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    TO麺×$ 番外編3机に差し出されたA4の用紙には、手書きのポップな文字で何事かをつらつらと書き連ねられていた。経理処理の承認印を捺す手を止めてアズールが視線を持ち上げると、満面の笑みのエースが立っている。
    「これは?」
    「企画書っす」
    それは見れば分かる。けれど突然そんなものを持って来られる心当たりもなく、首を傾げながらもスーパーの特売セールチラシのようなそれを手に取り、そこにポスカで書かれていた文字に目を丸くした。
    「アズール誕生日カウントダウン生配信……」
    「本当はワンマンライブとか出来りゃいいんすけど」
    読み上げたアズールに続くようにエースが話し出す。続けてと言わんばかりに企画書とエースの顔を見比べていると、丁度紅茶を淹れて戻ってきたジェイドがエースの後ろから机を覗き込み、同じように耳を傾けた。
    「流石にバースデーライブでワンマンできるほどの集客力はないし、だったらお部屋配信でケーキ用意して一緒にカウントダウン! 0時になったらオメデトー! の方が盛り上がる気がするんすよね」
    「なるほど」
    得意げに胸を張ったエースに鼻を鳴らしたジェイドがアズールの手から企画書を取り上げる。集客力がない、というのは耳が痛いけれど、エースの言う通りだ。配信も定期的にやっているとは言え、特に何の企画もない単なるトークだけではユーザーも飽きてしまう。こういう記念日のような企画は重要な施策のひとつだ。
    握ったままだった判子を置いてテーブルに肘をついて指を組む。笑んだ口元に引っ張られて黒子が持ちあがり、メガネの奥で目を細めた。
    「お祝いをフックに投げ銭も期待できますね」
    「そう、あと事前に送って来てくれたプレゼントをいくつか紹介したりとか。これ嬉しい〜とか言っておけば、他のやつの指標にもなるし、送ったやつも嬉しいし」
    「なるほど……ですが、ハレーションになりませんか? 自分のは紹介されなかった、とか」
    「まあ多少。でも、だったら次はそれよりいい物を送ろうってなるっすよ」
    エースは、案外こういう時に頭が回る。金を稼ぐ才能があるのかどうかというより、嗅覚があるのだ。そこはアズールも高く評価している点のひとつで、今回もまたこの企画に感服する。
    「いいですね、やりましょう。ジェイド」
    「はい、では前日から翌日にかけて。アズールの部屋からやりますか?」
    「そうですね。準備しておきます」
    アズール達の配信はもっぱらアズールの私室から行っている。本当はスタジオや事務所の方がいいのだろうけれど、より身近さを出すための作戦のひとつでもあった。私物をあまり置けないという不便さはあるが、配信の度にコーディネートを変えたり片付けたりするので部屋が綺麗に保たれて逆に丁度いい。
    それにしても。誕生日を何かしらの企画にとは思っていたけれど、それはそれとして、単純に誰かに祝ってもらえるのは嬉しかった。

    閲覧数、100、200。それ以上はやや伸び悩み、増えたり減ったりと言った具合だったけれど、この規模のグループの生配信ではまあいい方だろう。
    誕生日前日の23時50分からの配信は、誕生日仕様に飾り付けられたアズールの部屋から開始された。ハッピーバースデーとハートのバルーンに、手作りの紙の花。100円均一で買って来たフラッグガーランド。飾り付けはやたらと張り切ったカリムによって行われ、ケーキの注文はリドルの幼馴染の実家のケーキ屋で作ってもらった。
    スタッフとはいえ男の影はNGということでこの場にはメンバーの3人しかいないけれど、事前にテスト配信で見てもらった飾りやケーキ、紹介するプレゼントは全てエースのお墨付きをもらっている。フロイドは最後までケーキが食べたいとごねていたけれど、リドルの別の機会に買ってやるという一言で大人しくなった。
    「3…2…1……おめでとうー!!」
    散らからないタイプのクラッカーが鳴らされて、誕生日を祝うBGMが流れる。ケーキのロウソクを吹き消して、踊り出さんばかりのカリムの拍手と、おめでとうと呟いたリドルに素直な笑みが零れた。
    「ありがとうございます」
    コメント欄も祝福で埋め尽くされ、スマホもいくつか着信を告げる。
    「あっ、母から電話が……」
    「かーちゃんに配信のこと言ってなかったのか?」
    「言いませんよ、恥ずかしい」
    「あとでかけ直しておやりよ」
    「そうします」
    そんなリアルなやり取りもファンは暖かく見守ってくれる。スマホの着信はほかにも、ヴィルやリリアからも届いていて、当たり障りがない程度に名前を上げている間にリドルがケーキを切り分けた。
    メッセージ受信に紛れて、動画投稿サイトの更新通知が届く。反射的に通知欄をタップしてしまって、慌ててミュートしながらカリムのバースデーケーキにまつわるエピソードに相槌を打ち、さり気なく画面を確認した。
    偶然だろうと思う。それ以外にあるはずがないのだけれど。
    一瞬目を丸くして長いまつ毛を瞬かせたアズールに気付いたリドルが、さり気なくアズールを隠すようにして切り分けたケーキを配膳した。小声で名前を呼ばれ、はっとしたアズールが即座に表情を作り直す。
    出されたケーキはとても甘くて、普段なら到底こんな時間に食べるものではない、罪の味がしたけれど。どきどきと高なった心臓の音と共に、きっとこの先忘れないんだろうなという舌先の甘さと、ふたりの笑顔と、受信した通知の文字を噛み締めた。



    『ネクラP さんが happy-birth-day を投稿しました』




    っあーーーーー!!! 投稿しちゃったーーー!!! いやこれ万が一勘のいいアズール氏のファンがいたりしたら勘繰られるのでは? 匂わせ!? とか言われてしまうのでは? ざんねーーん、そもそも拙者が一方的にファンなだけで知り合いでもないのに匂わせられるわけがないんでござるーーwww プークスクスwwww あっちょっと悲しくなってきた。
    そもそも僕がどのタイミングでバースデーソング上げようと、ユーザーみんな、ほーんとしか思わないよな。別にアズール氏に届くわけでもなし。
    それでも、どうにかしてお祝いしたかった。画面越し、生配信でケーキにはしゃぐ笑顔を見ながらひとつ。
    「誕生日、おめでと。アズール」
    だなんて呟いて、誰もいない部屋で熱くなった頬を持て余した。



    KazRyusaki Link Message Mute
    2022/02/27 9:46:26

    TO麺×$ 番外編3

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    🐙HB!

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