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    しおり
    幸多かれ注意事項後書き注意事項
    【ATTENTION!!】読む前に確認お願いします

    ・「ヒプノシスマイク」の二次創作作品です

    ・カップリングとして「左馬一(碧棺左馬刻×山田一郎)」が含まれます

    ・周りのキャラも多いです

    ・創作設定も多くでてきます

    ・文章は拙いです

    ・ご都合主義です


    上記の点確認の上、自己回避よろしくお願いします
    なんでも許せる方のみお楽しみくださいませ!

    Side 左馬刻

    「待っていたよ、左馬刻くん」

     そう言って先生はいつも通りの慈愛の満ちた笑みで俺たち一行を迎えた。アイツの病室に行く前に経過の説明をしたいと、先導するように先を歩く先生にそれぞれついていくしかなかった。連れてこられた部屋はいつもの診察室より広さのある部屋で、見舞いにはどうしたって多い人数に合わせた先生の気遣いを感じる。
     一通りの経過の説明が終わった後、部屋の隅に寄りかかっていた俺に先生が向き直った。

    「君がここにいるということは、一郎くんとのことも心配しなくていいのかな」
    「さあな」

     俺がここにいるのは、アイツの弟が繋げやがった親父との約定に基づくものだ。そこに俺の意思は無いも同然だ。
     ……まぁ、あの手紙を読んでしまってから、親父の言葉を聞いてから、もう約束が破られている事実も含めて揺れている己の心情も自覚している。しかしそれを素直に伝える必要もない。

    「そうですか。……左馬刻くん、少し話す時間をもらえないだろうか」
    「いいぜ。ここまで来たら先生の話だろうがなんだろうが聞いてやるよ」
    「ありがとう。悪いけれど部屋を移しても構わないかな。二郎くん達はそのままここにいてくれていいからね。一郎くんのところに行くときはちゃんと声をかけるから」

     俺が先生の誘いに頷くと、ガキどもに声をかけて部屋を出ていく。それに続くように部屋を出るとすぐそばで先生が待っていた。

    「どこ行くんだ、先生」
    「君も馴染みある場所だよ」

     そうして連れてこられたのはいつもの診察室。しかし、いつも通りの白い部屋に思えた場所は目にも鮮やかなパッションピンクにその印象をガラッと変えられていた。

    「ハッ!これが目的か、先生?」
    「話がしたいのは間違い無いですよ。ただそれは私だけでなく彼も、ということですが」
    「やっほ~左馬刻!」
    「チッ!」

     乱数と先生。そして俺。眠っている一郎を除けば、いわゆる伝説のチームメイトが揃ったわけになる。俺は思わずタバコを吸おうとして、ここが病院だという事実を思い出し大きく舌打ちを打った。
     苛立ちに思考が囚われそうになるが、呑まれて仕舞えば思う壺だ。俺は患者が座るために用意されている椅子を掴むと乱暴に腰掛けた。

    「……要件はなんだ。さっさと話せ、乱数」
    「えー僕から?ま、いいけどねん!」

     その刹那、乱数の纏う空気が変わる。いつもの飄々とした雰囲気は一変し、硬い空気が空間を支配した。もちろんその程度で俺が動揺することはない。乱数の本性とも言えるこれを経験したことがないとは言わないし、生業的に日常茶飯事だ。

    「左馬刻はさ、一郎との関係どうするつもりなの?」
    「義理がある。ならそれを果たすのが筋だろ」
    「本当にそれだけ?もういい加減にしなよ。僕たちに隠し事なんてできると思わないほうがいい」
    「……」
    「今度はだんまり、か。左馬刻らしくないね。オマエもそう思うよね?」
    「そうですね。今回の件、あまりにも君らしく、いや君たちらしくない」

     自然二人に責められる形となり、なんとも視線を逸らしたくなる。だがそれを許さないと乱数の怒気がふわりと膨れ上がる。

    「……一郎と左馬刻が、変な関係に落ち着いてたのは僕もソイツも気付いてた。でも、僕達が声をかけていいのかわからなかった。二人が決めたことなら文句を言う権利は僕らにはないしね。でもさ、しばらくして後悔した。なんで止めなかったんだろうって」
    「自分でも気づいているでしょう?一郎くんも左馬刻くんもボーッとすることが増えていました。目の生気も諦念が滲むようになった。それでも互いを見る目は想いあっているのだから、私たちも判断を間違えてしまった。君たちを思うなら、もっと早く止めさせるべきだった」

     悔いるように語られる思いに俺の方はどうしたらいいかわからなくなる。俺やアイツに対しての考えだとは分かっている。だがそれを理解できないのだ。だからそれが素直に言葉となって口からこぼれ落ちた。

    「随分なご高説だな。俺とアイツの関係なんか気にしなければいいのに」
    「それ本気で言ってるなら怒るよ」

     ——もう怒っているだろーが

     そう言いたくなるが、言うことはできなかった。無理矢理口を塞がれたなどというわけではない。それより早く乱数の怒りが爆発したのだ。

    「なんで二人はそうなのッ!いっつもいっつも自分以外のことばっかり考えてッ!弟達も巣立ちして、妹のことも落ち着いて。もういいじゃん!なんでっ……自分の幸せを考えてくれないんだよ…………ッ!」

     もはや怒りながら泣いていると言って過言ではない。そんな状態の乱数にしばらく言葉を失う。その間にも、先生は乱数にティッシュを渡したりして世話をやいているのだから、この二人の不仲もだいぶポーズだなと頭の片隅で考える。もはや現実逃避に近い。それぐらい言葉の意味を理解することができなかった。先生の乱数の世話がひと段落つく頃、ようやっと漏れた俺の声はなんとも惨めで小さく頼りなかった。

    「今更だと思わないのか」

     正直な気持ちだった。
     何も言わない二人に、「最後まで話せ」という意思を感じて、俺は今自分が抱く思いを少しずつ言葉にしていく。

    「二人で決めたことだ。話し合った、ぶつけ合った、譲り合った。その結果がこの関係だ。裏にどんな思いを抱いていたとしても、それを隠して見せかけの平穏を選んだ。そんな俺にアイツを求める権利があると思うのか」

     あのまま病院で眠っていれば、アイツが危険な目に遭う可能性は限りなく低いだろう。俺も認める安全な場所に眠り続けるんだ、心配いらない。
     そう思っていた。だが、それは俺の思い上がりなのではないか。そんな考えが生まれてきてしまった。今日、様々な人からかけられた言葉は俺の中でこの不穏な考えを導き出した。太陽のように笑い、宝石のような瞳から涙を流すアイツのコロコロ変わる表情を失うことは、アイツの喪失と変わらないのではないだろうか。それだけじゃない、

    『左馬刻』

     時には憎しみを、労りを、好意を乗せて呼ばれた己を呼ぶあの唯一無二の音を失う。音に言葉を乗せ、幾度も幾度もぶつかってきた俺たちにとって、それはもはや死刑宣告に近いのではないか。

     本当に今更な考えがぐるぐると脳裏を巡る。ただ守りたいとそう思っていただけだった。それがどれだけ難しいことか、俺は誰よりも知っていると、実感してきたとわかっていた。だからこそ今度こそは、絶対に守る。そう誓ったのに。

     血の気が抜けていくのが自分でもありありとわかった。急激に変わる顔色に先生が心配するように顔を覗き込んだ。俺はそれを止めなかった。その瞬間美しい青い目に射抜かれるとも知らずに。

    「それを決めるのは君ではないでしょう」

     ただ一言。バッサリと俺の言葉を切り捨てた。ただ、その声に鋭さは微塵も感じられなかった。美しい青は静かに俺を見据えている。

    「君のその考えは一郎くんが求められたら応じることを前提に考えられている。間違えてはいけない。応えるかどうか決めるのは一郎くんだよ。それに、そんな前提が成り立つと無意識に思い込むほど彼との関係が確かなのなら、似たもの同士の君達が出す答えも似ているのだろうと、私は思うよ」

     普段は年齢を感じさせないというのに、こうも近くで微笑まれると目尻に小さな皺を刻んでいるのがわかってしまう。それが先生の人間らしさと確かに存在する年齢の差を感じさせ、どこか安堵のような気持ちを抱く。
     言い分はわかる。散々似たもの同士と言われてきた身だ。先生の、それから否定しないということは乱数も同意の意見ならば、信じてもいいかもしれない。というより、アイツが同じ答えを持っていないとアイツの目は覚めない。おそらくだが、間違っていないはずだ。俺は目の前に立つ二人に向かって視線を向けた。

    「たとえ二人がどんな思いで別々の場所にいることを選んだとしても、私はいつも君たちに笑っていてほしいし、幸せであってほしいと思っているよ。なにせ元チームメイトで戦友なのだから」
    「っグスッ 僕だって、一郎も左馬刻もちゃんと二人で生きていく道を選んでほしい。一度二人を引き離しちゃったからこそ、三度目の正直は望んでないんだよ」

     いつも通りの笑みに泣き笑い。それぞれの表情は違っているが伝えられた言葉と思いは同じものだ。ここまで言われてひよってみろ。ハマのヤクザの沽券に関わるってもんだろ。


    「……アイツのとこには俺一人で行く。ガキどもは連れて来んな」

     それだけ告げて俺は椅子から腰をあげる。部屋を出ようとする瞬間二人がいつも通りの声で声をかけた。

    「病室は先ほども言った通り301です。鍵は開いているはずですから」
    「一郎の弟達は任せて!」

     それに手を挙げることで応え、俺は部屋のドアに手をかけた。

    「二人とも、ありがとな」

     ボソリとこぼした独り言がすぐに閉められた部屋の二人に届いたかどうか、なんぞ俺は知るわけがない。

    〜***〜

    Side 左馬刻

     ひっそりとした病室にアイツはいた。
     たった一人のベッドの住人しかいないこの部屋は、白で統一された家具のせいで無性に広く感じさせる。病室なのだから当たり前ではあるが、アイツには似合わないように思えてならなかった。

     この広い病室を用意したのは先生だと聞いた。過去の活躍、萬屋としての様々な活動などによって顔が売れているアイツを普通の病室で扱うのは難しいだろう。もちろんそれだけではなく、先生なりにアイツと見舞いに来る弟たちを気にかけているのだと思う。そして、今回はその配慮が功を成したのだから称賛されるべきだろう。 

     さて、弟どもの足止めは頼んだものの、いつまで大人しくしているかわからない。
     俺はやるべき責務を果たすべく、ベットの脇にある椅子に腰掛けた。

    「一郎」

     己の口がこの音を紡いだのはいつぶりだろうか。思えば別れてから呼ぶことがなくなったように思う。名はその人に最初に贈られるものであり祝福なのだと、誰が言っただろうか。俺にとって様々な想いを込めて発してきた4つの音は、何よりも馴染んだ音だった。一番は合歓だが。

    「一郎、いちろ。なぁ、起きてくれよ」

     たがひたすら物覚えの一つのように呼び掛ける。
     それでコイツが起きるのかはわからない。
     だが、俺は覚悟を決めた。その覚悟があの誓いを破るものだとしても俺は貫き倒す。
     だからこそコイツにだって目を覚まして決めてもらわなければならない。

    「話したいことがある。俺たちの大事な話だ。お前の言い分だって聞きたいんだ」

     応えのない部屋に静寂が満ちる。それでも俺は声をかけるのをやめなかった。

    「この部屋は防音だから、この声を聞いてるのはお前だけなんだ。正真正銘、俺から山田一郎へ伝える言葉だ」

     ——なぁ、一郎。俺の声に応えてくれ

     ▼△▼△▼△▼△

     それからしばらくひたすら名前を呼んだ。
     しかしそのどれもに反応はなくて、本当に俺がこいつを目覚めさせることができる条件を満たすのか、自信がなくなってくる。だが一郎が受けたマイクは出回っていたもののプロトタイプ。条件が違うことも考慮に入れていた。もしそれが当てはまるならアプローチを変えなければならない。
     俺はひとまず名を呼ぶのをやめベッドのそばを離れた。部屋にあった窓に近づき自身の端末を取り出した。違法マイクについてもう一度資料を見直すためだ。

    「マイクの効果も解除条件も覚えた通り。実際に回復した奴らのケースも名前を呼ばれたら起きたことが共通、か。何か見落とした条件が存在するのか、それとも根本的に違うのか。いや、マイク自体の性能は高くねぇ。だったらプロと対陽とそう大きく変わってるはずがねぇはずだ。つまり、条件の見落としが有効、だが……あ?んだこれ」

     資料を隅から隅まで読んでいるととある欄に引っ掛かりを覚えた。それはマイクにつけられていた通称をまとめたものだ。そこに記されていたのはある花の名前だった。

    「月下美人……。確か夜に咲く花、だったか?」

     ——それがなぜマイクの名前になどなっているのか

     妙に気になったその疑問を念頭にもう一度資料を読み込む。そこでようやく点と点がつながる感覚が脳裏を駆け巡った。その感覚に背後を押されるようにもう一つの懸念も調べをつける。ピースが揃った。

    「なるほどな、だからこその名前ってわけか」

     回復した被害者の目覚めた時刻に共通性があったのだ。それは全て夜。それも三日月などではなく、半月以上の月明かりが明るい夜なのだ。資料には書かれていないが、ここまで条件が揃っていることを見ると、患者は窓の近くだったか月光が当たるところにいたのだろう。俺は部屋の明かりを消し、すぐさまカーテンを全開にすると窓を開けた。

     目の前に現れた月は満月だった。その柔らかな光が一郎にあたる。月光に照らされた一郎の姿は、少し痩せたおかげもあってかどこか儚く美しい。これで条件は揃ったはずだ。俺は再び一郎のそばに座るとその手をそっと握った。そのまま己の額に押し付けるように当てたまま静かに告げた。

    「いちろう、一郎、一郎。戻ってこい。俺を一人にするな。……俺の名前を呼んでくれ」

    〜***〜
     
    Side 一郎
     
     ——だれかよんでる?

     そんな気がして重い瞼をどうにか持ち上げる

     それもすぐさま閉じてしまいそうなほど眠気が襲ってきていて、どうにかその”音”を探す

     どこか聞いたことがあるその音の持ち主は、俺の名を呼んでいるようだ

     何度も何度も呼ばれるが、もはや光が届かないところまで落ちてしまった俺の周りは暗闇に閉ざされていて音の出どころを正確に測ることはできないでいた

     それともう一つ、この音の持ち主に俺は心当たりがあるために少し混乱すらしていた

     ——なんでお前がここにいるんだよ、左馬刻

     もう会わないと決めたはずだろ、そう言いたいのにそれ以上にこの声に安堵している自分がいた

     最後に聞きたいと思っていた声を聞けたことで何かが緩んだのかもしれない

     ここなら誰も聞いてないから、と口から本音が転がり出た

    「さまとき、に、あいたい」

     ずっと好きだった 愛していた そばにいたかった 隣に立ちたかった

     諦めたはずの想いは次から次へとこぼれ落ちて、自分自身全く折り合いをつけられていなかったことにようやく気づく

     その間も左馬刻からの呼びかけは続いている

     声は俺の自惚れを除いても切なくて、甘くて、俺を求めるアイツの声だ

     ——もう諦めるべきなのかもしれないな

     俺は誰も見ていないのに苦笑した

     堰を切って溢れ出した想いは止めることができそうにないし、俺が求めるように相手も求めていると知ってしまっている

     ならばその手を取ると、別離の誓いを破ると、腹を括る

     そんなタイミングを読んだように、美しい月色の光が目の前に伸びてくる

     俺はその光に向かって思いっきり手を伸ばした

     ▼△▼△▼△▼△

    「……ぁとき」

     ピクリと伏せられていた体が揺れ、そのままガバッという効果音がつきそうな勢いで頭が上げられた。
     うっすらと開いた瞼の間から、想像通りの人影がぼんやりと見える。どれだけ眠っていたのかわからないが、この視力の落ち込み様をみるにそれなりの時間は経っているのだろうと思った。パチリパチリと瞬きを繰り返すごとにぼやけた視界が徐々にクリアになってくる。つまり目の前の男のこともよく見えるようになるわけで。

     ——左馬刻、痩せたなぁ

     きっとそれは己にも言えることなのだろうけれど。そう内心で考えているうちも目の前の男、左馬刻は大きく目を見開いたまま動かない。そろそろ握られている手も感覚が戻ってきて少し痺れてきている。それでも今できる最大の力で握り返した。

    「ッ……遅えんだよっ……!」
    「…ぁりぃ、な」

     くしゃりと歪んだ顔に涙は流れていなかった。部屋が暗いから明確なことはわからないし、正直耳も喉も十分に働いていない状況だ。でも、左馬刻がここにいることがなぜか無性に嬉しかった俺は、そんな表情をしている左馬刻が愛しくてしょうがなかった。

    「……ぁんま、しゃぇれねぇ」
    「だろうな。テメェ一ヶ月も寝てやがったし。先生に来てもらうから無理にしゃべんな」
    「…ぁんて?」
    「しゃ、べ、る、な!」

     イラつきながら手元をいじる左馬刻は多分寂雷さんに連絡しているのだろう。俺はその間クフクフ笑いながら握ったままの手を思う存分堪能していた。連絡が終わった左馬刻はその様子をなんとも言えない顔で眺めている。

    [今支障があんのは聴覚と声だけか? はいならうなづけ]

     俺の発声に問題があると判断したのか端末に打ち込んだ文章を目の前にかざされた。その通りだったのでうなづくと左馬刻は一つため息をついて俺を抱き起した。腰には枕を挟む徹底ぶりにまた笑ってしまって、左馬刻の眉間に皺がよった。

    [すぐに先生が来る。お前は診察を受けろ。多分弟どもも押しかけるだろうから覚悟しとけ。俺は先生が来たら一旦離れる]

     ”離れる”の一言に何も思わなかったと言えば嘘になるが、それより弟どもが押しかけるという言葉に申し訳なさで眉が下がる。どもと書いてあるのだから二郎が戻ってくるのに飽き足らず、三郎も日本にいるということだ。わざわざ帰国させてしまった不甲斐なさとそこまで心配されていることに安堵のようなものを覚えて複雑だ。そんな思いが表情に出ていたのか再び端末を眼前に突き出された。

    [ガキどもはだいぶ暴走してやがったから、体調が回復したらちゃんと甘やかしてやれ。暴走の内容は銃兎でも聞けばいい。]

     その内容に一つ頷く。体調が回復したら、と念を置くあたりが俺の状態の悪さを示すようで落ち着かない。そう思考の海に落ち込んでいると、不意に顎を掬われた。耳元で自分以外の髪が近づく音がした。

    「色々終わらして、改めて奪いにくるから覚悟決めとけや」

     そのままふわりと唇に柔らかい感触がした。


    「「一兄/兄貴に何してやがるっ!!」」

     急にきこえた弟たちの声に驚くまま扉の方へ視線を向ける。ちょうど部屋のドアを開けたところだったらしい。俺は一瞬で自分の顔が赤くなるのを自覚した。

    〜***〜

    Side 一郎
     
     それからは大変だった。二郎たちには再会してすぐ問い詰められることになるし、左馬刻はこの騒ぎに乗じて部屋から既にいなくなってるし、微笑ましそうにこちらが落ち着くのを待っていていてくれた寂雷さんに診察を受けた。その日はとりあえずそれで終わりってことで二郎たちも返されたけど、次の日から俺を待っていたのは再検査、再検査の日々。そりゃ一ヶ月も寝てたらしょうがないと諦めていたけど、それプラスリハビリだなんだと思いのほか忙しくてようやく落ち着いたのは一週間も経ってからだった。
     その間も乱数や入間さんなどはお見舞いに来てくれて、俺が寝ている間の動きを事細かに教えてくれた。
     特に入間さんは、警察官の立場として一応一般人の枠に入る俺に被害を出したのをだいぶ大事と考えてくれていて、それはもう謝ってくれた。結局俺が目を覚ませたのは入間さんが二郎に協力してくれたおかげなのだから、そこまでしなくていいと言ったのだけど聞いてくれやしない。だからその交換条件も含めて、寝ていた間の話を教えてもらったのだが、まさかあの手紙まで読まれているとは思いもよらず、なぜかこっちが大ダメージを受けてしまった。

     そして今日、左馬刻があれから初めて病室に来る。

     色々終わらせて、と言っていた通り組の内部で整理することがあったらしい。おそらくそれは、俺の弟が組長に突撃したことの後始末も含まれているのだと思う。入間さんも苦笑いだったし、三郎も少し申し訳ない顔をしていたのでほぼ確実だ。
     最初、火貂組に突撃したと聞いた時のことは思い出したくない。行動力があるのはいいことだがそこまで行くとただの無鉄砲だとも思った。毒島さんを連れていたこと、イケブクロに出入りしていた左馬刻の部下の口利きがあったことなど保険はかけていたようだけれど、危険な賭けをしたことには変わりない。結局情報屋として組の紐付きになるのが対価なのは組長を動かしたんだから相当だとは思うが、もしうまく契約ができていなければ、など考えたくない。裏社会とはそういうものだ。だから俺は特大の雷とゲンコツを三郎の頭に落としたし、三郎も仕置きから逃げることはなかった。

     それはさておき、さっき言った通り左馬刻が病室に来るわけだが。病室にいる弟たちはやはり朝から機嫌が悪い。だが、左馬刻がここにくるのを許したのもこいつらなのだ。

     ——一兄があいつが来るのを望むなら、俺たちに止める理由はないです
     ——兄貴の幸せがあいつといることなら、ちゃんとそれを選んで欲しいんだ

     そう言って、左馬刻が見舞いにくると連絡してきた日に告げてきたのだ。俺はその申し出を受け入れた。だからここにあいつが来るのは理解しているはずなのだが、やはり長年のいざこざがすぐに消えるはずもなく。俺はこれからのことを考えて弟たちに気づかれないようにため息をついた。

     コンコンコンと病室の扉を叩く音が響く。約束通りの時間だ。すぐに入室を許可するとガラッと音を立ててドアが開かれた。

    「左馬刻」
    「おう」

     入ってきたのはやはり左馬刻で、いつもよりカジュアルめの服装に大きな紙袋を二つ持った姿はここが病院だとは思えないほど様になっていた。
     ツカツカと俺のいるところまで近寄るとそのままベッドに腰掛ける。二郎と三郎が病室の椅子を占有していたのでしょうがないのだが、思いがけず近づいた距離に少し驚いてしまった。左馬刻はそんなことを気にすることなく、威嚇を続ける弟たちに向かって言い放った。

    「おい、弟ども。俺は今から一郎と話がある。部屋開けてくれ」
    「はぁ?そんなこと許せるわけねぇだろうが!」
    「そうだそうだ!兄貴はまだ病み上がりなんだぞ!お前との関係は一応認めるとはいえ、そんなすぐに全部許すと思うなよ!」

     思った通りキャンキャンと反抗を示す弟たち。予想はついていたとはいえ、これでは満足に話もできないと考えた俺は愛する弟たちにお願いをすることにした。

    「二郎、三郎」
    「あ、兄貴」
    「一兄…」
    「俺も話したい事があるんだ。今回は俺と左馬刻を二人っきりにしてくれないか」
    「「…………」」
    「「……一兄/兄貴がそう言うなら」」

     渋々と言った様子で部屋を出る二人を見送る。ギリギリまでこちらを見ていた二人をなんとか送り出し、俺と左馬刻は改めて向かい合った。

    「悪りぃな、左馬刻」
    「いつも通りだろ、あいつらが俺を嫌ってるのなんぞ」

     フンっと鼻を鳴らす左馬刻は相変わらず美しい顔を白日の元に晒している。久しぶりに近くで見る愛しい男の姿にしれず口角が上がる気がするが、今からするのは真面目な話だ。二人とも自ずと体に力が入った。

    「……俺からいいか」
    「おう」
    「お前の弟達をこっちの世界に関わらせて悪かった。銃兎や理鶯が止めなかったことや先生や乱数のチームがついていて安全性は確保されていたとしても、お前が懸念していた事が起こっちまった。そもそも、組長のとこまで通したのは俺の部下でもあるしな。本当に悪かった」

     そう言って左馬刻は深く頭を下げた。椅子に座ったまま限界まで下げている頭は、俺が望めば地に額をつけるのだろう。

    「……それは俺のことがあったとしてもあんたのケジメとして頭下げるってことだな」
    「そうだ。お前との話がなくても、堅気がこの世界に接触するもんじゃねぇ。それを阻むどころか連れ込んだんだ。原因にお前の命があったとしても、お前の心臓たる弟どもを危険な世界に片足踏み込ませちまった。部下の非礼は俺の非礼だ。謝罪は必要だ」

     それはきっと組長の元まで手引きしたという部下のことを言っているのだろう。組のトップの元へ連れて行ける部下なんて限りがある。そいつは左馬刻にとっても腹心の部下とも言える人材だったのだろう。だが、ヤクザは歴とした縦社会。そいつがどんな思惑で三郎に手を貸したとしても、ヤクザと堅気に繋がりを作ったことは許されることではないことを俺も理解していた。だからこそ、俺は一つ息を吐くと頷いた。

    「そうか。じゃあ俺はあんたの謝罪を受け取る」

     謝罪を受け取ること。それが今俺が左馬刻に求められていることだ。

    「……おう。ありがとな」
    「おう。…………じゃあ次は俺の話、聞いてくれる?」

     やっと上がった左馬刻の頭に胸を撫で下ろす。それと同時に次は俺の番だと腹に力を入れた。

    「手紙読んだんだろ?じゃあわかってると思うけどさ、俺死んでもいいと思ってたの」
    「ああ」
    「二郎も三郎も、立派に成長してさ。俺と違ってちゃんと大人に頼ることもできるし、自分たちでそんなふうに頼れる大人も見つけてた。ほんと自慢の弟だわって思ってる。だからさ、もう俺いらねぇなって考えちまった」

     弟たちの成長、それは俺にとって何より喜ばしいことだった。自分で自分の道を歩く術を見つけた弟たちに、もう親代わりの兄など必要ないと思ったのだ。手紙を書いたのはそんなことをずっとぐるぐる考えていた時で、ああやって形にすることで俺も気持ちの整理をつけていたのだと今になって思う。

    「そうだな。そう書いてあったわ」
    「んー改めて考えるとやっぱ手紙読まれたの恥ずいな。誰にも言うつもりなかったから」
    「それは嘘だろ」
    「ん?」

     キッパリと断言されたことへの疑問で首を傾げる。あれは誰も開けるはずのない箱の中にあった手紙だ。自分の言い分に間違いはないはずだった。だがそんな思いも次の左馬刻の言葉にひっくり返されることになる。

    「アレは俺宛だろうが」
    「……そっか。そうだな」

     確かにあの手紙は唯一宛先をちゃんと書いたものだった。他の手紙だって一つとして左馬刻以外のために書いたものは存在しない。それはつまり、そういうことなのだ。俺は静かに頷いた。

    「話逸らして悪い。でさ、俺眠ってる間よくわからない空間にいたんだ。ふわふわ浮かんでるのか沈んでるのかわかんないところ。思考もおざなりになってさ、でもそこは俺だから弟達のことも思い浮かぶんだけど、さっき言ったみたいに心配とかはないからどうにかなるだろうなって。そうなると後に残るのってなんだと思う?」
    「さあな。テメェのことはテメェでしか理解できないだろ」
    「そうでもないぜ。自分でも驚いたもん。自分でも理解できないことってあるんだよ。だって俺あんたの事しか浮かばなかった」

     その一言に左馬刻が驚いたようにこちらを見る。パチパチと繰り返される瞬きを見て気恥ずかしさが募るが、視線を外すことで誤魔化した。顔が熱い。

    「歌、また歌ってほしいなとか昔みたいにドライブ行きたいなとか、そばにいて欲しいな、とかさ」
    「いちろ」
    「どんだけ俺あんたの事しか見えてないんだろうな。ただ会いたいってそれだけ思ってた」

     すぐ隣にある窓を見上げる。カーテンが引かれたそこには澄み渡った青空が広がっている。俺が目覚めた時ここに大きな月がかかっていた。月光が照らす左馬刻が幻想的で一瞬天使がいる、なんて考えてしまったのは秘密だ。それぐらいあの瞬間、夢かと思ったんだ。目が覚めたはずなのにまた夢の中にいるのかって。それと同時に、この思いが左馬刻に対する裏切りなんじゃないかと不安に感じた。ほら今も、手が震えている。こんな約束も守れない俺がこんな綺麗な空を見ていていいのか不安でたまらない。

    「……」
    「だからこれが俺が謝りたい事。俺、あんたが俺との約束必死に守ろうとしてたのに、呑気に寝ながらそれと真逆のこと願ってた。ごめんな」
    「いい」
    「でもさ」
    「いいんだ。俺もだいぶヤバいこと考えてたしな」

     話しながら左馬刻が俺の手をそっと握る。あの日以来の接触にピクリと手がはねる。その反応に一瞬左馬刻が手を引く動きを見せるが、咄嗟に追いかけるように手をつかみ返す。今度こそちゃんと握られた二つの手は次第に同じ温度に変わっていく。俺の手は、もう震えてなどいなかった。

    「お前が目覚めなかったら、ずっと守ってやれるって一瞬考えた」
    「左馬刻」
    「弟どもは勝手にやるだろうし、一番文句言う奴は眠ってるんだろ。俺がどれだけお前を守るのに力入れても誰にも何も言われない。こっちの世界の揉め事だって寝たきりのやつを使うほど暇なやつはいねぇしよ。何より病院は先生のテリトリーだから安心できる。問題はテメェが目を覚さないことだけ。笑えるだろ、目覚さないこと願うなんざ。でもそれだけ守りたかった、他でもないお前だけを。お前が強いことを一番理解しているのは俺だ。それでも失うことを恐れる気持ちだけはなくならねぇんだ」

     ——あぁ、左馬刻も苦しんでいたんだ

     苦々しい顔で告げられる言葉に鼻の奥がツンと痛んだ。だってそうだろう?こんなにも痛切な告白、俺は知らない。これは左馬刻の愛そのものだ。今までたくさんの大事なものを失ってきた左馬刻が俺を失いたくないと願った。それは俺が左馬刻の大事なものだという証明に他ならないのだから。

     俺は目の前の左馬刻の胸元に思い切り飛び込んだ。もちろん手は繋いだままで。突然の俺の行動に驚いた左馬刻だったがしっかり俺のことを受け止めてくれた。その鍛えられた胸元に額を擦り付けながら、俺はからかいまじりに問いかける。

    「それでもあんた、俺のこと好きでいられるって言うのか?」
    「問題ねぇな」
    「重いな!」
    「今更だろ」
    「まぁな」

     ——だが、それが俺たちだ

     左馬刻の握っていない方の手が腰に回る。俺も同じように回すとぎゅっと力を込められた。それにとてもホッとして、頭を左馬刻の方に預けてひとしきり抱擁を楽しむことにした。

     ▼△▼△▼△▼△

     しばらく抱き合っていたが、左馬刻がそっと体を離すので俺もそれに倣う。体を離しただけで、そばにいるのは変わらないから別に離れたいわけではないみたいだ。というか、左馬刻はいつの間にベッドに乗り上げていたのだろうか。俺気づかなかったんだが。

    「一郎、これ受け取れ」

     バサッと手渡されたのは大量のオレンジ。まじまじと眺めるとそれら全て薔薇だということが分かる。いきなり現れた明るい花々に目を白黒させていると、左馬刻が説明してやるから落ち着け、と頭を撫でた。

    「見舞いには花が付き物だろうが。だから花屋に行ったはいいんだが、これがいいと思った」
    「……嬉しいけど、なんで薔薇なんだ?それもオレンジ」
    「一つは色だな。ビタミンカラーとか言われるその系統の花は見舞いによく使われるらしい。あと、今回は花に助けられたからな、少しあやかってみたいと思った」
    「花って、もしかしてマイクの名前のことか?それにあやかるって、いったい何に……」

     俺も目覚める条件とマイクの名前の関連は知っている。入間さんに教えてもらったからだ。だが、それがどうこの美しい花束に繋がるのかわからなくて、俺は首を傾げるしかなかった。

    「マイクの名前『月下美人』は目覚めの条件を示すだけじゃなくその効果も表していた。あの花の花言葉とやらが『儚い恋』とかいうんだとよ。失恋だのなんだのと関連づけるにはぴったりってわけだ」
    「なるほど、花言葉。まるで小説の中みたいな話だな」
    「お前こういうの好きだろ?」
    「そりゃ、ラノベ好きとしてもオタクとしてもネタとして大好物だけど。でも俺オレンジの薔薇の花言葉なんて知らないぜ?」

     ニヤリと左馬刻が口角をあげる。スッと乗り上げていたベッドから降りると投げ出していた俺の足元に跪いた。

    「俺はお前の強さを誇りに思う。それはお前が今まで積み上げてきたものだからだ。だからこそ、その隣に俺以外がいることは許せそうにない。愛してるぜ、一郎。覚悟を決めて俺の隣にいろ、情熱を持って愛してやるよ」

     掬われた左手に口付けが落とされる。場所はどこかって?もちろんとばかりに薬指の根元だよちくしょうが!!

    「っ……!」
    「覚悟しとけって言っただろ?ま、指輪とかはおいおいな。選ぶのも楽しみの一つだしな」

     声にならない叫びで口がパクパクと開閉する。顔は熱いし、きっと真っ赤になっているだろう。目の前の美丈夫はそれをニヤニヤと眺めているのだ。性格悪い。

    「ばっかじゃねーのっ。こんな、こんなっプロポーズみたいなこと、しなくても」
    「もう吹っ切れることにしたんだよ。周りからもせっつかれるし、俺も今回のことは肝が冷えた」
    「……もし、回り回ってあんたに告白されるとしても赤い薔薇の花束とか持ってくるんだと思ってたのに」
    「ベタすぎねぇか、それ。ま、『誇り』と『情熱』なんて言葉持ってんだ。この花で告白したって問題ねぇだろ」

     するりと手の甲をなぞられて再び繋がれる。先程よりも指を絡ませたそれはいわゆる恋人繋ぎというやつだ。ふんふんと鼻歌でも歌いそうな機嫌の良さにまだ返事もしていないのに、と唇を尖らせた。

    「おい。俺まだ返事してねぇだろ」
    「いやがらねぇ時点でそういうことだろうが」
    「納得いかねーっ!」

     そう答えるのと同時に、跪いたままだった左馬刻の腕を引いて引き上げる。といってもまだ完全に筋力が戻っているわけじゃないから中途半端になってしまうが、今はそれがちょうどいい。中腰になった左馬刻の首に腕を回し思い切り抱き寄せる。吐息がかかって俺のじゃない耳がふるりと震えた。その反応が珍しくて小さく笑う。ここからは俺の番だ。

    「俺も、愛してる!」

     バッと離れた左馬刻は首まで真っ赤に染まっていて、俺は今度こそ大きな声で笑うのだった。

    〜***〜

    Side 三郎
     
    「いいのかよ、お前ずっとあのヤクザのこと嫌いだったじゃねぇか」

     そう声をかけてきた二郎の方に振り向いて、僕は手元の紙パックをジューッと吸い込んだ。
     ここは病院の共有スペース。お見舞いに来た人と入院している人、どちらも使えるこのスペースは今日は珍しく僕達以外の人はいない。だからこそ今その質問をしてきたのだろうけど、眉間に皺が寄るのは仕方がない。納得はしていてもまだ素直に態度に出してあげるほど大人ではないのだ。尊敬する長兄のことなら尚更。

    「……いいんだよ」
    「なんで?なんか理由あったりすんの?」
    「聞きたいのか?」
    「そりゃ、もちろん」

     あっけらかんとした二郎の態度にため息をつく。このすぐ上の兄は自分と同様、いやそれよりも前から長兄とヤクザの複雑な関係に気がついていたという。それにに対する態度は僕と違って肯定的で、今回の事件でようやく収まるところに収まろうとしている二人を祝福さえしているようだった。先程までの不機嫌に見せた態度も、おそらく本当に不機嫌だった己に合わせたものだとムカつくことに理解していた。

    「別に、あいつの想いが少なくとも四年前から変わってないって分かったから、一応信じてやろうと思っただけ」
    「え、そうなのか。あいつに聞いたの?」
    「違う。箱に入ってた栞だ。あれを一兄にあげたのがあいつなら、多分そう、なんだよ」

     手紙を読んだあと、入間さんが見つけた一つの栞。箱の奥底にあったそれは、美しい花が描かれ、兄のような男性が持つにはいささか繊細すぎるものだった。
     理鶯さんと一緒に調べた結果あの花は「桔梗」だと分かった。その時はそれだけで何も思わなかったけれど、兄が目覚め、マイクの名前との関連性を教えられてもう一度調べなおすとその花の栞は大きな意味を持つことになった。妹がいるはずのあの男ならば知っていてもおかしくはないだろう。

    「あの花の花言葉、”永遠の愛”、”変わらぬ愛”なんだってさ」
    「うわーキザ。あの顔面じゃねぇと許されねぇな」
    「あの顔面だろうが許したくはないけどな」

     けど、あの兄はそれをあの箱に入れて大事にしていた。それはつまりそういうことなのだろう。ならば僕が認めないわけにはいかないではないか。この上なくムカつくことだとしても、それが兄の幸せに繋がるというならば。

    「ふーん。なんかお前も大人になったな」
    「お前よりはだいぶ前から大人だと思うけど?」
    「んだとっ!そんなわけねーよ!」

     ギャイギャイと詰め寄る次兄をいなしながら部屋にかかった時計を見上げる。きっと今頃二人はともに歩む決意を決めているのだろう。ここまで迷惑をかけたのだから、きっちり幸せになってもらわないといけない。そのためにもきっちり決着をつけてもらう必要がある。あとしばらくは時間を潰さないといけない事実に、また一つため息をついた。
    後書き
    読了お疲れ様でした。
    これで二人の物語は一つの区切りをつけました。
    私としてはまだ拾いきれてない伏線があるので、番外編などの形で拾っていきたいな、と思いつつ一応の終わりに肩の荷を下ろしたいと思います。
    今回の教訓は、やっぱり短文は私には無理だと実感しました。描き終わるのに三ヶ月、遅筆にも程がありますよね……書くのが楽しかったのでいいのですが。
    最後に、あの告白の後の二人の会話を少しだけ載せています。
    ここまで読んでくれたあなたに最大級の感謝を。







    ・その後の二人

    「なぁ、左馬刻。俺らこれからどうする?」
    「そうだな。色々後始末をつけなきゃならねえが……」
    「だよな。火貂の組長さんと三郎が取り付けた話って契約書とかあるのか?」
    「ある。一応俺も確認したが萬屋の不利益はほとんどない。強いて言うなら火貂の傘下扱いになって情報集めとかのお前の裏の仕事がやりにくくなるかもしれねぇ」
    「それに関しては俺も予想ついててから大丈夫。一応他のツテもあるし、そこまで問題はねぇよ。あんたがこれまで流してきてくれた情報も表立って使えるようになるしな!」
    「よく言うわ。俺からの情報なんか裏付けぐらいにしか使ってねぇくせに」
    「それはまぁ、否定しないけどさ。でもやっぱり左馬刻経由の情報の方が確実性は増すんだよな」
    「そりゃこっちは頭数があるからな。間違った情報かどうかの精査はしっかりやるわ。だが、お前からの情報がないととっかかりさえない時もあるから助かってる」
    「俺一応イケブクロがメインだからな。広範囲は面倒見きれねぇよ。だから左馬刻に回した方が何とかしてくれんだろ?」
    「今までもそうだったからな。シブヤ、シンジュクまで関わった時は骨が折れたが」
    「アレは俺も驚いた。なんか大ごとになってて、後から情報入ってきて申し訳なくなっちまった」
    「いい。お前は気になる情報を俺に渡しただけなんだから。それも酒の席の話だしな」
    「それ言っちまったら、俺と左馬刻がちゃんと会って情報受け渡したのなんか元T.D.Dかディビジョンで集まった時だけだろ」
    「そこでしか会わないようにしてたからな」

    とか会話してたのを実は盗聴してた三郎経由で全ディビにバレて怒られると思います(笑)
    夕霞 Link Message Mute
    2021/04/20 18:00:00

    幸多かれ

    こんばんは、夕霞です。
    ここまで追いかけていただきありがとうございます。
    ようやくこれで大団円です。

    それでは注意事項を読んでお楽しみください!
    #二次創作 #左馬一

    P.S.
    実はこの話のタイトルこそ、あの色の花を選んだ本当の理由なんですよね。

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