夜の散歩 この世界には神などいない。
ああ、うん。オズの言葉だ。
わかっちゃいるけど、時々、その事実と曲がりくねって真っ黒になった自分の思考が迫ってきてどうにもなくなる。
だから今回は、どういうわけかは自分でもよくわからないんだけど、窓の外からファウストの腕を掴んで、夜の空の散歩に引き摺り出した。
こういう時のファウストは何も言わない。
・・・・・・そりゃあね。連れ出すまではむちゃくちゃ怒ってたけどね。
今はなぜか俺の箒に横向きに。どうしてそうなっちゃったのか正反対の方向を向いて、魔法で取り寄せた酒を二人で黙々と飲んでいる。
「ね。きみには神様がいるんだったよね。それってどんな神様なの? 教えてよ。ファウスト」
右肩の向こう側で溜息が聞こえた。
まぁ、ね。実はこれ、聞いたことあるんだよね。この子がまだ俺の教えを乞うて北の国にいた頃、鏡に祈りを捧げているのを見かけて聞いた。そう、聞いたんだよね。その時の答えは「しらない」だったけど。
「前にも言ったけど、・・・・・・しらないよ。何度聞かれても、お前が自分を神様だったことがあると言っても、おまえはぼくの神様じゃない。フィガロ」
言い分は辛辣極まりないけど、右掌で俺の右掌を握ってくれたりして、優しいんだ、ファウスト。
だから、ファウストの右肩に頭を預けても、振り落としたりしないでそのままそっとしておいてくれる。
「あなたには、今、教え子がいるだろう。もう魔法舎に帰ったらどうなの」
「きみにもいるよね」
「いるけど」
「じゃあ、いいじゃない」
また溜息。
さすがに、無言のままなのもどうかなと思って、ぽつりと言ってみる。
「この世界にはね。神様なんていないんだって」
ファウストはちょっと困ったみたいだ。
「・・・・・・・・・・・・。よくわからないけど、信仰の表現なんてひとそれぞれだろ。いい加減で女好きな、・・・・・・まぁ、それでもあなたが偉大な魔法使いなのは事実だし、そんなあなたを神様のように思うひとだっているよ」
こてんとファウストの頭が俺の頭の上に落ちてきた。なぜだろう。なんだか少しくすぐったい気分になる。
「でも、ファウストの神様にはなれないんでしょ」
「ちがうからな。おまえは神様じゃなくて、僕の・・・・・・な魔法使いだから」
「え。なに」
「・・・・・・・・・・・・。もう一度は言わないよ」
ああ、なんということだろう。今、絶対に可愛い顔してるファウストの顔が見たいのに、頭を動かせないんだけど。ううん。でも、この体勢も捨てがたいんだよね。どうしたらいいんだろう。
・・・・・・・・・・・・まぁ、いいか。
俺の手を握るファウストの手がさっきより大分あたたかいから、俺はしばらくその状況を満喫することにした。
え? なんて言われたのか教えてほしい? 命が惜しければ、聞かない方がいいよ。じゃあね。よい夢を。