💀BD くいと後ろに引っ張られる感覚に思わず唇を尖らせる。そうすることで頭の位置を保持できるわけではないし、引っ張られる感覚がなくなるわけでは当然ないのだけれど。
「動かないでください」
「動いてないでござる」
「頭引っ張られてます」
「アズール氏が引っ張るから」
脳直で返事をしているうちに、もう、と呆れるように言われて、それからまたつんと頭皮が引っ張られた。
「はい、これでどうですか?」
顔の横から差し出された帽子を受け取ってかぶってみる。後頭部が随分と窮屈でやや苦戦していると、背中で笑ったアズールが後頭部をまた引っ張った。纏めた髪が後ろの穴から引き出されて、今度は窮屈から抜け出し、余裕ができた帽子にほっと息を吐く。
「貴方髪が長いんですから、まとめるくらい自分でできるようにならないと」
「できますー綺麗にならないだけですー」
「だから綺麗に……はあ、まあいいんですけど」
ポケットから取り出した鏡をイデアに差し出して、使ったブラシをカバンに入れた。髪が絡まっているかと思ったけれど、特に付着している様子はない。むしろブラシに髪が絡まったとして、どのようにブラシに残るのだろうか。
「この帽子なんなん」
「何とは?」
「アズール氏が買ってきたんでしょ?」
「ああ、いえ、オルトさんですよ」
「……あーそーなん」
何だか少しがっかりしたのを気付かれただろうか。左手でつばを引いて顔を隠すように深くした。
つんと引かれたのは、髪をまとめるための頭皮ではなく、結んだその髪の先の方。呼ばれたのかと振り向くと、少し低いその場所から蒼い眼がイデアを見上げてやんわりと弧を描いていた。
「プレゼントはまた、夜にでも」
指先が思わせぶりに唇の前に立ち、内緒話をするような密やかさでそう告げられる。
「…………んひ、」
思わず漏れた笑い声が我ながら気持ち悪くて思わず口元を覆うけれど、やわりと笑った恋人の表情がやけに色っぽく見えてどうにも、緩んだ口元が収まりそうになかった。
「さ、撮影してしまいましょう」
「アズール氏が撮ってくれるん? 去年はカメラマン呼ばれて緊張でそれどころじゃなかったですし……」
「ふふ、では僕とオルトさんだけにしましょうか」
「助かるっすわー」
歩くたびにアズールが整えてくれたポニーテールが揺れて、スタジオに指定された教室に向かいながらそっと指先だけを絡め取る。ふと持ち上がったアズールの視線に、プレゼント楽しみ、と肩を竦めて笑った。