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    HOME7「B班、作戦完了した」
    『C班、こっちももう終わります!』
     別地点で掃討作戦をしている仲間と連絡を取り合うスティーブンを横目に、デグドロは装甲を解除して、宿主であるハマーの体内に戻っていく。作戦を終えれば、獄中に戻らねばならない。シャバの空気を味わえるのはあと少し。
     残りはクラウス率いるA班だけだが、そちらも時期に終わるだろう。
    「ご苦労様。それじゃ、合流しようか」
    「うん!」
     子どものように元気に返事をするハマーを促し、ほぼ原形を留めていない偽札工場を後にする。人類も異界人も共通に扱うゼーロ紙幣は特別製だ。両種族を騙せるほどの偽物を作るとは、中々の技術である。その高等技術は、たった今ライブラによって潰えてしまったわけだが。
    『スティーブンさーん、ザップさんが偽札ポケットに入れてるー』
    『ばっかお前、チクるなっつの』
    「お前ならやると思ったよ」
     まるで引率の先生と、問題児たちのような会話だ。これが裏社会と渡り合う秘密結社のものだとは思えない。スティーブンと一緒に、デグドロまで呆れた溜息を吐いてしまう。
     何の因果か、懲役千年を超える極悪人が、世界の均衡を守る組織に組み込まれてから、どれほどの月日が経ったか。デグドロは器たるハマーごと獄中生活を送っているため、度々面会に訪れるリーダーを除き、ライブラの連中と接することは少ない。だから彼らのことを深く知ることがない一方で、滅多に会うことがないからこそ、変化がよりわかる。
     ――随分と懐いたもんだ。
     面子の中でいっとう若い少女の境遇は、クラウスから端的に聞いている。
     異界差別団体に加わった父親に従い、超能力で異界出身者を暗殺していたこと。その団体は、表向きは異界人を排他する一方で、異界専門の売春組織や、人売り連中その他諸々、とにかく異界人で甘い汁を啜っている犯罪者たちと繋がっていたらしい。それだけでも十分悪質だが、その団体のバックには、人類の権力者も関わっていた。中にはHLPDの上層部の人間までいたというのだから、当時の警察は今以上に人類贔屓だったわけだ。奴らが事件を握りつぶし、泣き寝入りとなった異界人はごまんといることだろう。ライブラに引き渡され、留置所にぶち込まれた父親たちが、その日の夜に口封じのため殺されたのも頷ける。
     ライブラが当初、想定していた以上に闇深かった団体と、かの超能力者は通じてしまったわけだ。団体一つ潰したところで、便利な能力者の情報はすでに裏社会に流れていた。ライブラであっても、流出してしまった情報をなかったことにはできない。
     並外れた力を持っていても、まだガキだ。利用しようと画策する悪い大人は、掃いて捨てるほどいる。
     誰かの保護が必要だった。
     裏の奥深くに潜む危険な連中でも、滅多に手を出せないような誰かの保護が。
    『うわっ』
     インカムの向こうで、少年が声を上げた。
    『水希、その手、何だそれ!?』
    『え?』
     一拍の静寂。
     次いで、派手な悲鳴が響き渡る。
     スティーブンの行動は速かった。
     いったい何事かとデグドロが疑問を呟く間もなく、男は走り出していた。当然、ハマーもついていくので、デグドロも一緒だ。
    『やべェ……キモっ!』
    『落ち着いて水希! ちょ、念力! 念力やめて!』
    『取ってよこれ! ザップさん燃やして! 早く燃やして!』
    『暴れんなバカ! 番頭、番頭───ッ!』
     チンピラたちまで騒ぎ始めたかと思ったら、破砕音まで聞こえている。どうやら、念動力を暴走させるぐらい、パニックを起こしているらしい。
     取り壊し確定の現場だが、かと言ってやり過ぎては警察からの目が痛くなる。止めねばならない。
    「何があった!」
     作った偽札を保管していた倉庫は、工場の隣だ。すぐに騒動の渦中に辿り着いた。
     シャッターも壊す勢いで突入したスティーブンだったが、ガキを中心とした惨状を前に、急ブレーキをかけて立ち止まる。
    「……何だそれは」
    「わぁ、綺麗な色!」
     ハマーだけがはしゃいだ声をあげたが。
     氷の副官同様、正真正銘の悪党であるデグドロですら、ぞっとする光景だった。
    「番頭、どうしましょう、これ!? 燃やせば良いっスか!」
     泣いてるガキの片腕をつかみ、チンピラが見せてくる。
     その手の甲には、小さなキノコがびっしりと生えていた。
     そう、キノコだ。蛍光系の水色の。
     当然ながら、生きている人体から生えてくるものではない。それだけでも恐ろしいが、鮮やかな色彩を持つそれらが隙間なく並んでいるのは、集合体恐怖症じゃなくても見ていて不快感しか湧いてこない。鳥肌が立つかと思った。と言っても、血液であるデルドロに皮膚はないので、あくまでも気分だ。
     ガキが泣き叫ぶのも、無理はない。
     とりあえず見ない方がいいと、義眼のガキが目を塞いでやり、必死に宥めている。それが功を奏してか、辺りを荒らしていた念動力が収まってきた。
    「なに言ってるんです! 水希くんが火傷するかもしれないじゃないですか! それよりも切り取った方が……!」
    「バカか、根元が残ったらまた生えるかもしれねえだろ!」
    「ザップさん、そんな怖いこと言わないでください! 水希が泣いてるでしょ!」
    「火傷でも何でもいいから、早くどうにかしてよぉ」
     涙ながらに訴えるガキに、副官が首を振る。
    「火傷はNGだ。とりあえず……凍らせるのが一番安全か……?」
     それはそれで凍傷の心配があるのだが。切れる参謀にあるまじき発言だ。
    「待ちたまえ、スティーブン」
     同じく騒ぎを聞きつけて、最後にクラウスが合流してきた。
    「迂闊に刺激を与えない方がいい。万が一、胞子が飛んでしまったら大変だ」
    「あ、ああ……そうだな」
     さすが園芸が趣味なだけあり、一番冷静なのはクラウスだった。キノコの世話をしているとは聞いたことがないが、菌類の知識も多少なりともあるのだろう。
     ベストを脱ぎ、キノコを潰さないよう、優しく手を包む。ガキの腕まですっぽり覆われた。
     不気味なキノコが目に見えなくなっただけでも、精神的にはずいぶんと楽になる。ガキを囲むチンピラたちも、ほっと息をついた。
    「痛みはないかね」
    「ない……ちょっと痒いだけ」
     泣きじゃくりながらガキが応える。
    「ならばすぐに医者に見せよう。──ギルベルト」
    「はい、直ちに車を出しましょう。水希さん、こちらへ」
    「少年、君も付き添ってあげてくれ」
     これ以上怯えさせないためだろう。クラウスは明言を避けたが、そのキノコは危険なのかどうかもわからない。ただ生えるだけなら視覚的暴力に留まるものの、人体に有害ならば大事である。下手をすれば、今のように皮膚から生えた時点で、手遅れと言うこともありえた。ハマーが呑気に「キャンディみたいだけど、どんな味かなあ」と呟いているが、万が一奴があれを口に入れようものなら、デルドロは全力で阻止する。血液となった己に、得体の知れない成分が混じるなど、断固拒否だ。
     ガキどもを見送り、大人たちはほっと息をついた。
    「まったく……」
     倉庫内をぐるりと見回す。
     まるで室内で台風が起きたように、中はめちゃくちゃだった。本来ならしっかり束となって積み上げられていたはずの偽札が、一面に散乱している。どの道、最後には廃棄処分となるだろうが、これらの証拠品を回収するのは手間がかかる。
     頭が痛くなる有様だ。
    「困った子だ」
     警察からの小言を想像したのか、副官が苦笑する。
     その表情を見て、デグドロは思った。
     ──変わったのは、ガキだけじゃねえな。
     秘密結社の参謀を務め、十字架を踏みつけながら敵を芯から凍らせる氷使い。世界のためならば非常な判断も下せる、研ぎ澄まされた刃のような冷血漢。
     そんな男が、まるで子を持つ親のような顔をするではないか。
    「スティーブンさん」
     自宅のソファに腰掛け、タブレットを操作していたスティーブンは顔を上げる。
     水希が、病院で処方された塗り薬を手に立っていた。
    「仕事中にごめんなさい。これ、塗って欲しくって」
     彼女の手に突如生えた菌類は、結論から言うと、さして毒性のない、比較的安全なものだった。宿主から栄養分を吸収するそうだが、多少栄養失調になる可能性があるだけで、健康な人類ならば死には至らない。ただ抜いてからしばらくは殺菌をしないと、また生えたり、痕が残ってしまう恐れがある。
     包帯できっちり巻かれた手からは、すでに一本残さず医者が摘出した。けれどよほどショッキングな出来事だったのだろう。もう生えていないとわかっていても、患部を直視したくないようだ。
     こんな風にわかりやすく、水希が甘えてくるのは滅多にない。スティーブンは笑ってタブレットをわきに置く。しばらくは料理にキノコを使わないよう、ヴェデッドに頼んでおこう。
    「構わないよ。おいで」
     手に取った少女の腕は、驚くほど細い。スティーブンがその気になれば、素手でも簡単に折れそうだ。
     こんな子ども一人を相手に、己は手も足も出なかったことが、未だに信じられない気持ちになる。しかし、事実だ。チェインがいなければ、あのまま頸椎でも折られて死んでいたかもしれない。
     包帯を解くと、キノコが生えていた箇所は血が滲んでいた。処置される前は痛みはないと言っていたが、抜くときは痛かっただろう。丁寧に薬を塗ってやると、傷口を見ないように背けていた顔が歪んだ。
    「痛むかい」
    「うん。でもあんなのが生えてくるよりマシ」
    「違いない」
     ライブラの活動は何かと危険が隣り合わせだが、ある程度離れた位置からでも能力を使える水希は、怪我を負うことが少ない。非戦闘員であるレオナルドの方が、病院の世話になるぐらいだ。こうして彼女の白い肌が血で汚れているのを見るのは、気分の良いものではなかった。
    「……スティーブンさんって」
    「ん?」
    「恋人とか、作らないの」
     珍しいことを聞く。
     年頃の娘であるわりに、水希の浮ついた話を聞いたことはない。K・Kがそれとなく探りを入れたことはあったが、期待していたような話はなかったらしい。超能力という大きな秘密を抱えているために、誰かに懸想する余裕もないのだろう。いずれは、そんな日も来るかもしれないが。もし万が一、何か間違いでも起こって、ザップのようなクズ野郎を連れて来さえしなければ、スティーブンから言うことは何もない。
     スティーブンはと言うと、女性との経験はもちろんあるが、恋人と呼べる存在はいない。時には己の容姿や経験を活かして、それなりの関係を持つ女性もいるけれど、あくまでも仕事のためだ。愛情をもって接しているわけではない。こんな話を水希にしたことはないし、匂わせもしないが、彼女はとっくに知っていることだろう。K・Kあたりに知られれば「女の敵」と罵られる男を、この少女がどう思っているのかは、知る由もない。もしかしたら、心のどこかで軽蔑されているかも。
    「どうしたんだい、急に。気になる子でも?」
    「別にそんなんじゃないけど。ただ……」
    「うん」
    「アタシがいることで、そういう人が作りづらいとか、あるのかなって」
     欲しい情報を得るため、親しくなった女性と後腐れなく別れる口実に、水希を養女として紹介する手を使ったことがある。よほど愛情深い人間でないと、コブ付きの男など願い下げだと離れていくから。
     まさか、水希がそれを根に持っているわけではあるまい。
     スティーブンには水希のように人の心を読む力はない。その代わりに、人の裏を推察できるよう、技術を磨いてきた。長年培われた観察眼は、少女の目が不安げに揺れたのを見逃さなかった。
     この子どもは、途方もない力を持っている一方で、その内面はひどく脆い。
    「──僕は」
     水希の横顔を見つめながら、言葉を紡ぐ。
    「恋人を作る予定はないし、伴侶を持つ気もない。子どもも特には望んでないよ」
     だがと続けて、包帯をきっちり巻き直した手で、頭を優しく撫でてやる。
    「君の成長をこうして見守るのは、悪くないと思ってる」
     世界の均衡という理念を掲げているが、ライブラは非公式の結社であり、裏社会の一組織として数えられている。そんな組織に属するスティーブンの身内となれば、あらゆる危険に晒されることとなる。恋人となったがために非業な死を迎えることは十分に考えられるし、逆にスティーブンが先立つことがあれば悲しい思いをさせるだろう。
     本来ならば、深く関わるべきではないのだ。スティーブンという男は。
     だから己の傍に誰かを置くつもりはなかった。
     水希が、スティーブンが恐れるリスクに晒されるのは言うまでもない。だが、彼女はともすればスティーブンよりも強い異能者だ。大抵の危機は、自身の力で脱せる。そうでなければ、いくらあまり手のかからない年齢の子どもであっても、スティーブンの元で保護しようなど思わなかった。本人がどんなにこの街にいたいと望んでも、牙狩りの信用できる人間の元へ託していたはずだ。
     まったく不安がないわけではない。
     時折、この子どもがいることで、いざというときに己が判断を誤らないか、決心が鈍ることがないかと悪い想像をすることもある。万が一己が命を落とした後、水希の面倒はクラウスたちが見てくれるだろうし、遺書だって用意している。それでもいざという瞬間に、彼女のことが過ってしまうかもしれない。
     だが、彼女を拾ったのは自分だ。今更、来るかもしれない恐ろしい未来のために、無責任に放ることなどできない。
     それに、一生傍にいるわけではない。
     いつか彼女はここから巣立つ。数年後には進路を考えなければいけないし、いつまでもこんな危険な魔界都市で裏社会と関わる必要はない。ライブラと完全に縁が切れることはないだろうが、彼女が外で暮らしたいと望むのなら、全面的にバックアップする。
     大人スティーブンの庇護を必要としなくなるまで。水希が独り立ちできる人間になるまで、スティーブンは全力で彼女を支えるつもりだ。
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    2023/02/04 0:16:58

    HOME7

    番頭の養女夢
    ブローディ&ハマー視点
    ※オリ主/名前変換なし
    #夢界戦線 #夢小説 #オリ主

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