【サンプル】HOMEホームパーティ会
防音設備の整った高級アパートメントであっても、大人数でホームパーティをしていれば、部屋に籠っていても物音や笑い声が聞こえてくる。スティーブンとヴェデッドの三人で作った料理を、自分の分だけ部屋に持ち込んだ水希は、ゲームを起動しヘッドフォンを付けて、パーティの騒音を上書きした。
聞くに堪えん。以前、スティーブンが発した言葉が蘇る。
息を吸ってみる。空調が整えられた室内の空気に、一瞬だけ冷気が混じった錯覚がした。
スティーブンの友人を名乗る人たちは、せっかくだから一緒に楽しんだらと誘ってくれたが、断った。階段を上がる背後で、スティーブンが「人見知りする子だから」とフォローを入れていたけれど、水希から部屋に戻ると言い出さなくても、彼から促してきただろう。
心を読める水希から進言しなくても、あの人は玄関で気づいていた。
話で聞くことはあった人たちだが、実際に顔を合わせるのは今日が初めてな人が大半だった。会ったことがあるのはラリーぐらいだ。数度、彼が経営するトラットリアへ、スティーブンに連れて行ってもらった。四六時中他人の心を読んでいるわけではないし、当たり前だが奴も殺気立ってはいなかった。だから今日まで、水希もその正体を知ることはなかった。
何か硬質な音が聞こえた気がした。ゲームではない、リアルの音だ。眉を顰め、ヘッドフォンを外す。
コンコン。ノックの音だ。
「なに?」
「あー、水希? 肉が焼けたんだ。君の分を持ってきたんだけど、どう」
スティーブンではない。ラリーの声だ。
ダニエル視点
常ならグレーのスーツでこれでもかと長さを強調している脚が、包帯でぐるぐる巻きにされ不格好となった姿に、ダニエル・ロウは口の端を吊り上げる。
「悪運が強いことで」
先日、麻薬取引を阻止するためライブラが取引現場に乗り出したところ、思わぬ反撃にあったらしい。いけ好かない男だが、その実力はダニエルも何度も目にしている。ご自慢の武器が吊り下げられているのを見ただけで、相当な激戦が繰り広げられたのを想像できた。
警察へろくな情報を寄こさず勝手に現場を押さえ、犯人一味だけ丸投げしてきたのは腹立たしく思うが、おかげで己の部下たちが血を流すことはなく、万単位の薬中が生み出される事態も防げた。そんなわけで、顔ぐらい出すかと、病院に訪れたわけだが。
スティーブンが人差し指を口元に添える。
子どもが椅子に腰かけ、ベッドに突っ伏していた。ダニエルも察して、足音を忍ばせる。
「泣き疲れてしまったみたいで」
泣いたと。片眉を上げ、子どもの顔を覗き込む。確かに、白い頬が濡れていた。
彼女のことは、ダニエルもよく知っている。
ライブラが潰した、異界存在排除団体に属していた少女だ。警察へ引き渡された人類たちの中に彼女は含まれておらず、ダニエルがその存在を把握したのは、逮捕した連中の取り調べをしたときだ。ライブラによって荒らされた現場にも、確かに子どもがいた形跡はあった。子どもとは言え、事件の関係者である。いったいどこに匿いやがったのかと、すぐさま目の前の男に問い合わせた。
まさかその間に、子どもの父親含め、留置所にぶち込んだ容疑者たちが殺されているとも思わず。
あれは間違いなく、警察側の失態だった。当然、留置所で暗殺した輩含め、警察内に潜んでいた組織の関係者は(不本意ながら)ライブラの協力を得て、すべて一掃してやったが。
少女の身元はライブラが保護をするという主張を、跳ね除けることはできなかった。