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    最後のひと押し章タイトル章タイトル注意事項
    【ATTENTION!!】読む前に確認お願いします

    ・「ヒプノシスマイク」の二次創作作品です

    ・カップリングとして「左馬一(碧棺左馬刻×山田一郎)」が含まれます

    ・名前付きのモブが出てきます

    ・周りのキャラも多いです

    ・創作設定も多くでてきます

    ・文章は拙いです

    ・ご都合主義です


    上記の点確認の上、自己回避よろしくお願いします
    なんでも許せる方のみお楽しみくださいませ!

    Side 左馬刻

     あれから数日がたった。俺の仕事は終わりが見えず、イライラも増してきている。タバコの吸殻も灰皿から飛び出しそうだ。自分の機嫌の悪さが部下にも伝播しているのをわかっていながら、俺は容赦無く部下に指示を出していた。
     なぜここまで忙しくなってしまったかというと、うちの組では御法度のヤクの密売が発覚したためだった。手を出した不届き者がなかなか尻尾を掴ませず、下っ端だけで対処できる範疇を超えてしまったのが現状だ。
     そうやって後手に回ったことで、裏の世界だけでなく表の世界でもヤクが回り始めてしまっている。それは火貂組にとって俺が動く理由として不足はなかった。

     ——ここで不在がネックになるとはな

     そう。いつもであればここまで後手に回ることはないのだ。なぜかと聞かれれば「山田一郎がいるから」としか言いようがない。情報屋として奴の持ち込む商品は特級品だ。その恩恵がないとここまで思うようにいかないとは、なかなか笑えない話でもある。

    「おい。新しい情報は」
    「はい。兄貴の指示通り各ディビジョンに散らしやしたが、思わしき情報は出てきやせん。ですが、被害はカタギの方でも少しずつ増えているようです。表では警察が動いて沈静化すると思いやすが、裏のヤツの被害となると、無理矢理というよりはそれ相応にでかい金が動いている、としか。今わかっているのはここまでです」
    「っち!結局めぼしい情報はねぇってことか」
    「すいやせん。人員を増やしやしょうか」

     今報告しているのは俺の部下の中でも右腕と言ってもいい地位にいる奴だ。必要以上のことは喋らないし、突っ込んでこない。空気も読めるしでそばにおいて楽と言うのもある。そんな立場の奴に指示を出しているというのに思った以上の成果が出ていない現状。そりゃイライラも増すばかりってわけだ。俺はいつの間にか短くなっていたタバコを灰皿に押し付けた。ポロリと過去の吸殻が灰皿から溢れ出るが知ったことか。

    「いや、これ以上は増やせねぇ。それでひっこまれたら元も子もねぇ」
    「承知しやした。なら、今後は……

     コンコンコン

    「入れ」

     報告をしていた部下がすぐさま俺の前から横に控える。俺がいるこの場所は、ヤクザ・火貂組のお膝元の事務所。そんな場所でご丁寧にノックしかしないのは一人しかいないのだ。

    「この間ぶりですね。左馬刻」
    「なんの用だ。銃兎」
    「少しは世間話をするつもりはないんですか、貴方。連絡もまちまちで、理鶯も心配していますよ」
    「まぁ最近忙しかったからな」

     扉を開いて入ってきたのは銃兎だった。しばらく集まれていなかったのは事実だが、連絡もなしに事務所まで来るのは珍しい。

    「なんか急用か?例のヤクの件なら連絡しただろ?」
    「それに関してはしっかり対処しています。警察が動くのも時間の問題でしょう。私も動いていますしね。今日は別件ですよ。急用といえば急用かも知れませんね。と言っても用があるのは私ではありませんが」
    「あ?もう一人いたんかよ、ってお前は……」

     バサリとかぶっていたフードを外して見えたのは緑と黄色のオッドアイ。山田二郎だ。

    「何しに来やがった。ここはテメェみたいな青臭いガキの来る場所じゃねぇ」
    「……」

     全くなんでこいつらはカタギのガキなんか連れてきたんだ。ここがどこかわかってるだろうに。そんな呆れもあり声をかけたのだが、相手はダンマリをかましてやがる。ただでさえ今の俺の虫の居所はよくない。さっさと用件を話すよう銃兎に視線を向ける。

    「しょうがないですね。今日ここに彼を連れてきたのは前の用件とあまり変わりませんよ」
    「それに関しては答えが出ただろうが。俺に協力する気はねぇよ」

     俺は話半分にポケットに手を入れる。そろそろタバコが欲しくなってきたのだ。しかし見つからず、思わず舌打ちが漏れると横から部下が差し出してきた。俺はそれを受け取るとジッポを取り出そうとした。
     そんな俺を気にせず銃兎は話を続けた。

    「それでは困るんですよ」
    「ぁあ?んでお前が困るんだよ。」
    「それはもちろん、警察も関わりがある件だからですよ」
    「ハッ!お巡りさんの尻拭いを俺にやれってか?こっちにそんな余裕はねぇよ」

    「いいんですか。山田一郎が死にますよ」

     いつの間にか手に持っていたタバコは火をつけられることもなく床に落ちていた。その音が静まった事務所の中やけに響いた。今もし目の前の奴らが何かを言っていたとしても、俺の脳は理解などしていなかっただろう。俺の脳内に響いていたのはただ一つ。

     “山田一郎が死ぬ” その言葉だけだった。

     その事実はまさしく言葉の刃となって俺の身を切り裂いた。離れることを決めたときから覚悟していたはずだった。でもそれは自分が死ぬ事でアイツを一人にすることの方が確率としては高いとたかを括っていた。こんなにも身を裂かれ、冷たい汗が背を流れる事になるなんて想像できるはずもなかったのだ。
     きっと俺の顔からは血の気が引いている事だろう。銃兎たちがこちらを覗き込もうとするのがいい証拠だ。

     ——あぁ、それでも俺はあの約束を守らなければならない。それだけは、きっと変わらない。例えアイツが本当に死ぬ未来が迫っているとしても

     もはや約束に縋り付くようだと心の中で一人自分を嘲った。

    〜***〜

    Side 銃兎

     ——まさかここまで動揺するとは……

     左馬刻の様子に気づくと、声を出すのを躊躇ってしまう。目の前の左馬刻の顔からは血の気が引き、もともと白い肌はもはや青い。俺や二郎くんの声などもはや届いていないのかもしれない。


    「左馬刻、大丈夫ですか?一度座ってください」
    「……気にするな」

     このまま話を進めていいのか。そう悩んだのが伝わったのか、高そうな椅子に体を預けた左馬刻が力なく新しいタバコに手を伸ばす。これはコイツの話を聞く合図だと俺は知っている。

    「前に説明した通りマイクによる精神攻撃を受けたのは山田一郎だけだ。しかし同じマイクと見られるマイクを使った被害はそれ以前に発生していた。理鶯と共に被害者のところを訪ねたが、須くベッドの住人になるか死亡していた」
    「シ、シンジュクの先生が言うには、ずっと夢を見ている状態だって」


     二郎くんも珍しい左馬刻の様子に戸惑っているのか、言葉にいつもの突っかかる気配はない。

    「それでなんで俺のところに来る。ご存知のとおり、俺はお前の兄貴と犬猿の仲だ。アイツの想い人であるはずもない。弟大好きなアイツのことだ。お前らが近くで声をかけてやってた方が目を覚ます確率は高いだろ」

     ——犬猿の仲ねぇ……

    「そんなこと、もうやったに決まってるだろ!つーか、犬猿の仲って言うけど、さっきめちゃくちゃショック受けてたじゃねぇか!」
    「知るか」

     ギシリと椅子が軋む音が部屋に響く。

    「さっさと帰れ。俺から話すことはない」

     そう言って左馬刻は俺たちに背を向ける。まあ、言い分は分からんでもない。


     ヒュッ

    「兄貴!」

     振り返った左馬刻に拳が迫ったが、流石にそれには部下が動く。しかし、その拳は殴るために向けられたものではなかった。

    「こんな手紙残させておいて、兄貴と何もなかったフリなんてするんじゃねぇよ!」

     迫ったのは拳ではなかった。バサリとその手に握られた封筒が音を鳴らす。
     その行動に、攻撃ではなかったため左馬刻の部下がどう対応したものかと視線で指示を仰ぐ。左馬刻は深く、そりゃもう深くため息を吐いた。

    「片桐、引け」
    「すいやせん。出過ぎた真似でした」
    「いい」

     左馬刻は突き出された手紙を手に取り、部下を下げた。あまりに静かな動きに、二郎くんが思わず息を呑むのが後ろから見てもわかる。ヤクザらしい外見からあの動きは俺たちも最初は驚いたものだ。再び左馬刻の背後に控えた男は、こちらを一瞥すると静かにその視線を伏せた。

     それからしばらく部屋には左馬刻の紙を捲る音だけが響く。そして最後の手紙にたどり着くと明らかに左馬刻の表情が変わる。この距離で聴こえるはずもないのに、左馬刻の唾を呑んだ音が聞こえた気がした。そのあまりにも大きな変化に俺たちは呑まれてしまっていて、左馬刻が手紙から顔を上げていたことに一瞬気付くのが遅れた。
     顔を上げた左馬刻の鋭い視線が俺たちを射抜く。ただハマを仕切る王がそこにいた。

    「もう一度言う。俺にアイツを助ける義理はない」

     その眼光に射抜かれた俺たちは言葉を発することなどできなかった。そこにいるのは、確かに一人の、鍛えているとはいえ細身の男で、武器という武器も、ヒプノシスマイク でさえ手にしているわけではない。
     それなのにどうしようもなく圧倒されるのだ、この碧棺左馬刻という男に。
     男の瞳はとても静かにこちらを見据える。ただその視線に感情などはなく氷のようにただ冷たく俺たちを見下ろしていた。あいつは椅子に腰掛け、俺たちは立っているというのに、だ。見るからに顔色が悪くなったニ郎くんを視界の隅で確認しながら、俺はツゥーッと背中を冷や汗が流れるのありありと感じていた。どうにかしてこの状況を打開しなければならない。しかしどうやって。そればかりが俺の脳内をグルグルと巡っていた。

    「なら義理があればいいんだよね?」

     極寒の地の如く凍りついた空気を切り裂いて通った一声。そこにいた人間全てが、その発言者に顔を向ける。一人は沈黙を貫き、一人は瞠目したのち睨みつけ、残る者は安堵をその視線に乗せた。誰が誰とは言わずとも理解されるだろう。声の持ち主ー三郎はツカツカと左馬刻の目前にまっすぐ進み出た。

    「勝手に俺のシマに乗り込んでくるたぁ、躾のなってねぇガキ共だな」
    「ハッ!アンタに対して通す礼儀はないね。それに、そもそも僕がここまで来れたことこそ問題なんじゃない?アンタの手下、弱すぎ」

     左馬刻があからさまに顔を背け大きく舌を打つ。背後に控える部下も何も言いはしないがその表情は苦い。

    「……テメェまで何しに来やがった」
    「一度言ったことも理解できないの?ホント、これだからバカは困るんだ」
    「アァッ?」
    「僕がここに来たのはアンタが動く理由、“義理”ってやつを持ってきてあげただけ。ここまでしないと動かない腰抜けさんのためにね?理鶯さん、もういいよ入ってもらって」

     そう言って笑う顔は悪役そのものだ。しかし彼が煽り混じりに発言した内容は、俺たちも知らない。元々最初から別行動していたため、詳しいことを知っているのは同行していた理鶯だけなのだ。今だって場の主導権は三郎くんが握っていて、俺たちはただの傍観者と化している。
     場を乱すわけにもいかず、俺たちは三郎くんに呼ばれた理鶯を待つ。そして共に部屋に入ってきた人物を見て言葉を失うこととなる。

    「理鶯?お前まで何やって……は?」

     流石に左馬刻も言葉が出ないのか、さっきから口が開いたままだ。そりゃそうもなる。なんせ入ってきた御仁は、

    「わざわざ僕がヤクザの組長を連れてきたんだ。さっさと心変わりしてもらうよ」

     火貂組組長であり左馬刻が親父と慕う人物。火貂退紅その人だったのだから。
     
    ~***~

    Side 左馬刻
     
    「なんで親父が……」
    「それは俺が答えてやろう」

     思いもよらない人物の登場に立ち上がった左馬刻を見て、ニヤリと口角を上げただけの笑みは凄みがある。この凄みに思わず膝を折った人間がどれだけいたか、左馬刻は何人も見てきた。同時にこの男がそんな人間に興味はなく、むしろ膝を折らない人間を好んでそばに置くことを左馬刻自身の立場も含めて理解していた。

    「何日前だったか、この坊主とお前のチームの軍人殿が屋敷に来てな。お前のことで話があるってんで通したわけだ。で、その時に交わした取引の代償として俺はここにいる」
    「堅気と取引したって言うのかっ!」
    「何を驚くことがある。申し込んだのはあちらさんだ。そもそも此方の世界の理を犯さないならば今までも関係は築いてきたはずだ」
    「それは……」

     その言葉に偽りはない。利用できるもんは利用する。それが裏の世界のセオリーであるし、例に漏れず左馬刻も同じ考えだ。つまり左馬刻の発言は問題は別にあると言っているに変わりない。それは退紅もわかっているのか、思わず俯き視線が合わなくなった左馬刻を見下ろして、ハンっと鼻を鳴らした。

    「ったく、俺は驚いたんだぜ?もともとお前にはマイクが関わることは任せっきりだし、若頭としての仕事もよくやってくれてる。壁が壊れてからは、イケブクロからの情報元が増えてたようだし、ディビジョンごとの関わりもあるようだったしな。それがまさかこの四年間、お前と山田一郎の関与がないなんてな」

     そもそも三郎が訪ねてくるまで、左馬刻と一郎の仲は修復したのだと思っていたのだ。だがお互い表の立場もある。だから火貂組の若頭と情報屋という関係性に落ち着いているものだとばかり思っていた。退紅としても青天の霹靂な訪問だったわけである。

    「理由はなんだ。……まぁ、答えねぇだろうな、お前は」

     退紅は先ほどから黙ってしまった自分の義息子を見る。容姿も能力も純粋な力も強く、上に立つ素養を思う存分発揮して今の地位につく男は、今だけは下を向き静かだった。そこまで己の義息子を変えてしまうとは、今ここにいない男と純粋に会ってみたいと思ったのは退紅だけの秘密だ。だがそれを実行するのは今じゃないこともよくわかっていた。

    「そこの坊主が屋敷に襲撃して最初に切った啖呵を教えてやる。
    『火貂組は一幹部のまわりくらい守れない腰抜けの巣窟か』だとよ。舐められたもんだよなぁ、左馬刻。てめぇもそう思っていたのか?」

     ギロリと見据える眼光はヤクザそのものと言っていい。しかしその発言を許容する左馬刻ではなかった。暴虐無人と称される左馬刻の行動ではあるが、それは組を思うものであることは間違いない。何より退紅に恩義を感じ、意外にも仁義を尊ぶきらいのある左馬刻がそんなことを考えているとは退紅も本気で思っていない。だが、ここで重要なのは第三者にそう言われる状況があったということ。

    「『堅気だから守れないのか?』だとよ。煽られたもんだなぁ、まったくよ。
     ここまで煽られちゃあ、組の沽券にかかわるってもんだ。そうだろう、バカ息子」

     左馬刻は答えない。だがその視線は、これからの退紅の言葉を咎めるようにじっと見つめていた。残念ながらそんな視線ごときで止まるような男ではなかったが。

    「火貂組組長としてここに宣言する。山田一郎以下二人の弟を含めてこの組の庇護下におくと。理由は一つ。息子の伴侶は俺の子供に決まってるからだ」

     ——ああ、言ってしまった

     そう思ったのがその場にいる誰もが理解できるほど、左馬刻の肩から力が抜けた。
     若頭としては威厳のへったくれもない姿だというのに、その上に立つ組長の表情にそれを卑下する感情は見えない。むしろそこにあったのは慈愛とも言うべき柔らかなものだ。ヤクザものとは思えないほどのそれは、如実に左馬刻に対する想いを周知させた。

    「左馬刻、てめぇも山田一郎も周りを頼れ。んで、自己犠牲もほどほどにしておけ。じゃねぇと今日みたいにおっかない弟たちがより命知らずな方へ舵を切るみたいだぞ」

     そう告げて立ち去る御仁の姿が見えなくなるまで、誰も口を開かなかった。その場にいたもの全て、その迫力に呑まれていたのだとのちに語られることになる。


    ~***~

    Side 銃兎

    「ハッ!まさか親父まで出てくるとはな」

     沈黙を破ったのは固い左馬刻の声だった。どこか諦めをにじませるその声に、俄に山田家の二人が期待をこめて左馬刻を見つめていた。

    「それはつまり、一兄のところへ行ってくれるってこと?」
    「ここまでやられて動かないわけにいかないからな。それにこの一件で既にアイツとの約束は破ったも同然だ。これ以上の悪化は俺も望むところじゃねぇ。片桐」

     徐に部下を呼んだ左馬刻の声は剣呑さを帯びていた。突然の変化に戸惑うこちら側だったが、呼ばれた当の本人の顔に怯えも驚きも浮かんでいなかった。その態度に左馬刻は顔を顰める。苦々しいその表情はあまり見ることがない珍しいものだった。

    「……その態度は言い訳はねぇって事でいいんだな」
    「する必要がありやせんでしょう?兄貴ももうわかっていやすでしょうに」

     ずっと無表情だった部下ー片桐が初めて感情を表に出す。それは左馬刻に対して反抗を示すものではなかった。片桐は微笑んでいた。

    「兄貴にとってあの人が特別だと言うことも、この世界に関わらせることをよしとしていないことも、陰ながら気にかけようとしていたことも知っていやす。それを実行に移していたのは自分含め兄貴の下についてる奴らですから、当然と言えば当然でやすが」

     そこで言葉を切った片桐はおもむろに三郎の方に振り向いた。三郎もそれに応えるように小さくうなづく。そのやり取りで気づく。布石はいつの間にか打たれていたのだと。

    「イケブクロにおいた事務所の管理用に人材を送ることが決められた時、これとない機会だと考えやした。兄貴の特別を守れる、と」

     その言葉に左馬刻が目を見開く。俺としても昔みたブクロの光景にようやく納得がいく。あれは左馬刻の指示ではなく、いわば部下の勝手な行動だったと言うわけだ。

    「兄貴はあの方と出会わないようにブクロに向かうことはないでしょう。だからこそ、多少の人数の誤魔化しが効く。投入する人材の増加に文句の言う奴はいませんでしたよ。古くから兄貴の下につく俺みたいな奴らは寧ろ自分を売り込んですらきやした」
    「ほう。左馬刻は慕われているのだな」
    「ええ。だからこそ三郎さんが接触してきたと報告があった時も、こちらに関わらせるという意味ではなく、兄貴の特別を守るという領分内でならば手を貸すことにしました」
    「ですが、今回の件、貴方達ヤクザのしきたりを破っているのでは?」

     思わず口から出た疑問だったが、俺がしなくともいずれ誰かがしていたことだろう。きっと誰しもそう思っていたはずだ。片桐が、堅気を組長との間を取り持った理由を。

    「領分は確かに侵していやすね。堅気をこっちの世界に関わらせた。それは責められるべきことでしょう。ですが、そんなこと知ったことではない。言ったでしょう?自分たちは兄貴の特別を守るだけ。正直なことを言えば、兄貴の特別を守るならば、最悪あの方の弟だろうと巻き込む覚悟はとっくの昔に決めていた。巻き込むと決めたからには全力で守る覚悟も、責任を取る覚悟もしたうえで、です」
    「それは此方も納得の上だった。だから僕も理鶯さんを一応連れて行ったし、組長さん以外には顔も見せていないよ」

     そこにはただ覚悟を決めた男が立っていた。きっと先ほどから静かな扉の向こうにもそんな顔をした左馬刻の部下が今回の勝手に対する沙汰を待っているのだろう。
     左馬刻はその様子を一瞥し深くため息をついた。

    「……わかった。沙汰は後だ。今から先生のところへ向かう」
    「はっ。下に車を回してきやす。自分はここに控えておきやすか」
    「そうしろ。この件にか関わったやつらもまとめておけ」
    「承知しやした」

     片桐は小さく頭を下げたかと思うと静かに部屋を出て行った。それを目で追うこともなく、左馬刻も椅子にかけていた上着を取り、出る準備を進めていく。
     しかし、先ほどから言葉を発さない俺たちに胡乱げな視線を向ける。

    「何してる」
    「いや、なんだか怒涛だったなぁ、と」
    「テメェらが引き起こしたことだろうが」
    「それはそうなんですけどね」

     わかってはいるのだ。事務所に乗り込んできて最終的に左馬刻を引っ張り出せたのだから、当初の目的は達成したと言える。ただ、組長の乱入だったり、それに左馬刻の部下が関わっていたりといろいろ想定外のことがあったのも事実なのだ。現実問題、二郎くんは勝手な行動をしていた三郎くんに突っかかっていることだし。そんな微笑ましい兄弟喧嘩を眺めながら我らが王様に声をかける。

    「……あの手紙、ちゃんと読んであげてくださいね。あんな熱烈なラブレター久しく見ませんよ」
    「……お前らに先に見られたのは癪だがな」

     その一言に思わず首を回す。まさかそんな殊勝なことを言うとは思ってはいなかったのだ。

    「なんだよ」
    「……お前、さっさと素直になれよ」
    「知るかよ」

     左馬刻は短くそう応えるとさっさと部屋を出てしまった。俺や二郎くん達も慌てて追いかけるように部屋を出る。

     愛車の元へ向かいながら、目の前を歩く未だ山田一郎との関係を認めない不器用で頑固な男をどうしたものかと考える。病院に行くのも、ある意味三郎くんが組長による義理を作ったからだ。元々は巻き込んでしまった山田一郎を目覚めさせるためだったが、ここまできてしまえば、この不器用な二人がしあわせになってほしいと柄にもなく願ってしまう。しかしそのために切れるカードは俺自身持っていない。

     ——だが、あの人たちならもしかするかもしれない

     俺は運転席に乗り込むと、エンジンをかける前に己の端末である人へと連絡を取った。
    夕霞 Link Message Mute
    2021/04/19 18:00:00

    最後のひと押し

    こんばんは、夕霞です。
    いよいよクライマックスに近づいてきました。
    そんな話にふさわしくあの大物の登場です。

    それでは注意事項を読んでお楽しみください!
    #二次創作 #左馬一

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