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    TO麺×$ 47 大体、お披露目会って何なの。何するのか知らないけど、一つ所に全員を集めて笑顔とガッツポーズで「これからみんなで頑張ります!」みたいなことをやらされるわけ? 曲がりなりにもビジュアル系気取ってた僕らがそれやるの滑稽極まりないと思うんだけど、その辺コンセプト的にはセーフなの? と。会場に向かう車の中でぶつぶつ呟いていたら、タクシーの助手席から後部座席を振り向いたトレイ氏がとってもいい笑顔だったのでそれ以上呟くのをやめた。
    「まあ、こういうのは単なる形式だよ」
    「はあ、まあ、そうでしょうけど」
    「シュラウドは行きたくないのか?」
    「行きたくはないよね」
     そもそも人混み苦手だし。笑えって言われても上手く笑えないし。タレントとかいう究極のヒエラルキートップクラスの人間たちが集うような場所に僕のような陰キャ代表みたいなのがいていいはずがないし。不思議そうに首を傾げたマレウス氏から視線を逸らして、窓の外に流れる景色を眺めた。
     事務所の移籍や合併については特に異存はない。僕としては、これまで通り好きにライブに行けて、シングロイドの曲を作れて、アニメやゲームをやる時間が確保できれば他に何も言うことはない。給与体系だって完全歩合制だったのが固定給と歩合制になることで随分と生活は安定するだろう。その分、こういう「事務所のイベント」というものが発生するというのも理解はしているのだけれど。
    「立ってりゃいいだけだろ」
    「完全に俺に丸投げするつもりだな?」
     眠っていたのかと思っていたレオナ氏が目を閉じたまま口を挟んだ。助手席で苦笑したトレイ氏がルームミラー越しに僕らを見る。口ではそう言いつつ、いざ挨拶が必要となったら誰に言われずともやるつもりではいたのだろうけれど。
    「ああ、これは」
     運転手がぽつりと漏らす。困ったようなその声の理由はすぐに分かった。先刻まで快適に流れていたはずの車は前の車のすぐ後ろに着いて動く様子がない。高速道路という訳ではないし、普段混雑するような道路でもないから恐らく事故か何かで交通規制がかかっているのだろう。慣れた手つきで運転手がカーナビを操作して、また少し唸った。
    「迂回できそうですか?」
    「ちょっと厳しいかも知れません」
     トレイ氏の質問に初老の運転手が眉を寄せる。せめてワゴンタクシーでよかったと呑気に考えながら、もし交通事情で間に合わなかったらお披露目会をパスできるのでは? だなんて内心考えた。ちらと時計を確認したトレイ氏がスマホを取り出し、どこかに電話を始める。手持無沙汰になってしまったなとスマホで近辺の状況を検索してみると、やはりこの先の道路で乗用車同士の事故があり、一方通行になっているらしかった。
    「いま向かってるんだけど、事故で道路が混んでて遅れそうだ」
     トレイ氏の電話の向こうは十中八九ケイト氏だろう。時計を何度も確認しながら通話を終了させ、続けてスマホで何かを検索し始めた。
    「ここからなら歩いても間に合うか」
    「は?? 歩き?」
    「仕方ないだろう、遅れるわけに行かないし」
    「いやいや、事故ばかりは仕方ないですし~、これは不可抗力ということで」
    「イデア」
    「はい、サーセン」
     荷物をまとめ始めたトレイ氏の、笑顔に似合わない低い声の呼びかけに思わず喉がひゅっと鳴る。全身で面倒だと訴えている割にレオナ氏も素直に降車準備を始め、マレウス氏は何が楽しいのかちょっとわくわくした様子で既に帽子を深くかぶって外を見ていた。
     車を降りて暫し。辿り着いた地下鉄で電車に乗り、最寄り駅まで。そもそもこの四人で公共交通機関を使うのはめちゃくちゃ目立つから嫌なんだよな。あちこちでひそひそと声がするのを帽子を目深にかぶり、聞こえない振りをしてやり過ごす。
    「着いたらまず着替えだ。終わったやつからメイク」
    「衣装は向こうにあんのか」
    「もう送ってある。ラギーが受け取ってくれてるはずだ」
     地下を走る電車の騒音に紛れて到着してからの手順を確認し、薄暗い地下駅を少しでも明るく見せようと描かれた木々のイラストを眺めながら電車を降りた。平日の午後ということもあって人通りはさほどない。時々女子高校生達が僕らを見てざわめくのを感じながら足早に地上へと出た。
    「あと十五分くらいか」
     思ったよりも早かったと思うけれど、ここから会場まで五分、着替えとメイクをしたらギリギリ滑り込みが可能かどうかというくらいだろう。急ごう、というトレイ氏に続いて会場へと向かった。

     大きなホテルのロビーは豪華なシャンデリアに大きなフラワーアレンジメント、柔らかそうなソファがいくつか置かれている。
    「こっちっス!」
     自動ドアを潜ってすぐに待ち構えていたラギー氏が手を上げて先導する。地下に下りる階段は赤い絨毯が敷かれていて少しだけ歩きづらかった。
    「超特急で準備するんで、協力してくださいね」
     ちらと僕を見たのは何故なのか。分かってますと言わんばかりに不承不承頷いてラギー氏の小さな背中の後に続いた。
    「ケイトは?」
    「先に衣装とか終わらせてくれって連絡がありました」
     通された控室でそれぞれ衣装に着替えていく。あと十分ないくらい。壁に掛けられた時計を確認してから、一番に着替えを終えたレオナ氏のメイクが終わるのを待った。
    「今日、別んとこでも新体制発表会あるらしいっスよ」
    「ああ、聞いた。何も同じ日にやらなくてもな」
     メイクをしながらラギーが言うのに、トレイが苦笑する。発表会というのはそんなにどこもやるようなイベントなのかと思いつつ、ベースメイクだけは自分で終わらせて、ラギー氏の前から退いたレオナ氏と変わって椅子に座った。
    「中継の視聴率とか散らかりますかね?」
    「いや、時間が違うみたいだからな。向こうはもう終わってるかもしれない」
    「それでも比較されるんでしょうね~」
     同じようなタレント事務所の新体制発表会が同日に二つとなれば、比較の対象となるのはやむを得ないと思う。けれど互いに負ける気がないからこそ、同日の開催を変更しなかったのだろう。随分と強気な人間が上層部にいるようだと半ば上の空で話を聞きながら考えた。
     口を動かしながらも作業の早いラギー氏の手でメイクはすぐに終わり、その間にトレイ氏からSNS更新を仰せつかる。トレイ氏とマレウス氏のメイクが終わるまでの間にスマホを開き、慣れた手つきでバンドの公式アカウントにレオナ氏の横顔の写真を載せて呟いた。勝手に撮って載せることはもう怒られることはない。ついでにそのままアカウントを切り替えて、アズール氏達の公式アカウントをチェックした。
     『重大発表があります』というテキストと共に三人の色違いのスカートを履いた足元の写真が投稿されている。随分とドレスアップしているように見えるけれど、もしかして新曲の発表とかだろうか。だとしたらこんな所でこんなイベントに出演している場合じゃないんだけど、抜け出すことは決して許されないことはもう十分分かっているからぎりりと奥歯を噛んだ。アズール氏はこの中の蒼いドレスだろう。ふんわりとした裾が可愛い。
    「お待たせ」
     顔を上げると、既にトレイ氏とマレウス氏もメイクを終えていて、重たい腰をどうにか持ち上げた。廊下は既に発表会会場に向かうタレント達の流れができていて、改めてその人数に辟易する。
     けれどそれも、僅か数秒のことだった。耳についた「あ」の音は聞き慣れたケイト氏の声で、ごく自然にそちらへ目を向け、その後ろに見覚えのある長身を見つけた瞬間に背中から思い切り殴られたように心臓が激しい音を立てるのを聞く。
     ケイト氏の斜め後ろに立っているのは間違いなくジェイド氏で、彼がここにいるということは、つまり。その隣にちらりと見えたオーシャンブルーのドレスの裾は、もしかして。
     駆け寄って来たケイト氏の向こうで立ち尽くしていたアズール氏とばっちり目が合ったまま動けなくなって。あんまりにも予想外の出来事にそのまま卒倒するかと思った。
    KazRyusaki Link Message Mute
    2022/06/21 15:09:16

    TO麺×$ 47

    ##君に夢中!

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