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    荒船哲次は優秀である注意事項荒船哲次は優秀である後日談注意事項
    【ATTENTION!!】読む前に確認お願いします

    ・「ワールドトリガー」の二次創作作品です

    ・カップリングとして「諏訪荒(諏訪洸太郎×荒船哲次)」が含まれます

    ・周りのキャラも多いです

    ・文章は拙いです

    ・ご都合主義です


    上記の点確認の上、自己回避よろしくお願いします
    なんでも許せる方のみお楽しみくださいませ!
    荒船哲次は優秀である
    「東さんが倒れたァ⁉︎」
     
     大きな麻雀卓がトレードマークと化す諏訪隊の隊室。その部屋の主である諏訪は、両手をその卓に叩きつけ立ち上がった。一方、諏訪を驚愕させた相手はくゆりと紫煙を揺らしながら深いため息をついた。
     
    「そ。なんか体調悪い中、大学の課題やらなんやらの〆切が重なったみたいだってよ」
    「それは、キッツイわ。でもよ、東さんいなくて大丈夫なのか?あの人色々引き受けてただろ」
     
     諏訪の一言に、目の前の男ー冬島は頭を抱える。言われなくても分かっているのだ。だからこそ、ここに来たのだから。男の隣では面白そうだから、と付いてきた男の隊員が、その姿を見て愉快そうにニヤついていた。
     
    「そうなんだよなー。俺も全部把握してるわけじゃないし。とりあえず、新人育成一緒にやってる佐鳥には連絡したからそろそろ……」
    「おい、勝手にここを待ち合わせに使うんじゃ、」
    「冬島さん!どういうことですか、東さんが仕事できなくなったって!」
    「おーおーうるせー。驚いたのは分かったけど、ちょっと落ち着けよ、佐鳥」
     
     諏訪は勢いよく飛び込んできた佐鳥の腕をひき、今まで自分が座っていた場所に無理やり座らせる。話を聞くなら当事者が落ち着かないことには始まらないからだ。そこでようやく冬島以外の人影に気づいたのか、佐鳥の目がキョロキョロと彷徨う。
     
    「あ、諏訪さん。それに当真さんも」
    「はぁ。冬島さんも説明のためにお前を呼んだんだからよ。とりあえず話聞いとけ」
    「うっ。そうですね、冬島さんすみません」
    「いいよいいよ。お前が慌てるのもわかるしな」

     軽く手を振って気にしないと示す態度に、ようやくひと心地ついた佐鳥は肩の力を抜いた。
     そしてようやく冬島がことの経緯を説明する。今度は佐鳥が頭を抱えた。

    「やっぱり問題あるのか?」
    「問題ありまくりですよ!新人研修は明後日に予定してるから、変更は無理です。俺も広報の仕事があるんで。どうしよう…」
    「つーかそれ、荒船も関わってるんじゃなかったっけ?」
     
     当真の突然の呟きに、大人組が表情を変える。片方は呆れ顔に、もう片方は期待を載せた顔に。
     
    「は?あいつそんなことにも顔突っ込んでんのか」
    「前言ってたし、あいつもここ呼べば?東さんから仕事任せられたりもしてるみたいだから、俺らが知らない東さんタスクわかるかもよ?」
    「……そうだな。勇、荒船呼んでくれ」
    「りょーかい!」
     
     ふざけたような返事をした当真だったが、仕事はきっちりこなしたようで、そこまで待つこともなく荒船は諏訪たちのもとへ姿を現した。

    「失礼します。荒船です。当真に呼ばれたんですけど」
    「おー、早かったな」
    「諏訪さんもいたのか。それに佐鳥も?」
    「おいおい、ここは俺んとこだぞ」
    「荒船さん!大変なんですよぉ〜!!東さんがー!」
    「東さん?どういうことだ?」
     
     諏訪の言葉は綺麗にスルーし、縋り付く佐鳥の様子に驚く荒船。これはどういうことだと視線を巡らせると、困った顔をした冬島が荒船を呼び寄せた。その後ろでは呼びつけた本人である当真がひらひらと手を振っているから、騒動の中心は冬島だと荒船は当たりをつけた。
     
    「あー。それに関しては俺が説明するから。荒船はこっちこい」
    「冬島さん、嫌な予感しかしないんですが……」

     そして、荒船に再び経緯を説明する。回数を重ねたからか、その喋りも慣れたものとなっており、さほど時間はかからなかった。

    「なるほど、な」
    「荒船はどれくらい東が抱えてる仕事把握してる?」
    「俺が関わっているものと、頼まれたものだけなんで一部ですね。まあ、早く対応が必要ってことはわかりました」
    「ああ。じゃあ、知ってることだけでも教えて……」
     
     荒船の言葉に、冬島が安心したようにその内容を聞こうとする。だが、荒船はそれを遮るように、真っ直ぐ冬島を見た。
     
    「いえ、ここは一旦俺に任せてもらえますか?なんとかするんで」
    「なんとかって……」
    「……いいんじゃね?一回任せてみても。とりあえず新人研修は俺たちにはわからねぇんだし。どうにかなる根拠があんだろ?」
    「もちろん」
    「ならやってみろよ。あ、俺たちにできることあるなら言えよ?」
     
     諏訪は軽く荒船にゴーサインを出したが、そう簡単にいくのか。冬島は違う意味で頭を抱えそうになっていた。
     
    「諏訪、オメェなぁ……」
    「たーいちょ?荒船が任せろっていうならなんか策があるんだよ。どうせ隊長はなんも考えてないんだろ?だったら一回荒船に任せよーぜ!荒船、そういうことだろ?」
    「策ってほどじゃねぇよ。やるならお前にも働いてもらうことになるぜ?」
    「面白そうじゃねーか!あいつらも巻き込もうぜ!」
    「お前らなぁ」
     
     自身の隊員まで乗ってしまった。これは止められそうにない、と話についていけてない佐鳥を見ながらまたため息をつくのだった。
     さて、荒船にとりあえず任せることになった現状だったが、その動きは迅速だった。

    「じゃあ、諏訪さん。早速頼みたいことがあるんだけど」
    「お、なんだ?」
    「風間さんと本部長に会いたいんだ。場所は諏訪さんに任せるから、どうにかアポ取ってくんない?」
     
     軽くとんでもないことを頼む荒船に諏訪以外のメンツは目を丸くする。一般的より親しみやすい人とは言え、仮にも上官である本部長を一介の正隊員、それも上層部に近いA級ではなくB級の隊長に過ぎない諏訪にやらせようというのだ。その反応は間違っていない。だが、頼まれた本人は少し苦い顔をするだけで、できないとは口にしなかった。
     
    「風間は問題ねぇけどよ。本部長か?」
    「無理そうか?」
    「いや、まあ、なんとかするけどよ」
    「なんとかできんのかよ、諏訪さん!」
    「まあな」
    「じゃあできるだけ早く集まるようお願いしてくれ」
    「おー」
     
     話は終わりとばかりに、荒船が視線を外すと諏訪は端末を片手に隊室を出て行った。いよいよ家主不在となってしまったが、荒船にそれを気にするような態度は感じられない。気にするどころか、堂々と椅子に腰掛け、誰か別の相手に連絡を取ろうとしているらしい。広報任務に席を外してしまった佐鳥を抜いた面子、つまり冬島隊の二人は揃って顔を見合わせるのだった。

     そこからは荒船の独壇場だった。
     
     *荒船視点*
     
     まず最初に俺が連絡を取ったのは、東隊のオペレーターであり、同級生である人見だった。

    『もしもし。人見か』
    『荒船くん?』
    『悪いな。ちょっと東さんに質問があってな」』
    『ごめんなさい。東さん、倒れちゃったみたいで……』
    『ああ。人見は知ってるのか』
    『知ってるって……荒船くんも知ってたの?』
    『今聞いた。もしお前が知らなかったら勝手に言うのもどうかと思って、知らないふりした。悪い』
    『それはいいけど。知ってて私のところに連絡を入れたのは、何か理由があってのこと?』
    『東さんが関わってたタスクが知りたいんだ。俺も少しは知ってるが、やっぱり同じ隊の方が知ってることも多いかと思ってな』
    『そういうことね。でも私も全部を把握してるわけじゃないんだけど。それでもいい?』
    『構わない。まとめてもらっていいか?』
    『人見、了解。資料は荒船くんの端末に送ればいい?』
    『ああ。頼んだ』
    『こっちこそ、きっと荒船くんが穴埋めに動こうとしてるんでしょ?できることは私も手伝わせて。うちの隊長のことだもの』
    『荒船、了解。じゃ、頼んだ』
     
     これでとりあえず、大枠の仕事量は確認できるはずだ。東さんは別にワンマンってわけじゃないから、人見に頼めることは頼んでいたはずだし、そのために自分の抱えてる仕事を共有もしていただろう。問題は、個人で抱えていた仕事や大学関係のものがわからないことだが、大学方面は置いておいて、ボーダーの方は逆に東さんに仕事を頼んだ方から探せばなんとかなるだろう。
     さて、次は研修の方だ。東さんが抜けることが確定した上で、日付は変更できない。だが、俺と佐鳥だけで全員を面倒を見るのは難しい。それは人数的な問題もあるが、もっと大事な問題がある。俺はそれも踏まえた上で、頼りになる後輩に連絡を取った。

    『もしもし、奈良坂か?荒船なんだが、今いいか』
    『荒船さん?珍しいですね。少し待ってください、今訓練場なんで移動します』
    『悪いな。あ、小寺もいるか?もしいたら一緒に話聞いてほしいんだが』
    『章平ですか?わかりました。連れて行きます。隊室まで移動するので少し待ってください』
     
     通話の向こうは、的を打つ音から、ざわざわとした喧騒の音へと変わり、静寂に包まれた。俺は移動が完了したとみて、端末を持ち直し、奈良坂からの連絡を待った。

    『お待たせしました』
    『いや、こっちこそ急に悪いな。それで本題なんだが、お前達2人明後日は時間に余裕があるか?』
    『明後日ですか?午後なら空いていますが。章平はどうだ?』
    『僕も大丈夫ですよ。荒船さん何かあったんですか?』
    『俺というより東さんがな』
    『東さん⁈』
    『ああ。風邪だそうだ。ついでに疲れも溜まっていたみたいで寝込んじまったらしいんだ。それで今東さんの抜けた穴をどうにかするため動いてるってわけだ』
    『東さんはわかりましたが、それをなんで荒船さんが?』
    『あ、もしかして今度の狙撃手の新入隊員研修ですか?』
    『さすが小寺、その通りだ。佐鳥と俺だけじゃあ不安が残るからな。後何人かいてほしいんだ』
    『それで俺たちですか』
    『流石に俺も東さんほど狙撃手の造詣は深くねぇし、そもそも俺も佐鳥も生粋の狙撃手とは言えないだろ?だから最低1人は基本がしっかりした狙撃手に先生役としていてほしいんだ。その点奈良坂ならぴったりだろ?弟子もいることだし』
     
     そう、それが問題だった。俺も佐鳥も生粋の狙撃手かと言われると疑問が残る。俺は近接対応型だし、佐鳥はツインスナイプとかいう変態スナイパーだから。
     
    『確かに奈良坂先輩ならピッタリですね!でも、それなら俺が呼ばれる必要はないんじゃ……』
    『いや、小寺にも頼みたいと思ってる。お前は視野が広いからな。俺たちが見逃したり、手が届いてないところのサポートを頼みたいんだ。いつもだったら俺が東さんと佐鳥のサポートとして動くんだが、難しそうだからな』
    『確かに。章平はサポートが上手いからな』
    『な、奈良坂先輩!荒船さんもそんなおおげさな!』
    『俺は自分で見て判断したことしか言っていないぞ?いつも三輪隊の役割分担は参考になるんだ』
    『っ!』
    『ん?おい、小寺?』
    『荒船さん。章平は今顔を真っ赤にして羞恥に耐えているので少し放っておいてください』
    『奈良坂せんぱいっ!』
    『そ、そうか。わかった。それで、どうだ?頼めねぇか?』
    『いいですよ。いつも荒船さんにはお世話になってますし。章平はどうだ』
    『ぅぇっ⁈お、俺も大丈夫です!任された以上出来る限り頑張りますよ!』
    『そうか。急に悪いが、頼む。資料は後で送っておくから確認しておいてくれ』
    『わかりました』
    『わからないこととかあったら俺に聞いてくれ。佐鳥も答えられると思うが、あいつも広報で忙しいからな。後、今日月見さんはどこにいるか知ってるか?』
    『月見さんですか?今ここにいますよ』
    『そうか。だったら後で少し頼み事があるため伺うと言っておいてくれ。そうだな、15分後くらいだと思う。じゃあすぐに資料は送るから』
    『奈良坂、了解』
    『小寺、了解!』
     
     通話を切り、端末で奈良坂に資料を送る。小寺は残念ながらアドレスを知らなかったので、今度聞いておくことを脳内の片隅にメモし、俺は黙ったままの友人に声をかけた。

    「とりあえずこんぐらいか。当真。うちの代のチャットに東さんの仕事について何か知ってることないか聞いといてくれ。東さんのことは言ってもいいけど口止めしとけ。後国近に太刀川さんの状態も一緒に」
    「太刀川さん?よくわかんねーけど、とりあえずあいつらにはもう聞いてるぜ。もちろん東さんのことは口止めしてある。国近には追加で聞いとくわ」
    「わかった。ありがとな」
    「分かった情報はチャットにあげるように言ってあるから、確認しとけよ」
    「サンキュ」
     
     言う前に動いていてくれたらしい当真に礼を言いつつ、言われた通りチャットを確認する。そこには様々な情報が載せられており、自分の代の情報収集が得意な奴らが頑張ってくれたらしいと頬が緩む。チャットに簡単に礼を書き込むと、いくつもの応援メッセージが画面を流れた。
     そんな情報をオペレーターでまとめてくれたらしく、加賀美から個人で送られたそれと人見が送ってくれたデータをまとめて開くと、俺は自分の予想があっていたことに息を吐いた。

    「やっぱり……」
    「なんかわかったか、荒船」
    「冬島さん。人見から送られてきたまとめや同学年の覚えてた限りで東さんの仕事まとめてみたんですが……」
    「なになに。おい、これほんとか?」
    「いくつかは聞き間違いがあるとは思いますけど、あながち嘘でもないんじゃないですかね」

     そこにあったのは些細ではあるが必要な仕事の数々。それらのいくつかは荒船や人見にも割り振っていたようだが、その大部分を東が担っていた。締め切りが近いものがわずかだったのが救いである。

    「はー。あいつはほんとに……」
    「後で説教ですね」
    「ほんとにな」
    「ここらへんの書類関連は、以前任されたこともあるので俺がなんとかします。冬島さんはこっちの上層部、というか開発部関連の資料おまかせしていいですか?」
    「わかった。ついでに開発部の連中にこれ以外に東が関わってるもんないか聞いてくるわ」
    「よろしくお願いします。開発部の方達脅さないでくださいね」
    「そんなことしねーよ」
     
     よっこらせ、と年寄りくさい腰の挙げ方をした自分の隊長に大お笑いする友人を尻目に、自分が片付けなければならない書類の算段をつけていると、諏訪が忍田と風間を連れて帰ってきた。

    「荒船ー。言われた通り呼んできたぞ!」
    「諏訪さん、ありがとう。忍田本部長、風間さんも急だったのにご足労いただき感謝します」
    「うわーほんとに呼んできた。諏訪さん、マジでB級?」
    「うっせぇ!」
     
     当真と諏訪のやりとりは放っておくことにし、俺は忍田本部長と風間さんを席に促した。と言っても、麻雀卓なのだが。

    「それでなんだ。荒船、用事というのは。本部長を呼ぶほどとは、重大なのか」
    「ある意味そうです。お二人とも、東さんが寝込んでることはお耳に入ってますか?」
    「もちろん。急だったからな、私も驚いたよ」
    「それがどうした」
    「三つお願いしたいこと、というか報告があります。まず一つ目。東さんが責任者である狙撃手の新入隊員研修に関して、勝手ですが自分主導で他の人員を投入したこと。二つ目。どうにか集めた情報で東さんの仕事を把握し、冬島さんと自分に割り振ったこと。これら二つの報告に関してお願いしたいのは、資料製作の人が変わりますが、緊急事態のためご容赦いただきたいことと、三輪隊の狙撃手に応援を頼んだため、研修日に任務等は入れないよう配慮いただきたいってことですかね」
    「それぐらい問題ない。むしろ先に動いてもらって感謝する。広報でも発表していることだし、日程変更はできるだけ避けたい」
     
     そう言って軽く頭が下げられるが、俺は頭を下げる必要はないとそれを止めた。事実、東さん同様忙しいのは知っているし、俺は仕事の再分担をしただけで、その礼をもらうべきなのは実際に変更を許容してくれた者だと思うからだ。
     
    「それはこちらも嵐山隊の一員である佐鳥隊員に合わせただけなので、感謝は不要です。ただ講師役の奈良坂、小寺両名には手当等配慮をお願いします。急にもかかわらず快諾してくれたので」
    「了解した。出来る限りのことをしよう」
    「三輪隊の任務日程に関しても承知した。だが三つ目はなんだ」
    「それがお二人をここに呼んだ本命です」
     
     本命、という一言に二人の表情が引き締まる。だがそれも俺の次の一言で意味がなくなってしまったが。
     
    「太刀川さん、レポート提出そろそろじゃないですか?」

     そこで二人の顔が青ざめる。
     おそらく、今まで太刀川さんのレポートは同級生の協力もそうだが、東の協力もまた大きかったことを思い出したからだ。諏訪さんも後ろであちゃーと額に手を当てているから、まぁそういうことなんだろう。

    「当真、どうだ」
    「ご名答。絶賛レポートに追われてるってぼやいてるってよ。あ、ちなみに二宮さん達も課題があるから手伝いは拒まれたってさ」
    「というわけです。大丈夫かなって、思いまして」
    「全くもって大丈夫じゃないな」
    「「やっぱり」」
     
     俺と当真の声が揃う。だが、目の前の大人は深刻な顔もちだ。
     
    「とは言っても俺も面倒をみれん。本部長はどうですか」
    「私も仕事が詰まっていてな……実は今も無理やり開けた時間なんだ……」
    「「…………」」
     
     二人が揃って深いため息をつく。当真と諏訪さんもどうするのかとばかりに、二人と俺の間で視線を右往左往させる。
     
     ーーま、これも乗りかかった船ってことだろうな

     俺は一つ覚悟を決めることにした。
     
    「事情はわかりました。お二人とも忙しい、でも太刀川さんにレポートを提出させないわけにはいかない、と」
    「そうなるな。師として情けないことだが」
    「ということで、これに関しても俺に一任する気はありませんか?」
    「荒船に?」
    「どこまで出来るかわかりませんが。努力はしますので。というか俺も少し興味があったので」
    「興味?大学の課題にか?」
    「それもそうですし、太刀川さんがあれほど嫌がる課題ってどういうものなのか、と。無理そうなら俺からも来馬さんとかに頼みますし」
    「そこまでしてもらうわけにはいかない、と言いたいところだが……」
    「……藁にもすがる、というやつだな。荒船、頼めるか」
    「ご期待に添えるよう尽力させていただきます」
     
     苦渋の決断なのだろう、心苦しそうな二人は俺と固く握手を交わすとそれぞれ用事のため退出していった。二人がいなくなった隊室で深呼吸をすると、俺は次の処理に移ることにした。

    「えーっと、諏訪さん。今日これから時間あるか?」
    「ん、俺?まぁ、買ったばっかの本読むかと思ってたぐらいだから空いてはいるけどよ。なんか手伝うのか?」
    「じゃあ本読んでていいから付き合ってくんない?俺用事が済んだら書類するから隣で座ってるだけでいいんだ」
    「は?」
    「当真、国近にしばらくしたら太刀川隊に行くって言っといてくれ。太刀川さんを逃すなって」
    「りょーかい。つーか俺直接行くわ。ついでに太刀川さん捕まえとけばいいんだろ?」
    「理解が早いな」
    「だって荒船テスト前の俺とか捕まえる時の顔してるもん。こっえーの!」
    「お前達が逃げるからだろうが。まぁいい。今回はお前じゃないからな。しっかり捕まえておけよ」
    「当真、了解!」
    「おい、俺はどうしたらいいんだよ!」
    「共有スペースの場所取っといてほしい。諸々終わったらそっちにいくから
    「諸々って……」
    「まあまあ、気にするな。じゃ、当真頼んだぞ」

     俺はそのまま部屋を出ると、三輪隊の隊室へ向かった。先程の約束お時間が迫っていたのだ。入室を許可された部屋に人気はなく、奈良坂たちは再び訓練に戻ったらしい。そこにいたのは目的である月見さんだけだった。
     
    「すみません、荒船です」
    「待ってたわ。荒船くん」
    「急に頼み事なんて言ってすみません。でも多分月見さんじゃないと難しそうだったので」
    「いいのよ、東さんに関わることよね。書類関係かしら」
    「話が早くて何よりです。ここらへんの資料のデータなんですけど、ちょっと俺が扱ったことのないデータもあってその説明をいただけないかと思って」
    「わかったわ。ちょっと待っててね」

     それから俺は月見さんに資料に関する質問を次々としていった。さすが東さんの弟子ということもあって、質問したところのほとんどを詳しい説明付きで教えてもらい、書類作成でつまりそうなところは瞬く間になくなっていった。

    「これでいいはずよ。何かわからないことあったかしら?」
    「いえ、十分です。これだけわかれば資料に落とし込めます。ありがとうございました」
    「いいのよ。奈良坂くん達がお世話になってるみたいだし」
    「むしろこっちがあいつらに仕事を押しつけたようなものなので、これ以上は申し訳ないですよ。また今度お礼をしますね」
    「気にしないで。東さんのことだったら何か手伝えることがあるかもしれないから」
    「ありがとうございます。もしかしたら、俺じゃなくて他の人が頼むかもしれません。その時はよろしくお願いします」

     それでも、いくらかは月見さんが仕事を引き受けると言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。しかし未だ手元にはいくつか書類が残ったままだった。俺はその書類を抱えたまま、今度は太刀川隊の隊室へ向かうのだった。

    「国近、荒船だ」
    「待ってたよ〜」
    「おう、荒船。ちゃーんと捕まえといたぜ?」
    「んーなんか捕まえられたんだけど、これお前の差し金?」
    「そうですよ。今からでも逃げますか?」
     
     いささか不服そうに当真に拘束されている太刀川さんの目に輝きが戻る。だが、俺は切り札を躊躇なく切ることにした。
     
    「お、逃げてもいいの?」
    「一応忍田さんと風間さんからは許可をもらってるとお伝えしときますね」
    「……ナンデモナイデス」
    「太刀川さん、よっわ!」
    「ああ、出水もいたのか。悪いな、騒がしくして」
    「いやいや!気にしてないですよ!というか、荒船さん、うちの隊長捕まえてどうすんですか?」
    「今回は荒船くんが太刀川さんのレポート見るんだよね〜?」
    「は⁈」
     
     出水が目を見開く。まぁそういう反応になるよなぁ、と俺は少し遠い目をしながらも口を開いた。
     
    「ま、そういうことだな。できる範囲で、にはなるが。そういうことだから申し訳ないがお前の隊の隊長は借りるぞ」
    「え、俺荒船に借りられるの?」
    「そうですよ。共有スペースに場所取ってるんで課題用の荷物用意してくださいね」
    「まじかー。まじかー!」
    「マジですから早く用意してください」
     
     国近と当真に急かされるように荷物をまとめている太刀川さんを待っていると、妙な顔で隊長を見ている出水が目に入る。気づいた時には声をかけていた。

    「……出水、もしかして何か太刀川さんに用事あったのか?」
    「へ?なんでそうなってるんですか?」
    「いや、さっきから黙って太刀川さん見てるし、太刀川さんを連れ出されたら良くないことでもあるのかと思ったんだが」
    「いや、そんなことはないですよ!ただ、うちの隊長、とうとう年下の荒船さんに面倒見られるのか…と」
    「今回は東さんが太刀川さんのこと見られないからな。他の年上組も忙しそうだし、特別措置だ」
    「もしかして、荒船さんが東さんの仕事肩代わりしてるんですか?」
    「仕事を割り振ってるのは俺だが、分担してるから俺だけじゃないぞ」
    「そっかぁ」

     その後、荷物の用意ができた太刀川さんを引きずり、諏訪さんの待つ共有スペースまで歩く。それにもついて来た出水は、やはり何か思うところがあったのか、太刀川さんの正面に座った俺の元へ縋るような目を向けた。
     
    「荒船さん!俺にも何かできることありませんか?やっぱり自分の隊長のことお任せするのに何もしないのはアレなんで!」
    「出水。そうだな……」
     
     ーーこういうのを犬っぽいって言うんだろうな

     正直その時の俺には出水の頭上にあるはずもない耳と尻尾が見えた気がした。本物はごめんだが、こういう後輩は可愛いと思う。だから、何か仕事を与えてやりたい、と俺は脳みそを回転させた。
     
    「ああ、それなら。C級の訓練場を見学してきてくれないか。いつもは軽く見回って将来性がありそうなやつを探してるんだが、当分行けそうになくてな」
    「それ、俺がやって大丈夫なんです?」
     
     不安そうな出水に向かって意図をもって口角を上げる。心配することはないと示すように、というか、ほんとに心配はないのだ。自分が勝手にやっていることを後輩にやってみてもらうだけのことだし、出水はA級一位のシューターだ。そんな奴が気になるやつってのはどんなものか知ってみたいという欲もあった。
     
    「いいだろ。俺が勝手にやってるだけだし。出水の視点ではどうなるのか楽しみだ」
    「そ、それなら米屋も誘って行ってきますよ!待っててくださいね!」
    「おう。報告はいつでもいいから気楽にな」
    「出水りょうかいっ!」

     何故か人が増えたが、気にしないことにする。いつもと違う視点が増えるのもいいだろう。そう考えていた俺は、後日出水・米屋・三輪というC級が緊張しそうな面子を向かわせることになっていたことに驚くのだった。
     
     **
     
     *諏訪視点*
     
     荒船が出水と仲良さげに話しているのを眺めながら、俺は持ち込んだ本のページを一枚捲る。そんな俺に課題を机に広げていた太刀川が声を掛ける。

    「荒船ってこんなに後輩に好かれてたっけ?」
    「もともとリーダーシップあるやつだからなぁ。同輩からも慕われてるし。で、お前今回どんなレポート課題なわけ?」
    「なんか論文読んで感想書くやつ。これ読んだことある?諏訪さん」
    「俺はねぇな。ま、読めばなんとかなるだろ、英文じゃないし」
    「それが面倒なんだって〜!」
     
     そんなやりとりをしていると、いつの間にいなくなったのか出水は姿を消しており、荒船が書類を広げ始めていた。こいつは書類をしながら、太刀川のレポートの面倒を見るらしい。
     
    「お待たせしました。太刀川さん、どこが嫌なのか聞いてもいいですか?」
    「論文読むのが面倒なんだよな。これ、難しくない?」
    「失礼しますね。……ああ、たしかに読み応えがありそうな内容ですね」
    「だろー?なんか前振り長いしさ、読む気失せる」
     
     ーーいや、荒船の読み応えがあると太刀川のそれは別の意味じゃねーか?
     
     そうは思いながらも、口にはしない。いくらなんでも、これ以上のやる気を太刀川から失わせるわけにはいかないのだ。そうこうしているうちに、荒船はざっと目を通したのかスッと論文の一部を指し示した。
     
    「ふむ。じゃあここは読まなくていいんで、ここからならどうですか?」
    「ここから?最後までってこと?」
    「そうです。大分短くなったでしょう?」
     
     そのやり方に内心おっと驚く。上手いやり方だ。一部だけ、といえば読む量がガッツリ減って少しは読む気が出る。そして、荒船の指し示した部分は論文のまとめとそれに必要な部分で、感想を書くならば最低限押さえておかなければならない場所だ。ざっと目を通していたのはそこの見極めだったのだろう。
     大学の課題に興味があると言っていたが、これができれば十分なのではないのだろうか。むしろ、それができるってことは何本か論文を読んでいる気がする。俺はきっと当たっているだろう予測をしながらも、荒船と太刀川のやりとりを見守っていた。
     
    「これならまあ……」
    「じゃあ今から読んでみてもらって」
    「今から⁈」
    「そうです。わからない単語とかあったら隣に俺もいますし、年下に聞きにくかったら諏訪さんにもいてもらってるんで」
    「あ、俺それ要員だったのね」
     
     ここでようやく自分がここに呼ばれた理由を知る。確かに、いくらしっかりしていたとしても、荒船は年下だ。太刀川も聞きにくいかも知れないという荒船なりの配慮だったのだろう。
     
    「そうですよ。本読んでていいですけど、質問には答えてあげてくださいね。太刀川さんも遠慮しちゃダメですから」
    「諏訪了解!わかんないまま残しとくなよ、太刀川」
    「太刀川りょーかい……」

     その後は、途中で飽き始める太刀川を荒船が宥めたり、わからないところは荒船と一緒に俺の解説を聞いたり、漢字が読めない場所を荒船に指摘されて落ち込んだり、と色々あったがなんだかんだ上手くいった。荒船と太刀川が一緒にいるというのが珍しいのか、人が通り掛かるたびお菓子や何やらの差し入れがあるのも太刀川の機嫌が良かった理由の一つだろう。それも含めて、この場所を選んだのなら、荒船は立派な策士だと思う。
     結局、論文の感想文は内容構成を荒船が主導し、文章の校正を俺が担当することでなんとか形になった。直近で機嫌がやばいのはこのレポートだけだったので俺と荒船は終わった時胸を撫で下ろした。時間はすでに夕刻をすぎ、夜になろうかという時間だった。
     
    「お、終わった……!」
    「おーお疲れさん。頑張ったな、太刀川」

     俺は机に上半身を投げ出した太刀川の頭をぐしゃぐしゃと掻き乱す。ただでさえ癖っ毛のそれは、もはや鳥の巣のようだ。
     
    「うわっ!諏訪さんやめてくれよー!」
    「いいだろーが。ここまで付き合ったのは誰だと思ってやがる!」
    「それは感謝してるけどー!」
    「ははっ。太刀川さん頭爆発したみたいだ」
    「荒船、笑ってないで止めてくれ!」
    「面白いから嫌です」
    「うそだろー」
     
     書類の最後の確認をしていた荒船がそんな太刀川をみて笑う。太刀川のレポートと書類とを同時進行していたからか気を張っているように見えたので、その気の抜けた笑みに俺もほっとする。いい気分転換になったと思っていると、荒船が机の上を片付け始めた。

    「じゃ、俺もできた書類を出しに行かないといけないので、ここら辺でお暇しますね」
    「え、荒船まだ働くの?」
    「働くっていうか、今してたのも今日中に出さなきゃいけない書類なので」
    「世話になったから晩飯ぐらい奢ろうと思ったのに……」
    「いや、太刀川さんは早く忍田さんや風間さんにレポートが終わったことを報告してきてくださいよ」
    「そうだった!俺行ってくるわ!」
    「はいはい。走ったらまた怒られますよって、もういったのか。あ、髪そのままだ」
     
     言うが早いか荒船の注意を聞かぬまま、太刀川は共有スペースを走り去っていた。いつの間にか片付けていたのか、机の上に彼の荷物は一つとして残っていない。自分たち以外の人影の見えない共有スペースを眺めながら、俺は手元の本に栞を挟んだ。
     
    「あいつ脚はえーよな」
    「あんたも、もう帰って大丈夫だぞ。付き合わせて悪かった」
    「あ?気にすんなって。俺ほとんど何もしてねーよ」
    「いや、やっぱり大学のレポートの書き方はわからないから。俺も参考になった」
    「そっかぁ?ま、それならいいけどよ。ほら、書類出しに行くんだろ。これ持ってきゃいいのか?」
    「え、うん。でも……」
     
     本とは反対の手で荒船の書類を持つ。荒船はその動作の意味するところがわかったのか、目をパチクリとさせて俺に視線をよこした。その視線は少しの心配と甘えの混ざった可愛らしいもので。俺は本も書類と一緒に持ち直すと、空いた手を帽子の上に置いた。手はそのまま荒船の顔に降りて、その頬をそっと撫でた。
     
    「いいからいいから。ここまできたら最後まで付き合わせろ。それにどうせ、この後東さんとこ顔出すんだろ?」
    「……そんなにわかりやすかったか?」
    「俺だからわかった、ってことにしといてくんない?」
    「ふはっ。ロマンチストだな、諏訪さん」
    「うっせ!お前にだけだわ」
    「……そっか。さんきゅ」
    「おう」
     
     お互い荷物を手に、共有スペースを出る。俺は擦り寄ってきた荒船の温もりを思い出しながら、書類の提出に向かうのだった。
     
     書類を提出しにいった後、冬島さんと合流した俺たちは東さんの仕事の分担の最終確認をすると、そのまま二人で帰宅したのだった。
     東さんが復帰するまでそれから三日かかり、その間の作業は荒船主導のもと冬島や諏訪など年上組の力を借りながらもなんとか回っていくのだった。

     **

     後日、復帰した東さんが迷惑をかけたと謝罪行脚に行こうとするも、一人での仕事の抱え込みに冬島を筆頭に自隊のオペレーターや後輩たちにこっぴどく叱られるのだった。そして、そんな珍しい姿の東さんをみた周囲はこの東不在の三日間の実情を知る際に、それをどうにか捌き切った荒船の評価をぐんぐん上げていくことになったのである。
     一方、荒船含め東の書類の処理に関わった面々は上層部に対し、東へのタスク一点集中化に対する問題提起と称した意見案を提出するのだった。

     
    後日談 
     *三輪隊

     東が復帰して二日後、三輪隊の面々は机に置かれたあるものを中心に集まっていた。
     ことの次第はつい先ほど、隊室に一人課題をこなしていた奈良坂の元に、先日頼み事をして来た先輩ーー荒船が訪ねてきたのだ。
     
    『ちょうど良かった。奈良坂、この前は急にありがとうな。これ、三輪隊で食べてくれ。茶葉とかは俺が選んだから好みに合わなかったら気にせず他人に譲るなり、処分してくれって月見さんに伝えといてくれ』
     
     そう言って慌ただしく抱えていた包みを手渡した彼は、颯爽と隊室を後にしたのだ。三輪隊で、と言われたので隊員が全員集まったところで包みを机上に取りだしたのだが……

    「ってこれ渡されたんですけど……」
    「たけのこの里の限定品に、有名紅茶店のセット。それにコーヒーもはいってますよ!それにこれ最近美味しいって話題のクッキー!」
    「すごいわね。ちゃんと味が確かなところのものを選んでるわ。それなのに高校生らしいお値段で手が届くところで収めてあるみたいね。こっちに余計な気遣いをさせない為なんでしょうけど、デキたお礼品だわ。多少は自隊のオペとか同級生の女の子に聞いた部分もあるでしょうけど……」
    「さすが荒船さん!ってん?これなんかカード入ってるぞ?って秀次宛?」
    「貸してみろ」
     
     流石の月見の分析をわかっているのかいないのか、早速包みの中身を漁っていた米屋が一枚のカードを見つける。明らかに手書きのそれの宛名を見ると、隊長であり幼馴染の名前があり思わず声を上げる。すると横からすぐに奪い取られた。

     『三輪へ
     出水から聞いたんだが、お前も新人達の様子を見に行ってくれたらしいな。出水達のと一緒にあったメモにも、俺にない視点が多くて参考になりそうだ。一応、お前が好きだって聞いたクッキーもお返しに入れておいたからよかったら食べてくれ。
     またタイミングがあったら個人ランク戦でも模擬戦でも相手をしてくれると嬉しい。
     追伸:米屋には今度模擬戦ブースにいたらジュースでも奢るって言っといてくれ!
     荒船』

    「ああ、クッキーは三輪くん宛だったのね」
    「確かに三輪先輩クッキーお好きですもんね」
    「よかったな。三輪」
    「……ああ」
    「秀次も嬉しそうだし。俺も荒船さんに奢ってもらえるみたいだしラッキー!」
     
     そうして三輪隊では待機任務中ではあるが、急遽お茶会が始まることになるのだった。

     
     後日いつものように模擬戦ブースにいた米屋、出水、おまけで緑川にちゃんと飲み物を奢る荒船の姿が見られたらしい。


     *年上組
     
    「つーかさ。俺の彼氏さん優秀すぎねぇ?」
    「全くだ。お前の相手にはもったいないくらいだ」
    「なんだと!」
     
     いつもの同い年たちでの飲み会。風間と諏訪の口喧嘩を見ながら、寺島は内心こう考えていた。
     
     ーーそんなこと言ってる諏訪だって、荒船が動きやすいように冬島さん止めたり忍田さんと風間に先に話通して置いたり、なかなかできないことやってるんだけどね。自覚してないけど
     
     黙って見ていたからだろうか、木崎がいつもの無表情で寺島を窺う。
     
    「どうした、寺島」
    「いや、なんでも?」

     それをジョッキを煽ることでかわしながら、もう一度諏訪たちの方を見る。口喧嘩は終わったのか、目の前の枝豆を弄びながら諏訪が愚痴るように話し出した。
     
    「まーそれはいいんだけどよ。今回のことで東さんに謝罪も込めて臨時支給があったのと、奈良坂と小寺に特別支給があったのはわかるけどよ。荒船にはなんもないわけ?」
    「どういうことだ?何も言ってないのか!」
    「いや、あいつあんだけ動いたってのに忍田さんに何も頼むことないって言うし。せめて手当て金くらい言ってもいいと思うぜとは言ったんだけどよ。今まで東さんに頼りきってたのは俺たちも一緒だから、こういう時は助け合いだろって聞かないし。だっていうのに本人は世話になった奴らに礼だって言って奢ったりしてんだぜ?」
     
     諏訪の言い分に酔いが回った頭とは言え、言葉を失う。それはだいぶ荒船だけが損をしているのではないだろうか、と。
     
    「おい。そこまで知っておきながらお前何もしなかったのか」
    「んなわけねぇよ!俺も気づいてなかったから同罪だって三輪んとこのお礼の差し入れは半分金出したわ!半分しか出させてくれなかったけどな!」
     
     半分しか、のところで諏訪が煽るようにビールを飲む。恋人に甘い諏訪なりの譲歩がそこまでだったのだろう。
     
    「それ以外にも礼をしてるとなると、高校生にはキツくないか?」
    「まあ、あいつ散財とかしねぇし、そこまで高いものを選んでるわけじゃねぇから、すっからかんってことにはならねぇだろうけど」
     
     それでも、それなりの金は使うだろうとそこにいる皆が理解できた。
     
    「……風間」
    「ああ、俺から上にはとりなしておく」
    「俺もボスに話してみよう」
    「俺から言ったっていうなよ、風間、レイジ」
    「当たり前だ。むしろこれは上の連中が気付かなくてはいけないことだろう」
    「なら頼むわ。できれば荒船隊に休みも頼む。代わりに入るのは俺んとこでもいいし。話したらわかってくれるだろうからな。あいつ最近東さん関連の書類作成で休めてないんだよ」
    「了解した」
     
     数日後、荒船隊には完全休日と荒船個人に特別支給並びに東からの焼肉の奢りがあったらしい。

     
    夕霞 Link Message Mute
    2021/09/15 23:00:00

    荒船哲次は優秀である

    こんばんは、夕霞です。
    興味の赴くまま書いてみました。
    #二次創作 #諏訪荒
    それでは注意事項を読んでお楽しみください!

    2021/09/16 誤字訂正

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