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    星詠君⑤-2.3予約付きのかくれんぼ後編「そもそもだなぁ。魔法使いに徒弟制度はないんだよ」
     ネロは自分が持ち込んだ1m四方のテーブルに頬杖をついて、逆側の手でそのテーブルをとんとん叩いた。
    「徒弟制度ってなんだ」
     小首を傾げつつもシノが堂々と聞き返す。
     ネロはちょっと考えて、
    「・・・・・・そうだな。決まった内容の実技と座学の講習みたいなのを受けたら、一人前として認めるっていう資格制度みたいなもん? 東の国で料理店やろうとするとあるんだよ。そういうの」
     そうなんだ。初めて聞いたかもしれない。
    「俺は、学校とか家庭教師とかがどんなもんかはしらないけど、教師と生徒ってのは、教師が教えたいもんだけ教えるもんだし、別に生徒が教えられられた技能を身につけられなくても成り立つもんなんだろ?」
    「え。そ、そうかな」
     戸惑う俺とは対照的に、
    「まぁ、師匠は魔法のことなんてあんまりわかってなかったみたいだからそうかもな」
     と、鷹揚に頷きながらシノが続けた。
    「で、なんでファウストの部屋なんだ?」
    「あ。そう、それ。なんでファウスト先生の部屋なの?」
     そうなのだ。
     ファウスト先生を除いた東の魔法使い3人が、なぜかファウスト先生の部屋に机と椅子を持ち込んで、そのファウスト先生を探し出す相談をすることになった。ネロの提案で。
    「だってこの部屋、やたら落ち着くじゃん。窓開けたらそこそこ明るいし。聞いたらいいって言ってたし」
    「き、聞いたの?」
    「一応・・・・・・」
     悪びれもなくネロが言った。
     本当かな。本当っぽいけど。
    「じゃあ、捕まえろよ」
     あ。そうかも。とシノの指摘に頷きそうになったけど、ネロはそうは思わなかったみたいだ。頬杖を付いたまま言い返してくる。
    「捕まえるのは、シノくんとヒースくんがなんとかするしかねぇの。大体、その師匠さんていうの、違くね? 師弟ってのはさ、その道に入ってその技やら責務を多少なりとも後継するってことだろ。まぁ、俺もよくはしらねぇけど」
     そんなことをブチブチ言うネロを見て、その時やっと俺は、ネロの機嫌が悪いんだなと気がついた。
     思えば調理場から部屋に移ろうと提案したのはネロだった。その時何かに気づいたようなかんじで頭を抱えて、急に傍観者から相談者になってくれたような気がする。
     ・・・・・・なんだか申し訳なく思えてきた。
    「ネロ。ごめんね」
     思わず謝ると、ネロははっとしてバツが悪そうに頬を掻いた。シノはなんで謝るんだ?と口にして、俺とネロを交互に見ている。
    「あー・・・・・・、いや、わるい。俺、ほんと教えるの向いてないんだわ。料理ってのは、材料を見て何作るか考たりするけど、その、先生ってのは、本来、多分だけど、目標があってそれに到達させるために教えるもんなんだろ? 逆なんだよな」
     ネロはそんなことを言うけど、
    「ネロだって教えるの上手だと思うよ」
    「俺もそう思うぞ」
    「やーめーろー」
     ネロは聞き入れずにテーブルに突っ伏した。
     ・・・・・・あ。なんかわかったかもしれない。
    「でも、先生ではないと思う」
     思った通り、俺の言葉にネロががばっと勢いよく起き上がった。
    「だよな。そうだろ。でも、あいつ、俺を先生にしようとしてねぇ?」
    「「あっ!」」
     ネロの言葉にはっとさせられたのは、今度は俺たちの番だった。
     はぁ、とネロが大きな溜息をつく。
    「だからさ。今回の件、ただファウストを捕まえればいいって話でもないんだよな」
     それはたしかにそうかもしれない。俺は今回の件の難しさに、もうすでに頭を抱えたくなった。
    「まぁ、あれだ。そういうわけで、なんにも考えてねぇブラッドを頼ってても失敗する。俺も考えてやるから、てめぇら、しくじるんじゃねぇぞ」
     ブラッドリーみたいな口振りで、ネロは心強いことを言ってくれた。
     と、その時、控えめなノックの音がして、ネロが立ち上がって扉を開けて応対する。
    「わりぃ。ファウスト、いま、留守なんだわ」
     シノが好奇心からか扉とネロの間から外を見て、付け足す。
    「次の次の授業はファウストだから、その時に修練室にくればいい。その後にみんなでシャイロックのバーに林檎パイを食いに行くことになってるからしっかりやれよ」
     は? なんか聞いてない予定の話が聞こえたけど。
    「シャイロックの林檎パイってなんだよ」
     ぽかんとしている俺をよそに、シノの肩を抱き寄せてネロが聞いた。俺も思わず頷いた。
    「シャイロックが言ってた。だからネロもがんばれ」
     よくわからない励ましだけど、ネロにはシノの思いが伝わったらしい。
    「へぇ。じゃあ、まず俺たちががんばらないとな。そういうわけで、羊飼いくんは、俺たちの後になんとかしてくれな」
     来訪者は、声は聞こえなかったけど、南の魔法使いのレノックスだったみたいだ。ネロの口調からすると、レノックスもファウスト先生にここのところ会っていないのだろう。
     う・・・・・・。なんだかおなかが痛くなってきた。
     戻ってきた2人も、なんだか神妙な顔で席に着く。
    「・・・・・・大丈夫かね、あいつ。ま。まずは俺たちが何とかしねーと。林檎パイのために。な?」
     結局、レノックスがどういう状態だったのかわからないまま、俺たちは作戦会議に入ったのだった。


         ***


     ブラッドリーの授業は、授業らしくはなかった、と思う。
     本来、魔法というものは、なにか体系付けらけているわけではないから、ファウスト先生が理路整然と座学で教えてくれること自体が貴重なんだろう。
     ファウスト先生は授業をするための資料づくりからやってくれていて、そのために他の国の教師役の魔法使いたちに助力を求めているらしい姿を何度も見たことがある。
     ファウスト先生は、ただ教えるだけじゃなくて実践につなげることもしてくれるし、何が苦手でどこまで理解しているのかも把握してくれている。本当に素晴らしい先生なのだ。
     うちの両親も授業料をなんとか受け取ってもらいたいみたいだけど、ファウスト先生は頑として受け取らず、結局、賢者さまご要望のリフレッシュルームを寄贈という形で、先生ではなくて魔法舎に謝礼を支払った風にして落ち着いたみたいだった。
     ・・・・・・今回の件、両親の耳に入ったら、ブランシェット城から駆けつけてきそうな気がするんだけど、どうなんだろう。
     実は、俺の両親も、執事長も、料理長も、ファウスト先生とネロが大好きみたいで、次は何時いらっしゃるのかとか、手紙とかでいつも必ず聞いてくる。
     ちなみに、ブラッドリーの授業は、こちらが質問して、その魔法の使い方を教えてくれて、試しにやってみて終わり。そんなかんじの授業が2回。結局、ファウスト先生の気配すら俺たちは捕らえられていない。
     そして、今日が3回目。
     いつもと違うのは、大きな紙に書き込んだ計画書と魔法舎の簡単な見取り図をブラッドリーにまず見せたことだ。
    「ははぁ。この大筋書いたのネロだろ。随分とおまえたちを信頼してるんだろうが、がっちがちじゃねぇか。もうちっと遊びをつくらねぇとちょっとのイレギュラーで破綻すんぞ、これ」
     ブラッドリーは何も聞かずにじっくり計画書を眺めてから指摘した。
    「成功率を上げたいんです。どうやったら、え~と、しとめられるのか協力して。ブラッドリー」
     ネロに言われたとおりにお願いすると、にやりとブラッドリーが笑った。精悍な顔が少年ぽさを帯びて、親しみやすい雰囲気をまとう。
    「そういうのは嫌いじゃないけどな。東の呪い屋に頼まれたのは魔法の授・・・・・・」
     ヒュッとブラッドリーの鼻先をかすめて、カトラリーナイフが黒板に刺さり、ビィィィィンと震えた。・・・・・・びっくりした。
     当のブラッドリーは後ろ頭を掻いて、ちょっと考えて溜息をついた。全然動じてない。
    「そうだな・・・・・・。まず、最初の成功しなきゃならないってなってるこれを、端折れ。最初で魔力を消費しすぎだ」
    「だが、ここでファウストを探せないと、捕まえられないだろ」
     シノが反射的に言い返す。
     ブラッドリーが自分のこめかみを小突きながら笑った。
    「いい駒が近くにいるじゃねぇか。ネロを使えばいい。なんでもかんでも魔法で解決しようとしてんじゃねぇよ。何もかも足りないんだろ? 魔法以外のもんも使えるものは使え。ネロも見張ってないでこっちに来い。危なくてしょうがねぇ。血の料理・・・・・・」
     今度はフォークが黒板に刺さった。
    「ひぇっ」
     思わず、変な声が出てしまった。うぅ、なんだか恥ずかしい。
    「ブラッド」
     底冷えのするような声に振り返るとネロがいた。でも声の印象とは違ってやれやれという風な気怠げなネロで、ちょっとほっとする。
    「ネロを使うってなんだ。魔法じゃないんだろ?」
     そんな微妙な雰囲気の中、シノはいつも通りの様子で率直に疑問を口にした。
     いつも思うんだけど、シノのこういうところが羨ましい。
    「そりゃあれだ。偵察、探査、追跡。・・・・・・あ。・・・・・・なんつーの? ハンター。あー、・・・・・・食材、食材ハンターだからさ。こいつ」
     すっごく苦し紛れにブラッドリーがそんなことを言って、ネロが何言ってんだと小声でつぶやき、ひたすら焦ってわちゃわちゃしだした。
     俺たちはというと、シノでさえさすがにつっこんではいけない空気を感じて、そういうことにしておこうとなんとなく顔を見合わせて頷き合う。そもそもそれよりも大事なことがあるし。
     でも、きっとファウスト先生がここに居たなら、くすくす笑いながらシェフがまた何かやってるって言うんだろうな。
    「ファウスト先生に会いたいな・・・・・・」
    「これから会うんだろうが。小僧ども、こっちに来い」
     ブラッドリーが、長机に魔法舎の見取り図と計画書を並べて広げて手招きした。
    「ネロは?」
    「もう仕事に取りかかった。お前たちはこの前教えたやつにもう一手間加えて、食堂と、玄関ホールと、広間に仕掛けてこい。やり方を教える」
    「「もう?」」
     シノと俺の声が重なってちょっとびっくりしたけど、すでに計画が始動してることに俺たちはもっと驚いた。
    「馬鹿か。呪い屋に猶予を与えれば与えるほど成功率は下がるんだよ。カードの切り方を見ればわかる。あいつ、条件付きなんだろうが振り幅がとんでもねぇ。いいか。最後のヤツ以外は成功しても失敗しても構わないが、すべて試みろよ。それと、ネロが戻ってきたら俺の授業とやらは終わりだからな。おそらく3時間くらいしか用意してやれないが、それまでならなんとかしてやるよ」
     聞けば、ファウスト先生に勘づかれないように行動するには、偵察にある程度時間をかける必要があるらしい。
    「ふふん。ファウストもネロもすごいだろ。あいつらはできるやつだ」
     そんな中、なぜかシノが、自分が褒められたかのように誇らしげだった。


         ***


     結果は、目的は達成したものの、内容としては惨憺たるものだった。
     今まで、ファウスト先生に教えてもらった魔法を目一杯詰め込んで臨んだ計画だったけど、4割程度しか成功しなかった。
    「まったく。きみたちはなにをやってるんだ」
     魔法舎の中庭にある噴水の縁に、ファウスト先生の両脇に俺とシノが座って、正面にネロが立ってる感じなんだけど、ファウスト先生の淡々として的確な辛口の講評が止まらない。いつ終わるのかもわからない。おそらくまだまだ終わらない。
    「ファウストが座学ばっかりするから悪い。もっと討伐とかに行きたい。それと腹が減った」
     いい加減うんざりしたのか、急にシノがそんなことを言って大きな口を開けて何かを待った。
     それを見てファウスト先生が懐から巾着を取り出して、そこから取り出した大きめのクッキーをシノの口に突っ込む。
    「ん。うまい」
    「俺にもくれよ」
     すかさずネロが腰を屈めて催促した。
     ファウスト先生の方が面食らったみたいだけど、ゆっくりクッキーをネロの口に運んでくれる。
     ・・・・・・いいなぁ。俺も食べたい。
    「ほら」
     顔にでてたのか、俺にもファウスト先生がクッキーを差し出してくれた。ちょっと恥ずかしいけど、シノやネロみたいに口にくわえてみる。
    「おいしい」
     しっとりしてて優しい味がした。
     結局、順番に巾着が空になるまで、俺たちは親鳥から餌をもらう雛みたいにファウスト先生秘蔵のクッキーをいただいた。
     あとから聞いたのだけど、その日、ファウスト先生が自ら魔法舎の地下で見つけた窯で、火加減のデータを取りがてらに焼いたクッキーだったらしい。持ってきていない焼き具合が様々なクッキーが山ほどあったそうだけど、焦げたものからうまく焼けたものまで食堂に置いておいたら一晩でなくなったそうだ。
     それはさておき、
    「まぁ、よくあれだけ連続で、方式の違う魔法を使ったものだとは思うよ。失敗した魔法もなんの術式かわかるくらいにはきちんとできていた。・・・・・・ネロも大変だっただろ」
    「あぁ、大変だった。俺に先生は無理だってわかっただろ?」
    「そうは思わないけど・・・・・・」
    「思えよ」
     ファウスト先生とネロが顔を見合わせてふいに笑い合う。
     なんだか久しぶりに俺はそれを見た気がした。
    「あ。ヒースが泣いてる」
    「な、泣いてないよ・・・・・・」
    「ヒースもシノも、教えがいがあるよ」
     ファウスト先生が頭をなでてくれるから、本当に涙が止まらなくなる。
    「先生、ヒースを泣かすなよ」
    「僕が泣かせたのか?」
     ネロはファウスト先生の問いには答えずに、俺たち3人をまとめて抱き込んだ。
    「俺は泣いてない」
    「いいからいいから」
     満足したのか、俺たちを解放したネロは、今度は抗議の声も無視して俺たち3人の髪をぐしゃぐしゃにしてくる。
    「かわいいな。おまえらはほんとに」
     にかっと笑った後に、ネロが何かを思い出したようにファウスト先生に話しかけた。
    「そういえば、先生。次の授業の時に牡羊みたいになってる羊飼いくんが来ると思うから、よろしくな」
    「・・・・・・・・・・・・。別に、僕の方からなんとかするようなことでもない」
    「そう? まぁ、来なければ来ないでいいんだけどさ。あ。やべ。夕飯の支度しねーと。・・・・・・腹ぺこ野郎どもに厨房を破壊されちまう」
     気づけば日は傾き夕暮れ時になっていた。
    「手伝うよ」
    「あ、俺も手伝う」
     ファウスト先生と俺の言葉に、うれしそうにネロが笑った。
    「仕込みは済んでるから大丈夫だ。カナリアも今日はいるしな。ありがとな。シノも寝てるようだし、もうちょっとゆっくりしてから来な」
     シノが寝てる!? ネロの言葉にびっくりして横を見ると、ファウスト先生の肩にもたれ掛かってすよすよとシノが寝ていた。珍しい。というかシノが人にもたれ掛かって寝てるなんて初めてみたかもしれない。
    「・・・・・・すまなかったな」
     シノの寝顔をまじまじと見ていると、ファウスト先生の声が聞こえた。
    「僕は、これからも、きみたちの先生でいて良いのだろうか」
     それに対する答えは、もう何度も、シノと2人で確認し合っている。ファウスト先生に聞かれたときにきちんと言葉にできるように。
    「俺たちの魔法の先生はファウスト先生がいいです。ファウスト先生じゃないと俺はいやです。シノも言ってました。俺たちの先生はファウストに決まってるって」
    「・・・・・・そう。物好きだな、きみたちは」
     静かな声で、ファウスト先生はぽつりと呟いた。
     その後、シノが目覚めるまでの短い時間、俺はファウスト先生とお話しして楽しい時を過ごした。


        ***

     こうして東の魔法使いの中でのかくれんぼは終わったんだけど、ネロの予想通りというか、なんというか。ファウスト先生復帰の授業でそれはやってきた。・・・・・・あっさり、終わりもしたんだけど。

     ファウスト先生の魔法の授業復帰の第1回目は、シノの希望に反して座学だった。でも、この前のかくれんぼの時に失敗した魔法のどこが理解不足で構築できなかったのかというところをやってくれて、俺としては発見だらけでとても面白かった。シノも珍しく食いつき気味に授業に聞き入っている。
     そんな中、突然、修練室の扉から、魔法舎全体に響きわたるくらいの衝撃音が2回して、修練室の扉が内側に倒れた。
     ・・・・・・ネロが前に言っていた『牡羊みたいな羊飼い』がそこにいた。
     肩で息をして、臨戦態勢を取っている。殺気みたいなものを纏って、鋭い視線はファウスト先生をまっすぐに貫いている。もともと大柄な人だから、迫力がすごい。
    「・・・・・・おい」
     思わず立ち上がってしまった俺とシノに、先生がレノックスから視線をはずさず左手を挙げて俺たちを制した。
     そのまま静かにレノックスの方に歩み寄り、倒れた扉を歩いてレノックスの目前までファウスト先生は歩を進めて見上げる。
    「レノックス。僕はいま授業中だ。話は後で聞くから、そこに座りなさい。よかったらきみも聞いていくといい」
     普段通りの凛とした静かな声だった。
    「・・・・・・・・・・・・。はい、ファウストさま」
     そして、あっさり、本当にあっさりとレノックスは瞳に冷静を取り戻して、示された席に腰掛けた。
     それで終わってしまった。
    「オラ・サルバシオンの礼がまだだったな。それも考えておきなさい」
    「それは・・・・・・」
     さっきの理性を失うほどの激情っぷりはどこへいったのか、うろたえるレノックスをそのままに、ファウスト先生は授業を再開した。


    「やっぱり来たか。それで、先生はこっちには来ないんだな?」
     魔法舎のバーで、林檎パイを頬張りながらネロが笑った。
     授業が終わった後、俺とシノはレノックスとファウスト先生が話す様子を少し見学していたけど、先に行きなさいと先生に促されて、バーに2人で顔を出したところ、すでにネロがいてシャイロックとなにやら話し込んでいたのだ。まだ日も高い時間帯なので、当然飲んでいるのはお酒ではないみたいだけど。
    「おやおや。私も押し掛けるべきでしょうか」
    「おお、こえぇ。やめときなよ。ファウストはそのうち来るだろ。まだ忙しいんだよ。大物が残ってる」
     シャイロックは肩をすくめてやれやれと嘆息した。
    「困ったものですね。ファウストもフィガロさまも」
    「なんだ。ふぁうふととふぃふぁろって」
     すごい勢いで林檎パイを消費しながら、シノが何か言った。たしかにおいしいけど、ちょっとお行儀が悪いよ、シノ。
    「ファウストにも食わせるんだろ。ちょっとは残しておけよ。あとで持ってくから。まぁ、うちらは一応解決したんだからいいんだよ。それにしても、うまいな、これ。メニューに出せばいいのに。ワインによく合う」
    「ありがとうございます。腕利きの料理人であるあなたから、そんなお言葉をいただけるなんて光栄です」
     にっこりシャイロックが微笑んで会釈した。
    「今度、レシピおしえてよ」
    「私はあなたの作る林檎パイが好きなので、ご遠慮いたしますよ」
    「いや、ありがたいけどさ。俺だって、自分以外が作ったうまいもん食いたいんだよ。ファウストのつくったクッキーも意外と美味くてさ。この前、食堂に山になってたヤツ」
     あぁ、とシャイロックがぽんと手を打つ。
    「おいしかったですね。どなたが作ったのか気になっていたところです」
    「あるぞ。昨日もらった。今回のは小さめでさくさくだった」
     シノがどこから取り出したのか、見覚えのある巾着を取り出した。ぱんぱんに膨れている。
    「おまえ、昨日の夜、俺のとこのも持ってっただろ。なんだ、蓄えてんのか?」
    「これはファウストが明日みんなで食べろっていうから残しておいた」
     ふふんと得意げに胸を張るシノ。
    「お。えらいじゃねぇか」
     慣れたかんじで褒めるネロ。
     ・・・・・・えっと、シノって、頻繁にファウスト先生やネロのところに食べ物をねだりに行っているのかな。しらなかった。
    「わたしもご相伴に預かっても?」
    「いいぜ」
     シノが、巾着の口を大きく開いてカウンターテーブルの中央に置く。
     シャイロックが用意してくれた林檎パイを十分食べたはずなのに、みんなクッキーを食べる手が止まらない。
    「そういえば、羊飼いくん、ファウストに何の用だったんだろうな」
     カウンターテーブルにひじを突いて、クッキーを頬張りながらネロがつぶやいた。ネロもちょっと行儀が悪い。
    「魔法舎にいる間、たまにでいいので、星空を見ながらお茶やコーヒーを一緒にのみませんかって言ってたよ」
    「ふ~ん? なんか口説き文句みてぇ」
     たしかにそうかも。
    「お茶のおかわりをお淹れしましょうね」
     そこですかさずシャイロックがお茶を注いでくれて、俺たちは自分ののどを潤したのだった。
    喜野 こま Link Message Mute
    2021/03/14 23:55:41

    星詠君⑤-2.3予約付きのかくれんぼ後編

    #ヒースクリフ視点
    #妄想がほぼ10割なのでこれは幻覚ですよいいですね
    #まほやく
    #二次創作

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