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    二度目の結婚①・一章 【 政略結婚 】

     運命の分岐点とは前触れなく現れる。
     何か兆しがあれば備えることができたかもしれない。どうすべきか考えておくことができたかもしれない。
     しかし現実とは優しくないもので、個人だけではなく大勢の運命を変えてしまうような分岐点であってもその瞬間にならなければ姿を見せてはくれないのだ。
     そしてリックも運命の分岐点に翻弄される人間の一人だ。
     リックという男は数奇な運命を辿るように定められているらしく、彼の前には何度も運命の分岐点が現れた。その選択の結果がもたらした大半は血であり、涙であった。
     つい最近もリックの前には運命の分岐点が現れ、進んだ先に待ち構えていたのは残酷すぎる結末だった。
     大切な仲間を奪われた。生き方における自由を奪われた。必要不可欠な物資を奪われた。
     リックやその仲間たちからあらゆるものを奪い続ける人間の名前はニーガン。圧倒的な支配者。リックにとってニーガンとの出会いはこれまでの人生の中で最悪な出来事だったかもしれない。
     今日も支配者は徴収と称して町を訪れ、リックに「二人だけで話したいことがある」と言って教会に足を向けた。何を企んでいるのかと警戒心を抱きながらもリックは目の前の大きな背中に付いていく。
     ニーガンは教会に入ると祭壇の前に立った。リックはその正面に立って男の顔を見上げる。
    「リック、お前に良い話がある。」
     そう言って話を切り出したニーガンにリックは鋭い眼差しを向けた。
     この男の持ち出す「良い話」には裏がある。対価として何かを差し出すように要求してくると考えて間違いないだろう。
     リックは更に警戒心を強めて「良い話?」と続きを促した。
    「徴収量はそのままで回数を減らしてやる。月一回だ。それとダリルも返そう。良い話だろ?」
     来た時から少しの変化もないニーガンの笑みにリックは苛立ちを覚えながらも提案された話について考える。
     ニーガンの申し出は正直に言えばありがたい話だ。アレクサンドリアには生産物がない。畑はあるが軌道に乗っているとは言えず、調達やヒルトップとの取引で食料を得ている状態だった。他に何か生産しているわけでもなく、このまま徴収が続けば差し出す物資が尽きるのは時間の問題だろう。
     その話がなかったとしてもダリルが帰ってくることは何よりの望みだ。彼を返してもらえるだけでもいい。
     しかし、ニーガンという男の性質を考えれば無条件でうまい話を持ち出すわけがない。
     リックはニーガンの目を見つめながら問う。
    「代わりに何を差し出せと言うんだ?」
     「その言葉を待っていた」と言うようにニーガンは歯を見せて笑い、手に持っているルシールという名のベースボールバットの先をリックに向けた。
    「お前だよ、リック。俺との結婚が条件だ。」
     リックは目の前に突きつけられたバットを睨み、視線をニーガンへと移す。
     ニーガンの顔には軽薄そうな笑みが浮かんでいるがその目は本気だった。
     リックは背筋を這い上がる悪寒を拒むように「ふざけないでくれ」と頭を振った。
    「俺と結婚したいだなんて頭がおかしくなったのか?」
    「期待を裏切るようで悪いんだが、俺はお前に惚れたから結婚したいわけじゃない。政略結婚って奴だ。」
    「どういう意味だ?」
     リックは訝しむように目を細める。
     ニーガンはバットを下ろすとリックに一歩近づいた。
     距離を縮めて見つめ合う二人の表情は対照的だ。リックは厳しい表情を崩さず、ニーガンは楽しげに微笑んでいる。
    「アレクサンドリアを見て回ってわかった。この町は徴収に耐えられるだけの体力がないってね。それはお前が一番よく理解してるんだろ、リック。」
     ニーガンの言葉に対してリックは何も言い返さない。いや、言い返すことができなかった。
    「畑はまだ赤ん坊のよちよち歩き状態だし、調達で凌ぐのが精一杯って感じだよな。他に何か生産してるわけでもない。今のペースで徴収を続ければ……二ヶ月も保つかどうかだ。」
    「だから徴収量を変えずに回数だけ減らす、ということか。」
    「そういうことだ。」
     そう言ってニーガンはウインクを一つ寄こした。
     リックは鬱陶しげに眉を寄せると疑問を口にする。
    「あんたの言うことは理解できるが、どうして結婚の話が出てくるんだ?」
    「徴収の回数を減らすってことは俺の目が行き届かなくなる可能性が出てくる。そうなるとお前たちが良くない計画を立てるかもしれない。例えば──反乱、とか。」
    「武器はない。あんたたちが全て持っていった。」
    「それでも探し回れば見つかるかもな。反抗されると面倒なんでね、それは避けたい。押さえ込むために時間も労力も使うし、誰かに罰を与えなきゃならなくなる。お互いにメリットなしだ。」
     アレクサンドリアが反乱を起こすことを前提に話を進めるニーガンにリックは無性に腹が立った。
     戦いに必要な武器はない。
     反抗する気力を持つ者は少ない。
     奪われて、捻じ伏せられて、叩きのめされた。
     無事に生きている仲間を守ることだけで精一杯の自分たちに何ができるというのか?
     リックは怒りを必死に堪えて握りしめた拳に力を込めた。
    「生活と徴収に精一杯で、武器も持たない今の俺たちに何ができるって言うんだ?反乱なんて起こせない、起こす気もない。」
     怒りに声を震わせながら反乱の意思はないことを告げるとニーガンの顔から笑みが消える。
     ニーガンの顔に怒りはなく、真剣さだけが残った。
    「できるさ。お前がいればな。……リック、お前はタマなし野郎のケツを蹴飛ばして奮い立たせることができる奴だ。俺と同じでトップに立って率いることを許された人間だ。だからお前が反乱を起こすと決めれば反乱は起きる。」
     そう断言するニーガンを見てリックは悟る。
    「ニーガン、あんたがここに来るのは俺を抑えつけておくためだったのか?」
     リックの確信を持った問いにニーガンは「そうだ」と頷いた。
    「お前を野放しにすれば反乱が起きるかもしれない。だからアレクサンドリアの奴らからお前を取り上げて俺の手元に置いておきたい。」
     ニーガンの答えを聞いてリックは唇を噛む。
     ヒルトップの話を聞く限りではニーガン本人が徴収に来たことは一度もないようだ。その例外がなぜアレクサンドリアに起きたのかというと、リックのせいなのだ。
     リックが反乱を先導することを警戒するニーガンはリックの首根っこを掴んでおくために頻繁に町にやって来る。つまり、リックがニーガンを呼び寄せていると言ってもいい。
     リックは自分の存在が皆を苦しめる元凶を呼び寄せていたことにショックを受けたが、それを隠して次の質問を投げかける。
    「あんたの考えは理解できるが、結婚する必要はないんじゃないか?部下にすれば十分だろう。」
     リックの疑問にニーガンが微かに嘲笑を浮かべる。それを見てリックの中に沸き上がるのは怒りと恐れだ。
     バカにされることには怒りを感じるが、遥か上から見下されているような感覚には本能的に恐怖を感じる。支配者への恐怖は簡単に拭えるものではないということなのだろう。
     リックは薄っすらと汗ばむ掌を解放するために拳を解いた。
    「おいおい、仲間を殺された恨みを持ってるのが自分たちだけだと思ってるのか?こっちだってお前らに大勢が殺されてるんだぞ。」
     ニーガンのストレートな言葉に心臓をギュッと掴まれたような心地がした。
     渦巻く怒りと悲しみに囚われて頭から抜け落ちていたが、リックと仲間たちは救世主を何人も殺しているのだ。その救世主にも自分たちと同じように家族や仲間がいて、彼や彼女が自分たちを憎んでいても不思議ではない。
     もちろん、目の前にいる男も。
     そのことが頭に染み込むとニーガンと目を合わせていることができず、リックはニーガンから顔を背けた。
    「単純に部下にするだけだとお前を恨む奴が何をするかわからない。お前が殺されても困るし──ああ、簡単に返り討ちにできそうだな。まあ、俺の夫だってことにしておけば簡単には手出しできないだろうさ。」
    「……俺がいると反乱が起きると言うなら俺を殺した方が簡単だろ。恨みを晴らすこともできる。」
     リックが絞り出すように言葉を吐くと、ニーガンは一瞬キョトンとしてから苦笑を浮かべる。
     そして片手でリックの肩を掴んだ。肩を掴まれたリックは体を小さく震わせる。
    「俺は人殺しジャンキーじゃないぜ、リック。それにお前を部下にしたいのは嘘じゃない。これでもお前の能力を買ってるんだ。」
     ニーガンの手がポンポンと肩を叩いて離れていく。
    「で、どうする?この話を受けるのか、受けないのか。」
     リックはすぐには答えられなかった。
     徴収量が変わらずに回数だけが減れば町にとっては大きな負担減だ。生活自体がかなり楽になるだろう。ダリルも早く解放してあげたい。
     しかし、ニーガンのところへ行けば直接的に仲間を守ることはできなくなる。皆が困っていても手を差し伸べてやることもできない。
     家族とも呼べる仲間たちと離れて生きることになる。その事実は途方もなく重く、結論を出すことを遅らせた。
     悩み抜いた末にリックは何度も躊躇いながら口を開く。
    「本当に負担を……軽くして、くれるのか?」
     リックがやっとの思いで声を出すとニーガンは笑顔で答える。
    「もちろん。月一回の徴収にはお前も同行させてやる。町の様子が気になるだろ?」
    「ああ。……ダリルも……本当に返してくれるのか?」
    「今日あいつを連れてきたのはそのためだ。お前が受け入れるならこのまま解放する。」
     それを聞いてリックは深く息を吐き出す。
     今の自分にできる最善はニーガンの言葉を信じること。
     リックは覚悟を決めてニーガンの目を見つめ返した。
    「ニーガン、話を受ける。あんたと結婚する。」
     声が震えなくてよかった。リックは心の底からそう思う。
     自分の決断が正しいかなんてわからない。自信も持てない。それでも選ばなければアレクサンドリアに待ち受けているのは破滅だ。
     リックは視界に映るニーガンが滲み出したことに気づく。
     泣いてはいけない、と必死に涙を堪えるリックの目の前でニーガンが悠然と笑う。
    「よかった。賢い選択だぞ。」
    「……一つだけ頼みがある。」
     リックの言葉にニーガンが軽く首を傾けた。
     小さな子どもに「言ってごらん」とでも言うような仕草に苛立つが、今はそれを堪える。
    「カールとジュディスがこのままこの町で暮らすことを許してほしい。」
    「子どもたちを手放すのか?お前の全てだろ?」
     ニーガンは意外そうに目を瞠った。リックにとって誰よりも大切なのが我が子たちだと知っているからだ。
     カールとジュディスはリックにとって生きる意味そのもの。だからこそニーガンの傍にいさせるなんてできない。
     リックは涙の引いた目でニーガンをしっかりと見据える。
    「あの子たちを愛してるからこそ、あんたの傍にいさせたくない。カールとジュディスはこの町でみんなと一緒に生きていくべきなんだ。」
     リックの言葉を聞いてもニーガンは怒りを見せることも不快感を示すこともなかった。落ちついた様子で自分を見つめるニーガンに戸惑いながらもリックは目を逸らさなかった。
     やがてニーガンが「わかった」と頷いたのでリックはホッと息を吐く。
    「俺のところへ来るのはお前だけ。本当にそれでいいんだな?」
    「構わない。」
    「じゃあ、交渉成立だ。誓いのキスでもしておくか?」
     からかうような口調のニーガンに対してリックは首を横に振った。
     そしてニーガンに右手を差し出す。
    「握手でいいだろう。これから、よろしく頼む。」
     ニーガンは差し出された手をまじまじと眺めてからリックの顔に視線を向け、笑みと共に手を握る。
     握手を交わすニーガンの手の力は強い。まるで「絶対に逃さない」と言われているようでゾッとする。
     リックは汗が頬を滑り落ちていくのを感じた。
    「これで俺たちは夫婦だ。裏切るなよ、リック。」
    「わかってる。」
     長い握手が解かれ、リックは己の右手を見る。その手が震えていることがひどく情けなくて、手をギュッと握り込んだ。


     リックがニーガンと共に教会を出ると、ニーガンは近くにいた住人と救世主に全員を教会前に集めるよう指示を出す。
     リックはその傍らに立ちながら顔を俯けていた。集まってくる仲間たちの顔を見るのが辛かった。
     やがて町にいる全員が集まり、ニーガンは声高に宣言する。
    「俺とリックはついさっき結婚した!リックはこのまま俺と一緒にサンクチュアリに行って暮らす!さあ、祝福の拍手に遠慮はいらないぞ!」
     誰にとっても予想外のことにアレクサンドリアの皆が言葉を失ったように黙り込む。ある者は目を丸くして驚き、別の者は青ざめて唇を震わせ、怒りに顔を歪める者もいた。驚いているのはアレクサンドリアの人間だけなので救世主たちはニーガンの計画を事前に知らされていたようだ。
     皆が動揺を隠しきれない中で真っ先に口を開いたのはカールだった。
    「ふざけるな!父さんはどこへも行かない!お前と結婚なんかするはずない!」
     カールは怒りを剥き出しにしてニーガンに迫った。今にも殴りかかりそうな勢いのカールを止めるためにリックは後ろからカールに抱きつく。
    「カール、落ちつけ!」
    「放してよ、父さん!勝手なことを言わせて──」
    「俺はニーガンのところへ行く!」
     リックが叫ぶとカールは凍りついたようにもがくのを止めた。
     「嘘だ」と呟くカールを見つめながらリックは首を横に振る。
    「嘘じゃない。徴収の回数を減らすのとダリルを返してもらうための条件だ。」
     リックが努めて落ちついた声で言うとカールが勢い良く振り返った。その顔に浮かぶのは怒りと悲しみだ。
     カールはリックの顔を凝視して唇を震わせる。
    「父さん一人で決めたの?何で?みんなと相談すべきじゃないの?」 
    「この町のためにそうすべきだと思ったからだ。みんなのためだ。」
    「それでも全員で話し合うべきだよ。」
     カールの表情にも声にも悲嘆が滲む。リックはカールの顔を見ていられず、手を離すと背を向けた。
     カールに背を向ければ町の皆と向き合うことになる。
     誰の顔を見ても辛さだけが募り、リックは少し俯きながら集団の中を通り抜けていく。
     リックが進むごとに皆は一歩下がるため道ができた。その道を通りながら自宅へ向かうリックの腕を掴む存在がいた。
     腕を掴まれ、振り返った先にはミショーンがいる。彼女は強張った顔でリックを睨んだ。
    「行く必要ない。みんなで乗りきれる。」
    「……手を離してくれ。荷物を取りに行かないと。」
    「リック!」
     リックはミショーンの手を振りきって足早に家を目指す。決心が揺らがないうちに町から出たかった。
     家に着くと寝室へ直行し、一番大きいリュックを取り出して衣類を詰め込めるだけ詰め込む。その他に必要なものを入れてから最後に写真立てを入れた。町に来たばかりの頃に親子三人で撮った写真だ。
     リュックを手に一階へ下りるとカールとミショーン、アーロン、ユージーン、ゲイブリエル、トビンがいた。ロジータとタラは調達で不在だった。後から説明を受けた二人はひどく怒るだろう。
     リックは様々な感情を宿した眼差しを受けながら皆の前に立って口を開く。
    「徴収量は変えずに回数が月一回になる。それだけでも負担はかなり減るはずだ。それからダリルもこのまま町に留まる。これは決定事項だ。」
    「その条件と引き換えにニーガンと結婚するなんて……結婚はそんなことのためにするものではない。」
     途方に暮れたような顔のゲイブリエルの言葉を皮切りに、それぞれが思いを口にする。
     「僕たちを置いて行かないで」とカールが、「あいつを信じたらだめ」とミショーンが、「みんなで他の方法を考えよう」とアーロンが、「効率的な調達や農作の方法を考えてみる」とユージーンが、「リックがいなくなったらみんながバラバラになる」とトビンが、それぞれにリックを引き留めようと必死に思いを紡いだ。
     一人ひとりの思いが心に染みるのを感じながらもリックは「だめなんだ」と返す。
    「みんなも感じているだろうが、この町は今のペースの徴収には耐えられない。このままだと差し出す物資が足りなくなって誰かが見せしめに殺される。負担が軽くならなければ俺たちに待っているのは破滅だ。」
     それには誰も異を唱えなかった。懸命に走り回っているからこそ「このままでは物資が足りなくなる」と実感しているからだ。
     リックは全員の顔を見回しながら言葉を続ける。
    「それに、ニーガンが来るのは俺のせいなんだ。あいつは俺が反乱を起こすことを警戒して俺を押さえつけるために町へ来る。俺が呼び寄せているようなものさ。……ニーガンが来ると食事や飲み物を出さなきゃいけないだろう?それだけでも大きな負担だ。回数を減らせるなら減らさなきゃならない。」
    「それが何で結婚になるの?」
     納得できない様子のカールが顔をしかめながら質問してきた。
     当然とも言える疑問にリックは苦笑いを浮かべる。
    「監視のためにも俺を部下として手元に置いておきたいそうだ。だが、俺を恨む奴に手出しさせないためには『ニーガンの夫』という肩書きが必要だって。」
     リックの回答にカールは不満げに顔を歪めたが、これ以上何を言えばいいのかわからないようだった。
     リックは仲間たちに「頼むからわかってくれ」と訴えた。
    「リーダーを引き受けておきながら情けない男だと自分でも思う。それでも今の俺にできる最善がこれなんだ。もう、この方法でしかみんなを守れない。向こうに行ってもアレクサンドリアのために何かできないか探してみる。約束する。」
     リックはありのままの気持ちを伝えた。そうしなければ納得してもらえない。納得してもらえなくても誠意を示さなければならない。
     そんなリックの思いを受け止めた仲間たちはそれ以上反対はしなかった。
     ただ、カールだけはリックに近づくと間近で目を合わせて問う。
    「僕たち、二度と会えなくなるの?」
     カールの声は涙声だった。
     最近ではすっかり大人びたカールが幼い子どものような顔で泣くのを堪えている。そのことに胸が痛くなり、リックはカールを強く抱きしめた。
    「徴収には俺も同行させてもらえるからまた会える。ジュディスを頼むぞ、カール。」
    「わかった。……愛してるよ、父さん。」
    「俺も愛してる。」
     リックは抱擁を解くとリュックを背負って無言のまま玄関に向かった。
     胸が苦しかった。泣いてしまいそうだった。情けない自分を見せたくなかったから何も言うことができなかった。
     リックはドアノブを掴んで深呼吸をしてからドアを開けた。
     家を出て、そのままの足でオリビアの家に向かう。ジュディスをオリビアに預けているのだ。
     オリビアの家のドアをノックするとジュディスを抱き上げたままオリビアがドアを開けた。彼女はリックの顔を見た途端に痛ましそうに顔を歪める。他の住人からリックとニーガンの話を聞いたのだろう。
    「リック、何て言ったらいいのか……」
    「いいんだ。ジュディスに挨拶したくて来た。」
     リックがそう言って小さく笑みを浮かべるとオリビアは頷き、ジュディスをリックに渡した。
     ジュディスは大人たちの重苦しい雰囲気など気にもせず無邪気に笑っている。その笑顔に救われるのと同時に別れることへの寂しさが増した。
     リックは愛娘と目を合わせて微笑む。
    「パパとはあんまり会えなくなるが、お兄ちゃんと仲良くするんだぞ。離れていてもお前のことを想っているから。……愛してるよ、ジュディス。」
     心を込めて小さな額にキスをするとくすぐったげな笑い声が響いた。
     リックは再びオリビアにジュディスを渡し、名残惜しむように娘の頬を撫でてから二人に背を向ける。
     そして顔だけで振り返って「ジュディスを頼む」とオリビアに告げ、門の方へ向かった。
     門へ向かう途中、アレクサンドリアの住人たちからの視線を浴びた。誰もが無言で居たたまれない様子だった。町のために生贄になる男にかけるべき言葉が見つからないのだろう。
     リックは向けられる視線に敢えて視線を返すことはせず、真っ直ぐに門へ歩いていった。
     門の前ではニーガンが待ち構えるようにして立っていた。その傍らには悲痛な面持ちのダリルがいる。
     近づいていくとダリルが一歩前に踏み出して「リック」と名を呼んだ。
    「リック、行くな!あんたが犠牲になるなんて──」
    「ダリル、お前のためだけじゃない。お前を含めたみんなのために行くんだ。だから自分を責めないでほしい。お願いだ。」
     リックの願いにダリルは顔を歪めた。
     そんなダリルを押し退けるようにして前に進み出たニーガンがリックの肩を抱く。
    「別れの挨拶は済ませてきたか?」
    「ああ。荷物も持ってきた。」
    「じゃあ早く俺たちのスイートホームに帰ろう!お前を案内する時間が必要だからな。」
     ニヤニヤと笑うニーガンの手を叩き落としてやりたかったが、手が動きそうになるのを堪える。
     ニーガンに促されるまま車まで移動し、助手席に座ってリュックを抱え込む。運転席にはニーガンが乗り込んできた。
     ニーガンは腕を伸ばして後部座席にルシールを座らせるとリックに顔を向ける。
    「泣くなよ。」
     リックはからかうように笑うニーガンから顔を背けて反論する。
    「泣いてなんかない。」
    「そうか?月に一回は会えるんだから悲観することはないさ。さあ、ドライブだぞ、ハニー。」
     ニーガンは上機嫌で車を走らせ始める。
     外から「父さん!」と呼ぶカールの声が聞こえ、リックは助手席側の窓を開けて外を覗き見た。
     走り出した車を追いかけるように走るカールの姿が見えた。その姿もすぐに見えなくなり、もう一度「父さん!」と叫ぶ声だけが耳に届く。
     リックは窓を閉じ、顔を窓の方に向けたまま口をグッと閉じた。目から溢れた涙が頬を伝って唇まで辿り着くと微かに涙の味がする。それでも涙を拭おうとはしない。
     ニーガンに泣き顔を見せるのも涙を拭う素振りを見せるのも嫌だった。泣いていると気づかれていても構わなかった。それはリックなりの意地だ。
     リックは見慣れた景色が流れていくのを眺めながら、我が子二人と仲間たちの幸運を心の底から願った。
     ニーガンの本拠地であるサンクチュアリに到着し、車を降りたリックは巨大な建物を見上げて溜め息を吐く。
     まるで要塞だ。車の中から眺めた時にも感じたことだが、工場を利用した巨大な拠点は要塞のように見える。
     コンクリート製の建物は冷たさを感じさせ、城を取り囲むフェンスに括り付けられたウォーカーの存在が不気味さを生み出していた。こんなところで暮らさないければならないのかと思うと憂鬱さが増して溜め息を吐きたくなる。
     リックがもう一度溜め息を吐くと、肩にニーガンの手が置かれた。
    「行くぞ。みんなにお前を紹介しなきゃならない。」
     肩から手を離して先に歩いていくニーガンの背中を追いかけ、ニーガンが建物の中に入るのに続く。
     広い空間には既に人々が集められていて、新顔のリックに興味深げな視線を投げてきた。リックは自分に集中する視線に居心地の悪さを感じながらもニーガンの少し後ろに立つ。
    「紹介しよう!アレクサンドリアから来たリックだ。今日、俺たちは結婚した。」
     ニーガンの報告にその場がざわついた。隣り合う者と顔を見合わせて何やら話をしたり、リックの方を見て目を丸くしている者もいる。
     驚きと戸惑いの入り混じった中でニーガンがルシールで手すりを叩く。その音に人々は一瞬で静まり返った。
     ニーガンは全体を眺めてから報告を再開する。
    「驚くのも無理はない。だが、すぐに慣れるさ。リックは俺の夫だが救世主として働いてもらう。わからないことがあったら教えてやれ。じゃあ、解散。」
     ニーガンは解散を告げるとリックの肩を抱いて歩き出す。
    「今から建物の中を案内してやる。お前の部屋はちゃんと用意してあるから安心しろ。だが、今夜は俺の部屋で寝てもらう。」
     その言葉にリックは眉を寄せた。
    「なぜ一緒の部屋で寝なければならないんだ?」
    「そりゃ新婚初日だからさ。俺たちは熱々の新婚夫婦なんだぜ?初日から別々の部屋で寝るなんておかしいだろ。」
    「単なる政略結婚だ。そんなことをする必要はない。」
    「おいおい、リック。どんなことでも楽しまなきゃ損だぞ。心配するな、単純に寝るだけで何もしない。そういう意味で男に興味はない。」
    「……知ってる。」
     ニーガンが妻を何人も囲っていることは聞き及んでいた。それにアレクサンドリアに来た時のロジータへの態度を見てもわかることだ。
     こういった軽薄なところも嫌いだった。シェーンも女性との付き合いが途切れなかったが、彼は二股をかけるような男ではなかった。比べること自体が間違っていると思いつつ、リックはニーガンとシェーンを比較してますます隣の男への嫌悪を募らせる。
     ニーガンはリックが渋い顔をしていることを気にせず案内を始めた。労働者の寝起きするエリアと救世主の私室があるエリアの説明、各階にある共用部の説明、他の建物に繋がる廊下のある階などを説明され、他にも規則や生活に関わることの話もあった。
     案内の途中ではニーガンの妻たちが集う部屋にも連れて行かれた。部屋の中には何人もの美しい女たちがいて、その誰もが黒のワンピースを着ていることが奇妙だ。
     ニーガンは彼女たちにリックを紹介しながらそのうちの何人かとキスを交わす。「ニーガン、愛してる」と言ってからキスを交わす女たちの目に情はない。妻たちは愛の言葉を口にしながらもニーガンへの愛情はないのだとリックは目の前の光景を眺めながら漠然と感じていた。
     部屋を出た後、リックは再びニーガンと並んで廊下を歩く。
    「良い女ばかりだろ?大勢の女と楽しむのは男のロマンだ。」
    「俺は違う。愛するのは一人だけがいい。」
    「じゃあ俺だけを愛すればいいさ。俺は博愛主義だから大勢を相手にするけどな。」
     からかうように言って楽しげに笑うニーガンに怒りは沸かなかった。ニーガンに対する疑問があるだけだ。
     聞くだけ無駄だとわかっていてもリックの口は疑問の言葉を紡ぐ。
    「ニーガン、彼女たちが本当にあんたを愛してるとでも思ってるのか?」
     ニーガンは目を瞠ったが、次の瞬間にはいつもの笑みを取り戻していた。
    「心なんて見えないし誰にもわからない。目に見える形がどうなってるかが大事なんじゃねぇか?」
    「それが全てじゃない。……もういい、変なことを言って悪かった。」
     これ以上話しても無駄だと理解したリックは話を切り上げた。
     ニーガンは周りの人間が自分を恐れていても憎んでいても構わないのだ。心の底に殺意を秘めていようと嫌悪を募らせていようと反抗せず従順でいることが大事であり、それを好んでいるように思える。
     ニーガンは皆に「部下」という役・「妻」という役を演じきることを求めているのであって心までは望んでいない。リックにはそんな風に思えた。それは同時にリックも「夫」という役を演じきるのを求められるということだ。
     リックは更に気が重くなったのを自覚しながら、ここで暮らすために必要なことの説明を一通り受けた。
     そのうちにニーガンが一つの部屋の前で立ち止まる。
    「ここがリックの部屋だ。俺も同じ階に部屋がある。」
     そう言いながらニーガンはドアを開け、リックに中に入るよう促した。
     部屋は広いとは言えないがベッド、チェスト、小さな丸テーブルに椅子が二脚、それに加えて小さな本棚があり、必要なものは揃っていた。ここのルールから考えれば新入りなのに破格の対応だ。
     リックはゆっくりと部屋の中を見回してからニーガンに向き直り、「ありがとう」と感謝を口にした。
    「食事は毎食持ってこさせる。俺の部下と同じように働いてもらうが、部下とは違うってことを示しておかないとな。」
    「わかった。他には何かあるか?」
    「夫婦なのに一緒に夜を過ごさないのは良くないから、たまには俺の部屋で寝てもらうぞ。拒否権がないことはわかってるな?」
     リックは仕方なく頷いて了解を示す。
     ニーガンと同じ部屋で寝るのは嫌だが、毎日というわけではないのだから我慢するしかない。
    「今日は夕食が済んだら俺の部屋に来い。そのまま朝までいてもらうからシャワーを浴びてこいよ。」
    「わかった。ところでニーガンの部屋はどこにあるんだ?」
    「焦るな、今から連れていく。」
     ニーガンはそう言ってリックの鼻先を指で弾いて部屋を出ていく。
     リックは持っていたリュックをベッドに放り出し、痛む鼻を撫でながらニーガンの後を追った。
     ニーガンの後ろに追いつくと振り返って顔を見つめてきた。リックが恨めしげに睨めばニーガンは軽く笑い声を上げる。
    「悪かったよ。ちょっと力が強すぎたな。」
    「ちょっと?」
     嫌味を込めて返すとニーガンは肩を竦める。
    「コミュニケーションを取ろうと思ったんだ。これから一緒に暮らすわけだし、少しでも親しみを持ってもらおうと俺なりに考えたんだが──悪かったって。」
    「俺たちは契約しただけだから親しくなる必要はない。」
    「わかった、わかった。」
     そんなやり取りをするうちにニーガンの部屋に到着し、ニーガンが「どうぞ」と気取った仕草で中に案内する。
     リックは部屋の中に一歩入ると呆れの溜め息を零した。
     ニーガンの部屋には豪華な家具が集めてあった。この世界でこれだけのものを集められるというのは余程の力を持つ人間だけだ。ある程度予想していたとはいえ、権力の象徴のような部屋に呆れてしまう。
    「あんたらしい部屋だな。」
     思わず漏れた感想にニーガンは楽しげに笑った。
    「良い部屋だろ?あのベッドはなかなか寝心地が良い。今夜試してみるか?」
    「遠慮する。ソファーで寝させてくれ。」
     リックはそう言って三人掛けのソファーに視線を向けた。
     ニーガンとベッドを共有するなどゾッとする。多少寝心地が悪くともソファーで寝る方がマシだ。そんなことよりも他に話したいことがある。
     リックはニーガンに視線を戻すと一番聞きたいことを思い浮かべた。
    「俺はここでどんな仕事をすればいいんだ?」
     その質問にニーガンの顔がリーダーのものへと変わる。
     目には真剣さを宿し、笑みはリラックスしたものから少し威圧的なものになった。
    「調達と死人共の駆除がメインだ。徴収はアレクサンドリアに同行するだけでいい。どうせアレクサンドリア以外のコミュニティー相手でも向こうに肩入れするだろ?お前は徴収に向いてない。他の仕事は……そうだな、その時に指示する。しばらくはサイモンに付いて仕事を覚えろ。」
     サイモンとはニーガンの右腕と称される男だ。特徴のある髭が印象的だが、ニーガンに匹敵する威圧感と存在感の方が強く印象に残っている。
     リックはサイモンの顔を思い浮かべながら「わかった」と頷いた。
    「説明はこんなところだな。部屋に戻って荷物を片づけておけ。今日は特別に仕事を免除してやるから夕食までのんびりしてろ。」
     リックは再び頷いて部屋を出ようとする。
    「おい、リック。」
     呼び止められて振り返ればニーガンは真っ直ぐにこちらを見ていた。
     薄ら笑いやニヤけた顔ではなく、引きしまった表情のニーガンがそこにはいた。その真剣な顔をリックも見つめ返す。
    「俺たちは夫婦になった。だから裏切ることは許さない。覚えておけよ。」
     ニーガンが「裏切るな」と言うのは二度目だ。リックはその意味を考えながら「わかった」と答えて部屋を出る。
     自分の部屋まで戻る途中、溜め息が零れるのはどうしようもない。
     建物内を案内されて今後についての説明を受けるとこの場所で生きていくことを嫌でも実感させられる。もう後戻りはできないのだと突きつけられる。
     足元から不安が這い上がってくるような気分になるが、それを追い払うように拳を握った。
    (俺は仲間を……家族を守る。それはどこで生きていくとしても変わらない。これからも、みんなのために動くだけだ)
     リックは自分を奮い立たせながら歩き、部屋に着くとリュックを開けて荷物をベッドの上に広げていく。
     持ってきたのはほとんどが衣類なので荷物の片づけはすぐに終わった。最後に写真立てを本棚の上に飾り、それをじっくりと眺める。笑みを浮かべる我が子二人の写真を見ていると恋しさが募った。
     離れずに傍で守ってやりたい。成長する姿を間近で見ていたい。困った時にいつでも助けてやりたい。
     しかし、ニーガンが頻繁に来るのは二人のためにならない。あの男が周囲に与える影響は大きく、それを遠ざける必要があった。
     リックは写真の中で微笑む我が子たちに指先で触れる。
    「お前たちを必ず守るよ。」
     どんな形であっても守る。
     それだけが今のリックの支えだった。


     リックが窓辺に立って日が沈んでいくのを眺めていると部屋のドアが軽快にノックされた。そのリズミカルなノック音に眉を寄せながらドアを開ける。
     立っていたのはサイモンだった。料理と飲み物が乗ったトレーを持って現れた男にリックは目を丸くする。
    「ご機嫌よう、お姫様。俺はサイモン──ああ、知ってるよな、そうだった。挨拶のついでに食事を持ってきたぜ。」
     リックは目の前に差し出されたトレーを受け取り、「ありがとう」と言ってドアを閉めようとした。
     しかし、それはサイモンの手に阻まれて敵わない。ドアを押さえるサイモンは顔を近づけてきた。
    「もう少し会話しようって気はないのか?俺はしばらくお前の面倒を見るってのに。」
    「……すまなかった。明日は何をすればいい?」
    「明日は調達だ。戻りは明後日の予定だから外で寝る準備をしておけよ。ニーガンから聞かされてるか知らないが、外に出て活動する時の荷物は自分で用意しろ。普通は食事も自分で用意するんだが、お前の分は勝手に用意される。なんてったってニーガンの結婚相手だからな。」
     いきなり泊まりがけでの調達に行くと聞かされてリックは驚いた。ここでのやり方に慣れておらず、まだ他の者との連携も取れていない人間を大切な任務に就かせるとは思わなかったのだ。
     リックの驚きを察したのか、サイモンは呆れたように肩を竦めて笑う。
    「きれいなお部屋の中で大事にしてもらえるとでも思ったか?働かなきゃ食わせる価値はない。当然だろ?」
     リックはバカにされたことに対する怒りを視線に乗せてサイモンを睨む。
    「まだ慣れていない奴を大事な任務に就かせると思っていなかっただけだ。仕事はきちんとやる。」
     リックの言葉にサイモンが目を細めた。
     そしてリックの肩にサイモンの手が置かれて軽く掴まれる。
     リックは肩に置かれた手を見下ろしてから再びサイモンの顔に視線を戻した。
    「ニーガンはお前の能力を買ってる。その期待に応えろ。」
     そう言った瞬間のサイモンの目がギラリと光ったように見えた。
     見定めるような、威圧するような目。その迫力に心臓が跳ねた。
     ニーガンから右腕と呼ばれるだけのことはある、とリックは冷静であるように努めながらサイモンと目を合わせる。
     サイモンはしばらく無言だったが、やがてニッと笑ってリックの肩を軽く叩いた。
    「残さず食べろよ。食料は貴重品だ。」
     ヒラヒラと手を振りながら去っていく男を見送り、今度こそドアを閉める。ドアを閉めると深く息を吐き出した。緊張していたのだ。
     リックは丸テーブルにトレーを置いてから椅子に座り、出されたものを胃袋に収めることにする。
     皿の上にはパンも肉も野菜も乗っている。グラスに注がれているのは果物を搾って作られたジュースだ。上等な食事と評することができるものをニーガンは惜しげもなくリックに与える。
    「──ニーガンの夫、か。」
     愛情のない思惑だらけの結婚だ。それでも「自分たちは結婚した」とリックとニーガンの両者が認識している以上、二人は夫婦であり続ける。誰が疑問に感じようとリックはニーガンの夫であり、ニーガンもまたリックの夫なのだ。
     心情的にはニーガンはリックを部下として見ているが、己の伴侶としての体裁を保つつもりなのだろう。リックはそれに応えなければならない。
    「俺はニーガンの夫だ。あいつが夫としての俺に望むのは──」
     考え込むリックの脳裏にニーガンに言われた言葉が甦る。
    『俺たちは夫婦になった。だから裏切ることは許さない。覚えておけよ。』
     ニーガンの言葉から考えると、ニーガンはリックに対して誠実さを求めているように思えた。
     夫婦なのだから相手に対して誠実でなければならない。それは隠し事や裏切りを絶対に許さないということだろう。
     その結論に至ったリックはフォークを手に取ったものの心に引っかかるもののせいで食事を口に運ぶことができなかった。
    (マギーがヒルトップにいることを黙ったままでそれがバレたら……アレクサンドリアにとってもヒルトップにとっても最悪な展開になるだろうな)
     マギーは死んだことになっている。その彼女がヒルトップで生きているとわかればリックが嘘を吐いたことが明るみになり、アレクサンドリアとヒルトップが繋がっていることも知られてしまう。そうなればヒルトップにも罰が与えられるのは間違いない。
     救世主がヒルトップに出入りする以上、マギーが見つかるのは時間の問題だ。その前に手を打たなければならない。
     つまり、マギーがヒルトップに身を寄せていることをニーガンに打ち明けるのだ。
     誠実さを求められているのならば、これはそれを示す大きな機会だ。誠実さを評価してもらえれば罰は軽くなる可能性がある。もし何も言わないまま知られてしまえばニーガンの怒りは相当なものになり、与えられる罰が過酷なものになるのは避けられない。
     しかし、これは賭けと言ってもいい。ニーガンの怒りに火を付けてしまえば全てがお終いだ。
     リックは思い悩みながら料理を口に運ぶ。素材の味を生かしたはずのそれは何の味もしなかった。


    *****


     リックは食事を終えてからシャワーを浴びに向かった。シャワーは共用のものを使うことになっていたが、シャワールームに行ったのが夕食の時間帯だったため他には誰もいなかった。
     リックは誰も来ないうちに急いでシャワーを終えるとTシャツとスウェットパンツに着替え、ブーツからスリッパに履き替えた。
     そして部屋に戻って洗濯物を置き、ニーガンの部屋へ足を運ぶ。
     リックは廊下を歩きながら鼓動が全身に響くのを感じていた。
     緊張は強い。それはニーガンと同じ部屋で一晩過ごすことに対してのものではない。
     リックはニーガンの部屋の前に立って深呼吸をしてからドアをノックした。
    「入れ。」
     入室の許可を得たのでドアを開けると、リックと同じようにTシャツとスウェットパンツに着替えたニーガンがソファーでくつろいでいた。
     ニーガンはリックの全身をジロジロと眺めてからニヤッと笑う。
    「その格好は新鮮だな。」
    「あんたもな。……ニーガン、話がある。」
    「何だよ、改まって。そこに座れ。」
     ニーガンは一人用のソファーを顎で指した。
     リックはニーガンの正面に座ると両手を膝の上に置いて拳を作った。
    「俺はあんたに嘘を吐いた。以前、マギーは死んだと言ったが彼女は死んでない。──マギーはヒルトップで生きている。」
     リックが告げた言葉によってニーガンの眉間にしわが刻まれる。静かに怒気を放ち始めた男を前に、リックの心臓を恐怖が撫でた。
     それでもリックは怯むことなくニーガンの目を見つめる。
    「俺とあんたが初めて会ったあの日、俺たちは具合の悪いマギーをヒルトップへ連れて行こうとしていた。アレクサンドリアには医者がいないから医者がいるヒルトップを頼るしかなかった。その途中であんたたちに取り囲まれて……あんたたちが去った後に彼女を連れてヒルトップへ向かった。」
    「そのままマギーだけ残ってるってことか。」
    「サシャという女性も一緒だ。マギーに付き添っている。」
    「なるほどね。……ヒルトップとの付き合いはいつからだ?うちの基地を潰したのと関わりがあるか?」
     そう尋ねるニーガンの目は鋭い。アレクサンドリアとヒルトップとの関係がどの程度深いのかを知りたいのだろう。
     リックは頭の中で慎重に文章を組み立てる。
    「あんたの部下が俺の仲間を脅してしばらく経った頃、調達の最中にヒルトップの人間と出会って、それから交流を持つようになった。食料を支援してもらったり向こうの住人を救出したこともある。」
    「救出?」
     訝しげな顔のニーガンにリックは「そうだ」と頷いてみせる。
    「調達のために外に出てウォーカーに襲われていたのを助けたんだ。ニーガン、ヒルトップは戦闘に不慣れな住人が多い。それでも自分たちの生活や徴収に備えて物資調達に行かなきゃならない。彼らが外で安全に活動できるようにヒルトップ周辺のウォーカーをもっと減らしてやるべきじゃないか?支配するなら守ってやる義務があるはずだ。」
     リックの話を聞いたニーガンは腕組みをして顔をしかめた。それでも怒りを爆発させる様子はない。
     リックは少しの間ニーガンの様子を見てから続きを話し始める。
    「話が逸れて悪かった。ヒルトップの住人からあんたたちのことを聞いて俺たちのところにもいつか来ると思った。一度脅されているから、やられる前にやると決めて基地を潰した。」
    「ヒルトップの奴らに協力させなかったのか?あいつらが俺たちを鬱陶しく思っていても不思議じゃない。救世主を追い払ってくれるなら援助する、とか。」
     ニーガンの目には嘘を見抜こうという意思が見えた。綻びを見つけて、そこから真実を引きずり出そうとしているのだろう。
     リックは喉元にナイフを当てられているような緊張を感じながらも冷静でいるよう自身に言い聞かせる。
     正直に述べることは必要だが、全てを話せば破滅へ向かう。事実の中に少しだけ嘘を混ぜるのだ。
     リックは声が震えないように祈りながら口を開く。
    「俺たちが──アレクサンドリアが決めたことだ。俺たちがやった。」
     リックは目を逸らすことなく言いきった。ニーガンも視線を外すことはなかった。
    「嘘を吐いた理由は?」
     リックは乾いた唇を舐めてから答える。
    「交流があることを知られたらヒルトップに余計な疑いがかかるかもしれないと思ったからだ。巻き込みたくなかった。」
     睨み合うように視線を交わらせたまま時間が過ぎていく。沈黙は重く、時間の経過がいつもより遅いように感じられた。
     リックが唾を飲み込むと音が大きく響き、リックはその音に肩が跳ねそうになるのを堪えた。
     それを見てニーガンが不意に笑みを零す。
    「そんなに緊張するな。……いいだろう、お前たちを許そう。」
     ニーガンはそう言って身を乗り出す。
    「今の話にも嘘はあるんだろう?それでもほとんどが真実だ。だから、それでいい。お前が俺の夫としての自覚があることを評価しよう。」
     その言葉にリックは頬が引きつるのを感じた。
     わかっていたことだが、ニーガンは手強い。
     黙り込んだままのリックに向かってニーガンは「心配するな」と笑った。
    「俺は人殺しジャンキーじゃないって言っただろ。それに寛大なところを示すのも必要さ。」
     ニーガンは立ち上がって廊下に顔を出すと「誰かいないか?」と部下を呼んだ。すぐにやって来た部下にサイモンを呼ぶよう命令し、再びドアを閉める。
     リックはソファーに座り直したニーガンから目を離して自分の膝に視線を落とした。
     とりあえずアレクサンドリアとヒルトップに罰が与えられることはなさそうだ。そのことに安堵しつつ、今回は運が良かっただけだと痛感する。
     リックが自身の不甲斐なさを噛みしめていると「リック」と呼ばれた。顔を上げればニーガンが微笑みながらこちらを見ている。
    「お前の判断は正しい。何も聞かされずにヒルトップでマギーを見つけていたら俺は間違いなくマギーを殺すし、ヒルトップとアレクサンドリアの住人も何人か殺さなきゃならなかった。それはお前が夫である俺に不誠実だったことに対する罰だ。記念すべき新婚初夜に打ち明けてくれて良かった。」
     穏やかに微笑みながら話すニーガンにリックは戸惑い、恐る恐る口を開く。
    「本当に許してくれるのか?もしペナルティーがあるなら俺だけにしてほしい。他の誰にも手を出さないでくれ、頼む。」
     リックの懇願にニーガンは少し考え込む。
     やがて何かを思いついたように目を瞬かせ、楽しそうな笑みを浮かべた。
    「嘘がバレることに怯えながら過ごすのがあいつらの罰としては十分だが、お前への罰はこうしよう。俺の部屋で寝る時は俺とベッドを共有すること。ソファーで寝るのはなしだ。文句ないだろ?」
     ニヤニヤと笑うニーガンを見て、リックは溜め息を吐きたくなった。
     恐らくニーガンはリックが嫌そうな顔をしたり、うんざりするところが見たいのだろう。その推測は外れていないはずだ。それでも誰も罰を受けないで済むのなら安いもの。
     リックが首を縦に振るとニーガンは喜びを表すように手を叩いた。
    「心配しなくても何もしないさ。並んで寝るだけだ。」
     そうであってもリックは安眠できそうにない。
     リックはご機嫌な男を見つめながら密かに溜め息を落とした。


    「──というわけだから、ヒルトップでマギーを見つけても放っておけ。」
     ニーガンは部屋を訪ねてきたサイモンにリックが打ち明けた内容を全て話した。リックは黙って二人の様子を見守っていたが、話を聞いているサイモンが面白がるような眼差しを向けてくることにうんざりしていた。
     立ったままのサイモンは腰に手を当てて考え込む素振りを見せ、その次に指で額をかく。
    「あんたが納得してるなら俺はそれでいい。で、グレゴリーには話しておくのか?」
     その質問に対してニーガンは首を横に振る。
    「必要ない。うちの誰かがマギーを見つけたり向こうから打ち明けてきたら『ニーガンは知ってるしどうこうするつもりもないから勝手にしろ』とでも言っておけ。」
    「了解。それにしても、よく打ち明ける気になったもんだ。俺なら言えないね。」
     バカにしているのか感心しているのかわからないような口調のサイモンがリックを見てニヤニヤと笑う。その笑い方がリックにはニーガンに似ているように思えて嫌気が差した。
     ニーガンはリックに顔を向けながらニッコリと笑う。
    「愛する夫に嘘を吐いたままでいたくなかったらしい。俺のリックは本当に健気だぜ。」
    「お熱いことで。じゃあ、新婚夫婦の邪魔をするのは悪いから出ていこう。」
    「気を遣わせて悪いな、サイモン。ハニー、早くベッドに行けよ。」
     ニーガンはベッドを指し示してリックにベッドへ行くよう促した。それに渋々従ったリックがベッドに座ってスリッパを脱ぐと、ニーガンもベッドの傍に移動してスリッパを脱ぐ。
     その様子を目撃したサイモンは目玉が零れ落ちそうなほどに目を見開いて口をあんぐりと開けた。かなり衝撃的だったらしい。
     ニーガンはスリッパを床に転がすとベッドに座り、今気づいたといった様子でサイモンを見て瞬きをする。
    「何だよ、まだいるのか?早く行け。」
    「……信じられねぇ。人生最大の驚きだ。」
     サイモンはリックとニーガンを凝視しながら部屋を出ていった。
     足音が遠ざかるとニーガンはベッドに背中から転がって笑い始める。
    「今の見たか⁉最高に面白い顔してたぞ!あー、楽しい!」
     リックは腹を抱えて笑い続けるニーガンをジロリと睨んでからベッドに横になった。ベッドの縁ぎりぎりの場所に体を落ちつけると布団を被って目を閉じる。
     隣でゴソゴソと動くのを気配で感じ、それが終わると「おい」と呼びかけられた。
    「そんなに隅っこで寝ると落ちるぞ。もっと真ん中に寄れよ。」
    「結構だ。落ちたりなんてしない。」
    「大した自信だ。俺は忠告したからな。」
     呆れの滲む声に言い返したくなるのを堪えて目を閉じ続ける。
     隣にニーガンがいることを意識してしまい、なかなか寝付けそうにない。寝不足が明日に響かないことを願いたいが無理だろう。
     いつか、この状態に慣れる日が来るのだろうか?
    (それはそれで嫌だな)
     リックは心の中だけで溜め息を吐き、居心地の悪さに小さく身じろぎした。


     どうにか眠ることができたリックだったが、夜中に寝返りを打った途端にベッドから転げ落ちる。強かに体を打ち付けたため大きな音が出てしまった。
     落下音と呻き声が響けば当然ニーガンが目を覚ますことになり、キョトンとした顔でリックを見たニーガンは徐々に顔全体に笑いを広げていく。
     リックが「笑うな!」と訴えたのも虚しく、ニーガンは腹を抱えて笑い転げたのだった。

    To be continued.
    ♢だんご♢ Link Message Mute
    2019/03/26 23:01:50

    二度目の結婚①

    #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク

    pixivに投稿した作品と同じものです。
    S7のニガリク。
    リックがニーガンと政略結婚をするお話。リックとミショーンは友情止まり。
    今回は結婚に至るまでと新婚初日のお話です。

    「読みたい」を詰め込んだご都合主義全開の話です。ニガリクを幸せにするために書きました。
    長いのでお暇な時にどうぞ。

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    • リック受まとめ #ダリリク  #シェンリク  #腐向け  #TWD  #ニガリク ##ダリリク ##シェンリク ##ニガリク ##TWD


      privatterで投稿したものと今までに投稿していないものをまとめました。
      平和な世界だったり、ドラマ沿いだったりごちゃ混ぜです。



      ◆今日のダリリク:相手が風呂を上がっても髪を乾かさないので仕方なくドライヤーをかけてやる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       髪を濡らしたままバスルームから出てきたリックを見て、ダリルは眉間に思いきりシワを寄せた。
       リックが「疲れた」と何度もボヤきながらバスルームに入っていった時点でこうなることは予想していたが、予想通りになったからといって喜ぶことはできない。
       ダリルは髪の先から雫を滴らせるリックを捕まえるとバスルームへ引きずっていき、ドライヤーの熱い風をリックの髪に吹きかけ始める。
       乱暴な手つきで髪を乾かしてやるとリックが苦笑いを浮かべた。
      「放っておいてくれて構わないんだぞ?」
      「バカか。風邪でも引かれたら困る。」
       それも理由の一つではあるが、リックに構いたいというのが一番の理由。
       普段は頼もしく凛々しい男がダリルの前では気を緩めて無防備になるのが嬉しい。それだけ自分に心を許しているということなのだと思うと甘やかしてやりたくなる。
       そんなことをリック本人に言うつもりは少しもない。
       そんなわけで、ダリルは緩みそうになる顔を引き締めながらリックの髪を乾かし続けたのだった。

      End




      ◆今日のシェンリク:昼下がり、相手が楽しそうに洗濯物を干しているのを、洗濯物をたたみながら眺める
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       今日は仕事は休み。
       そのためシェーンはリックと共に惰眠を貪り、遅めの朝食……ではなく昼食を食べてから活動を始めた。
       洗濯機を回しながら食器洗いや掃除を行い、それが終わると昨夜干した洗濯物を取り込んでいく。
       洗濯物の取り込みが終わった時点でリックが洗い終わった衣類を持って姿を見せた。
      「干すのは俺がやるからシェーンは洗濯物をたたんでおいてくれ。」
      「任せろ、相棒。」
       仕事中のような受け答えに笑い合いながら各自の仕事に取りかかる。
       Tシャツをたたみ、ジーンズをたたみ、タオルをたたみ……。
       シェーンはキレイにたたんだ衣類を並べながら洗濯物を干すリックに目を向ける。
       物干しに洗濯物を干していくリックの顔には笑みが浮かんでいる。それだけでなく鼻歌まで歌っているようだ。
       「何がそんなに楽しいのだろう」と首を傾げかけて、シェーンは自分の口元も緩んでいることに気づいた。
       ああ、そうか。二人一緒なら何をしていても楽しい。
       シェーンはリックも自分と同じなのだと気づき、自分の笑みがますます深いものになっていくのを自覚した。
       これが終わったら次は何をしようか?
       リックと一緒ならどんなことをしても楽しいに違いない。
       そんな風に心を弾ませながら最後の一枚をたたみ終わると、洗濯物を干しているリックの方へ足を運ぶことにした。

      End




      ◆今日のニガリク:無意識に「おかえり」と言うと相手が驚いた顔で「ただいま…」と小声で返すので、何だかお互いに恥ずかしくなる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       遅くなるなら遅くなるって連絡しろ、クソ野郎。
       リックは怒りと共に冷めきったスパゲッティの皿にラップを貼ってから冷蔵庫を開けた。
       夕食の時間になっても帰ってこなかったニーガンからの連絡は未だにない。「夕食はいらない」という話もなかったので用意はしておいたのだが、日付が変わるまで残り三十分という時間になっても玄関のドアは開かなかった。
       ニーガンという男は他人の思い通りになるような人間ではないと知っていたが、少しは一緒に暮らしている者の身にもなってほしいとリックは常々思っている。
      「どこかの女の部屋にでも転がり込んだのかもな。」
       リックは吐き捨てるように言いながら冷蔵庫の扉を乱暴に閉めた。
       あんな男と一緒に暮らしている自分がバカなのだとわかっていても腹を立てずにいられない。
       ニーガンの言動一つに振り回され、翻弄され、感情が揺れ動く自分が情けなかった。それなのに離れずにいることも情けなくて悔しい。
       「早く帰ってきてほしい」だなんて惨めだ。
       リックは静まり返った部屋の中心に佇み、ボンヤリと床を見つめる。ニーガンがいるとうるさいと感じるのに、今はこの静けさが嫌いだ。
       どうしても「ただいま」の声が聞きたい。
       その時、ドアの開く音が微かに響く。その音に導かれるように玄関へ向かうと、そこにはニーガンの姿があった。
       ニーガンはリックを見ると普段通りの笑みを浮かべた。
      「文句は後にしろよ。説明してやるから、先にシャワーを浴びさせて……」
      「おかえり。」
       リックの口から滑り落ちた言葉にニーガンが驚いた顔をする。それは演技ではなく心からのものだとリックは確信した。
       ニーガンは驚きの表情を浮かべたまま口を開く。
      「……ただいま。」
       それは小さな声だった。
       そのことが妙な恥ずかしさを呼び起こしたため、リックは片手で顔を覆って俯いた。
      「どうして俺が恥ずかしくならなきゃいけないんだ?」
      「それは俺のセリフだ。……文句を言われると思ったのに、今のは反則だ。」
       意外にも近くで声が聞こえたためリックが顔を上げると拗ねた顔のニーガンが目の前にいた。
       リックは一歩後ろへ下がろうとしたが、ニーガンに抱き寄せられたためそれは叶わない。
       珍しく真剣な表情のニーガンは唇同士が触れそうな近さで囁く。
      「リック、もう一度『おかえり』と言ってみろ。」
       結局、この男には逆らえない。
       そう思いながら「おかえり」と口にするとニーガンは満足げに微笑む。
       そして「ただいま」と共に与えられたのは熱い口付けだった。

      End




      ◆ダリリク/制限付きの逃避行

      「笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか」
      https://shindanmaker.com/750576

      【制限付きの逃避行】

       ダリルの視線の先には難しい顔をして考え込むリックがいる。
       出会ったばかりの頃のリックはもっと表情豊かな男だったように思う。良いものも悪いものも表情に出していたように思う。
       しかし、リーダーとしての重さが増していくとリックの顔からは表情が消えていった。
       きっと、背負い過ぎたのだろう。
       きっと、失い過ぎたのだろう。
       それをどうにかしてやりたくても運命は過酷なもので、誰にもリックを救えない。
       だからダリルはリックの傍に行く。頬を撫でてやることしかできなくても、その一瞬だけリックに表情が戻るからだ。
       ダリルがリックの隣に立つとリックは視線だけを寄越してきた。
      「また考え事か?」
      「ああ、別に大したことじゃない。」
       嘘つきめ。
       そう言ってやりたかったが、言ったところで苦笑するだけだろう。
       ダリルは何となくリックに触れたくなって頬に掌を這わせた。そうするとリックは目を細めて幸せそうな笑みを浮かべる。
       笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか?
       ダリルは最近では滅多に笑わなくなった想い人に胸を痛め、自分にできることの少なさに落胆する。
       自分と過ごす時間だけでもリックが幸せだと思えるのならいくらでも傍にいるのに。
       そんなダリルの思いをやんわりと拒むようにリックが離れていく。
      「……もう行かないと。」
       小さく呟いたリックの顔からは表情が消えていた。
      「そうだな。」
       次にリックの笑顔に会えるのはいつになるのだろう?
       リックの傍にいたいのは彼のためなのか、それとも自分のためなのか、ダリルにはそれさえわからなくなった。

      End




      【この熱さをもたらすもの】ダリリク

       照りつける太陽が俺の背中を焼く。
       ジリジリと焦げつく背中に滲む汗は不快さしか与えてくれず、眉間にしわが寄ったのを自覚する。
       作業する手を止めて休めばいいのに「もう少しだけ」と作業を止められない。生き急ぐつもりはないが、小さな焦りが自分の中に存在しているせいなのかもしれない。
       思わず自分に苦笑を漏らした時、後ろから足音が近づいてきた。
      「仕事中毒か?水でも飲んで休め。」
       姿を見せたのはダリルで、彼は水の入ったペットボトルを手にして立っている。
       差し出されたペットボトルを受け取りながら礼を言うと、ダリルの手の甲が俺の頬に触れた。
      「おい、かなり熱いぞ。気分は悪くないか?」
      「大丈夫だ。だが、そろそろ切り上げた方がいいかもしれないな。」
      「あんた、結構汗かきだよな。脱水症状でぶっ倒れても知らねーぞ。」
       ダリルは呆れ顔で俺の頬を軽く叩いた。
       休まずに仕事を続けてしまうのは俺の悪い癖だ。そんな俺をダリルはいつも心配してくれる。
       本当に良い奴だな、と思わず笑みが溢れた。
      「気をつける。それにしてもお前は本当に俺のことをよく見ているよな。そんなに俺のことが好きなのか?」
       笑い混じりに冗談を言ってみた。
       「バカか」と呆れ顔をするダリルを想像していたが、予想とは違ってダリルは目を丸くして俺を見る。その顔が真っ赤に染まるのは一瞬のことだった。
       予想外の反応に何も言えずにいるとダリルが耳元に唇を寄せてくる。
      「好きだけど、何か文句あるか?」
       低く囁かれて背筋にゾクリとしたものが走る。
       ダリルは俺から体を離し、鼻を鳴らして去っていく。それを見送ることができないのは全身が硬直してしまったからだ。
       ああ、熱い。頬が燃えるように熱い。
       思いがけずダリルから与えられた熱に逆上せそうな気がした。

      End




      【Strawberry】ニガリク

       ああ、今日もよく働いた。
       そんな充実感と共にリックは体を伸ばす。
       スッキリと晴れた青空の下で作業をするのは気分が良い。そのためか今日はいつもより張り切って仕事をしたような気がする。
       休むことなく動き回ったので、さすがに体が重い。リックは休憩のために近くの家の壁に背中を預けて座った。
       吹き抜ける風の柔らかさが心地良い。
       耳に届く住人たちの賑やかな声が穏やかな気持ちにさせてくれる。
       様々な困難を乗り越えたアレクサンドリアは希望に満ちた町へと変わりつつある。
      (幸せだなぁ)
       素直にそう感じたリックは微かに笑みを浮かべた。


       リックが幸せな気分を満喫していると足音が近づいてくる。その足音の方へ顔を向ければニーガンが歩いてくる姿が見えた。
       ニーガンのシャツの袖には泥が付いている。畑仕事を嫌がらずに行うニーガンを意外に思ったのはそんなに最近のことではない。
       敵対し、憎み、戦争までした相手と手を取り合って生きていることが信じられないが、目の前にあるのは全て現実だ。そのことが不思議で、おかしくて、そして嬉しい。
       リックがクスクスと笑っていると目の前に来たニーガンが呆れたような顔をする。
      「働きすぎておかしくなったのか?」
      「違う。気にしないでくれ。」
       まだ笑いの余韻を残すリックにニーガンは顔をしかめたが、それ以上は追及せずにリックの正面にしゃがんだ。
       リックの前にしゃがんだニーガンの手には苺が乗っている。畑で育てていたものを持ってきたのだろう。
      「見事な出来だな。ニーガンが農作業が好きだなんて意外だった。」
       そう言ってやるとニーガンはニヤリと笑う。
      「小さなレディだと思えば手間をかけるのも惜しくない。」
       「何だそれ」とリックが笑っているとニーガンはリックの唇に触れた。
      「お前に一番に食わせてやる。口を開けろ。」
       その言葉に従ってリックは口を開けたが、ニーガンは苺を自分で咥えてしまう。
       一番に食べさせてくれるのではなかったのか?
       リックがそんな疑問を抱いているとニーガンが顔を近づけてきた。そしてニーガンが咥えた苺がリックの唇に触れる。「食べろ」という意味なのだと理解したリックは苺をかじった。
       かじった瞬間に口の中に果汁が広がり、甘く爽やかな香りが鼻を通り抜ける。リックは自分を真っ直ぐに見つめてくる瞳を見つめながら苺を咀嚼した。
      「美味い。」
       正直な感想を告げると、それを待ちかねていたかのように残り半分の苺がニーガンの口の中へと消える。
       ニーガンは己の唇に付いた苺の汁を舐め取りながら囁く。
      「お前のためにこの俺が育てた苺だ。全部食えよ、リック。」
      「……本当に押し付けがましい奴だな、あんたは。」
       溜め息混じりのリックの言葉を気にしていない様子でニーガンは再び苺を咥えた。
       リックは「仕方ない」と苦笑してからその苺を咥える。さっきよりも深く咥えれば唇同士が触れ合う。
       そして思いきって苺をかじれば触れ合うだけのものが深い口付けへと変わった。
       苺の甘い汁と共に舌を絡め合えば奇妙な背徳感に背筋がゾクリとする。その背徳感を嫌だと思わないのは目の前の男との甘い時間に溺れているせいだ。
      (甘い、さっきよりもっと)
       この甘さは自分だけのもの。ニーガンが自分のために育てた苺をニーガン自ら与えてくれることで生まれた甘さだ。
       そう認識した時、何度も噛むことでドロドロになった苺が喉を下りていった。
       まだ食べ足りない、と思ったリックは軽く口を開けて「もっと」と強請る。
       「仕方ない奴だ」とニーガンが楽しげな笑みを浮かべながら咥えた苺がリックにはこの世で一番美味しそうなものに見えた。

      End




      【唐突に告げる】シェンリク

      「愛してる。」
       シェーンの鼓膜を震わせたリックの一言は何の脈絡もないものだった。
       シェーンとリックは二人がけのソファーに並んで映画を観ている真っ最中。
       観ているのは恋愛ものの映画ではない。そういったジャンルに興味はなかった。ついさっきまでビール片手にストーリーにツッコミを入れて笑い合っていただけなのだ。
       それなのに突然リックが愛の言葉を口にしたため、シェーンは目を丸くして隣に顔を向けた。
      「何だよ、急に。」
       そう尋ねればリックは楽しそうに笑った。
      「何となく言いたかっただけだ。」
      「そんなムードじゃなかったぞ。」
       変な奴、と苦笑しながら新しいビールに口を付ける。
       突然のことに驚きはしたが、悪くはない。
       相手のことを常に愛しく思っているのはシェーンも同じだ。
      「愛してる。」
       今度はシェーンが愛の言葉を口にした。
       シェーンが再び隣へ顔を向ければリックも同じようにシェーンを見ていた。
       目が合った時、リックの目尻が垂れて幸せそうな笑みが浮かんだ。
       そんなリックを「愛しいな」と改めて思ったシェーンの口も弧を描いていた。

      End
      #ダリリク  #シェンリク  #腐向け  #TWD  #ニガリク ##ダリリク ##シェンリク ##ニガリク ##TWD


      privatterで投稿したものと今までに投稿していないものをまとめました。
      平和な世界だったり、ドラマ沿いだったりごちゃ混ぜです。



      ◆今日のダリリク:相手が風呂を上がっても髪を乾かさないので仕方なくドライヤーをかけてやる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       髪を濡らしたままバスルームから出てきたリックを見て、ダリルは眉間に思いきりシワを寄せた。
       リックが「疲れた」と何度もボヤきながらバスルームに入っていった時点でこうなることは予想していたが、予想通りになったからといって喜ぶことはできない。
       ダリルは髪の先から雫を滴らせるリックを捕まえるとバスルームへ引きずっていき、ドライヤーの熱い風をリックの髪に吹きかけ始める。
       乱暴な手つきで髪を乾かしてやるとリックが苦笑いを浮かべた。
      「放っておいてくれて構わないんだぞ?」
      「バカか。風邪でも引かれたら困る。」
       それも理由の一つではあるが、リックに構いたいというのが一番の理由。
       普段は頼もしく凛々しい男がダリルの前では気を緩めて無防備になるのが嬉しい。それだけ自分に心を許しているということなのだと思うと甘やかしてやりたくなる。
       そんなことをリック本人に言うつもりは少しもない。
       そんなわけで、ダリルは緩みそうになる顔を引き締めながらリックの髪を乾かし続けたのだった。

      End




      ◆今日のシェンリク:昼下がり、相手が楽しそうに洗濯物を干しているのを、洗濯物をたたみながら眺める
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       今日は仕事は休み。
       そのためシェーンはリックと共に惰眠を貪り、遅めの朝食……ではなく昼食を食べてから活動を始めた。
       洗濯機を回しながら食器洗いや掃除を行い、それが終わると昨夜干した洗濯物を取り込んでいく。
       洗濯物の取り込みが終わった時点でリックが洗い終わった衣類を持って姿を見せた。
      「干すのは俺がやるからシェーンは洗濯物をたたんでおいてくれ。」
      「任せろ、相棒。」
       仕事中のような受け答えに笑い合いながら各自の仕事に取りかかる。
       Tシャツをたたみ、ジーンズをたたみ、タオルをたたみ……。
       シェーンはキレイにたたんだ衣類を並べながら洗濯物を干すリックに目を向ける。
       物干しに洗濯物を干していくリックの顔には笑みが浮かんでいる。それだけでなく鼻歌まで歌っているようだ。
       「何がそんなに楽しいのだろう」と首を傾げかけて、シェーンは自分の口元も緩んでいることに気づいた。
       ああ、そうか。二人一緒なら何をしていても楽しい。
       シェーンはリックも自分と同じなのだと気づき、自分の笑みがますます深いものになっていくのを自覚した。
       これが終わったら次は何をしようか?
       リックと一緒ならどんなことをしても楽しいに違いない。
       そんな風に心を弾ませながら最後の一枚をたたみ終わると、洗濯物を干しているリックの方へ足を運ぶことにした。

      End




      ◆今日のニガリク:無意識に「おかえり」と言うと相手が驚いた顔で「ただいま…」と小声で返すので、何だかお互いに恥ずかしくなる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       遅くなるなら遅くなるって連絡しろ、クソ野郎。
       リックは怒りと共に冷めきったスパゲッティの皿にラップを貼ってから冷蔵庫を開けた。
       夕食の時間になっても帰ってこなかったニーガンからの連絡は未だにない。「夕食はいらない」という話もなかったので用意はしておいたのだが、日付が変わるまで残り三十分という時間になっても玄関のドアは開かなかった。
       ニーガンという男は他人の思い通りになるような人間ではないと知っていたが、少しは一緒に暮らしている者の身にもなってほしいとリックは常々思っている。
      「どこかの女の部屋にでも転がり込んだのかもな。」
       リックは吐き捨てるように言いながら冷蔵庫の扉を乱暴に閉めた。
       あんな男と一緒に暮らしている自分がバカなのだとわかっていても腹を立てずにいられない。
       ニーガンの言動一つに振り回され、翻弄され、感情が揺れ動く自分が情けなかった。それなのに離れずにいることも情けなくて悔しい。
       「早く帰ってきてほしい」だなんて惨めだ。
       リックは静まり返った部屋の中心に佇み、ボンヤリと床を見つめる。ニーガンがいるとうるさいと感じるのに、今はこの静けさが嫌いだ。
       どうしても「ただいま」の声が聞きたい。
       その時、ドアの開く音が微かに響く。その音に導かれるように玄関へ向かうと、そこにはニーガンの姿があった。
       ニーガンはリックを見ると普段通りの笑みを浮かべた。
      「文句は後にしろよ。説明してやるから、先にシャワーを浴びさせて……」
      「おかえり。」
       リックの口から滑り落ちた言葉にニーガンが驚いた顔をする。それは演技ではなく心からのものだとリックは確信した。
       ニーガンは驚きの表情を浮かべたまま口を開く。
      「……ただいま。」
       それは小さな声だった。
       そのことが妙な恥ずかしさを呼び起こしたため、リックは片手で顔を覆って俯いた。
      「どうして俺が恥ずかしくならなきゃいけないんだ?」
      「それは俺のセリフだ。……文句を言われると思ったのに、今のは反則だ。」
       意外にも近くで声が聞こえたためリックが顔を上げると拗ねた顔のニーガンが目の前にいた。
       リックは一歩後ろへ下がろうとしたが、ニーガンに抱き寄せられたためそれは叶わない。
       珍しく真剣な表情のニーガンは唇同士が触れそうな近さで囁く。
      「リック、もう一度『おかえり』と言ってみろ。」
       結局、この男には逆らえない。
       そう思いながら「おかえり」と口にするとニーガンは満足げに微笑む。
       そして「ただいま」と共に与えられたのは熱い口付けだった。

      End




      ◆ダリリク/制限付きの逃避行

      「笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか」
      https://shindanmaker.com/750576

      【制限付きの逃避行】

       ダリルの視線の先には難しい顔をして考え込むリックがいる。
       出会ったばかりの頃のリックはもっと表情豊かな男だったように思う。良いものも悪いものも表情に出していたように思う。
       しかし、リーダーとしての重さが増していくとリックの顔からは表情が消えていった。
       きっと、背負い過ぎたのだろう。
       きっと、失い過ぎたのだろう。
       それをどうにかしてやりたくても運命は過酷なもので、誰にもリックを救えない。
       だからダリルはリックの傍に行く。頬を撫でてやることしかできなくても、その一瞬だけリックに表情が戻るからだ。
       ダリルがリックの隣に立つとリックは視線だけを寄越してきた。
      「また考え事か?」
      「ああ、別に大したことじゃない。」
       嘘つきめ。
       そう言ってやりたかったが、言ったところで苦笑するだけだろう。
       ダリルは何となくリックに触れたくなって頬に掌を這わせた。そうするとリックは目を細めて幸せそうな笑みを浮かべる。
       笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか?
       ダリルは最近では滅多に笑わなくなった想い人に胸を痛め、自分にできることの少なさに落胆する。
       自分と過ごす時間だけでもリックが幸せだと思えるのならいくらでも傍にいるのに。
       そんなダリルの思いをやんわりと拒むようにリックが離れていく。
      「……もう行かないと。」
       小さく呟いたリックの顔からは表情が消えていた。
      「そうだな。」
       次にリックの笑顔に会えるのはいつになるのだろう?
       リックの傍にいたいのは彼のためなのか、それとも自分のためなのか、ダリルにはそれさえわからなくなった。

      End




      【この熱さをもたらすもの】ダリリク

       照りつける太陽が俺の背中を焼く。
       ジリジリと焦げつく背中に滲む汗は不快さしか与えてくれず、眉間にしわが寄ったのを自覚する。
       作業する手を止めて休めばいいのに「もう少しだけ」と作業を止められない。生き急ぐつもりはないが、小さな焦りが自分の中に存在しているせいなのかもしれない。
       思わず自分に苦笑を漏らした時、後ろから足音が近づいてきた。
      「仕事中毒か?水でも飲んで休め。」
       姿を見せたのはダリルで、彼は水の入ったペットボトルを手にして立っている。
       差し出されたペットボトルを受け取りながら礼を言うと、ダリルの手の甲が俺の頬に触れた。
      「おい、かなり熱いぞ。気分は悪くないか?」
      「大丈夫だ。だが、そろそろ切り上げた方がいいかもしれないな。」
      「あんた、結構汗かきだよな。脱水症状でぶっ倒れても知らねーぞ。」
       ダリルは呆れ顔で俺の頬を軽く叩いた。
       休まずに仕事を続けてしまうのは俺の悪い癖だ。そんな俺をダリルはいつも心配してくれる。
       本当に良い奴だな、と思わず笑みが溢れた。
      「気をつける。それにしてもお前は本当に俺のことをよく見ているよな。そんなに俺のことが好きなのか?」
       笑い混じりに冗談を言ってみた。
       「バカか」と呆れ顔をするダリルを想像していたが、予想とは違ってダリルは目を丸くして俺を見る。その顔が真っ赤に染まるのは一瞬のことだった。
       予想外の反応に何も言えずにいるとダリルが耳元に唇を寄せてくる。
      「好きだけど、何か文句あるか?」
       低く囁かれて背筋にゾクリとしたものが走る。
       ダリルは俺から体を離し、鼻を鳴らして去っていく。それを見送ることができないのは全身が硬直してしまったからだ。
       ああ、熱い。頬が燃えるように熱い。
       思いがけずダリルから与えられた熱に逆上せそうな気がした。

      End




      【Strawberry】ニガリク

       ああ、今日もよく働いた。
       そんな充実感と共にリックは体を伸ばす。
       スッキリと晴れた青空の下で作業をするのは気分が良い。そのためか今日はいつもより張り切って仕事をしたような気がする。
       休むことなく動き回ったので、さすがに体が重い。リックは休憩のために近くの家の壁に背中を預けて座った。
       吹き抜ける風の柔らかさが心地良い。
       耳に届く住人たちの賑やかな声が穏やかな気持ちにさせてくれる。
       様々な困難を乗り越えたアレクサンドリアは希望に満ちた町へと変わりつつある。
      (幸せだなぁ)
       素直にそう感じたリックは微かに笑みを浮かべた。


       リックが幸せな気分を満喫していると足音が近づいてくる。その足音の方へ顔を向ければニーガンが歩いてくる姿が見えた。
       ニーガンのシャツの袖には泥が付いている。畑仕事を嫌がらずに行うニーガンを意外に思ったのはそんなに最近のことではない。
       敵対し、憎み、戦争までした相手と手を取り合って生きていることが信じられないが、目の前にあるのは全て現実だ。そのことが不思議で、おかしくて、そして嬉しい。
       リックがクスクスと笑っていると目の前に来たニーガンが呆れたような顔をする。
      「働きすぎておかしくなったのか?」
      「違う。気にしないでくれ。」
       まだ笑いの余韻を残すリックにニーガンは顔をしかめたが、それ以上は追及せずにリックの正面にしゃがんだ。
       リックの前にしゃがんだニーガンの手には苺が乗っている。畑で育てていたものを持ってきたのだろう。
      「見事な出来だな。ニーガンが農作業が好きだなんて意外だった。」
       そう言ってやるとニーガンはニヤリと笑う。
      「小さなレディだと思えば手間をかけるのも惜しくない。」
       「何だそれ」とリックが笑っているとニーガンはリックの唇に触れた。
      「お前に一番に食わせてやる。口を開けろ。」
       その言葉に従ってリックは口を開けたが、ニーガンは苺を自分で咥えてしまう。
       一番に食べさせてくれるのではなかったのか?
       リックがそんな疑問を抱いているとニーガンが顔を近づけてきた。そしてニーガンが咥えた苺がリックの唇に触れる。「食べろ」という意味なのだと理解したリックは苺をかじった。
       かじった瞬間に口の中に果汁が広がり、甘く爽やかな香りが鼻を通り抜ける。リックは自分を真っ直ぐに見つめてくる瞳を見つめながら苺を咀嚼した。
      「美味い。」
       正直な感想を告げると、それを待ちかねていたかのように残り半分の苺がニーガンの口の中へと消える。
       ニーガンは己の唇に付いた苺の汁を舐め取りながら囁く。
      「お前のためにこの俺が育てた苺だ。全部食えよ、リック。」
      「……本当に押し付けがましい奴だな、あんたは。」
       溜め息混じりのリックの言葉を気にしていない様子でニーガンは再び苺を咥えた。
       リックは「仕方ない」と苦笑してからその苺を咥える。さっきよりも深く咥えれば唇同士が触れ合う。
       そして思いきって苺をかじれば触れ合うだけのものが深い口付けへと変わった。
       苺の甘い汁と共に舌を絡め合えば奇妙な背徳感に背筋がゾクリとする。その背徳感を嫌だと思わないのは目の前の男との甘い時間に溺れているせいだ。
      (甘い、さっきよりもっと)
       この甘さは自分だけのもの。ニーガンが自分のために育てた苺をニーガン自ら与えてくれることで生まれた甘さだ。
       そう認識した時、何度も噛むことでドロドロになった苺が喉を下りていった。
       まだ食べ足りない、と思ったリックは軽く口を開けて「もっと」と強請る。
       「仕方ない奴だ」とニーガンが楽しげな笑みを浮かべながら咥えた苺がリックにはこの世で一番美味しそうなものに見えた。

      End




      【唐突に告げる】シェンリク

      「愛してる。」
       シェーンの鼓膜を震わせたリックの一言は何の脈絡もないものだった。
       シェーンとリックは二人がけのソファーに並んで映画を観ている真っ最中。
       観ているのは恋愛ものの映画ではない。そういったジャンルに興味はなかった。ついさっきまでビール片手にストーリーにツッコミを入れて笑い合っていただけなのだ。
       それなのに突然リックが愛の言葉を口にしたため、シェーンは目を丸くして隣に顔を向けた。
      「何だよ、急に。」
       そう尋ねればリックは楽しそうに笑った。
      「何となく言いたかっただけだ。」
      「そんなムードじゃなかったぞ。」
       変な奴、と苦笑しながら新しいビールに口を付ける。
       突然のことに驚きはしたが、悪くはない。
       相手のことを常に愛しく思っているのはシェーンも同じだ。
      「愛してる。」
       今度はシェーンが愛の言葉を口にした。
       シェーンが再び隣へ顔を向ければリックも同じようにシェーンを見ていた。
       目が合った時、リックの目尻が垂れて幸せそうな笑みが浮かんだ。
       そんなリックを「愛しいな」と改めて思ったシェーンの口も弧を描いていた。

      End
      ♢だんご♢
    • 飽きたなら、さようなら #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク

      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7辺りのニガリク。
      ニーガンに素っ気なくされるようになったリックが徴収の前日に調達に出かけるお話。


      ニーガンに素っ気なくされるリックを書いてみたかったので挑戦してみましたが、あんまり素っ気ない感じがしないかもしれません。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • リック受けまとめ2 ##TWD ##ニガリク ##ダリリク ##メルリク

      ぷらいべったーに投稿した作品のまとめです。
      ほぼニガリクでした。
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • スコット受まとめ #蜘蛛蟻  #隼蟻  #盾蟻  #腐向け ##蜘蛛蟻 ##隼蟻 ##盾蟻


      診断メーカーのお題で書いたものをまとめました。privatterに投稿していたものです。




      ◆今日の隼蟻:洗う係と拭く係とで別れて、口論しながらも見事な連携プレーで食器を洗う
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

      「だーかーら!今日は俺が夕飯作るって言っただろ!?しかも言ったのは朝!」
       スコットが泡だらけの皿を水で洗いながら怒鳴ると、その隣ではサムが洗い終わった食器を乾いたタオルで拭きながらしかめっ面をする。
      「俺がやりたくてやってるだけだ。俺としては何で怒られなきゃならないのかが理解できないね。」
      「疲れて帰ってきた奴にさせたくなかったのがわかんないのか!?あー、俺の優しさが無駄になった!」
       やけくそ気味に言い放ったスコットの言葉に対してサムが「自分で言うな」とツッコむと、スコットの機嫌はますます下降していく。
       今日の任務はサムだけだったので、スコットは今夜の食事は自分が作ろうと思っていた。毎日食事を作ってくれるサムへの感謝のためでもあったからだ。
       それなのに買い出しで家を留守にした間にサムが帰宅し、スコットが帰宅する前に夕食を作ってしまったのである。
      「あんたに美味いものを食べさせてやりたいと思うのがそんなにダメか?」
       サムはスコットが渡した皿を受け取って手際良く水分を拭き取った。
      「そうじゃなくてっ……サムに少しでも楽をさせてやりたい俺の気持ちも考えろってこと。」
       差し出されたサムの手にスコットは洗い終わった皿を乗せる。その皿の水気もサムの手によってあっという間に消え失せてしまった。
      「あんたを喜ばせたい俺の気持ちも考えてほしいね。……早く次を渡せ。」
      「はいはい、これで最後だよ。」
       スコットが不機嫌そうに最後の皿を渡すと、サムは目を丸くしてスコットの顔を見た。
      「最後?これで終わりか?」
      「何か問題でも?」
      「早いな。もう洗い終わったのか。」
      「……ケンカしても連携プレーはバッチリだな、俺たち。」
       その事実が二人の仲の良さを表しているようで、不思議と笑みが浮かんでくる。
       こうなってしまえば怒りは萎んで消えてしまい、後は仲直りをするだけとなる。
       スコットとサムは向かい合うと互いの体に両腕を回して抱きしめ合った。
      「サム、ごめん。ムキになって怒り過ぎた。」
      「俺こそ悪かった。スコットの気持ちは嬉しかったんだ。」
       謝り合ってハグをすればケンカはお終い。
       残りの時間は甘く穏やかな時間を過ごすことにしよう。

      End




      ◆今日の蜘蛛蟻:なんだか無性に甘いものが食べたいと思ってドーナッツ1ダース買って帰ったら相手も1ダース買ってた
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       お腹が空いたな、と思った帰り道。
       甘いものが食べたいな、と思って回り道。
       良さそうな店を探すピーターの鼻に届いたのは美味しそうなドーナツの香り。
       甘い香りに誘われてフラフラと店に入れば数えきれないほどたくさんのドーナツ。種類の豊富さは選ぶ楽しさを与えてくれる。
      (スコットさんは何が好きかな?)
       同棲中の恋人の好みを思い出しながらドーナツと見つめ合うが、どれも魅力的で一つだけ選ぶのは無理そうだ。
       それならば何種類も買って帰ればいいではないか。
       「我ながら名案だ」とピーターは笑みを浮かべ、澄まし顔で並ぶドーナツたちを次々と指名する。
       ドーナツを購入し、「ありがとうございました」と店員の声を背に受けながら店を出たピーターの手には大きな箱。その中にはドーナツが一ダースも詰まっていた。
       買い過ぎたかな、と思いながらも家に向かう足はステップを踏みそうな勢いだ。
       腹の虫を鳴かせながら家に帰れば愛しいスコットが出迎えてくれる。
      「見て、スコットさん。ドーナツ買ってきたんだ。」
       そう言ってドーナツの入った箱を差し出すとスコットは「えっ!」と言って目玉が飛び出そうな勢いで目を丸くした。
       どうしたのかと尋ねればスコットは気まずそうにダイニングテーブルを指差す。
       そこにあったのはピーターと同じ柄と大きさの箱。
      「俺もドーナツを買ってきたんだ。ピーターが喜ぶかと思って。……一ダース。」
       ピーターは困り顔で頬をかくスコットに抱きつきながら「僕たちの相性は最高だね!」と頬にキスを贈ったのだった。

      End




      ◆今日の盾蟻:仕事で疲れ切った帰り道、家の明かりが灯っているのを見て不意に泣きたくなった(相手には絶対言わないが)
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       すっかり暗くなった通りを歩きながらスティーブは冷たい風に体を震わせる。
       今日の任務は予定よりも時間がかかった。想定外の出来事が起きるのは当然で、そのための心構えは常にできている。
       しかし、疲れるものは疲れる。超人的な肉体を持つスティーブであっても疲れが溜まるのは避けられず、今日は特に疲れが大きい。
       重いものを引きずるように歩きながらの帰り道は気分まで重くさせた。
       暗い道を寒さに震えながら歩くのは妙に落ち込む。通りすがりの相手から嫌なことを言われたわけでもないのに……というより、誰とも擦れ違わないのだが。
      (なんだか情けないな)
       自分自身に対して苦笑しながら歩くうちに我が家が見えてきた。
       狭くはないが広いとも言いきれない小さな家には柔らかな明かりが灯っている。
      (スコット、まだ起きていたんだな)
       同棲を始めたばかりの恋人には帰るのが遅くなると連絡は入れてある。先に寝ていてほしいとも伝えておいたはずだ。
       それでも彼はスティーブの帰りを起きて待っていたらしい。

      ───ああ、一人じゃないことがこんなにも嬉しい。

       そう思った途端に鼻の奥がツーンとして、目の奥が熱くなって、瞬きを繰り返さなければ涙が溢れてしまいそうな気がした。
       スコットという存在が自分の心に温もりを与えてくれることが幸せで……幸せだからこそ泣きたくなる。
       スティーブは家の玄関の前に立つと頬を軽く叩いた。
       泣きそうになったなんて絶対に悟られたくない。いつも通りの自分でスコットに会いたい。
       「よし!」と小さく声を出してからドアを開ければ、愛しい笑顔がスティーブを迎えてくれた。

      End
      #蜘蛛蟻  #隼蟻  #盾蟻  #腐向け ##蜘蛛蟻 ##隼蟻 ##盾蟻


      診断メーカーのお題で書いたものをまとめました。privatterに投稿していたものです。




      ◆今日の隼蟻:洗う係と拭く係とで別れて、口論しながらも見事な連携プレーで食器を洗う
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

      「だーかーら!今日は俺が夕飯作るって言っただろ!?しかも言ったのは朝!」
       スコットが泡だらけの皿を水で洗いながら怒鳴ると、その隣ではサムが洗い終わった食器を乾いたタオルで拭きながらしかめっ面をする。
      「俺がやりたくてやってるだけだ。俺としては何で怒られなきゃならないのかが理解できないね。」
      「疲れて帰ってきた奴にさせたくなかったのがわかんないのか!?あー、俺の優しさが無駄になった!」
       やけくそ気味に言い放ったスコットの言葉に対してサムが「自分で言うな」とツッコむと、スコットの機嫌はますます下降していく。
       今日の任務はサムだけだったので、スコットは今夜の食事は自分が作ろうと思っていた。毎日食事を作ってくれるサムへの感謝のためでもあったからだ。
       それなのに買い出しで家を留守にした間にサムが帰宅し、スコットが帰宅する前に夕食を作ってしまったのである。
      「あんたに美味いものを食べさせてやりたいと思うのがそんなにダメか?」
       サムはスコットが渡した皿を受け取って手際良く水分を拭き取った。
      「そうじゃなくてっ……サムに少しでも楽をさせてやりたい俺の気持ちも考えろってこと。」
       差し出されたサムの手にスコットは洗い終わった皿を乗せる。その皿の水気もサムの手によってあっという間に消え失せてしまった。
      「あんたを喜ばせたい俺の気持ちも考えてほしいね。……早く次を渡せ。」
      「はいはい、これで最後だよ。」
       スコットが不機嫌そうに最後の皿を渡すと、サムは目を丸くしてスコットの顔を見た。
      「最後?これで終わりか?」
      「何か問題でも?」
      「早いな。もう洗い終わったのか。」
      「……ケンカしても連携プレーはバッチリだな、俺たち。」
       その事実が二人の仲の良さを表しているようで、不思議と笑みが浮かんでくる。
       こうなってしまえば怒りは萎んで消えてしまい、後は仲直りをするだけとなる。
       スコットとサムは向かい合うと互いの体に両腕を回して抱きしめ合った。
      「サム、ごめん。ムキになって怒り過ぎた。」
      「俺こそ悪かった。スコットの気持ちは嬉しかったんだ。」
       謝り合ってハグをすればケンカはお終い。
       残りの時間は甘く穏やかな時間を過ごすことにしよう。

      End




      ◆今日の蜘蛛蟻:なんだか無性に甘いものが食べたいと思ってドーナッツ1ダース買って帰ったら相手も1ダース買ってた
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       お腹が空いたな、と思った帰り道。
       甘いものが食べたいな、と思って回り道。
       良さそうな店を探すピーターの鼻に届いたのは美味しそうなドーナツの香り。
       甘い香りに誘われてフラフラと店に入れば数えきれないほどたくさんのドーナツ。種類の豊富さは選ぶ楽しさを与えてくれる。
      (スコットさんは何が好きかな?)
       同棲中の恋人の好みを思い出しながらドーナツと見つめ合うが、どれも魅力的で一つだけ選ぶのは無理そうだ。
       それならば何種類も買って帰ればいいではないか。
       「我ながら名案だ」とピーターは笑みを浮かべ、澄まし顔で並ぶドーナツたちを次々と指名する。
       ドーナツを購入し、「ありがとうございました」と店員の声を背に受けながら店を出たピーターの手には大きな箱。その中にはドーナツが一ダースも詰まっていた。
       買い過ぎたかな、と思いながらも家に向かう足はステップを踏みそうな勢いだ。
       腹の虫を鳴かせながら家に帰れば愛しいスコットが出迎えてくれる。
      「見て、スコットさん。ドーナツ買ってきたんだ。」
       そう言ってドーナツの入った箱を差し出すとスコットは「えっ!」と言って目玉が飛び出そうな勢いで目を丸くした。
       どうしたのかと尋ねればスコットは気まずそうにダイニングテーブルを指差す。
       そこにあったのはピーターと同じ柄と大きさの箱。
      「俺もドーナツを買ってきたんだ。ピーターが喜ぶかと思って。……一ダース。」
       ピーターは困り顔で頬をかくスコットに抱きつきながら「僕たちの相性は最高だね!」と頬にキスを贈ったのだった。

      End




      ◆今日の盾蟻:仕事で疲れ切った帰り道、家の明かりが灯っているのを見て不意に泣きたくなった(相手には絶対言わないが)
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       すっかり暗くなった通りを歩きながらスティーブは冷たい風に体を震わせる。
       今日の任務は予定よりも時間がかかった。想定外の出来事が起きるのは当然で、そのための心構えは常にできている。
       しかし、疲れるものは疲れる。超人的な肉体を持つスティーブであっても疲れが溜まるのは避けられず、今日は特に疲れが大きい。
       重いものを引きずるように歩きながらの帰り道は気分まで重くさせた。
       暗い道を寒さに震えながら歩くのは妙に落ち込む。通りすがりの相手から嫌なことを言われたわけでもないのに……というより、誰とも擦れ違わないのだが。
      (なんだか情けないな)
       自分自身に対して苦笑しながら歩くうちに我が家が見えてきた。
       狭くはないが広いとも言いきれない小さな家には柔らかな明かりが灯っている。
      (スコット、まだ起きていたんだな)
       同棲を始めたばかりの恋人には帰るのが遅くなると連絡は入れてある。先に寝ていてほしいとも伝えておいたはずだ。
       それでも彼はスティーブの帰りを起きて待っていたらしい。

      ───ああ、一人じゃないことがこんなにも嬉しい。

       そう思った途端に鼻の奥がツーンとして、目の奥が熱くなって、瞬きを繰り返さなければ涙が溢れてしまいそうな気がした。
       スコットという存在が自分の心に温もりを与えてくれることが幸せで……幸せだからこそ泣きたくなる。
       スティーブは家の玄関の前に立つと頬を軽く叩いた。
       泣きそうになったなんて絶対に悟られたくない。いつも通りの自分でスコットに会いたい。
       「よし!」と小さく声を出してからドアを開ければ、愛しい笑顔がスティーブを迎えてくれた。

      End
      ♢だんご♢
    • スコット受け他まとめ ##アントマン ##蜘蛛蟻 ##スコット ##ロケット ##トニー

      ぷらいべったーに投稿した作品のまとめです。
      CPあり・なしの話がごちゃまぜ。CPありは蜘蛛蟻のみ。
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • ある寒い日のこと #ウースコ  #アントマン  #腐向け ##ウースコ ##アントマン


      自宅軟禁期間のウースコ。
      寒い日にスコットの自宅を訪ねるジミーのお話。

      寒い日は妄想がはかどるので書いてみました。ウースコというよりもウースコ未満かもしれません。
      いつも「ウーさん」と呼んでいるのでCP表記をウースコにしましたが、ジミスコの方がいいんでしょうか?
      とりあえずウースコでいこうと思います。
      短い話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 赤ずきんとおばあさん #蜘蛛蟻  #ピタスコ  #腐向け  ##蜘蛛蟻


      小説投稿機能のお試し。
      ぷらいべったーで投稿したものを少し手直ししました。タイトルのセンスがないのはお許しください。
      ピーターが遊びに来るのを待つ心配性なスコットのお話。
      よかったらどうぞ〜。
      ♢だんご♢
    • 本能が「欲しい」と囁いた #ニガリク  #TWD  #腐向け  #オメガバース  ##ニガリク  ##TWD

      pixivにも投稿した作品です。
      S7のニガリクで、オメガバース設定を使用しています。
      ネタバレになるので詳細は控えさせていただきます。

      好きなように設定を詰め込んでいますが、よかったらどうぞ。


      2018.6.21 一部を修正しました。
      ♢だんご♢
    • 小さなバースデーパーティー ##TWD ##リック ##カール

      アンディの誕生日にグライムズ親子の誕生日ネタで1つ。
      放浪中の親子の誕生日のお話。短いです。
      ♢だんご♢
    • さよなら、私のアルファ #ニガリク  #TWD  #腐向け  #オメガバース  #オリジナルキャラクター  ##ニガリク  ##TWD

      pixivにも投稿している作品です。
      【本能が「欲しい」と囁いた】の続きになります。
      ニーガンが運命の番と出会ったため、サンクチュアリを出ていくことにしたリックのお話。


      オリジナルキャラクターが複数名登場します。出番が多く、ニガリクの子どもも登場するので苦手な方はご注意ください。
      詳細は1ページ目に案内がありますので、そちらをご覧ください。
      ニガモブ要素を少し含みますし、ニーガンがひどい男です。
      よかったらどうぞ。


      2018.6.21 一部を修正しました。
      ♢だんご♢
    • ベッドひとつぶんの世界 #TWD #ダリリク #ニーガン #腐向け ##TWD ##ダリリク

      pixivに投稿したものと同じ作品です。
      S7辺りのダリリク。
      ニーガンの部下になったダリリクと、二人を見つめるニーガンのお話。


      ダリリクが揃ってニーガンの部下になったら、互いだけを支えにして寄り添い合うのかなーと妄想したので書きました。
      寄り添い合うダリリクはとても美しいと思います。
      CPもののような、そうでないような、微妙な話ではありますが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • ちょっとそこまで逃避行 #蜘蛛蟻 #ピタスコ #腐向け ##アントマン ##蜘蛛蟻


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      スパイダーマンFFH後の蜘蛛蟻。
      FFHのネタバレを含むのでご注意ください。
      辛い状況にあるピーターがスコットの家に逃避行するお話。


      FFHが個人的に辛すぎたので自分を救済するために書きました。
      蜘蛛蟻というより蜘蛛蟻未満?
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 数値は愛を語る #蜘蛛蟻 #腐向け #Dom/SubAU ##蜘蛛蟻

      pixivに投稿したものと同じものです。
      Dom/Subユニバース設定で、Switch×Subの蜘蛛蟻。
      ピーターに惹かれながらも寄せられる想いに向き合うことができないスコットさんのお話。
      特にどの時間軸というのはなく、設定ゆるゆるです。


      突然降ってきたネタに萌えてしまったので勢いで書きました。スコットさんがヘタレです。
      特殊設定なので「大丈夫だよ!」という方は、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • プリンシパルとアンサンブル(前半) #TWD #ニガリク #腐向け #夢小説 ##TWD ##ニガリク

      S7の頃。救世主として日々を過ごす主人公が偶然リックと関わり、それをきっかけにリックやニーガンと深く関わるようになるお話。

      夢小説なので主人公はドラマに登場するキャラクターではありません。夢主がキャラクターたちと関わるのを楽しみつつニガリクを堪能する作品です。
      夢小説とCP小説を合わせた作品なので苦手な方はご遠慮ください。
      主人公とキャラクターが恋愛関係になる展開もありませんのでご了承ください。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 家族写真 #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7辺りのニガリク。
      大切にしてる家族写真をニーガンに奪われたリックのお話。

      「ニーガンはグライムズ親子の写真を勝手に持って帰りそう」と思ったので書いてみました。
      特に盛り上がりのない私向けの話です。お暇な時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 道なき未知を拓く者たち③ #TWD #ニガリク ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      「リックを最初に拾ったのがニーガンだったら?」というIFストーリー『生まれ落ちた日』の続編。
      リックは食料調達のためにシェーンとカールと共に森に入り、その最中に事件が起きる。それはグループの運命を変えるものだった。


      ドラマの展開に沿ったストーリーですが、オリジナル要素を盛り込んでいます。納得できない展開になってもご容赦ください。
      ニガリクタグを付けたら詐欺になりそうなくらいにニガリク要素が少ないです。ニガリクを探せ!という気持ちで読んでください。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 僕はコーヒー豆を挽かない #TWD #ダリリク ##TWD ##ダリリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S5でアレクサンドリアに到着した後。
      「生きてきた世界が違う」という理由でリックや仲間と距離を置くダリルを心配するリックのお話。


      ほんのりダリリクの味がするお話です。
      アレクサンドリアに着いたばかりのダリリクの何とも言えない距離感も良いですね。
      タイトルについては深く考えずに読んでいたたければありがたいです。
      地味な話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • Restart #蜘蛛蟻 #ピタスコ #最新作のネタバレあり ##蜘蛛蟻


      ※スパイダーマンNWHのネタバレを含むのでご注意ください。


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      スパイダーマンNWH後。
      パトロール中のピーターがスコットに出会うお話。
      蜘蛛蟻未満だけど後々に蜘蛛蟻が成立するという解釈で書いているので蜘蛛蟻です。


      スパイダーマンNWHは面白い映画でしたね。
      でも個人的にとてもしんどい展開だったので自分を救済するために書きました。蜘蛛蟻は癒やし。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 侵入者との攻防 #ロケスコ #腐向け ##ロケスコ


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      アベンジャーズ・エンドゲームでのロケスコ。
      毎朝ロケットが自分の上で寝ていることに困惑するスコットのお話。


      エンドゲームを観て見事にロケスコにすっ転んだので書いてみました。
      口調が掴みきれてないので違和感があったら申し訳ないです。
      短い話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 亡霊殺し #TWD #ダリリク #腐向け ##TWD ##ダリリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S2終了後のダリリク。
      リックの傍にシェーンの亡霊が見えるダリルのお話。ほんのりシェンリク風味もあります。

      盛り上がりが特にない私得なダリリクです。ダリリク未満かもしれません。
      じんわりとリックへの執着を滲ませるダリルが好きなので書いてみました。
      本当に暇な時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 雛の巣作り #ニガリク  #TWD  #腐向け  #オメガバース  ##ニガリク  ##TWD

      pixivにも投稿している作品です。
      【本能が「欲しい」と囁いた】の番外編。
      ニガリクが番になって1年が経った頃のお話。
      よかったら、どうぞ〜。


      2018.6.21 一部を修正しました。
      ♢だんご♢
    • 罪な味 #TWD #リック #シェーン #カール #ダリル #ニーガン ##TWD


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      リックと誰かの食にまつわるお話。
      時期も長さもバラバラ。基本的にほのぼのですが、ニーガンとの話はほのぼのしてません。


      ・【ピザ】 リック&シェーン
       アポカリプス前。「ピザの魅力には抗えません」というお話。

      ・【ケーキ】 リック&カール
       アポカリプス前。「いつもと違う食べ方をすると楽しくて美味しい」というお話。

      ・【肉】 リック&ダリル
       平和な刑務所時代。「調味料は偉大だ」というお話。

      ・【フルーツティー】 リック&ニーガン
       S7辺り。「悔しいけれど美味しいものは美味しい」というお話。


      リックに美味しいものを食べてほしいと思ったので書いてみました。ニーガン以外はほのぼのしてます。
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 特に何も始まっていない二人 #TWD #ダリリク #腐向け ##TWD ##ダリリク

      pixivに投稿した作品と同じもです。
      平和な刑務所時代のダリリク。
      特に何も始まってないけれど仲よしなダリリクの詰め合わせ。

      CPというよりブロマンスなダリリクです。お互いに相手を大事に思ってることが滲み出るダリリクが好きです。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 道なき未知を拓く者たち① #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      「リックを最初に拾ったのがニーガンだったら?」というIFストーリー『生まれ落ちた日』の続編。
      リックの家族を捜す旅に出たリックとニーガンだったが、過酷な世界での旅は簡単なものではなく……。


      ドラマの展開に沿ったストーリーですが、オリジナル要素を盛り込んでいます。納得できない展開になってもご容赦ください。
      長編なのでのんびり書いています。次の章を投稿できるのがいつになるのか不明です。
      完全に私得な話なのでお暇な時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • プリンシパルとアンサンブル(後編) #TWD #ニガリク #腐向け #夢小説 ##TWD ##ニガリク


      S7の頃。前作の続きで、ケガの治療のためにサンクチュアリに滞在するリックを世話する主人公がリックとニーガンの関係性を目の当たりにするお話。

      夢小説なので主人公はドラマに登場するキャラクターではありません。夢主がキャラクターたちと関わるのを楽しみつつニガリクを堪能する作品です。
      夢小説とCP小説を合わせた作品なので苦手な方はご遠慮ください。
      主人公とキャラクターが恋愛関係になる展開もありませんのでご了承ください。
      前編よりも主人公がリックに肩入れしています。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 恋しい、と獣は鳴いた #TWD #ダリリク #ニガリク #腐向け #オメガバース ##TWD ##ダリリク ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7辺りのダリリク・ニガリク。
      リックと番になっているダリルがリックと引き離されて情緒不安定な時にニーガンと話すお話。ダリルとニーガンのちょっとしたバトル。


      「αが番のΩに依存する」という設定で書きたくて書いてみました。会話してるだけなので特に盛り上がりのない地味な仕上がりです。
      気が向いた時にでもどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 彼らが愛したのは「   」です #TWD #セディリク #ゲイリク #ニガリク #妊夫 #腐向け ##TWD


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S8終了後。
      ニーガンの子どもを妊娠したために孤立するリックを支えるセディク、ゲイブリエル、ニーガンのお話。セディクがメインです。

      ※注意
      ・男性の妊娠、出産、授乳の表現あり
      ・リックへの差別、迫害要素あり
      ・全体的に重苦しい展開


      CP要素があるような無いような微妙なところです。
      重苦しい雰囲気の話なのでご注意ください。
      本当に気が向いた時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 生まれ落ちた日 #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S1初回。
      ニーガンが病院でリックを見つけるお話。
      S1初回にニーガンを放り込んだだけ。ニーガンの過去について原作の設定を使っているので未読の方はご注意ください。


      S1の時点でニガリクが出会っていたら最強コンビになったのでは?という妄想を形にしてみました。別人感が強いです。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 赤い糸の憂鬱 #TWD #カルリク #ニガリク #腐向け ##TWD ##カルリク ##ニガリク

      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7のカルリク・ニガリク。
      リックとニーガンが赤い糸で繋がっているのが許せないカールのお話。
      特殊な設定がありますが、深く考えない方がいいかも?


      カルリクとニガリクで三角関係が読みたくて書きました。カールの前に立ち塞がるニーガン美味しいです。
      「カールは赤い糸が見える」という特殊設定がありますが、深く考えず雰囲気を味わって頂ければと思います。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 「大丈夫」の言葉 #TWD #ダリリク #腐向け #ケーキバース ##TWD ##ダリリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      平和な刑務所時代のダリリク。
      リックが「ケーキ」であることを知ったダリルが思い悩むお話。
      ケーキバース設定を使っています。この話にグロテスクな要素はありませんが、ケーキバース設定自体がカニバリズム要素を含むので苦手な方はご注意ください。


      リックのことが好きすぎて思い詰めるダリルが大好物なので書いてみました。
      盛り上がりの少ない私得な話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
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