デートのメガネ 最近、アズールは僕と会う時には黒縁のメガネをかけるようになった。少し前にメガネ屋で見掛けて気に入ったというそれは、小さな顔と白い肌の上では異様なまでに存在感を醸し出している。
決して似合わないというわけではないどころか、顔のサイズよりも少し大きいフレームがちょっと余ってるように見えるのが逆に可愛いというかこの彼シャツをだぶっと着てるような感じに見えてムラムラするのは確かでそれを口にしたらすぐにでも真っ赤になってやめてしまいそうだから言わな……いや、うん、ちょっと興奮しちゃった。つまり、オーバーサイズ感が逆にオシャレで可愛い。んだけど。
そのメガネを使うようになってから妙にじっと見られることが増えた気がして、もしかして度が合ってないんじゃ、とすら思う。見詰めてるなと思いきや、慌てて顔を背けたり、不思議そうな顔をしていたり。ここのところモストロラウンジが忙しいとも言っていたし、疲れてるんだろうか。
今日も今日とて。ソシャゲの周回をこなす僕の横で本を読んでいたアズール氏がテーブルからティーカップを持ち上げるついでに僕を見て、暫し横顔を眺めてからふと笑った。え、なに? 変な顔してたかな。
流石にちょっと気になって、スマホから目を離してアズール氏を振り向いた。彼はまるでそうされるのが分かっていたかのようにゆるりと笑って首を傾げる。
「さ、最近よく拙者の顔よく見てるけどなんなん……?」
「おや、バレてましたか?」
悪戯に肩を揺らして本を閉じた。バレた、ということは意識的に、何か意図を持って僕を見ていたということで。
二人でいるのにゲームをやりすぎとか(前に言われた)、溜め込んでたアニメの一挙見しててほっといたとか(これも前に言われた)、レアフィギュアをオークションで落とすのに必死で相手しなかったとか(前に略)、そんなことで怒られるのかなと一瞬覚悟したけれど、にこにこしているアズール氏からは到底そんな雰囲気は感じられなかった。
となると、ますます分からない。何だか妙に落ち着かなくなって、スマホを伏せてテーブルに置いた。
「あの、どしたの……」
おずおずと伺うと、我慢できないとでも言うようにアズール氏が笑い出す。
「すみません、実はこれ」
呆気に取られていた僕に差し出されたのは、例のメガネ。訳も分からないまま受け取って、何かおかしなところがあるかと角度を変えて見てみたけれど、特に何の変哲もないメガネだ。
と、思った矢先に気付いてしまった。
「なにこれ!?」
思わず声を上げてしまったことを赦して欲しい。だってレンズを通してアズール氏を見てみたら、そこにたくさんのハートが表示されて、それはどんどん増えていく。
「あはは! 魔法薬がかけてあるんです。これを通すと、見た相手が自分に向ける愛情が可視化できるんです」
メガネを持つ両手に手を重ねられた。正面から見据えてきた蒼い眼が弧を描いた途端、レンズはハートで埋まっていく。つまり、いま彼は僕に対してたくさんの愛情を感じているということか。そう認識してしまったらもう見ていることすら恥ずかしくって。
「見えました? 僕の気持ち」
重なった手から体温が伝わって、見詰めてくる瞳から熱が伝わる気がした。一体今まで彼はこのメガネを通してどれだけの僕のハートを見ていたのかと考えただけで今すぐに叫び出したい気分だった。