覚悟の瞬間注意事項
【ATTENTION!!】読む前に確認お願いします
・「ヒプノシスマイク」の二次創作作品です
・カップリングとして「左馬一(碧棺左馬刻×山田一郎)」が含まれます
・周りのキャラも多いです
・創作設定も多くでてきます
・文章は拙いです
・ご都合主義です
上記の点確認の上、自己回避よろしくお願いします
なんでも許せる方のみお楽しみくださいませ!
Side 銃兎
あの話し合いから二日後。二郎くんに招かれ、俺は山田家に訪れていた。『萬屋ヤマダ』の店舗兼住居と聞いていたが、その二つは明確に分けられているらしく今回足を踏み入れたのはよりプライベートな部分だ。なんせあの山田一郎の自室なのだから。
知り合いの部屋に勝手に入っている気まずさは拭えないが、こちらも事情あってのこと。俺は軽く部屋を見回すと、すでに捜索を開始しようとしている子供に声をかけた。
「意外と片付いてますね」
「兄ちゃん物持ちだから。定期的に整理しないと物が溢れちまうってよく笑ってた」
言われて周りを眺めるとその台詞に納得する。明らかに自分の部屋よりものは多いだろう。だが、嫌にならない程度なので部屋の持ち主のセンスはいいのだろうと推測する。
「確かにものは多いですね……ここは仕事場も兼ねているのですか?」
「いや、それは基本的に事務所。そっちはもうあらかた探したし、その、プライベートは流石に仕事場に持っていかないかなって思ってる」
口籠もるように話す子供の気持ちは察するに余りある。そりゃあ、尊敬する兄の命を助けるためとはいえ今からするのはそんな兄に想い人がいるかどうかの証拠探し。それも相手は因縁ある相手なのだから。
だからこそ可能性は低いとわかっていて仕事場から探したのだろう。探した結果何も見つからなかったことが残念であるし、あったらあったで仕事場に持ち込むほどだったと考えると喜べない。なんとも難儀な失せ物探しと言える。
だがこの部屋は大本命。証拠があるとしたらここだろう、と彼も感じている筈だ。並ばせを押してやるのも大人の仕事だ。俺は比較的明るい声を意識しながら捜索開始の意思を告げる。
「なるほど。それはそうかもしれないですね。では捜索していきましょうか」
「おう。あ、でもできるだけ物を壊したりだとかはやめてくれ。グッズとか、アンタにはわかんないかもだけど結構レア物もある筈だから」
「流石にそこまで乱暴にはしませんよ。容疑者の家宅捜査ではないんですから」
ドラマみたいだ。そう笑った彼に戸惑いは消えていて、うまく切り替えができたことを察する。そのまま幾らか言葉を交わしながら俺たちは部屋の捜索を続けた。
▼△▼△▼△▼△
部屋での失せ物探しを始めて数時間。捜索は暗礁に乗り上げようとしていた。
「ねぇな。ラノベとかは流石に多いけど、それぐらいだ」
「というか、この部屋本当に成人していくらか経ったぐらいの男性の部屋なんですか?小説やグッズは多いですが、服とか少なすぎませんか」
「兄ちゃんそこまでオシャレに興味なかったからな。俺や三郎の服とかはよく好きで選んでたけど」
「なんというか、寂しい部屋ですね。若者らしくないというか。ほらこっちをみてください。これ、おそらく萬屋の資料でしょう?さすがに中身を改めることはしませんが、なかなかの量ですよね、これ」
なんなら服より資料の方が多いのではないだろうか。そう思ってしまうほどに、段ボールに詰められた資料は多かった。きちんとファイリングされているようだが、なんとクローゼットの半分は埋まっている。
「それに関しては兄ちゃんがデジタルだけじゃ不安だからって文書も残してあるからだな。重要機密は三郎が組み立てたセキュリティで守られてるから、ここにあるのはそれより重要性が低いものだけだと思う。ってあれ?」
「どうしました?」
「いや、奥に見覚えない箱があって……」
言うやいなや手を伸ばした彼がそれを引っ張り出すのはすぐだった。手にしていたのは小さい箱だった。ただ持ち上げる彼の腕の震えや箱についているダイヤルを見るに、それはただの箱ではなさそうだ。
「これ、金庫?意外と重いんだけど」
「そのようですね。それにしても、小さいですね」
「だよな。こんなの、何入れてんだろ?」
「見たことないものなのですか?」
自営業なのだから金銭の保管や重要書類の管理など金庫を使う機会がないわけではないだろう。そう考えたのが伝わったのか、目の前の子供は首を縦に振った。
「確かに、萬屋のお金とか入れる金庫が存在しないとは言わないぜ?でも、そういうのは全部俺や三郎も把握してるし、鍵とかもわかる。兄ちゃんはちゃんと教えてくれてる。でも、これは知らない」
「つまり、一郎くん個人の金庫、ですか。とんだブラックボックスを発見しましたね。鍵はどうなっています?」
「アナログだな。暗号は四桁。全部大文字のアルファベットだな」
「解法は45万通り以上、ですか」
ざっと計算するだけでえげつない数だと分かる。これを一つずつ試していくわけにはいかないし、心当たりをあたっていくことになる。そう開ける方向で思考を巡らせていると、こちらを覗き込む視線に気づく。
「なんです?」
「これ開けんの?」
「これ以上ない物でしょう?隠し事をするにはぴったりです」
「そう、だよな。じゃああれ見てみるか」
「あれ、ですか?」
「そう。山田家の暗号帳」
彼は俺の言葉が腑に落ちたのか、謎の言葉を残して部屋を出た。いくばくも経たないうちに戻ってきた彼の手に握られていたのは、少し年季の入ったノートだった。
「なるほど、こういう物を作っているんですね」
そのノートは彼の言った通り、いわゆる暗号帳と呼ばれるものだった。さまざまなパスワードを管理するのに使っているのだと言う。
「パスワードとか色々設定してるとわかんなくなるじゃん。だからヒントとかをここに書き込んでる。電子の方もあるけど、たぶんそっちには書いてないと思うからこっちを持ってきた」
流石に個人情報の塊であるそのノートを覗き込むこともできず、俺はペラペラとノートをめくっている彼を眺めつつ該当するページが開くのを待った。しばらくすると見つかったのか、慌ただしくこちらに差し出してくる。
「あった。たぶんこれだ」
『青いの』
確かに金庫はかなり暗めの青色をしていた。まぁ金庫にはよくある色とも言えるが、それにしても簡潔すぎる。これが金庫に与えられた名だと思うと少しかわいそうにも思えてしまう。
——せめて用途の名がついていればいいのに。いや、金庫に名前も何もないのはわかっているが
そんな他所道に外れそうな思考をどうにか戻し、ノートを覗き込む。生憎俺からみると逆さ文字であるのに加えてなかなか小さく文字が書き込まれているようで内容は把握できない。だがそれは読んでいる彼が理解すればいいと思い待っているのだが、なかなか言い出そうとしない。
「やっぱり、鍵のアルファベットを直接書いてはねぇな。でもヒントはある。だけど、」
「どうしたんです。そんなに難しいんですか?」
「んー見てもらったほうが早いか。ほら」
結局俺が読めるように反転されたノートを受け取り、改めて内容に目を通す。そこに記されていたのはなんとも不思議な言葉だった。
『道が交差した。それを示す唯一で最期の歌』
「なんです、これ」
「わかんねぇ。とりあえず歌がヒント、ってことか?」
「そうでしょうね。心当たりは?、といってもありすぎますよね」
彼ら兄弟のの曲だけでも色々あるし、もしかしたら他のディビジョンの曲かもしれない。はたまたラップではないかもしれない。ヒントが歌だけではほとんど絞れないままだ。
「となると、「道が交差した」「唯一で最後」で絞り込まないといけないですね」
「交差っていうと交差点とか?あとは意外な組み合わせのデュエットとか?」
「まあ、色々考えて入れてみるとしましょうか」
そこから俺たちの長い戦いが始まった。
~***~
Side 銃兎
ガタッという扉が開く音を耳が捉え、俺たちは音が鳴った方向に顔を向ける。部屋のドアが開きそこに現れたのは、今日はるばる海外から緊急帰国を果たした山田家の末っ子だった。
「おい、二郎。何か見つかったのか」
「おーおけーり」
質問に答えるどころか、かなり疲れ切った声に末っ子の眉間に皺が寄る。そのまま目の前の兄に苦言を呈すかと思われたが、それはもう一人の帰還により中断を余儀なくされた。末っ子と行動を共にしていた理鶯である。
「銃兎、進捗はどうだ」
「お疲れ様です、理鶯。それがどうやら手掛かりになりそうなものは見つけたのですが、それがどうにも手こずる内容でして」
「ふむ」
「どういうこと?」
状況を全く知らない二人は揃って首を傾げる。俺たちもそろそろ休憩を入れるタイミングであることだし、二人を座らせ現状を報告することにした。
「なるほどね。金庫、か」
「三郎も存在を知らなかったのか」
理鶯が驚きを隠さず末っ子に問いかける。それに答えるようにツンツンと未だ開く見込みのない金庫をつつきながら隣に座る理鶯に視線を向けた。
「そうだね。こんなものがあるなんて一兄からは聞いてない。これ、理鶯サンなら開けられるんじゃないの、物理で」
「ああ、その手がありましたか。電動ドリルなどでこじ開けるといった感じですよね?」
「そう。それぐらいできるんじゃない?」
今まで出なかった新しい解決策に期待が募るが、期待がかけられた当人の顔色は渋いままだった。難しい顔をしたまま理鶯が告げるのはまた新しい事実だった。
「残念ながら普通の金庫ならまだしも、このタイプの金庫は難しい」
「え」
「これはもともと軍でも使われていたメーカーのものだ。つまりかなりの耐久度、硬さを誇る。こじ開けるのは至難の業だろう」
「そんな大層なものだったの?こんな小さいのに!」
「じゃあ、やっぱり地道に当てにいくしかないか」
金庫が思いのほか手強い相手だと認識を新たにしたところで、結局やることに変更はない。俺たちは再び金庫に向かい合う覚悟を決めた。
「力になれなくてすまない」
「いえ、無理だと分かっただけでも十分です。では、あななた達も暗号解読にご協力ください」
「わかった」
「承知した」
▼△▼△▼△▼△
「はいはーい。僕だよー!どう?進んでる?」
その明るい声が部屋に響いたのは再び暗号の答えを探し始めてしばらくした頃だった。曰く、時間が空いたため証拠探しに進捗があったか気になったため電話をかけてきたらしい。それならば、とこれまでの経緯と暗号のヒントに心当たりがないかを聞いてみることにしたのだった。
「道が交差した、か。そっちの考えは何かの比喩なのかなって感じ?」
「はい。一応スクランブル交差点なども連想して、あなた方の曲も試させていただきましたが、不発でした」
「そっかぁ…」
「飴村さん?」
しばらく沈黙が続き、どうしたのかと考えると電話越しに喉がなる音がしたかと思うと普段からは想像できない静かな声が聞こえてきた。
「ねぇ、僕に一つ提案があるんだけど金庫のダイヤル回してもらっていいかな」
その言葉に俺も含めて部屋にいた3人も訝しんだが、とりあえず言われた通りにダイヤルを回すことにした。静まり返った部屋に声とダイヤルの回る音が響いていた。
「最初はT、次はD、その次も、同じ」
「それは……」
思わず、と三郎くんが声に出したが皆同じことを思っていただろう。俺たちがある意味意図的に避けていた曲でもあったからだ。脳裏にこのヒントを書いたであろう当時未成年だった男を思い出す。
——もしそうならば、なんて悲痛なヒントなのだろうか
三郎の声に応えた電話越しの声はどこか震えているような気がした。
「うん、たぶん想像してるので合ってると思うよ。僕ね、最初一郎のヒントを聞いてそれしか思い浮かばなかったんだ。でも、もしそれで開くならその金庫は一郎にとってパンドラの箱なのかもしれない。その覚悟がある?」
無言の時間が訪れる。これは俺や理鶯が応えていいものではない。だか俺たち大人は黙っているしかなかった。だが、ここにいる二人の弟達も子供とは言えないのだとその目の意思に感じていた。
最初に応えたのは二郎くんだった。
「……それでも開けるよ。もう拳骨の覚悟も罵倒される覚悟もできてるよ」
「僕が言ってるのはそんな覚悟じゃなくてっ!」
「わかってる。でも、これは俺たちが見ないふりしてきたものでもあると思うんだ。兄ちゃんが俺たちの前で見せなかった後悔とか未練とかそういう、“ただの山田一郎”っていう人間のさ。俺はそれも受け止めたいと思うんだ。兄ちゃんがずっと俺たちのことを考えてくれてたみたいに」
「僕もです。一兄の過去を僕たちは知らない。それを知りたいって思うことはきっと覚悟がいることだと分かっています。そしてそれが今なんだということも。だから貴方がいくら止めようと僕たちはこの箱を開けます」
二人の言葉に一瞬飴村の声が止まった。そのあと深くそれはもう深くついたため息の音が電波に乗った。彼の覚悟も決まったようだ。
「はぁーあ。そこまでいうならもう止めない。それに、一郎に怒られる時は僕も一緒に怒られてあげる」
「ははっ。ありがと」
「じゃあ、一郎は任せたよ。弟くんたち。最後の字はL。「T.D.D.Legend」昔の僕たち、The dirty dawg が出した最初で最後の楽曲だよ」
ダイヤルを合わせた瞬間、カチリと小さな音が部屋に響いた。