブッ」
「汚っ!」
青峰が吹き出してしまったのも無理はない。彼の全財産より一桁多い上に、一切の無駄遣いをせずに10年近く働かないといけない額なのである。青峰はこれから真面目に練習に出て先輩も殴らないと誓ったが、卒業するので関係ないと商人は値下げしてくれなかった。
「金が貯まった頃にまた来るで。汗水流してしっかり働き」
項垂れる青峰を残し、商人はどこかへと去っていった。
「クソッ、買わずにゲットできる方法はないのかよ!」
その後、彼は西エリアへ武者修行に行った際、商人の家を見つけるのである。商人は不在で、モンスターが番犬代わりと家に鍵をかけていないのであった。
【ED:NO.48 SM女王様/独身】
(先輩天使の総評)隠しパラメーター『因業』を上げ過ぎた結果ね。教会で働いて罪を償っていれば、近衛騎士にはなれたわ。それにしても野生の勘は恐ろしいわね。本人は気付いていないようだけど、黒子君のバスケセンスを伸ばすには『ある人』と出会わないといけなくて、そのためには一定の戦闘力が必要なの。剣術教室に通わせたのも決して悪くなかったんだけど、まさかムチを振るうために活かされるなんて……。
プレイ日記~赤司征十郎の場合~
黒子が高2になった時、占い師が赤司宅を訪れた。フードで目元は隠れていたが、水晶玉を持つ手は震え、怯えているのは明らかだった。
「く、黒子の将来を、ひゃ、100Gで占いまちゅ」
最後は舌を噛んでしまい、随分可愛らしい物言いになってしまった。赤司は画面の所持金欄を見た。現在の所持金は999,999G。雑貨屋・武器屋・仕立て屋のアイテムを全て揃え、怪しい商人が売る品も全て買ったのに、まだこれだけ残っている。ちょうど金を消費する方法を考えていたところだ、赤司は占い師に黒子の将来を占わせることにした。
「黒子は将来、国王になります」
「……は?」
「ほ、本当です! ウソ言ってません! だから殺さないで!!」
「君はオレを何だと思ってるんだ」
水晶玉を放り投げ、床に頭を擦り付ける占い師を落ち着かせ、赤司は詳しい内容を問うた。
「黒子はクーデターを起こすのか?」
「いいえ、現国王たっての希望で王位を譲渡されます」
「国王には姫がいたと思うが、黒子は姫と結婚するのか?」
「いいえ。姫と結婚しなくてもいいからといって譲渡されます」
「そうか、わかった。ありがとう」
赤司がコインを渡すと、占い師は逃げるように帰っていった。
赤司は改めて黒子のパラメーターを確認した。
体力:999
筋力:999
知能:999
気品:999
色気:999
モラル:999
信仰:443
感受性:372
戦闘力:999
社交力:999
バスケセンス:999
ストレス:51
「せっかくバスケをするために地上に来たのに、国王になってはバスケもできないだろう。それは可哀想だ」
黒子を伝説のシックスマンにするため、赤司はパラメーターの調整作業に入った。
パラメーター調整作業は1年で終わり、時間と金を持て余した赤司は残り1年を全て『バカンス』で埋めた。バカンスは『休息』コマンドの中の1つであり、執事の虹村に留守番させ、黒子と二人きりで遊びにいく。1日40G~70Gとお高いが、月に50,000G入ってくる赤司には痛くも痒くもない。
「赤司君! 一緒に水遊びしましょう」
「黒子はいつまでも子供だな」
「赤司君の前でだけです」
バカンスの行き先は山と海から選べる。海を選ぶと、季節によってはこうして水遊びに誘ってくるのだ。
「ああ、可愛い。オレの黒子が可愛過ぎて生きるのが辛い」
仕立て屋に洛山ユニフォームがないことを除けば、赤司はシックスマンメーカーに満足していた。これほどの傑作は他にないとまで思っていた。しかし、彼はエンディングで裏切られることになる。
高3の3月を終えると画面は真っ暗になり、中央に白抜きで『運命の時が来ました』と表示され、シックスマンメーカーのエンディングが流れ始める。黒子は赤司の思惑どおり、バスケのプロ選手になり比類なき活躍をした。存在を認識されなかった当初は『幻のシックスマン』と噂されていたが、次第に『至高のシックスマン』と呼ばれ始め、引退後には『伝説のシックスマン』と称えられ王国のヒーローとなった。
「幸せそうで何よりだ。国王じゃなくてシックスマンにさせて良かった……」
熱くなった目頭を押さえる赤司だったが、画面には『1年後……』というメッセージが出る。エンディングにはまだ続きがあるらしい。
「黒子君。迎えにきたよ」
「あの、失礼ですがアナタは?」
黒子の前に一人の青年が、バラの花束を抱えて立っていた。片目が前髪で隠れた甘いマスクの男だが、黒子だけでなく赤司も見たことがない男だった。
「キミに倒された氷のドラゴンだよ」
「あ、あの時の!」
青年の言葉を受け赤司も思い出した。高校1の12月、黒子を北エリアに武者修行に行かせたのだが(ちなみに北エリアの名前は『陽気な泉・アッキータ』だ)、そこでドラゴンの住処を守る青年ドラゴンと戦い勝利したのだ。
モンスターの多くが『あ、あなたは魔王様の……! 命だけはお助けを!』と言って金を置いて逃げていくのだが、このドラゴンは『殺す気でこいよ』とか言って挑発してきたから、赤司もよく覚えていた。しかしその時は終始ドラゴンの姿のままで、人型にはならなかった。
「黒子君と結婚するために、人の姿に変身したんだ」
「はい?」
「ドラゴン族は一族の力を高めるため、自分を倒した相手と結婚するしきたりがあるんだ」
「そんなしきたり知りませんよ。ボクを巻き込まないでください」
「黒子君にとっても、悪い話じゃないと思うよ。オレと結婚するということは、ドラゴン族の後ろ盾ができるということでもある。未だ魔王軍の影に怯える王国にとって、これほど心強いことはないんじゃないかな?」
好青年そのものといった笑顔で喋るが、あくまで表面上の話である。知能が999の黒子は騙されたりしなかったが、知能999>感受性436の黒子は打算的であった。
「確かに仰っていることは最もです。結婚というのは、そういう役割もありますし。アナタに愛情を一切感じていませんが、それで良ければ結婚しましょう」
「すぐにキミを振り向かせてみせるから、何の問題もないさ」
こうして黒子は青年ドラゴンと結婚することになった。
【ED:NO.1 伝説のシックスマン/青年ドラゴンと結婚】
(先輩天使の総評)伝説のシックスマンは必須イベントが多くて、パラメーター調整も難しいのにさすがだわ。青年ドラゴンは強引だけど、情熱的で優しい面もあるからすぐに黒子君も……ちょ、ちょっと! 赤司君!?
「オレから黒子を奪うヤツは、とにかく殺す! 紫原、今から秋田に行く。オレが着くまで側にいる鬼○郎もどき抑えとけ!!」
「赤ちんまた人格変わったの?」
プレイ日記~黄瀬涼太の場合~
詳しくは黄瀬君のプレイ日記で。
「笠松先輩の泥棒猫! すけこまし! オレには『踊り子』選ぶなとか言っときながら、自分は夜な夜なベッドで黒子っち踊らせてたんスね!? やらし、うらやまし! ハメ撮り画像はどこで売ってるんスか? 今度は雑貨屋『ニュータイプ』に貢げばいいんスか!?」
「待て、落ち着け笠松! せっかく大学決まったのに、人生棒に振る気か!?」
「バカは死ななきゃ治らないらしいからな……」
「バカは死んでも治らないんだぞ! この黄瀬を見た黄瀬ファンの女性が、オレの魅力に気付いてだな……」
「森山は黙ってろ!!」
【ED:NO.96 家事手伝い/執事と結婚】
(先輩天使の総評)アナタに任せたのが失敗だったわ。
シックスマンメーカー用語辞典
【ア行】
「怪しい商人」
金の臭いを嗅ぎつけ屋敷を訪れる商人。らくらくマウンテンの大きな坂の上に彼の家があるのだが、最近空き巣被害に悩んでいる。
「ある出来事」
強制イベント。中3の8月に発生する。黒子からの問いかけに回答を誤ると、中3の3月まで家出し伝説のシックスマンになる道が閉ざされる。なお、英雄との仲が悪いと黒子からの問いかけは発生せず、何も言わず家出する。
「お尋ね者」
窃盗罪で追われている犯罪者。人のものだとわかると、幼い少年でも手を出す。
「踊り子」
アルバイトの1つ。中2からできるようになる。踊ることよりパトロンの夜のお相手をする方がメインなので、心がすさむ。
「オレクロトニコロ」
オレから黒子を奪うヤツは、とにかく殺すの略。物騒。
「オレサカエスコロ」
オレに逆らって踊り子選んだら、エースでも殺すの略。興味本位で踊り子を選んではいけません。
【カ行】
「課金」
シックスマンメーカーはお子様に安心して遊んでもらうため、課金要素は一切ありません。しかし課金したいという要望を踏まえ、新作では課金要素の導入を検討しております。
「彼シャツ」
モラルは下がるが、色気と戦闘力が大幅に上がる。白い太ももが眩しい。黒子がその時点で1番仲がいい人のシャツを着るというオプション付き。
「巨乳丸」
怪しい商人から買える。老若男女問わず、飲んだ人間の胸を巨乳にする恐ろしい薬。
「黒子テツヤ」
このアプリの育成対象。彼の未来はアナタ次第。
「傾国の美少年の服」
その美貌で国を傾けた美少年が着ていた服。着ると気品と色気、社交力が大幅に上がる。しかしモラルと信仰心は大幅に下がる。乳首がすっけすけ。
「500G」
救国の英雄の月給。
「50,000G」
魔王への月々の上納金。
【サ行】
「雑貨屋『ニュータイプ』」
影の薄い男が店主。店にいても客から気付かれないため、店番のアルバイトを募集している。
「仕立て屋『ベリー・レオ』」
オネエがやっている仕立て屋。独占市場なのをいいことに、好き勝手やっている。
「執事」
プレイヤーのお助けキャラ。プレイヤー毎に異なり、どの執事になっても黒子と結婚することは可能。
「信仰」
国教のおは朝教を信じる心。じゃんけんには強くなるが、ぶっちゃけいらない。
「すけこまし」
笠松執事のこと。
「先輩天使」
救国の英雄ならば、誰彼構わず後輩を託すちょっと困った人。肉体を見る目はあるが、人を見る目はあまりない。
「せんぷうき」
異国で開発された家電。熱中症対策になる。
【タ行】
「知能」
頭の良さ。青峰45、黄瀬47。
「ドルオタのうちわ」
怪しい商人から買える。実はユニコーンの落とし物。
「泥棒猫」
笠松執事のこと。
【ナ行】
「猫耳カチューシャ」
黒・白・ブチの3種類。各6,000G。3種類全て集めると尻尾をプレゼント。
【ハ行】
「バニラシェイク」
黒子の大好物。料理屋で買える。料理屋の店主は黒子同様ちょろいため、話を盛れば特大サイズにしてくれる。
「はろげんひーたー」
異国で開発された家電。寒さ対策になるかと思えば、歴史のあるコタツには勝てなかった。
「病院『クリニック・ホワイトゴールド』」
王都唯一の病院。王国には健康保険制度がないため、全額請求される。
「ビリケンさんのストラップ」
怪しい商人から買える。青峰は見向きもしなかったが、中1の誕生日前に買えば、全パラメーターが累計で93上がる優れもの。
【マ行】
「モラル」
信仰より優先して上げるべき能力。モラルが高いと、麻呂眉の悪魔がモラルを買いにくるとか……?
【ヤ行】
「ユニコーン」
武者修行で会う、アイドル好きのユニコーン。彼のうちわを返せば感受性を上げてくれるが、返さないとパイナップルを投げられる。
「陽気な泉・アッキータ」
王都の北に位置する。ドラゴン族の住処があり、喧嘩っぱやく惚れやすい青年ドラゴンが見張りをしている。イージス艦のオブジェが観光名所。
【ラ行】
「らくらくマウンテン」
王都の西に位置する山。昔王国の都があったが魔王に乗っ取られたため、当時の国王は遷都を余儀なくされた。魔王の城以外にも商人の家がある。
「料理屋『ルーツ』」
牛丼からバニラシェイクまで売っている料理屋。コーヒーショップではありません。
黒子は練習着から制服に着替え終わると、鞄から携帯電話を出した。母親に帰宅時間を知らせるためだ。しかし黒子は携帯を取り出したまま、操作する素振りを見せなかった。
「何かあったのか?」
隣りで着替えていた河原が、黒子の異変に気付く。ここに火神がいれば彼が一番に気付いただろうが、トイレに行っていて不在だった。
「いえ、『これ』なんですが」
「○ヴァのゲームか何か?」
「あ~確かにエ○ァっぽい」
黒子が指さす箇所を、河原と側にいた福田が覗き込めば、黒字に白抜きの文字が躍るアイコンがあった。字体や文字のレイアウトなど、社会現象を起こしたアニメを思わせる。
「今見たらダウンロードされてて……ボクにも何のアプリかさっぱりわからないんです」
「もしかしてウィルスとか?」
「消した方がいいぜ」
黒子も二人の意見には同感だった。覚えのないアプリを起動させるなど危険すぎる。しかし、黒子はそのアプリがどうしても気になった。
「『真の光育成計画』……ですか」