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    演目二次小ネタログ【Dの悲劇】【ブラッド・リンケージ/ブラッド・セイバー】【Dの悲劇】
    ■ある警察官の話(デイヴィッド)

    「まずいな、本当に今夜はかなり荒れそうだ。デイヴィッド、橋の向こうに避難勧告へ行ってくれ」
    「はいっ」
    「この様子だと、少しでも早いほうがいい。すぐに支度を」
     書き途中の書類を片付けながら上司の声に頷いて、デイヴィッド・スタンリーはデスクチェアからぱっと立ち上がった。
     窓の外は激しい雷雨に見舞われている。見立てによると、過去最大級の嵐になるそうだ。郊外には富裕層の住む離島へと繋がる石橋が架かっており、ひとたび河川が氾濫すれば橋の向こう側の住人はたちどころに孤立してしまう。そうなる前に避難を促しに行くのは、デイヴィッドたち警察官の仕事だった。
    「凄い雨だな……」
     詰め所から出て、明かりがついているというのにどこか薄暗い廊下を足早に進む。窓硝子の嵌まった、くたびれた格子が、吹き付ける風雨に怯えたように揺れる。支度を整えにロッカールームへ向かうデイヴィッドの気忙しげな足音に、ときおり響く遠い雷鳴が重なるのが聞こえた。

     嵐のなか馬を走らせ、石橋を渡って離島へ辿り着く。この島で人が暮らしているのはハワード家の屋敷だけだ。巨大、とまでは言わずとも、ひとつの島をたった一軒の屋敷が占有しているのは充分すぎるほどの財産の証でもある。――その富が、たとえ他人の命を喰らって築き上げられたものだったとしても。
    「っと……ダメだダメだ、早く知らせに行かないと!」
     どこの誰とも知れぬ富豪に両親を死に追いやられた、幼い日の記憶が蘇る。その記憶はいまでも鮮やかさを失ってはいなかったが、だからこそその悲憤を乗り越え、弱きを守るべく彼は警官になったのだ。
     一瞬脳裏を掠めた感傷と悲しみをさっと頭から追い出して、デイヴィッドは屋敷の玄関を目指して緩い勾配を登っていく。煌々とともる上品な外灯の明かりが、激しい雨風に滲んでけぶる。
    「……寒……」
     重厚な玄関扉の前、軒下に辿り着いて足を止めた途端、肌寒さを思い出したようにかすかに背筋が震える。しっかりと支度を整えては来たけれども、ここに来るまでにすっかり体が濡れきってしまっていた。
     夜の雨にこの風では、さすがに体の芯から冷えが来る。額を伝う雨粒を手のひらでぬぐい、警察官は寒気を追い出すように扉を叩いて声を張り上げた。ドンドンドンドン!
    「警察だ!デイヴィッド・スタンリー、警察官だ!扉を開けてくれ!」


    ***
    20181229Sat.
    【ブラッド・リンケージ/ブラッド・セイバー】
    ■第三氏族の双子のおとうと

     紗幕の隙間からあかるい月明かりが射し込んでいる。
     きょうは満月ね。あかるくて、とてもきれいだわ。
     眠りに就く前、仲の良い姉とバルコニーで交わした言葉が、壊れたオルゴールのように繰り返し繰り返し頭の中で鳴り響く。
     ――月のひかりばかりが明るいこんな真夜中に、耳慣れない音が聞こえた気がして、彼女は目を覚ました。絹を裂くような、掠れた高い音の片端が姉の声に似ていたものだから、いてもたってもいられずに、そっと目をひらく。窓から射し込む月光の向こう、少し離れた暗がりのなかに、姉のベッドがある。とっぷりと昏い夜の凝りに目を凝らして、彼女は、『それ』を見つけた。
    「ああ、もうなくなっちゃった」
     場違いに明るい声と、『とすん』というなにか軽い音が暗がりから転がり落ちて、月明かりにさらされる。毛糸玉を追いかけて遊ぶ仔猫のような無邪気な足取りで月光のなかに姿を覗かせたそれに、ぞあ、と全身におぞけが疾る。
     『それ』は『かれ』のかたちをしているなにかだった。
     『かれ』は『ひと』ではないなにかべつのいきものだった。
     柔らかそうな短い髪の輪郭。夜を溶かした、見慣れないかたちの衣服。うそのようにま白いふたつの牙が、赤黒いものに濡れているのが見えた。
    「ねえ、キミ、さっきから起きてたよね」
     ふと、『かれ』が言う。声が出ない。体が動かない。恐怖で肺がつぶれてしまった。
    「あっ、もしかして、オレがあの子を食べ終わるまで待っててくれたの?」
     ありがとう!
     嬉しげな声とともに夜色のブーツがはずんで、かろやかな靴音が近づいてくる。長い脚、片膝が寝台の端にかかった。ぎしり。
    「それじゃ、――いただきます!」
     痛み。赤。黒。そしてなにもみえなくなった。


    ***
    20180813Mon.

    ■第一氏族の長兄と次兄

    「いいのかよ」
     凍土に似た殺気の残滓に苦く眉を顰め、弟が低い声で短く尋ねた。来客の去った広間から、蒼い月明かりの差す廊下へと歩き出していた靴先をひたりと止めて、兄はわずかに目を伏せる。
    「我らは人間との約定をたがえていない。その矜持を身勝手な恐怖で踏みつけ蹂躙したとあれば、第二、第三氏族の怒りも尤もだ」
    「だが、だからと言ってあの様子じゃ奴らがなにを仕出かすかわかったもんじゃねえぞ。……あっちには、きっとまだトランも――」
    「だからこそだ」
     弟の詰問を遮る兄の瞳に、薄雲のような翳りが差したのはごく一瞬のことだった。
    「かつて弟を人間としたからこそ、我々第一氏族が人間を庇いだてすることは許されない」
     お前もわかっているだろう、ディオン。
     諭すような声に名を呼ばれ、弟は押し黙る。
     食餌は種族の繁栄に見合うだけの数を。必要以上の危害は加えない。
     長きにわたりその約定を支えてきた血族の矜持を、不名誉な恐慌でもって踏み躙られたのだ。こちら側に死者が出た以上、こうなるほかないと、理解はしていた。
     ――『疫病を撒き散らす悪魔』などと、よくも言ったものだ。
     ならば望み通り災厄を振り撒こう。不条理を。惨劇を。気の済むまで喰らうが良い。理不尽に同胞を弑逆された怒りを収める鞘は、どこにもなかった。
    「騒ぎが大きくなれば、じき腕利きのハンターが出てくる。こちらも無傷では済まない。いずれ、この館にまで人間の手が伸びるだろう」
    「……俺たちはどうするんだ」
    「私は、血族の長だ。どんな形であれ、事の責任は負わねばならない」
     だが、と続けかけた兄の声を、今度は弟が遮った。
    「『お前は逃げろ』とでも言うつもりか?相変わらず冗談が下手だな」
    「ディオン」
    「今回ばかりは聞かねえぞ。俺を『兄貴を見捨てて生き延びた腑抜けの長』にしたいってんなら話は別だが、それも納得できる理由がねえとな」
     兄弟の手を放すのは、もうごめんだ。
     そう応えた弟の声に迷いはなかった。その答えを覆す言葉を今夜ばかりは紡ぎ出せず、兄はただ口を噤む。兄弟を失くしたくないのは、彼もまた同じだった。
     どこか遠くから、甘く凄惨な血の匂いがする。


    ***
    20180816Thu.

    ■たったひとつのねがいごと(マオ/死に損ねif)

     すごく息苦しくて目が覚めた。
     くるしい。くるしい。子どものころ川で溺れたときみたいに必死で手足を動かしたら、まっくらだった視界がやっとひらけて息ができるようになった。
     明かりひとつ点いていない部屋のなかで、割れた窓から月の光だけが差し込んでいた。薄い雲のかかった、あるかないかわからないくらいの月明かりだっていうのに、気持ちの悪いほどまわりの景色がよく見えて、さむけがする。
     あたりには、土と血の混ざったにおいが立ち込めている。こんなに血の匂いがしたら、狼の群れなんかが来そうなものだけど、ここはきっと「そういう場所」じゃないんだろう。獣は、自分たちが近づいちゃいけない場所を、ちゃんと知っている。
     きしむ体を動かして、自分が埋められていた場所の、すぐ隣に座り込む。手のひらをついた地面は硬くて冷たかった。
    「にいちゃん」
     ここにいるのはにいちゃんだ。その向こうに、リュカさんと、サシャさんもいる。冷えきった血の匂いだけがただよう暗い土のそばに、なにも言わずに立っているのは、よく知ったひとたちの墓標だった。
    「にいちゃん」
     ここにはおれ以外にいきもののにおいがしない。さみしくて、かなしくて、――それからなによりも喉が渇いて、とがった爪のさきで土を掻く。がり。がり。
    「にいちゃん、おれ、おなかすいた、な、」
     でも、にいちゃんを、みんなを置いては、行かないから。おれは、おれのからだがうごかなくなるまでずっと、ここにいる。じくじく痛む刀傷が、動くなって言ってくれる。
    「おれ、もうちょっとだけ、がまんするから」
     そうしたら、よくやったって、褒めてほしいな。お願いだよ。にいちゃん。

    ***
    20180819Sun.

    ■罪の噺(誰かと誰か)

     こいつはもう、何十年も何百年も前の話になるんだが。まだこのへんの森の奥深くにヴァンパイアっつうバケモノが棲んでいて、それからそいつらとやりあうヴァンパイアハンターって職業が、俺たちの暮らしに普通に馴染んでたころのことさ。
     お前も、ガキのころに母親から聞かされたことくらいあるだろう?大昔にあった、大災厄。ほんの少しのあいだに村がふたつもみっつも消えて、助けに出た腕利きの狩人や、医者の知識のあった神父サマまでほとんどみんな死んじまったっていう、おぞましい昔話だよ。
     あの大災厄の理由、とんでもねえ疫病がそのあたりの村で流行ったからだの、手に負えないような獰猛な熊や狼の群れに襲われたからだの、かと思えばカミサマからの罰が当たっただの――場所によって伝わってる話がまるっきり違うんだ。
     ……なんでだと思う?
     「ほんとうのこと」が知れちゃ、都合が悪いからさ。
     どこの誰にとって都合が悪いかなんて、これだけ時間が経っちまったらもうわかんねえよ、そんなモン。とにかくいつかどこかの誰かがあっちこっちで「いろンな話」をばらまいて、「ほんとうのこと」が誰にもわかんねえようにしちまったのさ。
     ああ、話が逸れたな。
     俺が言いたいのは、この話のなかにもしかして「ほんとうのこと」が混ざってる、……いいや、むしろ全部が「ほんとうのこと」なんじゃねえか?ってことだ。
     ほんの少し話の順番を並べ替えて、あとは出てくる単語をいくつかすり換えるだけでいい。
     ひとつめ。
     最初に、どっかの村でちょっとした病人が出たとする。まずかったのはその病人のどこが悪かったのかわからなかったってことと、その病気と同じ症状の病人が少し遅れて隣村で出ちまったことさ。
     ちっぽけな村じゃ、原因不明の病から逃げるのは難しい。治せねえから、他所の村にだって逃げられねえ。「お前らのせいだ」っつって怒る隣村の連中に困り果てた村の連中は、近くに棲んでる「ひとじゃねえもの」に矛先を逸らすことを思いつく。
     ふたつめ。
     そのころ、まだその森の奥深くには獰猛な熊だの狼だのよりもっと強くておそろしいバケモノが棲んでいた。数こそそれほど多くはねえが、長生きで、賢くて、嘘みたいに美しいバケモノだ。最初に病人を出した村の人間はその病気とやらの原因をそのバケモノのせいにして、隣村の人間と協力してどうにかこうにか、そいつらに手傷を負わせた。弱い人間との約束を守って暮らしていた誇り高いバケモノたちが怒りくるうだろうってことは、さっぱり思いつかずにな。
     みっつめ。
     そうして怒りくるったバケモノは、ヒトの手に負えねえ「カミサマ」になって、無礼千万な人間をいたぶり殺しはじめた。『ヴァンパイアに歯向かう生意気な人間どもに制裁を!』、ってな。
     惨状を聞きつけて助けに向かった腕利きの狩人と神父様――ハンターとエクソシストは、荒れくるう「カミサマ」を鎮めて倒すために、最終的に命を落とした。それだけの話さ。
     ……最初の村の連中がハンターのやつらに正直に言えばよかったじゃねえかって?そうしたらなにかが変わったかもしれない?
     馬鹿野郎、もうそんときにゃ元いた村がほとんど消えてんだぜ。いまさらそんな話をしてみろ、そいつらが一体どんな目に遭うと思う?せっかく命拾いしたってのに、巻き込まれたまわりの村のやつらに袋叩きにされておっ死んで終わりじゃねえか。頼みの綱のハンターやエクソシストにも、もしかしたら見放されるかもしれねえ。
     ハンターやエクソシストの連中が、本当にそんなことをするやつらかどうかじゃねえんだよ。……ただ、「そうなるかもしれない」ことが怖くて、だんまりを決め込んだ。
     自分たちのせいじゃない。
     あいつらのせいだ。
     見放されるかもしれない。
     死にたくない。
     …………なあ、わかるか?
     俺たちみてえな、ただ生きるのに必死な弱っこい人間のほうがよっぽどバケモノなんじゃねえかって、……そう考えたら、おぞましくてしょうがねえだろ?
     いいか、こいつは誰にも言うんじゃねえぞ。俺たちのまわりに生きてるバケモノは、バケモノだって見分けるための長い牙も鋭い爪も、なァんも持っちゃいねえんだから。

    ***
    20180917Mon.

    ■出来損ないの吸血鬼(ディオン様のあの子/捏造)

     夜が来るたび、思い出すひとがいます。
     ああ、いいえ、『かれ』は『ひと』ではないいきものでした。兎角、『ひと』によく似たかたちをしていた『かれ』を、わたしが『彼』や『あなた』と呼んでいただけのことです。
     彼の名前を、わたしは知りません。彼も、わたしの名前を知りません。互いに知らぬほうがよいこともあるのだと、彼が最初に言ったからです。そのとおりに、彼とわたしは何年かの月日をかけて言葉を交わし続けましたが、彼に名前を尋ねられたこともなければ、わたしが名前を尋ねたこともありませんでした。彼にとっては、わたしの名など取るに足らない、とうてい興味の及ばないような些末であったことでしょう。
     彼にとってわたしはただの食餌であって、その食餌の頭のなかにたまたま、意思を交わせる程度に似通った言葉がそなわっていただけのこと。わたしたちが、牛や羊の名前を気にかけないのと同じことです。そう理解していながら、理解していたからこそ、わたしは彼がわたしのもとへと訪れるたび、あまく、くるおしい情動に溺れ落ちかけておりました。
     彼は、とてもうつくしい姿をしていました。やわらかく深々とした常夜の闇を溶かした髪、ま白い象牙色の肌、月明かりに透けてどこか寂しげに翳るひとみは、すみれの色をしていたように思います。けれどなによりうつくしかったのは、刃物のようにとがった牙でした。彼が彼であるあかし、そのさきがわたしの首筋へと突き立つ瞬間の、――その恍惚!
     いきものとしてのわたしが「死にたくない」と叫び、然しそれ以上におんなとしてのわたしが「彼の腕のなかで死にたい」と叫ぶのです。嗚呼、けれど、彼はそのたびに「殺しはしない」と、ひどくやさしい声で残酷な言葉をわたしに告げたのでした。
     どうやらいまの彼にとっての食餌がわたしだけであることに気付いてからも、わたしは彼の名前を尋ねませんでした。もしかすると、わたしたちが牛や羊の名を知りたがらぬように、彼もまた、名を知ることで情を移してしまうのを危ぶんでいるのかもしれないと、ふと、そう思ったからです。
     もし本当にそうであったなら、どんなにかしあわせなことでしょう。彼が与えた伽藍のように広々とした古城で、わたしはこのちっぽけな躰に流れる血潮と時間だけをただひたすらに差し出して、空のはしがうすく白みはじめるまでのほんのわずかな時間を彼と分け合って過ごしておりました。――確かに、そのはずでした。

     いつからかここへは来なくなった彼のことを、ゆめまぼろしのたぐいであったのかと思うこともあります。あるいは、この城から出てゆけば、もしかすると彼の身に起こった『なにか』を知ることができるのかもしれない、とも。
     けれどもしわたしがこの城を離れている、そのほんの少しのうちにもし彼があの窓を開けてやって来たらと考えるだけで、わたしの足はどこへなりとも動けなくなるのです。もぬけの殻になった寝台を前にして、彼が二度とここを訪れてはくれなくなったとしたら。そう考えるだけで、躰のふるえが止まらないのです。
     錠の開いたままの窓を夜通し見つめ、太陽の光から逃れるように眠りに落ちて、黄昏時に目を醒ます。彼を待つうち、いつの間にか彼とよく似た……いいえ、ただの出来損ないのヴァンパイアと成り果てたわたしを、彼はきっと、憐れんでくれることでしょう。
     わたしの愛した、やさしくてむごい吸血鬼。
     次にひとめ会えたなら、どうかわたしを

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    20181011Thu.
    なっぱ(ふたば)▪️通販BOOTH Link Message Mute
    2019/03/02 16:20:05

    演目二次小ネタログ

    #二次創作 #演目二次

    CP要素なしの演目二次小ネタログ。
    Dの悲劇/ブラッドシリーズ。例によって捏造補完ばかり。

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    ##演目二次

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