臆病者の手紙注意事項
【ATTENTION!!】読む前に確認お願いします
・「ヒプノシスマイク」の二次創作作品です
・カップリングとして「左馬一(碧棺左馬刻×山田一郎)」が含まれます
・周りのキャラも多いです
・創作設定も多くでてきます
・文章は拙いです
・ご都合主義です
上記の点確認の上、自己回避よろしくお願いします
なんでも許せる方のみお楽しみくださいませ!
Side 銃兎
カタリとその小さな箱はゆっくり開かれた。よくある金庫と同じように、小さなトレーがある二層式のようだ。そんなトレーには何も載せられておらず、代表して二郎くんがトレーを外した。その瞬間、金庫を覗き込んでいた全員の喉がなっていた。
「これ、紙、だよな?封筒っぽいけど、もしかして手紙?」
「ふむ。重しが乗っているから目立たないがそこそこの量がありそうだな」
重し替わりに使われた小さな黒い缶を横に避け、取り出した封筒の束を眺める。そこそこ時間が経っているのか、端の方の色が変わっているものもあったがどれも同じレターセットを使っているようだった。厚みもバラバラでその全てに封はされていなかった。
「どうします?もし手紙だった場合、かなり気まずい思いをしそうなんですが」
「うっ……確かに。でも、もしあいつへの手紙とかだったらレッキとした証拠ってやつじゃね⁈」
「歴とした、ね。お前いま絶対漢字わからずに使っていただろ」
「うっせーな!今そこ気にするとこじゃないだろ!」
一応確認しただけだったのだが何故か兄弟のじゃれつきが始まってしまった。三郎くんがわざとらしく肩をすくめるのに食ってかかる二郎くんだったが、この兄弟はどうしてこうもすぐ脱線するのだろうか。俺はため息を吐くのも隠さず、取っ組み合いに発展しようとした二人を引き剥がすよう理鶯に視線を送った。
「……何か言うことは?」
「「スミマセンでしたぁー」」
「兄弟仲がいいのは良いことだ。だが今は目の前の問題を片付けることが最優先。小官はそう思うぞ。貴殿らがすぐに取りかかれないのも理解できるがな」
理鶯が二人を見る眼差しは慈愛と理解が込められていた。その視線を受け止めた二人は顔をうっすら赤に染めた。それでも時間は待ってくれない。こんなことをしている間にも一郎くんの状態が悪くなっているかもしれない。そう漏らせば兄弟はそれぞれ手近にあった手紙を手にとった。
「じゃあ、各々一つずつ見ていくことにします。もしあのヤクザに関わる内容があったら報告ってことで」
三郎くんの声にうなづきを返し、私たちは封を開いた。
▼△▼△▼△▼△
「拝啓 親愛なるアンタへ」
そのフレーズから始まる手紙はまるで日記のようだった。
その日あった嬉しいこと、ムカついたこと。些細な日常を「アンタ」に伝えるための手紙だった。その全ては彼の弟への愛情や仕事に持つ誇りを感じさせる。彼らしい、と思うものばかりで。
そんな手紙の中で毛色の違うものが何個かあった。それは彼の、と言うより山田家の転機に書かれたものが多く、他のどんな手紙より素直な感情がそのまま文章になったかのようだった。弟達の新たな旅路への激励、成長への喜び、そして側に現れた頼れる大人の存在に感謝する。山田一郎は正しく山田家の大黒柱であり、保護者であったのだと象徴する手紙達。
正真正銘家族である弟達は、当時の兄の気持ちを想像して感動しているし、思わぬところで名前が出た私たちも、何を勝手にとさえ言われそうだった行動が、思いのほか受け入れられていただけでなく感謝されていたのだと面映くなった。
最後の手紙を読むまでは。
最初にその手紙を手に取ったのは理鶯だった。読み進めるうちにどんどん歪む表情に、俺は嫌な予感がしていた。忘れていたのだ、山田一郎という男は時に爆弾を落とすヤバいやつだったということを。理鶯に手紙を手渡され目を向けた瞬間、その予感は的中した。
綴られていたのは一人の人間の苦悩だった。懇願に近い形で終わっているその独白は誰が読んでも痛々しい。
若くして抱くには重すぎる内容は、俺だけでなく弟達にとってもショックだったのだろう。読み終わった後の彼らは揃って瞳に水を湛えて今にも泣き出しそうだった。
だがそれが山田一郎がこの金庫に隠していた理由なのだと誰もが気付いていた。
「……兄ちゃんはずっとこんなもの抱えてたのか」
それは奇しくも左馬刻に最初に問いただした時の声音によく似ていた。本当なのか、信じたくない。そんな感情が乗った声はひっそりと、けれど確かに部屋に響いた。
「っ!そんなの一度も言わなかったじゃないか!一兄はずっと応援してくれて、僕の留学の時だって背中を押してくれたっ!」
「言えるわけねぇだろ。特に俺たちには」
頼られてねぇ、とかじゃねぇんだと思う。これは多分兄ちゃんのプライドとかそういうのも、あるはずだ。そう静かに応える二郎くんもその眼からいく筋もの涙を流していた。
——おそらく彼の言う通りでしょう
もはや泣き叫ぶように声を荒げる三郎くんを横目に、俺は彼の言葉の意味を考える。きっと一郎くんにとって彼らは長い間庇護対象だった。ラップチームとしては肩を並べ背中を預ける仲間と見ていたとしても、それ以外の部分では彼らは一郎くんの弟で、同時に守るべき対象だった。それも親がいない彼らにとって(オオサカの彼との関係は考えないことにして)一郎くん自身の立場はより重かったはずだ。長兄で親代わり。そんな彼が弟達に弱みをこぼすことはないだろう。
——そしてそんな感情をこぼす相手として選ばれたのは左馬刻だった。たとえそれが直接届かないものだとしても
なんと健気で悲しい手紙なのか。ここまで書かれていればこれ以上ない証拠になるが、後味が悪すぎる。明らかに隠し込まれた秘密を引き摺り出したこちらが悪人ではないか。
むしゃくしゃする気持ちを抑え手紙を封筒に納める。これで金庫にあった手紙は全てだ。それでも一応他に何かないか、もう一度金庫を検めると底に何か引っかかるのが見えた。
「ん、なんだ。底に何か……なんだこれは。栞、か?」
それはメタリックな輝きを持つシンプルな栞だった。何か意匠が彫られているが生憎俺には分かりそうにない。おそらく花の意匠だと思うのだが、知識の中にはない花だった。
「すみませんがこれ何かわかります?」
「っぐす。何だよ、それ。貸して」
涙声と赤く染まった目元が痛々しい三郎くんに言われた通り手渡す。神童と呼ばれる彼ならばきっと一致する花を見つけることだろう。すぐ傍に理鶯も寄って端末を使って検索するようだ。
手持ち無沙汰となった俺は先程から静かになってしまった二郎くんのそばに近寄った。
「大丈夫ですか」
「うん。急に泣いたりして情けないよな。気使わせて悪りぃ」
「気にしていませんよ。それで明確な証拠が見つかってしまったわけですが、また左馬刻を呼び出しますか?」
それは今後の打ち合わせのようなものだった。証拠が見つかったなら次にどう動くかの指針くらい立てていてもいいだろう、と考えあってのことだった。しかし、その考えは思わぬ宣言によって後悔することになる。
「いや、今度は俺から乗り込む」
「何言ってるんですか⁉︎」
これが酔っ払いの戯言だったならば笑って流してしまえただろう。だがここにいる人間で酒を飲んでいるものなどいない。俺は今日何度目かのため息をつくことになった。
——目の前でむすっとした顔でこちらを見ているが俺は頭を抱えるのに忙しい!なんならさっきの発言を直視したくないからこっちを見ないで欲しいくらい何だからな!
しかしずっとそうしているわけにもいかない。諦め半分で彼に向き直る。
「理由をお聞きしても?一応あいつが反社の人間だと理解しての発言ですよね?」
——頼むからそれを理解した発言だと言ってくれ。俺の心の安寧のために!
少々視線にそんな気持ちが込められてしまったかもしれないが、今は横に置いておく。今確認しなければならないのはなぜそんな行動を決意したのか、だ。理由によっては警察組織に身を置く者として絶対に説得しなければならない。
「深い意味はねぇ。ただ、先に呼び出したのはこっちだ。次は俺が出向くのが筋だろ?」
「それは確かに一理ありますが、あくまで一般論。相手が一般人の時とは訳が違う。それ相応の理由がないのであれば、俺の目の前で君達のような一般人に反社組織への殴り込みなどさせませんよ」
「ま、そうだよな」
そう言って彼は口を閉ざした。
反論は予想していたような態度だった。その視線は下に向けられていて、こちらと合うことはない。
それでも、伏せられた瞼の下にある色違いの瞳は、あのバトルの時から変わらない意志の強さを秘めているのだろうな、とふと思い至る。それはきっとイケブクロと対峙した全てのチームで共通の認識だ。
残念ながら俺がそんなふうに思考を飛ばせたのは、彼がその視線を上げるまでだったが。
射抜かれたのだ。その宝石のような眼に。
「でもさ、俺があいつのとこに直接出向きでもしないと信じてもらえないと思うんだ。この手紙を見せたってあいつはきっと動じない」
「そ、れは」
「あいつは兄ちゃんと似てる。だからまともに話すのは直接じゃないとダメだ。面と向かって腹据えてかからねぇと、あっという間にあっちに呑まれる。そういう相手だ。チームメイトなんだからそっちの方がよくわかってるだろ?」
そう言われてしまえはこちらは反論を失う。彼の言う通りだと思った。あいつは見かけ通りの短気さと沸点の低さを持つ人間だ。だが、それ以上にヤクザとして人の上に立つ冷酷さと通された筋は尊重する実直さを兼ね備える男でもある。つまり、礼儀には礼儀を人情には人情を返す。それが碧棺左馬刻という男だと、俺たちは一番よく知っているのだから。
「まあ、ここまでのはいわゆるタテマエ?ってやつでさ」
「はい?」
さっきまでの鋭さはいつの間にか姿を消し、なぜか照れたように頰をかいている彼に疑問混じりで応える。
正直、もうそこまでで俺は半ば自分の取る行動を決めていた。彼の意思をどう貫くかみてみたくなったのだ。ただ未だ揺れる心があるのも確かで、無意識に彼の発言を促していたのだと後から気づいた。
そしてそんな揺れる意思は次の発言で確固としたものになる。
「俺の気持ちは俺が伝えないと。又聞きの気持ちじゃ意味ないからさ」