誰が為の別離注意事項
【ATTENTION!!】読む前に確認お願いします
・「ヒプノシスマイク」の二次創作作品です
・カップリングとして「左馬一(碧棺左馬刻×山田一郎)」が含まれます
・周りのキャラも多いです
・創作設定も多くでてきます
・文章は拙いです
・ご都合主義です
上記の点確認の上、自己回避よろしくお願いします
なんでも許せる方のみお楽しみくださいませ!
Side 一郎
たぶん、最初からお互い考えていたことだった。
いわゆる戦後処理、そして誤解によってもたらされた疑念の解消。それが終わった後の俺たちに残っていたのは、ただ互いに対する煮詰めすぎた想いだけだった。
戦いの後特有のなんとも浮わついた空気の中、俺達は密会を重ねた。その名の持つ印象とは裏腹に、会ってしたことといえば話し合いに他ならず、なんと色気のいの字もないと笑ったこともあった。
一体何度目かの話し合いだっただろうか。もう覚えてないけれど、どちらからともなく切り出した。俺の家族のこと、アイツの守るべきメンツのこと、そしてお互いの存在。昔に比べると随分守りたいものが増えたと自覚していた。きっと、ただ守るものが増えただけならばこの結末は選ばなかっただろう。俺もアイツも今まで何もしていなかったわけではない、むしろ力を伸ばしてきた毎日だった。
だがそれ以上に、俺たちの間に刻まれた過去の亀裂がずっと記憶の隅に残っていた。
過去を変えることはできない。そんな世の真理を理解していないわけではない。
ただ恐ろしかった。また互いを憎み、殺し合う未来が。
臆病者と言われようと、次同じことが起こる可能性を考えずにはいられない。きっと俺たちの立場は二度目の可能性を上げていくのだろう。そばにいればいるほど、お互いに守るべきものがあるが故に俺たちは対峙する。そんな確信めいた思いを二人とも抱いていた。
それだけは。それだけは嫌だと、無理だと二人とも心が叫んでいた。そんな“次”こそ俺たちの全てが終わる時だと冗談なく思ったのだ。
それならば、離れる方が何倍もいい。お互いがお互いを想っている。その事実さえあれば、別の場所でも生きていける。守るものを可能な限り危険から遠ざけることができる。それが俺たちの出した結論だった。
別れる、いや復縁をしない決意をした俺たちは互いに最後の贈り物をすることにした。条件は、見るからに高級そうなものは贈らないこと。お互いからの贈り物だとぱっと見バレないものを選ぶこと。俺からアイツには無骨なジッポを贈った。いつだったか依頼の片手間に教えてもらった刻印は初めてにしてはうまくいったし、見る限り気に入ってくれたと思う。アイツが俺にくれたのは何と金庫だった。といっても机の上にも置けるような比較的小さなもの。それでもアイツがよこすものだからかなり良いものらしく見た目以上に重く、内容量も少ない。鍵は俺が決めろと説明書も投げられた。
「何で急に金庫なんだよ。ロマンチックのかけらもねぇな。つーかさ、俺は金庫も買えないって思われてんの?」
「そうじゃねぇよ。悪かったな、お前と違って色気のねぇもんで。それは俺の罪滅ぼしみたいなもんだ」
「いや、そういうの求めてねぇし、ほんとにそういう意味で買ってくれたならバレなさそうで良いと思うけどって、え?罪滅ぼし?」
「お前が一人で起業するって大変な時、何もしてやれなかったただの俺様のエゴだから受け取れ。その鍵はアナログだが、鍵の暗号さえ知られなければ確実に開かない。俺様の世界でも使ってるやつだから保証する」
正直、そんな大層なもん贈ってくんなって思った。けど、その時のアイツの顔がやけに思い詰めていて、それが少しでもマシになるならと受け取ることにした。金庫は濃い紺色でどこかアイツを思い出せると思ったのは内緒だ。
きっと理解はされないだろう。過去の俺たちを知っている人たちからは、なぜなんだと責められるかもしれない。けれど、もう決めたのだ。俺たちの間に再び関係が結ばれることはないと。
少し本音を漏らすなら、弟たちのことやブクロのこと以上に考えていたことがある。
それはやっぱりアイツのこと。17歳の時から俺からいろんなものを奪っていった人。憧れも信頼も恋も、みんなあの人に奪われた。そしてもちろん憎しみや怒りも。俺の感情全ての終着点にあの人はいた。そんな全ての感情があの戦いで解消された。だけど、それでも残った感情が俺の中にあって、それを向ける相手はやっぱりあの人だった。世界で一番激しく濃い感情は「愛」なのだと俺はアイツに気付かされたのだ。
だから守りたいと思った。俺にとって愛を与えることは守ることだから。俺がそばにいてアイツが危険になるなら、絶対にそばになんていけない。行くわけにはいかないと思った。
でもそれは、そばにいて好意を向けられるのが怖かったからかもしれない。理由があっても、アイツが俺を信じなかった事、俺が裏切ったと信じた事は事実だったから。同時に、出会ってからアイツには与えられてばかりだったから、俺からも返したいと願っていたのかもしれない、なんて。今となってはわからないけれど。
あの日、別離を決めたあの日を俺はよく覚えている。最後に会った日はほぼ記憶にないっていうのに。それはきっと、俺の言葉に苦く笑ったアイツが、目に焼き付いて離れないからだと思う。
「なぁ、左馬刻」
「んだよ」
「終わりのない恋が喜ばれる世界でさ、俺たちの恋は始まらないんだ。なんかさ、笑えるな」
「……笑えねえよ」
「そっか。やっぱあんた優しいな」
それからアイツと二人きりで会ったことはない。
政権を倒した仲間たちと飲むことがあっても、その場では過去の先輩後輩。そんな関わりしかしなかった。寂雷さんや乱数から気にされてるのは知っていた。申し訳ないと思いつつも、俺はそれに応えることはなかった。ただの知り合い、それ以上でもそれ以下でもないと。何度も、何度もそう伝えるたび彼らは何も言わなくなった。
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あれから四年。世間は変わろうと萬屋への依頼はありがたいことに減ることもなく。今日も俺は「萬屋ヤマダ」としてブクロの街を走り回る。
〜***〜
Side 左馬刻
「この金庫をお前にやる」
そう言って約束の贈り物とやらに金庫を与えた。
俺の持つクリーンな金で買った金庫で、昔から丈夫さとセキュリティの高さが有名だったものだ。鍵もあいつが変えてしまえば俺でも手が出せない宝箱の出来上がりだ。
急に手渡された金庫に目を白黒させているあいつは可愛かった。なぜだと問いかけ、施しかと怒りを見せるその強い視線がとても好みだった。
「それは俺の罪滅ぼしだ」
その一言であいつはどれだけ理解しただろう。
昔、いや今や一家の長であり三人兄弟の長男でありディビジョンの代表であり萬屋の社長。俺以上に沢山の肩書きを持つアイツに、何か隠す場所を与えてやりたかった。どうせ家にいても「お兄ちゃん」の仮面を外せない不器用なアイツの、大切なものを守ってくれる場所として使ってくれないだろうか。そう願ってのことだと、あいつは理解していただろうか。
俺がそばに居るなら、胸に引き込んで周りから隔離だってしてやるし、本当に見られたくないもんならそれ用の場所だって提供してやれる。
だが俺たちの選択はそれを許さない。それでも何かしてやりたかった昔と今の俺のエゴだった。
最初は渋っていたあいつだったけど、そんなことを色々端折りながら伝えれば大事そうにそれを抱えた。俺はそれだけで何か満たされた気がしたもんだ。
あいつは俺にジッポを渡してきた。無骨なジッポに目立った模様はなかった。あるとすれば端に隠れるように彫り込まれた3つのXとそれを横切るように引かれた一本の線。これはあいつが彫ったのだという。これからはできなくなるから。そう言ってあいつは笑った。それから俺はそこに口付けるのが癖になった。
かなり長くかかったと思っていた話し合いも、結末を決めて仕舞えばあっという間に感じた。結局、アイツには家族を守る為だとかメンツを守る為だとか色々言いはしたが、根本的な俺の思いはアイツを守りたいだけだった。
俺はいつも一番守りたいものを守れない。母親も妹もそうだった。今一番守りたいものはアイツだ。俺が憎み愛した美しい男。俺と並ぶ強さを持つアイツに守ると言うのは喧嘩を売ってるようなものだろう。
だとしても、俺はヤクザだ。それも若頭という立場にいる。つまり俺の周りは常に暴力と喧騒の気配に満ちている。アイツ一人なら問題ねぇ。だが、俺を厭う奴が弟どもを人質に取ったら?成長して強くなったから問題ない?ならブクロの人々が犠牲になるなら?俺一人にその全てを守る力は無い。
アイツはどう動くか言わなくてもわかるだろう。きっと己の身を顧みず手を伸ばすのだ。
ヤクザは俺一人じゃねぇ。下っ端も数えりゃ何百と人手がある。数は一種の力なのだ。俺はそれをよく知っていた。そしてアイツがそんな自分以外の人を見捨てられない偽善者だってこともまた、俺はよく知っている。そんなところもさえ愛しいと認めているのだ。
だから俺たちは離れる選択肢を選んだ。それが俺の愛した男を守る最善手だと信じていた。ただ俺がアイツがこれ以上傷つくところを見たくないと思っていただけかもしれないが、もう後の祭りだ。
最後の逢瀬は正直そんなに覚えていない。いつも通り、飯を食って別れた。なんてことない、人と人の別れだった。
それからあいつと二人きりで会ったことはない。
政権を倒した仲間や過去のチームメイト達と飲むことはあっても、「過去に先輩後輩みたいなもんだった」そんな関わりしかしなかった。先生や乱数、銃兎たちからも気にされてるのは知ってる。でも、俺はそれに応えることはなかった。それがあるべき関係なのだから。
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あれから四年。世間は変わろうとヤクザのやることがそう変わるはずもなく。俺は一人ヨコハマの夜景を見下ろしている。