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    HOME1 エンジェルスケイル。
     HLには数えきれないほどの薬が流通しているが、これはとりわけ厄介な代物だ。服用者に絡まれたザップ曰く、頸動脈を切っても襲い掛かってきたというのだから、まだ裏社会に慣れていないレオナルドにとっても、危険な薬だとわかる。霧の内だけなら、ラリってなくとも急所をぶち抜かれようが暴れ回れるヒトがいるから大して変わらないが、外へ流出してしまったら大問題である。どこかの国へ流れて戦争その他諸々へ悪用されでもしたら、世界各国のバランスが崩れることになる。
     製造元を特定するため、すぐさま副官のスティーブンから仕事が割り振られた。レオはザップと組んで売人たちを探ったが、一日目の収穫はゼロ。愛人のところへ行くからと去っていった先輩の代わりに、レオは一人で事務所に戻り報告した。
    「ま、奴らも慎重に隠れているだろうからな。すぐには見つからんさ」
     コーヒー片手にスティーブンは言う。
     すでに外で、薬の使用が確認されているのだ。当然製造者たちは探られていることを察知し、尻尾を掴まれないよう隠れてしまっている。探り当てるのは骨だろう。
    「明日はバイトだったか」
    「はい。午後から空きますけど」
     レオはライブラの活動だけではなく、ピザ屋のバイトも掛け持ちしている。優先順位はライブラが上であるけれど、ピザ屋のシフトは念のため上司に伝えてあった。
    「うん……せっかくだ、水希も同行させよう」
     水希?
     ライブラで新人のレオは、初めて聞く名だ。
    「まだ会ったこともないだろう? 人見知りする子でね、新人はすぐ避けようとする」
     スティーブンの口ぶりだと、かなり若いようだ。
    「俺と歳近いんスか?」
    「今年ハイスクールに入ったばかりだ」
     絶句した。それでは妹と同い年になる。
     秘密結社ライブラ。その秘匿性故、レオの知らない構成員はまだたくさんいるが(おそらく全員を把握する日は来ないだろう)、まさか年下の子どもまでいるとは。世界の脅威と戦う組織に、子どもがいて大丈夫なのだろうか。
    「訳あって、ライブラで保護をした。今は僕が面倒を見ている」
    「は、はあ……」
     一見どこにでもいるモブAのようなレオが、奇怪な目の能力を買われてこの組織に拾われたように。義務教育も終えていない子どもなら、さぞ複雑な経緯があったに違いない。
    「その……大丈夫なんですか? ザップさんも一緒とはいえ、この街の売人なんてどいつも物騒ですし」
    「問題ないよ。強力な念動力(テレキネシス)の使い手だから、君より強い」
    「念動力……それって所謂、超能力……?」
     実在する人を見たことはないが、血を操って火を出したり凍らせたりする能力よりは、フィクションでなじみがある。
    「そう。SFに出てくるあれだ」
     ああ、と思い出したように付け加えられる。
    「水希は女の子だ。少年は大丈夫だと思うが、決して変な気を起こさないように」
     まるで娘を持つ父親のように釘を刺された。しかし厳しい上司が面倒を見ている女の子なんて、例えレオの好みど真ん中な子だったとしても、手を出そうなんて気は微塵も起きることはないだろう。

       *

     先輩から届いた最新のメッセージを見て、レオは溜息を吐く。
     あの男が遅刻するのは珍しいことではない。幸い、先程修羅場を乗り切ったという内容だったので、さほど待たずにすむ。
     しかし、待ち合わせをしているもう一人、水希という少女の顔をレオは知らない。合流地点にたどり着いたが、どうしたものか。噴水を中心とした広場をぐるりと見回すが、当然ながらレオには誰が水希なのか見当もつかない。レオが知る彼女の特徴は、少し年下の女の子であることだけ。ざっと見渡したところ、レオと同じく待ち合わせをしているらしい人類は数人いるが、条件と合致する人物は見当たらなかった。もしかしたら、レオが先に到着したのかもしれない。あちらが、レオの顔を知っていると良いけれど。
     ふと、ベンチに座る人類と目が合った。青い目が印象的で、女の子みたいに綺麗な顔をした少年だ。ベンチから投げ出された脚は細長く、立てばレオより背が高いだろう。手には、レオも持っているゲーム機が握られていた。
     この街では比較的安全な広場ではあるけれど、非力な人類の子どもが一人でゲームできるほど寛げる場所ではない。案の定、少年の後ろを通り過ぎようとした異界人が足を止めた。背後からゲーム機を覗き込んでいる。表情がわかりづらい顔立ちだが、大方、そのゲーム機を奪って自分の遊び道具にするか、売り払って小遣いにしようか考えたのだろう。ひょいと肩越しに、触手のように長い腕を伸ばした。
     そのままゲーム機を取り上げるかと思いきや、腕が曲がった。人間の骨格ならば折れている方向だが、人類とは異なる構造らしい。ぐにょりと柔らかく曲がり、異界人が目を瞬く。腕はさらに曲がり、輪を作って、その中を腕が通る。片結びだ。いくら柔らかな骨格でも、そこまで不自然に折れ曲がると痛いようで、異界人は悲鳴を上げた。
     痛い、痛い、誰か解いてくれ。泣きわめく異界人に少年が振り返り、唾を吐きかけた。唇が動く。レオの位置からは聞き取れなかったけれど、たぶんスラングだろう。腕の痛みにパニックになった異界人は、そのまま走り去っていった。
     誰かが急に、街中で叫び暴れだす。HLではありふれたことで、最初はうるさいなあと視線を向けても、己に害がないと判断すれば、皆すぐに興味を失う。腕を結ばれた異界人を最後まで見届けていたのは、レオだけだった。そんなレオを、少年が再び見る。レオは高性能な眼でじっくりと少年を観察しながら、ベンチに近寄った。
    「……もしかして、君が水希?」
     レオの問いかけに、少年―否、少女が頷いた。
     女の子みたいな少年ではない。短い髪に、ボーイッシュな服装。男の子みたいな恰好をした、女の子だった。
    「ザップさんは?」
     外見だけでなく、ザップの所在を尋ねた声も中性的だ。スティーブンから事前に女の子と聞いていなかったら、完全に性別を勘違いしていただろう。危ない危ない、と隣に腰掛ける。
    「ちょっと遅れてくるって」
    「またか」
     呟き、視線がゲーム機に落とされる。ポーズ画面が解除され、プレイヤーがモンスターに斬りかかった。
    「今の、腕がぐにょぐにょ曲がったのって、君が?」
    「うん」
     超能力を見るのは初めてだが、神々の義眼であってもその力を視認することはできないらしい。レオは途中から水希の仕業だと察したが、異界人は最後までわからなかったようだ。敵にすら感知されずに、好き放題できる能力。一目見ただけでも、若い彼女がライブラの一員になれた理由がわかった。
     指が忙しなくボタンを連打し、コンボを繰り返す。抵抗していたモンスターが崩れ落ちた。
    「それ、俺も持ってるよ」
    「え?」
     クエストをクリアしたから、画面を注視する必要はない。顔を上げた水希に、リュックから取り出したゲームを「ほら」と見せる。
    「せっかくだし、通信しない?」
     故郷にいた頃は一緒にプレイする友達がいたが、HLへ移住してからは疎遠になっている。今周りにいる人たちは、あまりゲームをしない人ばかりだ。最近はザップが興味を持っているようだが、彼はハードもソフトも持っていない。年が近くて、ゲームの話ができそうな子は、久しぶりだった。
     クラウスが霧の深部より情報を得てきたことにより、大きな山が一つ片付いた。製造方法、場所の特定、密売人共の逮捕。表向きの後始末は、突然七百人もの犯罪者を収容することとなったHLPDの仕事だが、ライブラにもやることは残されている。類似の事件が起きたときに役立てるよう、エンジェルスケイルに関する情報をまとめ、データベースへ加えねばならない。しかしそれは今日必須ではない。連日遅くまで麻薬調査をしていたことで、疲労も蓄積している。残業もそこそこに、スティーブンは早めに帰宅した。
     玄関を開けると、夕食の匂いが漂っていた。ここずっと忙しかったから、できたての料理を食べられるのは久しぶりだ。温かな香りに、最高の気分でリビングに顔を出す。
    「ヴェデッドさん、味どうかな」
    「ええ、美味しいですわ。また腕を上げましたね」
     キッチンに、水希も並んでいた。料理を教わっているようだ。
     初めは、異界人の家政婦との距離感を掴みあぐねていたが、随分と慣れたものだ。ヴェデッドの人柄はスティーブンも買っているが、一年前、水希を保護したときには、想像できなかった光景だ。
    「ただいま」
    「おかえりなさいませ、旦那様」
    「ちょうどご飯ができたとこだよ」
    「うん、美味しそうだ」
     料理を食卓に並べ、ヴェデッドが帰宅する。水希と二人で夕食を共にするのも、数日ぶりだ。
    「今日、どうだった?」
    「後処理は残っているが、万事解決さ。HLPDへも貸しができた」
     大捕物を実行したのは日中。水希は学校があったから、作戦からは外されている。調査としてザップとレオに同行させていたのも、放課後か、休日に限定される。
     彼女は今年で十六歳。まだ義務教育も終えていない子どもだ。彼女の力を借りなければ明日世界が滅亡する……というほどの危機にでも見舞われない限り、勉学を優先させている。スティーブンがこの街で水希の面倒を見るにあたって、提示した条件だ。
     一生、異界存在と戦う人生を送るというのなら、そこまで重視することでもないだろう。子ども時代より秘境で修行していた、ザップと言う例がある。奴には教養のかけらもないけれど、ライブラの一員としてしっかりと成果を上げている(同時に、多大な迷惑も被っているが)。しかし、水希がこの活動を生業とするには若すぎるし、ザップと違って将来の選択肢に余地がある。こんな街から出て、外界で真っ当に生きる道だって残されているのだから、教育は受けさせるべきだ。
     なにより、万が一にでも彼女がザップのように成長したら困る。良識ある大人として、それだけは絶対に阻止せねばならない。
    ティウス(夢用) Link Message Mute
    2022/12/24 0:00:15

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    番頭の養女夢
    レオ視点
    ※オリ主/名前変換なし

    3月にこの長編の再録本を頒布する予定です
    #オリ主 #夢界戦線 #夢小説

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