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    TO麺×$ 49 新体制発表会は盛況に終わったと言ってもいいくらい、会場に来ていた記者の数や発表会直後にアップされたWEB記事の数は相当なものだった。とはいえ、NRC単独でというよりは、ほぼ同時に行われていたネージュさん達の事務所――RSAとの対比が多く、大体の見出しは『若手中心の二大タレント事務所がライバル始動!』などと煽るものばかりだった。ヴィルさんはどうか分からないが、僕らからしたらさほど彼らを意識してはいないのだけれど、世間的にはそうしておいた方が話題性があるんだろう。実際、SNSではその手の記事や投稿が随分と伸びていたようだった。

     改めて、あのガセネタに踊らされた自分にうんざりする。ケイトさんに聞いた話だと、イデアさん達のバンドが『RSAに所属か!?』などという記事を書いたのは、あのライブの日、バックステージで会った例の記者なのだそうだ。
    「勇み足で記事書いて、全然違うの! いい気味」
     そう言ってスマホを片手にけらけらと笑っていたケイトさんの横顔が心底晴れ晴れしていて、この人も大概策士だなと、分かってはいたけれど認識を改める。未だ慣れない新事務所のビル。リフレッシュスペースで楽し気に笑うケイトさんにひとつ溜息を吐いてから顔を上げた。
    「怒ってる?」
     投げかけられた問いに再び目を戻す。丸テーブルに腕を組み、僕を見上げたケイトさんは言葉とは裏腹にまるで悪びれない顔で笑っていて、呆れたように鼻を鳴らした。
    「いえ、でもまあ、騙されたなとは思っています」
    「あはは、イデアくんにも怒られたよ」
    「でしょうね」
    「でもま、結果オーライ、でしょ?」
     ぱちりと片目をつぶった彼女自身、タレント活動をしていてもおかしくはない容姿なのにと思う。
    以前ヴィルさんにふとそんな話をしたら、彼女はもう「辞めた」のだと知らされた。以前は読者モデルをしていて、ヴィルさんとはその頃からの知り合いらしい。親しみやすい容姿とキャラクターで随分と人気があったらしいが、ある時を境にすっぱりと辞めてしまったのだそうだ。その理由は分からないけれど、不必要に探る必要もないかとそれ以上は聞いていない。
    「みんなこれからが大事な時期だからね」
     彼女の視線が会議室を指した。笑顔は消さないまま真剣なトーンのそれにひとつ頷いて、ドアが少し開いているそこへと足を進める。ちらりと中を覗き込み、入口に背中を向けて落ち着かない様子で座っている青い髪を認めて少しだけ笑った。

     考えてみたらこんな風に、きちんと話をするのは初めてだ。何だか妙な緊張感に包まれた部屋で柔らかなフレアスカートを履いたお尻で椅子に座り直す。楕円の机は会議用にも使えるように配線用の穴が開いていた。正面に座ったイデアさんは瞬きすらも忘れたようにそこをじっと見詰めていて、正直ちょっと怖い。何と話を切り出そうかと迷って、重たい沈黙の中でふとあの日の追いかけっこを思い出して小さく笑ってしまった。
     その声にびくりと肩を震わせたイデアさんが初めて僕の方をまっすぐに見て、ぶつかった視線に何だかほっとする。今日は目を見て話してくれるらしい。
    「まさかイデアさん達と同じ事務所になると思いませんでした」
    「ああ……うん……」
     気のない返事は想定済みだ。何故なら、目を合わせて会話をすることすら難しいひとだということをもう知っているから。
    「ライブに行った時、ケイトさんに言われたんです。関係者席にいる女の子は、メンバーとどんな関係なのかと探りを入れられるって」
     実際その通りだったなと思ったのは、事務所発表の後。何気なく見ていたSNSで、あのライブに来ていたのは同じ事務所になる予定のアイドルだったのかと納得したような投稿が散見されたからだ。けれどあの時、ケイトさんは『大丈夫だよ』としか言わなかった。僕らの知名度が低いせいかと思っていたのだけれどそうではなかったらしい。
    「ぼ、くも、」
     何かが詰まったような窮屈な声を上げたイデアさんが、んんと一度咳払いをして改めて話し出した。
    「移籍してもキミらのライブには行っていいよって普通に言われたから。いつもならバレないようにとか、言動に気を付けろとかあれこれ言うのに。何か変だなとは思ったんだけど」
     イデアさんが僕らのライブに来てもチェキや接触に参加しなかったのはそのせいもあったのかも知れない。滞在時間が長くなればどうしても身バレするリスクが高まるし、ましてチェキ会などは待機列の前で実施されるため、ファンの目に晒されてしまう。なるほどと勝手に納得して、また少し笑った。
    「ケイトさんの策略にハマッたわけですね」
    「ほんと。こわいっすわ」
     肩を竦めた仕草が新鮮だと思う。ほんの少し肩の力が抜けたらしいイデアさんは、ちらと僕を見てから困ったように笑った。
    「……嘘ついたこと、ホントすんませんした」
    「いえ……ていうか、嘘を吐く必要ありました?」
     ギターをベースに言い換えたところで何が変わるというのだろうか。もう怒っていた訳ではないけれど、それが心底不思議で首を傾げた。自然と上目遣いになった僕を一瞥してから、ぐううと奇妙な声を上げて勢いよく両腕で顔を覆う。
    「いやあ~その~、ギタリストって何か、軽薄っぽいなと思って……アズール氏は、嫌いかなと……」
     思って。最後の言葉は最早音になったかならなかったか分からないくらい小さくなって机に落ちた。そもそも僕としてはギタリストというものに特に印象を持っていなかったけれど、ギタリストが軽薄というのは一般論なのだろうか。眉を寄せて首を捻ると、しおしおと下ろされた腕の下からしょんぼりとした表情が出てきた。
    「ごめん、何か単に咄嗟に出ちゃって」
    「いえ、いいんですけど……イデアさんが、軽薄……」
     ステージの上で自在に弦を操る姿を思い出す。まばゆいライトの中でギターをかき鳴らす姿はどこからどう見ても一流のアーティストであったし、軽薄さというものは特に感じなかったけれど。
    「むしろ一途な方だと思っていました」
     だってほぼ無名な僕らのライブに毎回のように来てくれて、かと言って他のアイドルのライブに行っている様子もない。僕らのグループの中でだって、僕以外にはほぼ目もくれずに一生懸命応援してくれていた。だから頑張ろうと思えたし、頑張らなきゃと踏ん張れた。僕の言葉に一瞬呆けたイデアさんが逃げるように顔を背けて俯く。青い髪から覗いた耳の先が仄かに赤くなっているのが擽ったかった。
     けれど、そうか。同じ事務所になったということは、お金を使ってライブに来なくともチケットを渡せば自由に観に来られるということだ。
    「これからは関係者で観に来られますね」
     名案とばかりにそう言うと、丸まっていた背が伸び、俯いていた顔がスンと無表情になる。更にぴしりと顔の前で手のひらを翳された。
    「いえ、それはお断りするでござる。そもそも推しには金を使ってなんぼですし、アズール氏を推すために仕事をしています故、ライブにはこれまで通りチケットを買って行くでござる」
    「そ、そうですか……?」
    「オタクとしては当然でござる。関係者パスで無料入場など邪道……! そんなものはひとつ席を無駄にするだけでアズール氏達には何ひとつプラスにならんでござる。だったらその席をひとつ分買って新規を増やすために使った方がいいに決まってるで……す……」
     胸を張ったイデアさんをぽかんと見詰めていると、はっとした彼がまた背中を丸める。
    「すす、すんません」
    「いえ、あの、ありがとうございます……?」
     お礼を言うのが正しいのかどうかは分からなかったけれど、取り敢えずそう言って頭を下げた。正直な所、チケットを買ってもらえるのならそれは売上になるわけで、僕らにとって助かるのは事実だ。結局事務所の収入になるような気がしなくもないのだけれど、それはこの際置いておく。
     顔の横に落ちた髪を耳に掛けながら顔を上げると、意外にもイデアさんの目は僕をじっと見ていて、優しく細められたその目元に思わず息を飲んだ。
    KazRyusaki Link Message Mute
    2022/06/23 13:29:58

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