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    二度目の結婚⑤・五章 【 心の中にあるもの 】

     何となく早く目が覚めてしまう朝。リックにとってそれが今日だ。
     寒さで目を覚ます時期はとっくに通り過ぎ、今は暖かさに目覚めを促される季節である。
     ニーガンの部屋のベッドの上で静かに目覚めたリックは隣で穏やかに眠る男の寝顔を見つめて小さく笑みを零した。
     擦れ違いを乗り越えた二人は以前よりも更に親密さを増していた。リックがニーガンの部屋に泊まることが再開されると、それに伴って朝食を共にすることも再び始まった。それだけでなくニーガンがリックの部屋を訪問する回数が増えたり、最近では馬の散歩を兼ねて一緒に遠乗りに出かけることも少なくない。
     最も大きな変化は身体への接触が増えたことだ。
     肩に、腕に、指に、背中に、頬に、髪に。
     ごく自然な触れ合いは一方的なものではなく相互に行われていた。気心の知れた親友同士のようでもあり、仲の良い兄弟のようでもあるそれは季節の移り変わりと共に当たり前になっている。
     ニーガンの寝顔を見るのをやめたリックはこの後をどう過ごすべきかと考える。完全に目が覚めてしまったのだが、横になったままだと身動きしてしまうのでニーガンの睡眠の邪魔になるだろう。
     頭を悩ませていたその時、リックは新しく作った屋上菜園の存在を思い出す。
     屋上に畑を作ることを提案したのはニーガンだった。プランター栽培を自発的に手伝う者が増えたことから、もう少し作物の栽培に力を入れても問題ないと判断したのだ。重量を考慮すると大規模なものにはできないが、プランター栽培に不向きな作物を育てられるのは大きな魅力だ。ニーガンの提案に皆が賛同して菜園作りに参加したため、春の始めから作り始めた屋上菜園は中頃には完成し、次の季節に移りつつある今では様々な野菜の芽が出ている。
     プランター栽培と同じく屋上菜園の責任者もリックなので特別な何かがなくとも様子は気になる。それならば菜園の様子を見に行くのも悪くない。今から行って戻ってくれば、その頃にはニーガンも起きているはずだ。
     作物の様子を見に行くことに決めたリックは慎重にベッドから抜け出すとスリッパを履いてドアの前まで移動した。
     そして、ドアノブを握った時。
    「……朝っぱらから誰と密会するつもりだ?」
     ベッドの方から飛んできた声にリックは驚いて肩を跳ねさせた。軽く息を吐いてから振り向き、ベッドの上で体を起こして欠伸を噛み殺すニーガンの顔を見る。
    「おはよう、ニーガン。起こしてすまない。」
    「おはよう。で、どこに行く?」
    「目が覚めてしまったから屋上の畑の様子を見てくる。朝食までには戻るから寝ていてくれ。」
    「俺も行く。」
     ニーガンはそう言ってベッドから起き上がるとチェストの方に向かう。
    「お前も着替えてから行くんだろ?部屋まで迎えに行くから待ってろよ。一人で勝手に行ったらお仕置きだ。」
     スラスラと言葉を並べるニーガンにリックが言うことは何もない。これは決定事項なのだ。リックは苦笑と共に「わかった、待ってる」と答えてから部屋を出て自室を目指す。
     一度部屋に戻ると顔を洗いに行き、それからシャツとジーンズに着替える。ブーツを履き終わった頃に部屋のドアがノックされたのでドアを開けると支度を終えたニーガンが立っていた。
     二人は並んで廊下を歩き、畑のある屋上に出るためのドアを開ける。雲一つない青空が広がる様子から今日は一日中天気が良さそうだと予想し、思わず口元が緩む。今はまだ日差しを「心地良い」と感じられる季節なので快晴なのは嬉しいことだ。
     行儀良く並ぶレンガに囲まれた畑には無数の野菜の芽が生えている。ここからどれだけ大きく育ってくれるのかは天候と育てる人間の世話次第だろう。
     リックは複数ある畑の一つ一つをしゃがみ込んで観察する。小さな異変も見逃さないようにするには日々の丁寧な観察が必要なのだとハーシェルから教わった。そんなリックの隣にニーガンもしゃがみ込み、二人揃って畑の様子を見る。
    「今のところは虫に食われてても深刻な状態じゃないな。とりあえず問題ないだろう。」
    「病気も大丈夫そうだ。──と言ってもこれからが本番だが。」
    「しっかり頼むぜ、リック。新鮮な野菜はみんなが食べたがる。」
    「ああ、もちろんだ。」
     そんな会話を交わしながら二人は全ての畑を観察し終わり、立ち上がると全身を伸ばしながらサンクチュアリ周辺の景色に目を向けた。
     少し遠くではあるが目に見える範囲に森がある。いずれ農場を作る予定なのであの森を切り拓くことになるのだが、それをやるには一年どころか数年はかかるかもしれない。
     効率の良い方法を考えなければならない、とリックが考え込んでいると少し後ろに立つニーガンから「何を考え込んでる?」と尋ねられたので森の方に顔を向けたまま答える。
    「農場を作るためには森を切り拓かないとならないが、良い方法を考えないと完成までにかなりの時間が必要だと思ったんだ。」
    「……そのことだが、ここから歩いて三十分くらいの場所に農場があるだろ?そこを使う計画に変更しようと考えてる。」
     リックは予想外の計画を聞き、「何だって?」と驚きを隠さないまま振り返った。
     サンクチュアリから少し離れた場所に打ち捨てられた農場があることはリックも知っている。きちんと測ったわけではないが、規模はハーシェルの農場と同等に見えた。
     一から作るよりも元々あったものを利用した方が時間も資材も節約できるが、運営のことを考えるとサンクチュアリから遠すぎるように思える。
    「徒歩で行ける距離だが、あの農場はここから遠すぎないか?移動距離が長いと大人数で通うには危険だ。」
    「通うんじゃなく住み込みにすればいい。農場を実際に見てきたが、敷地内に建ってる家は大勢で住める。多分、住み込みの手伝いを何人も雇ってたんだろうな。グループを四つぐらいに分けて一定期間の交替制で行かせるようにすれば危険と負担は最小限で済むはずだ。」
    「それはそうだが、柵や壁をしっかりしたものにしないと危険だぞ。」
    「わかってる。だからお前や他の奴らの意見が聞きたい。次の会議の時に話す。──リック、この計画をどう思う?」
     真剣な表情のニーガンには自信が溢れている。森を切り拓いて農場を作るよりも既存の農場を利用する方が良いと確信しているのだ。そうであっても意見を求めてくるのは「皆で一緒に進めていきたい」という強い気持ちがあるからなのだろう。
     リックは微笑みながら頷くことで答えを示した。それを見てニーガンの表情が和らぐ。
    「賛成か。」
    「ああ。あそこを上手く利用できればそれが一番良いと思う。危険を減らす方法を考えてみる。」
    「頼んだぞ。……さて、そろそろ戻るか。」
     ニーガンはそう言ってリックの手を握り、そのまま歩き出す。手を繋いだ状態で部屋まで戻るつもりなのだ。
     ニーガンと手を繋いだ状態で誰かと擦れ違ったら非常に気まずい。そう考えたリックは「手を放してくれないか?」と控えめに頼んでみた。
     しかし、ニーガンはリックの頼みとは反対に振り解くことができないよう手に力を入れてしまう。
    「いいか、リック。俺たちは夫婦なんだから手を繋いで歩いたって少しもおかしくない。」
    「それはそうかもしれないが……」
    「じゃあ問題ないな。このまま部屋に戻るぞ。なあ、今日の朝飯は何だと思う?」
     ご機嫌な様子で話し続けるニーガンに何を言っても無駄だ。
     そのように悟ったリックは手を放してもらうことを諦めて話に耳を傾ける。
     ニーガンの部屋に戻るまでの間に救世主や労働者と擦れ違い、その誰もが繋いだ手に視線を向けてきたのは言うまでもないことだった。


     朝食後、リックはニーガンの運転する車に揺られてアレクサンドリアを目指す。今日は月に一度のアレクサンドリアの徴収日であり、リックが家族の元に帰ることを許される日だ。
     町に入ると中の様子を見て回りながら困っていることがないか確認し、仲間たちと一通り話してから家で待っている子どもたちに会いに行く。今回もカールとジュディスは家の前で待っていて、父の姿を見た途端に笑顔が弾けるのを見るとリックは嬉しさと切なさを感じるのだ。
     愛する我が子たちを抱きしめて再会を喜んでから家に入り、束の間の親子の時間を楽しむ。成長著しいジュディスはお喋りな子どもに成長しており、楽しかったことを笑顔で報告してくれた。カールも話に加わり、楽しそうに笑い合う兄妹を見ているだけでリックは幸せだった。
     ダイニングの椅子に座って三人で盛り上がっていると玄関のドアが開いてニーガンが入ってきた。その瞬間にカールが顔をしかめるのを見てリックは苦笑するしかない。
     ニーガンはわざとらしく顔をしかめながら近づいてきた。
    「ダリルとミショーンが『リックを返せ』としつこいから逃げてきた。嫌になっちまう。」
     リックの傍に立って大げさに溜め息を吐くニーガンをカールが睨みつける。
    「二人がそう言うのは当たり前だろ。いいから早く出ていけよ。」
     カールが冷たく言い放つとニーガンは両手で顔を覆って「ひどい!傷ついた!」と泣き真似を始めた。そのニーガンを見て、リックの膝の上に座るジュディスが声をかける。
    「おじさん、泣かないで。」
     ジュディスの慰めに反応したニーガンは腰を屈めてジュディスに顔を近づけた。
    「ジュディスは優しい子だな。じゃあ、ニーガンおじさんと一緒に遊んでくれるか?」
    「いいよ!」
     ニーガンは満面の笑みで答えたジュディスをさっさと抱き上げると「上に行こう」と言って二階へ上がっていった。止める暇もなかった父と息子は目を丸くしたまま階段の方を見つめ、続けて顔を見合わせる。
     ようやく現状を飲み込んだカールが目を釣り上げた。
    「──連れ戻してくる!」
    「カール、やめておけ。」
     リックは立ち上がりかけたカールの腕を掴んで首を横に振った。
     そして「だって、父さん」と言い募る息子に穏やかに微笑みながら言い聞かせる。
    「ジュディスなら大丈夫だ。ニーガンはあの子を傷つけない。お前にとっては嫌なことだが、ジュディスはあいつに懐いてるから無理に引き離すのはやめよう。」
     人見知りをしないジュディスはニーガンにもよく懐いている。幼い彼女から見ればニーガンは「時々来て遊んでくれる愉快なおじさん」なのだろう。この町の人間にとってニーガンという存在が複雑なものなのだと理解できるようになるまで、無理に引き離すのはジュディスにとって良くない。
     リックの話を理解したカールは渋々といった様子で椅子に座り直した。
    「悪いな、カール。心配するお前の気持ちはわかる。」
    「謝らなくていいよ。父さんの言う通り、無理に引き離したらジュディスが傷つくね。……でもさ。」
     カールは苦笑いを滲ませながら真っ直ぐにリックを見る。
    「やっぱり父さんはニーガンが好きなんだね。前ならあいつのことを庇ったりしなかった。」
     カールから言われた言葉にリックは頭を強く殴られたような衝撃を受ける。
     ニーガンに対する気持ちの変化をカールに見抜かれていたという事実が頭に染み込むと裏切りが発覚したような気分になり、罪悪感の塊が腹の底にズシリと落ちた。
     リックは手の震えを自覚しながら「何か言わなければ」と必死に唇を動かそうとしたが、言うべきことが何一つ浮かんでこない。空回りを続ける頭で考えても無駄だった。
     その時、カールの手がリックの腕に触れた。
    「父さん、落ちついて。僕は怒ってるわけじゃないよ。」
     カールの穏やかな声といつもと変わらない笑みにリックは冷静さを取り戻し、「すまない」と小さな声で詫びた。
     リックが落ちついたことを察したカールは手を離し、穏やかさを保ったまま話し始める。
    「前から感じてたんだ。父さんはニーガンが嫌いじゃない、上手くやっているんだって。あいつを見る目つきが前と全然違うって自覚ないでしょ?」
     そう問われれば頷くしかなかった。
     頷いてそのまま俯くとカールが苦笑する気配がした。
    「気づいたばかりの頃は『何で?』って納得できなかった。……でも、よく考えたら僕はニーガンのことを一部しか知らない。父さんはきっとニーガンのいろんなところを見てる。僕の知らないあいつを知ってる。だから嫌いだと思えなくなっても仕方ないんだって思うようになった。そう思うようになってからニーガンのことを観察するようになったんだけどさ。」
     カールはそこで言葉を切ると溜め息を吐く。
     リックが恐る恐る顔を上げてみるとカールはテーブルに肘を突いて遠くを見ていた。その表情には呆れの色が見える。
    「あいつって父さんのこと大好きなんだよ。いつも父さんのこと見ててさ。特にジュディスと遊んでる時の父さんを見るあいつの顔、すごくだらしないんだ。デレデレ。」
    「……そうなのか?」
    「本当だよ。ニーガンが結婚ごっこに飽きたら父さんは帰ってくるかも、なんて期待してたけど無理だってわかった。父さんたち、ごっこじゃなくなったんだね。」
     カールは視線だけをこちらに向けて寂しそうに笑った。その笑みに胸が痛む。
     カールはリックとニーガンの互いへの気持ちの変化に気づき、リックがアレクサンドリアに帰されることはないのだと悟った。それでも誰のことも責めずに現実を受け入れた我が子のことが悲しく、そして受けれさせてしまった自分を情けなく思った。
     リックはカールの肩に手を置いて「本当にすまない」と声を絞り出し、それを受けたカールは頭を振った。
    「謝らないで。人を大切に思う気持ちは悪いことなんかじゃないよ。それに『ニーガンを嫌いになってほしい』って頼んだら嫌いになれる?無理だよね。」
    「ああ、無理だ。嫌いにはなれない。」
     リックは正直に答えた。ここで嘘を吐いても何にもならない。
     その答えにカールは満足したように目を細め、肩に置かれたリックの手に自らの手を重ねた。
    「僕はそれでいいと思う。ニーガンは憎いし嫌いだけど父さんには自分の気持ちを大事にしてほしい。だから、みんなが反対したり父さんを責めても僕だけは父さんの味方でいる。約束するよ。」
     誓いを示すように重ねられた手に力が込められた。その力強さが何よりも心強い。
     カールは本当に頼りがいのある大人になった。親としては大人にならざるを得ない状況を作ってしまったことを悔やむが、親だからこそ息子の成長を誇らしくも思う。
     リックはカールと視線を交わらせながら微笑む。
    「ありがとう、カール。だが、お前が考えているほど深い仲になったわけじゃないんだ。」
    「どういうこと?」
     首を傾げるカールが手を離したのでリックもカールの肩から手を離す。
    「ニーガンに惹かれているが、どうしてもみんなに対しての罪悪感がある。今はニーガンへの気持ちと夫婦としての関係を深めることを俺の心が受け入れている最中なんだ。だからニーガンには待ってもらってる。」
    「つまり友だち止まりってこと?」
    「そうなるな。」
     リックが頷くとカールは目を丸くして、思わずといった様子で呟く。
    「……意外。あいつ、もっと強引かと思った。」
     その感想にはリックも大いに同意するが、それほどに大事にされているのだと思うと胸の奥が甘く疼くような気がするので深くは考えないことにした。
     そこへ玄関ドアをノックする音が響いた。リックが玄関に向かい、ドアを開けるとアラットが立っていた。
    「荷物を積み終わったからいつでも帰れる。ニーガンは?」
    「二階だ。知らせておくから先に車に戻ってくれ。」
     アラットが「わかった」と頷くのを見てからリックはドアを閉めて体ごと振り向く。いつの間にかカールが傍に来ていた。
     カールは肩を竦めて小さく笑う。その笑みから寂しさを感じ取り、リックは息子を抱きしめた。
    「また来るから。体には気をつけろ。」
    「うん、父さんもね。無理しないで。」
     互いを思いながらのハグを終えて体を離し、リックはニーガンを呼びに行こうとする。
     それを引き止めるようにカールから呼ばれたので振り返ると真剣な眼差しが向けられていた。
    「父さん、みんなへの罪悪感に囚われないで。自分の気持ちに素直に従っていいんだよ。何が起きてもおかしくない世界だから後悔だけはしてほしくない。」
     カールの声はどこまでも穏やかで優しかった。優しさに満ちた声と言葉に心を解されたような気分になる。
     リックはカールの言葉に深く頷いてから階段を上っていく。
     そしてジュディスの部屋の前に立ち、ドアをノックしようとしてその手を止める。中からはニーガンとジュディスの楽しげな笑い声が聞こえてきた。
     いつか、ニーガンへの想いを受け入れられる日が来るのだろうか?
     いつか、ニーガンに「愛してる」と告げることを自分に許す日が来るのだろうか?
     リックは漏れ聞こえてくる声に愛しさを感じながら「いつかそんな日が来てほしい」と願いを込めるようにドアをノックした。


    *****


     アレクサンドリアの徴収日から二週間ほどの間、リックはニーガンと農場の建設・運営計画について毎日話し合った。
     農場を守る壁はどのように作るか。
     農場の改修や壁の建設に必要な材料をどうやって調達するのか。
     農場とサンクチュアリの両方の運営に支障が出ないような人員の配置方法は何か。
     農場とサンクチュアリの行き来における安全な方法はないのか。
     考えなければならないことは山ほどあり、二人だけで考えていてはいつまで経っても終わらない。それでも二人で考えたのはある程度のレベルの計画を提示しなければ説得力がなく、皆からの協力を得られないからだ。
     絵空事で人々は動かない。過酷な世界で生きていくのに夢物語は必要ない。必要なのは実現可能な計画だ。
     次の会議で提案することを目標に定め、二人はそれぞれに資料を持ち寄って夜遅くまで徹底的に話し合った。
     意見の衝突は数えきれず、議論が白熱しすぎて互いの胸ぐらを掴んだこともある。「今夜は解散だ」と怒りながら各自のベッドで眠った翌日は、少し情けない顔で朝早くから押しかけてきたニーガンにリックが苦笑いを浮かべて仲直りとなった。
     そんな風に練り上げた計画を幹部たちに披露した時、皆の目が確かに輝いたのを見てリックの心は喜びと期待で満たされた。
     現状を変えられるという手応えはリックとニーガンだけのものではなく皆のものになった。だからこそ新たなものを生み出す計画に皆が目を輝かせるのだ。
     幹部全員が計画を進めることに賛成し、各自の意見を出し合って計画内容を更に良いものにしていく。改善した計画をサンクチュアリで暮らす全員に向けて発表した後はアイディアを出す者は更に増えた。こうして農場の運営計画は当初のものよりも遥かに中身の濃いものになった。
     「農場の運営を次の春から始める」という目標を設定し、準備は初夏から始まった。
     まずは農場を守る壁の材料に使えるものを集めた。木材・トタン・鉄板などの一般的なものはもちろん、大きな看板やガス欠で放置されていた車も貴重な材料だ。同時進行で農場内に建つ家や小屋の改築と補強に使うための材料も集めていたため、材料集めだけで夏が過ぎていった。壁の建設と農場内の建物の改築や補強の作業を始めるのは暑さが落ちついてからということになり、本格的な作業が始まるまでは細々とした作業を行った。
     農場に関する作業が忙しかったとはいえ野菜の栽培や馬の飼育が疎かになることはない。新たに始めた屋上菜園は順調に進み、初めての収穫は上々だった。プランター栽培の方ではハーブを育て始めたのでハーブ療法が行われるようになった。馬の飼育数は拠点で飼っている馬も含めて十頭にまで増やすことができており、見回りや拠点への物資の輸送に馬を使うことも少しずつ増えてきた。
     様々なことが動いている今、サンクチュアリの中は以前よりも活気づいている。「自分たちで生み出したものを使って生きていくことは可能だ」という認識が浸透しているのが雰囲気でわかり、どの作業も滞ることがなかった。他から奪ったり与えられるだけだった人々が自ら生み出すことを考えるようになったことをリックはとても誇らしく思う。
     いつか徴収に頼らなくとも生きていけるようになればいい。
     そんな希望を抱けるようになったことが心の底から嬉しかった。
     部下たちと共に調達の任務に就いたリックは無人の家にある机の引き出しを漁る。
     調達は簡単なようで難しい。リックはそのことを実感しながら目ぼしいものがないことに溜め息を落とした。
     今日の調達は目的のエリアまでの移動に午前中を費やし、昼食を終えてからエリア内に点在する建物の探索を行っている。月日が経てば経つほど誰にも見つかることなく残されている物資は少なくなり、遠方まで行かなければ新たな物資を得るのは難しく、片道の移動だけで午前中が終わるのは珍しいことではなかった。泊りがけで調達に行くことも以前より増えてきたが、そのために消費する物資の量が持ち帰る物資の量を上回る日はそんなに遠くないだろう。
     リックが今探索しているのは森の中にポツンと建つ平屋の一軒家。他にも数軒の家を見て回ったが、住人が逃げる際に物資を持っていったのか見知らぬ誰かが漁った後だったのか、使えるものはほとんど残っていなかった。この家も荒らされた痕跡があるので期待はできそうにない。
     リックはベッドルームの探索を担当しており、取りこぼしを期待してクローゼットや机の中を細かく見た。丁寧に探してようやく見つけたのはハンカチと下着がそれぞれ数枚、そして筆記用具だけだった。何もないよりはマシだと溜め息を吐きながら見つけたものをリュックサックにしまって部屋を出る。
     この様子では他の部屋も似たような結果だろう。そう考えながら玄関に向かおうとするとリビングの探索を担当している部下が慌てた様子で廊下に飛び出してきた。部下のただならぬ様子を見て、緊張が背筋を這うのを感じながら声をかける。
    「どうした?」
    「ウォ、ウォーカーが、外にたくさん……!」
     青ざめた顔の部下の答えにリックは目を見開き、「ここで待て」と言って急いでリビングに入った。そして中途半端に閉められたカーテンの隙間から覗く窓の外の光景に愕然とする。
     家の周りには数えきれないほどのウォーカーがいた。家の中に生者がいることに気づいていないのか家の傍を通過していくだけだが、こちらの存在に気づかれてしまえば押し寄せてくるのは間違いない。防音がしっかりした家だったために外の音が聞こえずウォーカーの群れが来たことに気づかなかったが、中の音が漏れなかったことでウォーカーに気づかれずに済んだとも言える。
     リックはリビングのカーテンを全てきっちり閉めてから廊下に戻った。廊下には部下全員が集まっており、事態を把握して厳しい表情を浮かべる者や途方に暮れた様子の者もいる。少人数で、しかも拳銃やナイフ程度の武器しかない状況を考えれば「死を考えるな」と言うのは無理だ。
     リックは深呼吸をしてから全員に視線を巡らせる。
    「落ちつけ。奴らは俺たちがいることに気づいていない。玄関や裏口は閉めてあるが鍵をかけていないから、すぐに鍵をかけて家具で塞げ。それと家中のカーテンを閉めて外から中が見えないようにしよう。全て済んだら廊下に戻れ。外にいるウォーカーに一番気づかれにくいのはここだ。」
     リックが落ちついて指示を出したことで部下たちは少し冷静になれたようだ。部下たちがしっかり頷く様子を見てリックは更に言葉を続ける。
    「この家は防音がしっかりしているから静かにしていればウォーカーには気づかれない。奴らが立ち去るまでの辛抱だ。絶対に全員で帰ろう。」
     リックの言葉に部下たちはもう一度頷くとそれぞれのやるべきことを行うために散っていった。
     リックは玄関の封鎖を行い、各部屋の様子を確認してから廊下に戻る。リックの指示通りにカーテンを閉めて玄関と裏口の封鎖を終えた部下たちも戻ってきたので、床に座って静かにしているよう指示を出す。リックは玄関に一番近い場所に座って手斧を握った。
     それからの時間はひたすら我慢が続いた。微かに聞こえてくるウォーカーの声に耐え、ドアや窓が破られるかもしれないという恐怖に耐え、今すぐ車に飛び乗って逃げたいという焦燥に耐え、とにかく湧き上がる感情に耐えるしかなかった。
     恐怖と重圧に押し潰されそうな状態でウォーカーの群れが通り過ぎるのを待つ間、リックは何度も部下たちに顔を向けて視線や表情で「大丈夫だ」と励まし続けた。そうすることで部下たちの強張った表情が少し和らぐのがわかる。そんな部下たちの顔を見ることでリックも「部下たちを絶対に守る」と自身を奮い立たせていた。
     やがてリックの腕時計が夕方の六時を指す頃にはウォーカーの声が漏れ聞こえてくることはなくなった。
    「外の様子を見てくる。このまま待ってろ。」
     リックは小声で部下たちに声をかけてから足音を立てないようにリビングへ移動する。
     窓に慎重に近づいてカーテンの隙間から外を覗いてみると、見える範囲にはウォーカーの姿がなかった。そのためもう少し隙間を広げても問題ないと判断し、リックはゆっくりとカーテンの隙間を広げてみた。
     そうすると眼前に広がるのは木々の姿だけであり、ウォーカーは一体もいなかった。他の部屋の窓から外を確認してもウォーカーの姿は見当たらない。
    「……よかった、完全に移動したな。」
     リックは安堵の息を落としてポツリと呟いた。
     そして表情を緩めたまま部下たちの元へ戻ると笑顔と共に報告する。
    「群れはいなくなってた。もう大丈夫だ。」
     リックがそう告げると全員が嬉しそうに笑い、ホッと肩の力を抜いた。
     危機を乗りきった喜びを満足するまで味わうと部下の一人がリックに顔を向けた。
    「リック、この後はどうする?もう暗くなってきてるが。」
    「このままこの家に留まろう。群れがどこまで移動したのかわからないし、暗い中で群れにぶつかったら致命的だ。明るくなってから出発した方が良い。交替で見張りをして寝よう。」
     リックの提案に反対する者は誰もいなかった。人数も装備も頼りない状態での夜間の移動は危険だ。もしウォーカーの群れに遭遇してしまったら今度はどうにもならないだろう。
    「反対意見がないから夜が明けたらすぐに出発で決まりだ。今のうちに準備しておいてくれ。……大した荷物はないだろうがな。」
     リックが苦笑いしながら言うと皆も同じように笑う。
     夕方にはサンクチュアリに到着する予定だったので食料は昼の分のみ。飲み水は一日分しか持ってきておらず、寝袋やランタンもない。小さいながらも懐中電灯は全員が持っているので明かりには困らないが、各自の飲み水の残りは少ないため節約しながら飲まなければならない。運の悪いことに今回の調達では食料が手に入らなかったので夕食は抜きだ。
     リックは腹の虫が騒ぎ出すのを自覚しながら皆にリビングへ移動するように指示を出す。もう廊下で過ごす必要はない。
     リビングに移動すると部下たちがそれぞれに寝る場所を確保するのを見守り、リックは最後に出入り口付近に座った。
     部下たちは荷物の整理をしたり小声で雑談をしていたが、そのうちに次々と眠り始めた。まだ眠るには早い時間だが緊張による疲れが出たのだろう。穏やかな寝息の響く部屋を見渡してリックは小さく笑みを零した。油断は禁物だが、ウォーカーの群れの脅威が去った安心感に身を委ねたい気持ちは理解できる。
     そんな部下たちを待つ家族や友人のことを考えると無事であることを知らせる術がないのが歯痒い。リックは通信手段が皆無に等しい今の世界に溜め息を吐きたくなった。
     今日中に帰還予定だった調達班が戻らないことにより、サンクチュアリの者たちはリックたちに何かトラブルが起きたのだと察しただろう。心配させないためにも連絡を入れたいが、バッテリーの節約で「調達任務でトランシーバーを携帯できるのは長期の泊まりがけの場合のみ」という新たなルールができたためにトランシーバーを持ってくることができなかった。
     太陽が上り始めたらすぐに出発して帰りを待つ者たちを早く安心させたい。リックはその思いを胸に抱きながら壁に背中を預けた。
     その時、今夜はニーガンの部屋に泊まることになっていたのを思い出す。「忘れて自分の部屋で寝るなよ」と笑うニーガンの顔を見たのは今朝のことだ。
    (約束を破ってしまったな)
     そのことをとても残念に思う自分に気づき、リックは小さく苦笑する。
     ニーガンの部屋で過ごすのは好きだ。結婚したばかりの頃は足を踏み入れることさえ嫌だったニーガンの部屋は、今ではサンクチュアリの中で一番過ごしやすい場所になっていた。
     ボードゲームやトランプで遊んで笑い合い、仕事のことで真剣に議論し、「おやすみ」とベッドの上で身を寄せ合う。
     ニーガンと過ごす時間はリックにとって大切で愛おしいものになっていた。その時間を今夜は掴み損ねてしまったことが残念でならない。
     リックは微かに眉値を寄せて胸を押さえる。込み上げる感情が胸を苦しくさせたせいだ。
    (ニーガンに会いたい)
     危機的状況は去り、朝になればサンクチュアリに帰ることができる。それでもリックはニーガンが恋しくて、会いたくて堪らなかった。仲間たちへの罪悪感によって押し止められていたニーガンへの想いが思いがけないタイミングで溢れ出ている。
     「今夜は一緒に過ごす」という約束を果たせなかっただけでこんなにも胸が苦しくなるとは思わなかった。
     明日になれば会えるとわかっているのに今すぐに会いたくて仕方ない。
     きっと、抑えつけてきた想いは何かの弾みで溢れてもおかしくなかったのだ。それが今日だっただけのこと。今日ではなくともいつか必ず溢れ出て、リックの心を埋め尽くしたのだろう。
     ニーガンへの想いを噛みしめるリックはカールの言葉を思い出す。
    『みんなへの罪悪感に囚われないで。自分の気持ちに素直に従っていいんだよ。何が起きてもおかしくない世界だから後悔だけはしてほしくない。』
     リックはカールの言葉が心に染み込んでいくのを感じた。
     仲間たちのことを大切に思う気持ちは変わらない。これから先も自分にできる精一杯で守り続けていくつもりだ。それでも──ニーガンが好きだ。
    (サンクチュアリに戻ったらニーガンに気持ちを伝えよう)
     心の中にある想いを包み隠さずニーガンに差し出そう。想いを打ち明けてくれた時の彼のように本音でぶつかるのだ。
     リックは己の決断を肯定するように小さく頷いた。
     どんな言葉で伝えようかと考えるだけで胸がときめく。
     リックは湧き上がる感情を慈しむように自身の胸を撫で、ニーガンを想って笑みを浮かべた。


     翌日、リックたちは太陽が顔を覗かせ始めた時刻に家を出発した。まだ少し薄暗いが移動に問題はない。
     リックは運転を部下に任せて助手席に座り、ウォーカーの群れを警戒して周囲に視線を送り続ける。ウォーカーの群れらしきものは見当たらないが、どの方角に向かったのかわからないので警戒を怠ってはならない。
     リックは振り返って後部座席に座る部下たちに声をかける。
    「おい、周りを警戒しておいてくれ。群れかもしれないと思ったら必ず知らせろ。」
     リックの指示を受けた部下たちは「了解」と頷いたが誰の顔にも疲労が浮かんでいる。硬い床に寝転んでの睡眠は安眠とは程遠く、昨日の昼食を最後に何も食べていないせいでエネルギー不足でもあった。
     車内の誰もが空腹と疲れに耐えながら車に揺られること数時間。運転している部下が前方を指差した。
    「──あれ、サンクチュアリの車?」
     その言葉の通り、前方から車が走ってくるのが見えた。サンクチュアリにある車と同型ではあるが、乗っている人間が見える距離ではないのでサンクチュアリのものだと断定できない。他のコミュニティーの車である可能性を捨てきれないため速度を落として接近していく。
     徐々に距離を縮めていくと相手の運転手と同乗者の顔が見えるようになり、その見覚えのある顔にリックは驚いた。向こうの助手席に乗っていたのはアラットであり、それが示すのは向こうの車にはニーガン直属の部下たちが乗っているということだ。
     リックは停車するように指示を出し、車が停まると真っ先に降りた。そうすると相手の後ろに車がもう一台いることに気づく。それはニーガンのお気に入りの車だった。
    (まさか、ニーガンが?)
     その予想にリックは戸惑う。捜索隊が出ることは予想していたが、そこにニーガンが加わるとは考えていなかった。
     基本的にニーガンは部下に任せる人間だ。今回のような場合は捜索範囲や捜索方針などを指示して自分は拠点で待つはず。
     予想外のことに戸惑うリックの視線の先では車から次々と人が降りてくる。一台目の車から降りてきたのは全員ニーガン直属の部下であり、二台目の車から降りてきたのはニーガン本人だった。車を降りたニーガンは真っ直ぐに視線を向けてくる。
     リックは信じられない気持ちでニーガンに近づき、その顔を見つめた。
     ニーガンの顔にいつもの笑みはなく、緊張感を漂わせている。そんなニーガンを前にしてリックは気を引き締めた。
    「ニーガン、計画通りに任務を果たせなくてすまなかった。全員ケガはしていない。空腹と疲れがあるから元気とは言えないが、休めば回復する。戻ったら彼らを休ませてやってほしい。」
    「ああ、そのつもりだ。リック、お前は俺の車に乗れ。話を聞かせてもらう。」
     ニーガンはそう言って自分と共に来た部下たちに顔を向けた。
    「帰るぞ。誰かあっちの車の運転を代わってやれ。」
     命令に頷いた一人がリックたちの乗ってきた車に向かうのを見届けてからニーガンは自分の車に戻っていく。リックはその後を追い、ニーガンが運転席に乗り込むのに続いて助手席に乗った。
     そして三台の車はサンクチュアリのある方へ向きを変えて走り出す。
     リックはハンドルを握るニーガンの横顔に視線を向けた。見慣れた横顔を見ているだけで安心感に全身を包まれたような感覚になる。
    「リック、昨日は何があった?」
     ニーガンは横目でリックの顔をチラッと見てから質問してきた。
    「家の中を探索していたら、いつの間にかウォーカーの群れに家を囲まれていた。囲まれていたといっても気づかれていなかったから家の傍を通過していくだけだったが。」
    「群れ?どれぐらいの規模だ?」
     その問いにリックは首を横に振る。
    「わからない。気づかれないように家中のカーテンを閉めて隠れていたから。ただ、完全にいなくなるまで二時間はかかったと思う。」
    「かなりの規模の群れだと考えて良さそうだな。その群れが向かった方向は?」
    「すまない、知らないんだ。あの辺りでの調達を続けるなら対策を立てないとまずいと思う。今回は運が良かったが、次に遭遇したらどうなるかわからない。」
    「わかった、どうにかする。それで、お前たちはどうやってやり過ごしたんだ?隠れてたと言ったな。」
     そう尋ねながらニーガンは視線を一瞬だけリックに寄越した。
     リックは「そう、隠れていたんだ」と説明を始める。
    「群れに気づいたのは家の中で物資を探している最中だったから玄関と裏口を封鎖して、カーテンも全て閉めて外から中が見えないようにした。その後はずっと静かにしていたんだ。気づかれなければ奴らは勝手にいなくなるからな。」
    「逃げるのは無理だったのか?」
    「ああ。車に乗ることができても群がられる可能性が高かった。そうなったら動けなくなる。それよりも家の中で隠れていた方が安全だと判断した。」
    「帰りが今日になった理由は?」
    「ウォーカーがいなくなったのは夕方だった。ウォーカーの群れは立ち去ったとはいえ近くにいる可能性は十分にある。もし暗くなってから群れと遭遇したら終わりだ。だから朝になってから帰るべきだと思ったんだ。連絡ができないから余計な心配をかけるとわかっていたが安全を優先した。すまなかった。」
    「謝るな。必要なことをしただけだろ。」
     リックは「そういうわけにはいかない」と頭を振る。
     計画通りに日帰りができなかったことだけでなく持ち帰った物資の量が少ないのだ。今回の調達は失敗だと言える。
    「今回は調達できた物資の量が少ない。その上、計画通りに戻ることもできなかった。完全に失敗だ。今回のことは探索の最中に警戒を怠った俺に責任がある。罰は──」
    「罰は俺が受けるって?バカか、お前。」
     リックの言葉を遮ってニーガンが話し、呆れの笑みを浮かべた。
    「それぐらいで罰を与えてたら働き手がいなくなる。失敗の理由がくだらない理由だったら罰を与えるが、そうじゃないなら必要ない。」
     そう言ってニーガンは再びリックの顔を見て、すぐに視線を正面に戻した。
     そして「リック」と真剣な声音で名前を呼ばれた。
    「人材は貴重だ。簡単に失うわけにはいかない。そして、お前は俺の預けた人材を守った。無傷でな。だからお前の今回の判断は正しい。よくやった。」
     そのニーガンの言葉がリックの心に染み込んでいく。
     肯定の言葉は強い。その言葉が自信となって心を守ってくれるのだ。特にニーガンから与えられる肯定の言葉はリックにとって何よりも救いを与えてくれる。
     気が緩んだせいか視界が滲み出した。目の奥が熱くて、泣きそうになっているのだとリックは自覚した。
     それを悟られまいとニーガンから顔を逸らして瞬きを繰り返していると、隣から「頼みがある」と声が飛んできた。
     ニーガンがお願いをするなんて珍しい。リックは目を丸くしながらニーガンの方に顔を戻した。
    「今から話すことはリーダーとしてじゃなく俺個人としての話だ。お前は黙って聞いてるだけでいい。いいか?」
    「わかった。」
     ニーガンはそれに頷いて話し始める。
    「リック、お前は優秀な男だ。判断力もあるし戦うのにも慣れてる。だからお前たちに何かトラブルが起きたとわかっても必ず戻ってくると思った。お前なら解決するし簡単に死なないってな。……それでも。」
     ニーガンはそこで言葉を切ると唇を噛む。その表情がリックには悔しげに見えた。
    「捜しに行きたかった。部下たちを総動員して暗闇の中を捜しに行きたかったし、それが無理なら一人でも行きたかった。だが、それはリーダーとしての俺が許さない。たった数人のために夜の捜索なんて危険なことを部下全員にさせるわけにはいかない。リーダーが単独で勝手に動くのもだめだ。だから夜明けと同時に出発するしかなかった。……リーダーをやってることを後悔したのは今回が初めてだ。」
     自嘲気味に笑うニーガンの横顔にリックの胸が痛んだ。
     ニーガンがリーダーでなければ一人でリックたちを捜しに来ることもできただろう。もし何かあってもそれは自己責任だ。
     しかし、リーダーはそうはいかない。リーダーが一人で動いて、もしものことがあれば組織全体に影響が出る。そして危険だとわかっていることに大勢を巻き込むのは指導者として失格だ。リーダーというのは己の好きにできるように見えて実は人々に縛られているのだ。
     リックが戻らないことにどれほど不安を募らせようと、「捜しに行きたい」と焦燥に突き動かされてしまいそうでも、ニーガンは夜が明けるまで我慢するしかなかった。夜明けまでのニーガンの心境を思うとリックは胸が痛くて仕方なかった。
     リックは胸の痛みと共にニーガンへの愛しさを感じながら話に耳を傾ける。
    「これから先、同じようなことがあっても俺はリーダーであることを優先する。お前が俺の夫だってことは関係なく俺は部下や労働者たちを優先する。お前に惚れてると言ったくせに『他の大勢よりお前を選ぶ』なんて言ってやれない。夫としては最低だな。」
    「ニーガン、俺は──」
    「黙って聞け、と言っただろ。……こんな最低な夫だが、お前をアレクサンドリアに帰らせる気はない。絶対に別れない。だから何があっても生きて帰ってこい。俺はいつまでも待ってやるから。」
     続けて「意外と気は長いんだ」と笑うニーガンに、リックは深く頷くことしかできなかった。
     リーダーであることを放棄するつもりがないのなら、ニーガンはこれから先も「大切な人の危機に動くことができない」という状況に苦しむことになるだろう。それならば大切な存在など作らない方がいい。
     しかし彼はその苦しみを受け入れる覚悟をした。それはリックを心から愛しているからだ。
     リックはニーガンの自分への想いの深さと覚悟に引っ込みかけていた涙が勢いを取り戻そうとするのに耐え、心の中に湧き上がる思いを素直に受け入れる。
    ──ニーガンと、ずっと一緒に生きていきたい。


    *****


     リックたちがサンクチュアリに戻ったのは昼よりも前だった。朝早くに出発したので早く帰ることができたのだ。
     リックとその部下たちはニーガンから「食事の準備ができるまでに診察を受けてシャワーを浴びろ」と命令され、それに従って医務室を目指す。その道中、擦れ違う人々から「無事でよかった」「ケガはないか?」などの無事を喜ぶ言葉をかけられた。それによりリックは自分がここで暮らす一員として受け入れられていることを実感した。
     診察では全員が「異常なし」と言われ、「水分と睡眠をしっかり取りなさい」との指示に頷いてから医務室を後にする。
     リックは部屋に戻って着替えとタオルを用意してシャワールームに向かったが、普段使っているシャワールームは掃除中だったので他の階のシャワールームに足を運ぶ。下の階のシャワールームに行くと既に部下たちが集まっており、リックが現れたことに目を丸くしたが事情を話すと「ツイてない」と笑った。
     そのやり取りの後、リックは皆と一緒にシャワーを浴びた。調達班のメンバーと並んでシャワーを浴びるのは初めてのことで、会話しながらのシャワーは保安官時代を思い出させた。シェーンや他の同僚たちと他愛のない話に花を咲かせる時間は一時の安らぎであり、サンクチュアリで暮らす人々はリックにとってその時間を共有できる相手になったのだ。その実感と共に「誰も失わなくてよかった」と全員で帰ってこられた喜びを噛みしめる。
     シャワーを終えると全員で食事を貰いに行き、談話室で揃って食事をした。ウォーカーの群れに囲まれながらも全員が無事に帰還できたことを祝いたい気持ちがそれぞれにあったからなのだろう。リックは楽しい食事の時間を過ごしながら「アレクサンドリアの仲間と同じように彼らも守りたい」という思いを強くした。
     食事を済ませると自分の部屋に戻ってベッドに直行する。昨夜は質の良い睡眠を取ったとは言い難く、眠気が限界に来ていた。
     ベッドに仰向けに寝転ぶとブーツを脱ぎ捨てて毛布を体に引っ張り上げる。すっかり体に馴染んだマットに身を委ねれば、あっという間に眠りの世界に連れ去られた。


     リックが眠りの世界から戻ってきたのは太陽が沈み始めた頃。
     窓から差し込む日差しの様子が眠る前と大きく変わっていることに驚く。「もう起きなければ」と、リックは眠い目を擦りながら起き上がってブーツを履いた。
     その時、テーブルの上に水差しとグラスが置かれていることに気づく。眠る前にはなかったので誰かが持ってきてくれたのだろう。他人の気配に気づかないほどぐっすり眠っていたことに苦笑しながら、グラスに水を注いで一気に飲み干した。
     リックは空になったグラスをテーブルに戻すと部屋を出る。向かうのはニーガンの部屋だ。自分の気持ちを打ち明けると決め、部屋に着くまでの短い時間で言葉をまとめようと試みるが簡単にできるものではない。
     考えがまとまらないうちにニーガンの部屋の前に到着し、ドアの正面に立って軽く深呼吸をする。そしていつもより丁寧にドアをノックした。
    「──入れ。」
     入室の許可を得たのでドアを開けるとソファーに座るニーガンが驚いた様子でこちらを見た。リックが来ると思っていなかったようだ。
     リックはドアを閉めてニーガンの傍らに立つ。
    「体調はどうだ?」
     見上げながら尋ねてくるニーガンは気遣わしげな目をしており、リックは「問題ない」と頷いた。
    「今日は休ませてくれてありがとう。明日から仕事に戻る。」
    「問題ないならいいが、無理はするなよ。そういえば部屋に置いた水は飲んだか?カーソンからきちんと水を飲めと言われたんだろ?」
     その言葉にリックは目を丸くした。部屋に水差しを置いてくれたのはニーガンだったのだ。
    「水を置いてくれたのはあんただったのか。ありがとう、起きてから飲んだ。」
    「どういたしまして。様子を見に行くついでに持っていったんだ。間抜けな寝顔を晒してたぞ。」
     そう言ってニーガンはニヤリと笑った。
     脱いだブーツを適当に床に転がしておいたほどなので寝顔だけでなく寝姿そのものが間抜けだったかもしれない。そう考えてリックは少し恥ずかしくなった。
     ニーガンはニヤニヤとした笑みを引っ込めると穏やかな表情で見つめてきた。
    「それで?何か用があるんじゃないか?」
    「ああ。話したいことがある。」
     リックは気を取り直すとその場に膝を突き、ニーガンの膝に両手を乗せる。
     リックの思いがけない行動に驚いたニーガンが全身を硬直させたのを見てリックは思わず笑みを零した。そんな些細なことが愛おしい。
     リックはニーガンの目を真っ直ぐに見つめながら「何も言わずに聞いてほしい」と乞う。
    「昨日はこの部屋に泊まる予定だったが、トラブルのせいで約束を守れなかった。俺はそれがとても残念だった。あんたとの約束を破ったことが申し訳なくて、あんたと一緒に過ごすことができなくて寂しかった。この部屋で過ごす時間は俺にとって大切なものだから。」
     目を瞠るニーガンには構わず言葉を続ける。
    「ニーガンに会いたい、と強く思った。会いたくて、恋しくて、もう自分の気持ちを抑えていられない。そう思った。……俺は──」
     リックは一つ深呼吸をしてから続きを口にする。
    「ニーガンを愛している。」
     そう言ってリックは両手に力を込めた。そうすることで掌から伝わってくるニーガンの体温を更に強く感じられる。
     この体温が愛しい、と思いながらリックは微笑む。
    「後悔したくないから自分の気持ちに素直になることにしたんだ。それに、俺があんたに惹かれている事実は変わらない。だから俺たちの間に起きた出来事も仲間たちへの罪悪感も何もかも受け入れて、その上でニーガンと一緒に生きていく。そう決めた。」
     心の中にあるものを全て伝えるとニーガンの顔が歪んだ。泣き出しそうな、喜びを噛みしめるような、そんな表情をしていた。
     初めて見る表情に目を奪われているとニーガンが立ち上がり、両手を取られて立ち上がるように促される。
     リックが膝を突くのをやめて立ち上がった瞬間、ニーガンに強く抱きしめられた。
     息苦しいほどの抱擁をリックは愛しく思う。言葉にされずとも愛されていることが伝わってくる抱擁がとても嬉しかった。
     リックがニーガンの背中に腕を回すと熱の籠もった声で「リック」と名前を呼ばれた。
    「政略結婚なんてするんじゃなかった、愛されてもないのに結婚するんじゃなかった。そう思って何回も後悔した。恋愛してから結婚しておけばよかったって……お前が俺に惚れるなんて腐った奴らが喋り出すくらいあり得ない話だけどな。」
     ニーガンの言葉にリックはクスッと笑った。
    「俺はこれでよかったと思う。そうじゃなきゃ俺はあんたの一部しか知らないままだった。そんな状態の俺があんたを好きになることは絶対にない。」
    「断言されると腹が立つが許してやる。その通りだからな。政略結婚から入らなきゃ俺たちはこうならなかった。」
     ニーガンはそう言うと体を少し離した。そうすることで目が合う。
     目尻の垂れたニーガンの顔が本当に幸せそうで、リックも釣られて笑みを深めた。
    「なあ、リック。俺はキスするのが好きなんだが──」
     その続きを奪うようにリックはニーガンの唇に己の唇を押しつけた。
     以前、ニーガンからキスされそうになった時にリックはそれを拒んだ。その時はまだニーガンの気持ちも自身の気持ちも受け入れることができなかったからだ。
     しかし、今は違う。だからこそリックは自分からニーガンにキスしたいと思い、それを実行に移した。
     リックが唇を離そうとすると頭の後ろを押さえ込まれて今度はニーガンの方から唇を押しつけてきた。ニーガンの舌が唇の隙間を割り開いて口内に侵入し、舌を絡め取られる。
     リックは「ここまでするつもりはなかった」と焦ったが、心のどこかでこうなることを期待していたような気もした。その証拠にニーガンの背中に回した腕に力が入っている。
     息苦しくなってきた頃に唇が離れ、目を開けると間近にニーガンの美しい瞳があった。
    「愛してる、リック。」
     囁かれた愛の言葉は熱を帯びていた。それに応えるように再び自ら唇を触れ合わせれば深い口付けへと変わる。
     リックはキスを交わしながら、ここに来たばかりの頃を思い出した。ニーガンには憎しみと恐れしか抱いておらず、共に過ごすことが苦痛で仕方なかった。「大嫌いだ」と何度思ったかわからない。
     それが今ではキスを交わしたいと望むまでに愛するようになった。人の心も運命も、どこでどう変わるかわからないものだ。
     ニーガンへの想いは仲間たちを傷つける。全員からの祝福を得ることが叶わない愛だ。それでも全てを受け入れると決めた。何かを失う覚悟もできた。ニーガンへの想いは誰にも変えられない。
     リックは揺るがない想いを誓うようにニーガンと唇を重ね続ける。
     二人だけの婚姻の儀の際に交わすことのなかった誓いのキスは、心を通わせ合った日のために取ってあったのかもしれない。リックにはそう思えてならなかった。

    To be continued.
    ♢だんご♢ Link Message Mute
    2019/04/21 11:06:33

    二度目の結婚⑤

    #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク


    pixivに投稿した作品と同じものです。
    S7のニガリク。
    リックがニーガンと政略結婚をするお話。リックとミショーンは友情止まり。
    今回はニーガンに対する気持ちを少しずつ受け入れていくリックが、ある日調達に行った先で想定外のことに遭遇するお話です。


    リックとニーガンのかっこよさを頑張って描いてみたつもり…です。
    今回は今まで以上に「これ誰?」という感じがするかもしれません。
    よかったら、どうぞ。

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    • リック受まとめ #ダリリク  #シェンリク  #腐向け  #TWD  #ニガリク ##ダリリク ##シェンリク ##ニガリク ##TWD


      privatterで投稿したものと今までに投稿していないものをまとめました。
      平和な世界だったり、ドラマ沿いだったりごちゃ混ぜです。



      ◆今日のダリリク:相手が風呂を上がっても髪を乾かさないので仕方なくドライヤーをかけてやる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       髪を濡らしたままバスルームから出てきたリックを見て、ダリルは眉間に思いきりシワを寄せた。
       リックが「疲れた」と何度もボヤきながらバスルームに入っていった時点でこうなることは予想していたが、予想通りになったからといって喜ぶことはできない。
       ダリルは髪の先から雫を滴らせるリックを捕まえるとバスルームへ引きずっていき、ドライヤーの熱い風をリックの髪に吹きかけ始める。
       乱暴な手つきで髪を乾かしてやるとリックが苦笑いを浮かべた。
      「放っておいてくれて構わないんだぞ?」
      「バカか。風邪でも引かれたら困る。」
       それも理由の一つではあるが、リックに構いたいというのが一番の理由。
       普段は頼もしく凛々しい男がダリルの前では気を緩めて無防備になるのが嬉しい。それだけ自分に心を許しているということなのだと思うと甘やかしてやりたくなる。
       そんなことをリック本人に言うつもりは少しもない。
       そんなわけで、ダリルは緩みそうになる顔を引き締めながらリックの髪を乾かし続けたのだった。

      End




      ◆今日のシェンリク:昼下がり、相手が楽しそうに洗濯物を干しているのを、洗濯物をたたみながら眺める
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       今日は仕事は休み。
       そのためシェーンはリックと共に惰眠を貪り、遅めの朝食……ではなく昼食を食べてから活動を始めた。
       洗濯機を回しながら食器洗いや掃除を行い、それが終わると昨夜干した洗濯物を取り込んでいく。
       洗濯物の取り込みが終わった時点でリックが洗い終わった衣類を持って姿を見せた。
      「干すのは俺がやるからシェーンは洗濯物をたたんでおいてくれ。」
      「任せろ、相棒。」
       仕事中のような受け答えに笑い合いながら各自の仕事に取りかかる。
       Tシャツをたたみ、ジーンズをたたみ、タオルをたたみ……。
       シェーンはキレイにたたんだ衣類を並べながら洗濯物を干すリックに目を向ける。
       物干しに洗濯物を干していくリックの顔には笑みが浮かんでいる。それだけでなく鼻歌まで歌っているようだ。
       「何がそんなに楽しいのだろう」と首を傾げかけて、シェーンは自分の口元も緩んでいることに気づいた。
       ああ、そうか。二人一緒なら何をしていても楽しい。
       シェーンはリックも自分と同じなのだと気づき、自分の笑みがますます深いものになっていくのを自覚した。
       これが終わったら次は何をしようか?
       リックと一緒ならどんなことをしても楽しいに違いない。
       そんな風に心を弾ませながら最後の一枚をたたみ終わると、洗濯物を干しているリックの方へ足を運ぶことにした。

      End




      ◆今日のニガリク:無意識に「おかえり」と言うと相手が驚いた顔で「ただいま…」と小声で返すので、何だかお互いに恥ずかしくなる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       遅くなるなら遅くなるって連絡しろ、クソ野郎。
       リックは怒りと共に冷めきったスパゲッティの皿にラップを貼ってから冷蔵庫を開けた。
       夕食の時間になっても帰ってこなかったニーガンからの連絡は未だにない。「夕食はいらない」という話もなかったので用意はしておいたのだが、日付が変わるまで残り三十分という時間になっても玄関のドアは開かなかった。
       ニーガンという男は他人の思い通りになるような人間ではないと知っていたが、少しは一緒に暮らしている者の身にもなってほしいとリックは常々思っている。
      「どこかの女の部屋にでも転がり込んだのかもな。」
       リックは吐き捨てるように言いながら冷蔵庫の扉を乱暴に閉めた。
       あんな男と一緒に暮らしている自分がバカなのだとわかっていても腹を立てずにいられない。
       ニーガンの言動一つに振り回され、翻弄され、感情が揺れ動く自分が情けなかった。それなのに離れずにいることも情けなくて悔しい。
       「早く帰ってきてほしい」だなんて惨めだ。
       リックは静まり返った部屋の中心に佇み、ボンヤリと床を見つめる。ニーガンがいるとうるさいと感じるのに、今はこの静けさが嫌いだ。
       どうしても「ただいま」の声が聞きたい。
       その時、ドアの開く音が微かに響く。その音に導かれるように玄関へ向かうと、そこにはニーガンの姿があった。
       ニーガンはリックを見ると普段通りの笑みを浮かべた。
      「文句は後にしろよ。説明してやるから、先にシャワーを浴びさせて……」
      「おかえり。」
       リックの口から滑り落ちた言葉にニーガンが驚いた顔をする。それは演技ではなく心からのものだとリックは確信した。
       ニーガンは驚きの表情を浮かべたまま口を開く。
      「……ただいま。」
       それは小さな声だった。
       そのことが妙な恥ずかしさを呼び起こしたため、リックは片手で顔を覆って俯いた。
      「どうして俺が恥ずかしくならなきゃいけないんだ?」
      「それは俺のセリフだ。……文句を言われると思ったのに、今のは反則だ。」
       意外にも近くで声が聞こえたためリックが顔を上げると拗ねた顔のニーガンが目の前にいた。
       リックは一歩後ろへ下がろうとしたが、ニーガンに抱き寄せられたためそれは叶わない。
       珍しく真剣な表情のニーガンは唇同士が触れそうな近さで囁く。
      「リック、もう一度『おかえり』と言ってみろ。」
       結局、この男には逆らえない。
       そう思いながら「おかえり」と口にするとニーガンは満足げに微笑む。
       そして「ただいま」と共に与えられたのは熱い口付けだった。

      End




      ◆ダリリク/制限付きの逃避行

      「笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか」
      https://shindanmaker.com/750576

      【制限付きの逃避行】

       ダリルの視線の先には難しい顔をして考え込むリックがいる。
       出会ったばかりの頃のリックはもっと表情豊かな男だったように思う。良いものも悪いものも表情に出していたように思う。
       しかし、リーダーとしての重さが増していくとリックの顔からは表情が消えていった。
       きっと、背負い過ぎたのだろう。
       きっと、失い過ぎたのだろう。
       それをどうにかしてやりたくても運命は過酷なもので、誰にもリックを救えない。
       だからダリルはリックの傍に行く。頬を撫でてやることしかできなくても、その一瞬だけリックに表情が戻るからだ。
       ダリルがリックの隣に立つとリックは視線だけを寄越してきた。
      「また考え事か?」
      「ああ、別に大したことじゃない。」
       嘘つきめ。
       そう言ってやりたかったが、言ったところで苦笑するだけだろう。
       ダリルは何となくリックに触れたくなって頬に掌を這わせた。そうするとリックは目を細めて幸せそうな笑みを浮かべる。
       笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか?
       ダリルは最近では滅多に笑わなくなった想い人に胸を痛め、自分にできることの少なさに落胆する。
       自分と過ごす時間だけでもリックが幸せだと思えるのならいくらでも傍にいるのに。
       そんなダリルの思いをやんわりと拒むようにリックが離れていく。
      「……もう行かないと。」
       小さく呟いたリックの顔からは表情が消えていた。
      「そうだな。」
       次にリックの笑顔に会えるのはいつになるのだろう?
       リックの傍にいたいのは彼のためなのか、それとも自分のためなのか、ダリルにはそれさえわからなくなった。

      End




      【この熱さをもたらすもの】ダリリク

       照りつける太陽が俺の背中を焼く。
       ジリジリと焦げつく背中に滲む汗は不快さしか与えてくれず、眉間にしわが寄ったのを自覚する。
       作業する手を止めて休めばいいのに「もう少しだけ」と作業を止められない。生き急ぐつもりはないが、小さな焦りが自分の中に存在しているせいなのかもしれない。
       思わず自分に苦笑を漏らした時、後ろから足音が近づいてきた。
      「仕事中毒か?水でも飲んで休め。」
       姿を見せたのはダリルで、彼は水の入ったペットボトルを手にして立っている。
       差し出されたペットボトルを受け取りながら礼を言うと、ダリルの手の甲が俺の頬に触れた。
      「おい、かなり熱いぞ。気分は悪くないか?」
      「大丈夫だ。だが、そろそろ切り上げた方がいいかもしれないな。」
      「あんた、結構汗かきだよな。脱水症状でぶっ倒れても知らねーぞ。」
       ダリルは呆れ顔で俺の頬を軽く叩いた。
       休まずに仕事を続けてしまうのは俺の悪い癖だ。そんな俺をダリルはいつも心配してくれる。
       本当に良い奴だな、と思わず笑みが溢れた。
      「気をつける。それにしてもお前は本当に俺のことをよく見ているよな。そんなに俺のことが好きなのか?」
       笑い混じりに冗談を言ってみた。
       「バカか」と呆れ顔をするダリルを想像していたが、予想とは違ってダリルは目を丸くして俺を見る。その顔が真っ赤に染まるのは一瞬のことだった。
       予想外の反応に何も言えずにいるとダリルが耳元に唇を寄せてくる。
      「好きだけど、何か文句あるか?」
       低く囁かれて背筋にゾクリとしたものが走る。
       ダリルは俺から体を離し、鼻を鳴らして去っていく。それを見送ることができないのは全身が硬直してしまったからだ。
       ああ、熱い。頬が燃えるように熱い。
       思いがけずダリルから与えられた熱に逆上せそうな気がした。

      End




      【Strawberry】ニガリク

       ああ、今日もよく働いた。
       そんな充実感と共にリックは体を伸ばす。
       スッキリと晴れた青空の下で作業をするのは気分が良い。そのためか今日はいつもより張り切って仕事をしたような気がする。
       休むことなく動き回ったので、さすがに体が重い。リックは休憩のために近くの家の壁に背中を預けて座った。
       吹き抜ける風の柔らかさが心地良い。
       耳に届く住人たちの賑やかな声が穏やかな気持ちにさせてくれる。
       様々な困難を乗り越えたアレクサンドリアは希望に満ちた町へと変わりつつある。
      (幸せだなぁ)
       素直にそう感じたリックは微かに笑みを浮かべた。


       リックが幸せな気分を満喫していると足音が近づいてくる。その足音の方へ顔を向ければニーガンが歩いてくる姿が見えた。
       ニーガンのシャツの袖には泥が付いている。畑仕事を嫌がらずに行うニーガンを意外に思ったのはそんなに最近のことではない。
       敵対し、憎み、戦争までした相手と手を取り合って生きていることが信じられないが、目の前にあるのは全て現実だ。そのことが不思議で、おかしくて、そして嬉しい。
       リックがクスクスと笑っていると目の前に来たニーガンが呆れたような顔をする。
      「働きすぎておかしくなったのか?」
      「違う。気にしないでくれ。」
       まだ笑いの余韻を残すリックにニーガンは顔をしかめたが、それ以上は追及せずにリックの正面にしゃがんだ。
       リックの前にしゃがんだニーガンの手には苺が乗っている。畑で育てていたものを持ってきたのだろう。
      「見事な出来だな。ニーガンが農作業が好きだなんて意外だった。」
       そう言ってやるとニーガンはニヤリと笑う。
      「小さなレディだと思えば手間をかけるのも惜しくない。」
       「何だそれ」とリックが笑っているとニーガンはリックの唇に触れた。
      「お前に一番に食わせてやる。口を開けろ。」
       その言葉に従ってリックは口を開けたが、ニーガンは苺を自分で咥えてしまう。
       一番に食べさせてくれるのではなかったのか?
       リックがそんな疑問を抱いているとニーガンが顔を近づけてきた。そしてニーガンが咥えた苺がリックの唇に触れる。「食べろ」という意味なのだと理解したリックは苺をかじった。
       かじった瞬間に口の中に果汁が広がり、甘く爽やかな香りが鼻を通り抜ける。リックは自分を真っ直ぐに見つめてくる瞳を見つめながら苺を咀嚼した。
      「美味い。」
       正直な感想を告げると、それを待ちかねていたかのように残り半分の苺がニーガンの口の中へと消える。
       ニーガンは己の唇に付いた苺の汁を舐め取りながら囁く。
      「お前のためにこの俺が育てた苺だ。全部食えよ、リック。」
      「……本当に押し付けがましい奴だな、あんたは。」
       溜め息混じりのリックの言葉を気にしていない様子でニーガンは再び苺を咥えた。
       リックは「仕方ない」と苦笑してからその苺を咥える。さっきよりも深く咥えれば唇同士が触れ合う。
       そして思いきって苺をかじれば触れ合うだけのものが深い口付けへと変わった。
       苺の甘い汁と共に舌を絡め合えば奇妙な背徳感に背筋がゾクリとする。その背徳感を嫌だと思わないのは目の前の男との甘い時間に溺れているせいだ。
      (甘い、さっきよりもっと)
       この甘さは自分だけのもの。ニーガンが自分のために育てた苺をニーガン自ら与えてくれることで生まれた甘さだ。
       そう認識した時、何度も噛むことでドロドロになった苺が喉を下りていった。
       まだ食べ足りない、と思ったリックは軽く口を開けて「もっと」と強請る。
       「仕方ない奴だ」とニーガンが楽しげな笑みを浮かべながら咥えた苺がリックにはこの世で一番美味しそうなものに見えた。

      End




      【唐突に告げる】シェンリク

      「愛してる。」
       シェーンの鼓膜を震わせたリックの一言は何の脈絡もないものだった。
       シェーンとリックは二人がけのソファーに並んで映画を観ている真っ最中。
       観ているのは恋愛ものの映画ではない。そういったジャンルに興味はなかった。ついさっきまでビール片手にストーリーにツッコミを入れて笑い合っていただけなのだ。
       それなのに突然リックが愛の言葉を口にしたため、シェーンは目を丸くして隣に顔を向けた。
      「何だよ、急に。」
       そう尋ねればリックは楽しそうに笑った。
      「何となく言いたかっただけだ。」
      「そんなムードじゃなかったぞ。」
       変な奴、と苦笑しながら新しいビールに口を付ける。
       突然のことに驚きはしたが、悪くはない。
       相手のことを常に愛しく思っているのはシェーンも同じだ。
      「愛してる。」
       今度はシェーンが愛の言葉を口にした。
       シェーンが再び隣へ顔を向ければリックも同じようにシェーンを見ていた。
       目が合った時、リックの目尻が垂れて幸せそうな笑みが浮かんだ。
       そんなリックを「愛しいな」と改めて思ったシェーンの口も弧を描いていた。

      End
      #ダリリク  #シェンリク  #腐向け  #TWD  #ニガリク ##ダリリク ##シェンリク ##ニガリク ##TWD


      privatterで投稿したものと今までに投稿していないものをまとめました。
      平和な世界だったり、ドラマ沿いだったりごちゃ混ぜです。



      ◆今日のダリリク:相手が風呂を上がっても髪を乾かさないので仕方なくドライヤーをかけてやる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       髪を濡らしたままバスルームから出てきたリックを見て、ダリルは眉間に思いきりシワを寄せた。
       リックが「疲れた」と何度もボヤきながらバスルームに入っていった時点でこうなることは予想していたが、予想通りになったからといって喜ぶことはできない。
       ダリルは髪の先から雫を滴らせるリックを捕まえるとバスルームへ引きずっていき、ドライヤーの熱い風をリックの髪に吹きかけ始める。
       乱暴な手つきで髪を乾かしてやるとリックが苦笑いを浮かべた。
      「放っておいてくれて構わないんだぞ?」
      「バカか。風邪でも引かれたら困る。」
       それも理由の一つではあるが、リックに構いたいというのが一番の理由。
       普段は頼もしく凛々しい男がダリルの前では気を緩めて無防備になるのが嬉しい。それだけ自分に心を許しているということなのだと思うと甘やかしてやりたくなる。
       そんなことをリック本人に言うつもりは少しもない。
       そんなわけで、ダリルは緩みそうになる顔を引き締めながらリックの髪を乾かし続けたのだった。

      End




      ◆今日のシェンリク:昼下がり、相手が楽しそうに洗濯物を干しているのを、洗濯物をたたみながら眺める
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       今日は仕事は休み。
       そのためシェーンはリックと共に惰眠を貪り、遅めの朝食……ではなく昼食を食べてから活動を始めた。
       洗濯機を回しながら食器洗いや掃除を行い、それが終わると昨夜干した洗濯物を取り込んでいく。
       洗濯物の取り込みが終わった時点でリックが洗い終わった衣類を持って姿を見せた。
      「干すのは俺がやるからシェーンは洗濯物をたたんでおいてくれ。」
      「任せろ、相棒。」
       仕事中のような受け答えに笑い合いながら各自の仕事に取りかかる。
       Tシャツをたたみ、ジーンズをたたみ、タオルをたたみ……。
       シェーンはキレイにたたんだ衣類を並べながら洗濯物を干すリックに目を向ける。
       物干しに洗濯物を干していくリックの顔には笑みが浮かんでいる。それだけでなく鼻歌まで歌っているようだ。
       「何がそんなに楽しいのだろう」と首を傾げかけて、シェーンは自分の口元も緩んでいることに気づいた。
       ああ、そうか。二人一緒なら何をしていても楽しい。
       シェーンはリックも自分と同じなのだと気づき、自分の笑みがますます深いものになっていくのを自覚した。
       これが終わったら次は何をしようか?
       リックと一緒ならどんなことをしても楽しいに違いない。
       そんな風に心を弾ませながら最後の一枚をたたみ終わると、洗濯物を干しているリックの方へ足を運ぶことにした。

      End




      ◆今日のニガリク:無意識に「おかえり」と言うと相手が驚いた顔で「ただいま…」と小声で返すので、何だかお互いに恥ずかしくなる
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       遅くなるなら遅くなるって連絡しろ、クソ野郎。
       リックは怒りと共に冷めきったスパゲッティの皿にラップを貼ってから冷蔵庫を開けた。
       夕食の時間になっても帰ってこなかったニーガンからの連絡は未だにない。「夕食はいらない」という話もなかったので用意はしておいたのだが、日付が変わるまで残り三十分という時間になっても玄関のドアは開かなかった。
       ニーガンという男は他人の思い通りになるような人間ではないと知っていたが、少しは一緒に暮らしている者の身にもなってほしいとリックは常々思っている。
      「どこかの女の部屋にでも転がり込んだのかもな。」
       リックは吐き捨てるように言いながら冷蔵庫の扉を乱暴に閉めた。
       あんな男と一緒に暮らしている自分がバカなのだとわかっていても腹を立てずにいられない。
       ニーガンの言動一つに振り回され、翻弄され、感情が揺れ動く自分が情けなかった。それなのに離れずにいることも情けなくて悔しい。
       「早く帰ってきてほしい」だなんて惨めだ。
       リックは静まり返った部屋の中心に佇み、ボンヤリと床を見つめる。ニーガンがいるとうるさいと感じるのに、今はこの静けさが嫌いだ。
       どうしても「ただいま」の声が聞きたい。
       その時、ドアの開く音が微かに響く。その音に導かれるように玄関へ向かうと、そこにはニーガンの姿があった。
       ニーガンはリックを見ると普段通りの笑みを浮かべた。
      「文句は後にしろよ。説明してやるから、先にシャワーを浴びさせて……」
      「おかえり。」
       リックの口から滑り落ちた言葉にニーガンが驚いた顔をする。それは演技ではなく心からのものだとリックは確信した。
       ニーガンは驚きの表情を浮かべたまま口を開く。
      「……ただいま。」
       それは小さな声だった。
       そのことが妙な恥ずかしさを呼び起こしたため、リックは片手で顔を覆って俯いた。
      「どうして俺が恥ずかしくならなきゃいけないんだ?」
      「それは俺のセリフだ。……文句を言われると思ったのに、今のは反則だ。」
       意外にも近くで声が聞こえたためリックが顔を上げると拗ねた顔のニーガンが目の前にいた。
       リックは一歩後ろへ下がろうとしたが、ニーガンに抱き寄せられたためそれは叶わない。
       珍しく真剣な表情のニーガンは唇同士が触れそうな近さで囁く。
      「リック、もう一度『おかえり』と言ってみろ。」
       結局、この男には逆らえない。
       そう思いながら「おかえり」と口にするとニーガンは満足げに微笑む。
       そして「ただいま」と共に与えられたのは熱い口付けだった。

      End




      ◆ダリリク/制限付きの逃避行

      「笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか」
      https://shindanmaker.com/750576

      【制限付きの逃避行】

       ダリルの視線の先には難しい顔をして考え込むリックがいる。
       出会ったばかりの頃のリックはもっと表情豊かな男だったように思う。良いものも悪いものも表情に出していたように思う。
       しかし、リーダーとしての重さが増していくとリックの顔からは表情が消えていった。
       きっと、背負い過ぎたのだろう。
       きっと、失い過ぎたのだろう。
       それをどうにかしてやりたくても運命は過酷なもので、誰にもリックを救えない。
       だからダリルはリックの傍に行く。頬を撫でてやることしかできなくても、その一瞬だけリックに表情が戻るからだ。
       ダリルがリックの隣に立つとリックは視線だけを寄越してきた。
      「また考え事か?」
      「ああ、別に大したことじゃない。」
       嘘つきめ。
       そう言ってやりたかったが、言ったところで苦笑するだけだろう。
       ダリルは何となくリックに触れたくなって頬に掌を這わせた。そうするとリックは目を細めて幸せそうな笑みを浮かべる。
       笑う横顔に恋をしたのは果たしていつの日だっただろうか?
       ダリルは最近では滅多に笑わなくなった想い人に胸を痛め、自分にできることの少なさに落胆する。
       自分と過ごす時間だけでもリックが幸せだと思えるのならいくらでも傍にいるのに。
       そんなダリルの思いをやんわりと拒むようにリックが離れていく。
      「……もう行かないと。」
       小さく呟いたリックの顔からは表情が消えていた。
      「そうだな。」
       次にリックの笑顔に会えるのはいつになるのだろう?
       リックの傍にいたいのは彼のためなのか、それとも自分のためなのか、ダリルにはそれさえわからなくなった。

      End




      【この熱さをもたらすもの】ダリリク

       照りつける太陽が俺の背中を焼く。
       ジリジリと焦げつく背中に滲む汗は不快さしか与えてくれず、眉間にしわが寄ったのを自覚する。
       作業する手を止めて休めばいいのに「もう少しだけ」と作業を止められない。生き急ぐつもりはないが、小さな焦りが自分の中に存在しているせいなのかもしれない。
       思わず自分に苦笑を漏らした時、後ろから足音が近づいてきた。
      「仕事中毒か?水でも飲んで休め。」
       姿を見せたのはダリルで、彼は水の入ったペットボトルを手にして立っている。
       差し出されたペットボトルを受け取りながら礼を言うと、ダリルの手の甲が俺の頬に触れた。
      「おい、かなり熱いぞ。気分は悪くないか?」
      「大丈夫だ。だが、そろそろ切り上げた方がいいかもしれないな。」
      「あんた、結構汗かきだよな。脱水症状でぶっ倒れても知らねーぞ。」
       ダリルは呆れ顔で俺の頬を軽く叩いた。
       休まずに仕事を続けてしまうのは俺の悪い癖だ。そんな俺をダリルはいつも心配してくれる。
       本当に良い奴だな、と思わず笑みが溢れた。
      「気をつける。それにしてもお前は本当に俺のことをよく見ているよな。そんなに俺のことが好きなのか?」
       笑い混じりに冗談を言ってみた。
       「バカか」と呆れ顔をするダリルを想像していたが、予想とは違ってダリルは目を丸くして俺を見る。その顔が真っ赤に染まるのは一瞬のことだった。
       予想外の反応に何も言えずにいるとダリルが耳元に唇を寄せてくる。
      「好きだけど、何か文句あるか?」
       低く囁かれて背筋にゾクリとしたものが走る。
       ダリルは俺から体を離し、鼻を鳴らして去っていく。それを見送ることができないのは全身が硬直してしまったからだ。
       ああ、熱い。頬が燃えるように熱い。
       思いがけずダリルから与えられた熱に逆上せそうな気がした。

      End




      【Strawberry】ニガリク

       ああ、今日もよく働いた。
       そんな充実感と共にリックは体を伸ばす。
       スッキリと晴れた青空の下で作業をするのは気分が良い。そのためか今日はいつもより張り切って仕事をしたような気がする。
       休むことなく動き回ったので、さすがに体が重い。リックは休憩のために近くの家の壁に背中を預けて座った。
       吹き抜ける風の柔らかさが心地良い。
       耳に届く住人たちの賑やかな声が穏やかな気持ちにさせてくれる。
       様々な困難を乗り越えたアレクサンドリアは希望に満ちた町へと変わりつつある。
      (幸せだなぁ)
       素直にそう感じたリックは微かに笑みを浮かべた。


       リックが幸せな気分を満喫していると足音が近づいてくる。その足音の方へ顔を向ければニーガンが歩いてくる姿が見えた。
       ニーガンのシャツの袖には泥が付いている。畑仕事を嫌がらずに行うニーガンを意外に思ったのはそんなに最近のことではない。
       敵対し、憎み、戦争までした相手と手を取り合って生きていることが信じられないが、目の前にあるのは全て現実だ。そのことが不思議で、おかしくて、そして嬉しい。
       リックがクスクスと笑っていると目の前に来たニーガンが呆れたような顔をする。
      「働きすぎておかしくなったのか?」
      「違う。気にしないでくれ。」
       まだ笑いの余韻を残すリックにニーガンは顔をしかめたが、それ以上は追及せずにリックの正面にしゃがんだ。
       リックの前にしゃがんだニーガンの手には苺が乗っている。畑で育てていたものを持ってきたのだろう。
      「見事な出来だな。ニーガンが農作業が好きだなんて意外だった。」
       そう言ってやるとニーガンはニヤリと笑う。
      「小さなレディだと思えば手間をかけるのも惜しくない。」
       「何だそれ」とリックが笑っているとニーガンはリックの唇に触れた。
      「お前に一番に食わせてやる。口を開けろ。」
       その言葉に従ってリックは口を開けたが、ニーガンは苺を自分で咥えてしまう。
       一番に食べさせてくれるのではなかったのか?
       リックがそんな疑問を抱いているとニーガンが顔を近づけてきた。そしてニーガンが咥えた苺がリックの唇に触れる。「食べろ」という意味なのだと理解したリックは苺をかじった。
       かじった瞬間に口の中に果汁が広がり、甘く爽やかな香りが鼻を通り抜ける。リックは自分を真っ直ぐに見つめてくる瞳を見つめながら苺を咀嚼した。
      「美味い。」
       正直な感想を告げると、それを待ちかねていたかのように残り半分の苺がニーガンの口の中へと消える。
       ニーガンは己の唇に付いた苺の汁を舐め取りながら囁く。
      「お前のためにこの俺が育てた苺だ。全部食えよ、リック。」
      「……本当に押し付けがましい奴だな、あんたは。」
       溜め息混じりのリックの言葉を気にしていない様子でニーガンは再び苺を咥えた。
       リックは「仕方ない」と苦笑してからその苺を咥える。さっきよりも深く咥えれば唇同士が触れ合う。
       そして思いきって苺をかじれば触れ合うだけのものが深い口付けへと変わった。
       苺の甘い汁と共に舌を絡め合えば奇妙な背徳感に背筋がゾクリとする。その背徳感を嫌だと思わないのは目の前の男との甘い時間に溺れているせいだ。
      (甘い、さっきよりもっと)
       この甘さは自分だけのもの。ニーガンが自分のために育てた苺をニーガン自ら与えてくれることで生まれた甘さだ。
       そう認識した時、何度も噛むことでドロドロになった苺が喉を下りていった。
       まだ食べ足りない、と思ったリックは軽く口を開けて「もっと」と強請る。
       「仕方ない奴だ」とニーガンが楽しげな笑みを浮かべながら咥えた苺がリックにはこの世で一番美味しそうなものに見えた。

      End




      【唐突に告げる】シェンリク

      「愛してる。」
       シェーンの鼓膜を震わせたリックの一言は何の脈絡もないものだった。
       シェーンとリックは二人がけのソファーに並んで映画を観ている真っ最中。
       観ているのは恋愛ものの映画ではない。そういったジャンルに興味はなかった。ついさっきまでビール片手にストーリーにツッコミを入れて笑い合っていただけなのだ。
       それなのに突然リックが愛の言葉を口にしたため、シェーンは目を丸くして隣に顔を向けた。
      「何だよ、急に。」
       そう尋ねればリックは楽しそうに笑った。
      「何となく言いたかっただけだ。」
      「そんなムードじゃなかったぞ。」
       変な奴、と苦笑しながら新しいビールに口を付ける。
       突然のことに驚きはしたが、悪くはない。
       相手のことを常に愛しく思っているのはシェーンも同じだ。
      「愛してる。」
       今度はシェーンが愛の言葉を口にした。
       シェーンが再び隣へ顔を向ければリックも同じようにシェーンを見ていた。
       目が合った時、リックの目尻が垂れて幸せそうな笑みが浮かんだ。
       そんなリックを「愛しいな」と改めて思ったシェーンの口も弧を描いていた。

      End
      ♢だんご♢
    • 飽きたなら、さようなら #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク

      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7辺りのニガリク。
      ニーガンに素っ気なくされるようになったリックが徴収の前日に調達に出かけるお話。


      ニーガンに素っ気なくされるリックを書いてみたかったので挑戦してみましたが、あんまり素っ気ない感じがしないかもしれません。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • リック受けまとめ2 ##TWD ##ニガリク ##ダリリク ##メルリク

      ぷらいべったーに投稿した作品のまとめです。
      ほぼニガリクでした。
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • スコット受まとめ #蜘蛛蟻  #隼蟻  #盾蟻  #腐向け ##蜘蛛蟻 ##隼蟻 ##盾蟻


      診断メーカーのお題で書いたものをまとめました。privatterに投稿していたものです。




      ◆今日の隼蟻:洗う係と拭く係とで別れて、口論しながらも見事な連携プレーで食器を洗う
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

      「だーかーら!今日は俺が夕飯作るって言っただろ!?しかも言ったのは朝!」
       スコットが泡だらけの皿を水で洗いながら怒鳴ると、その隣ではサムが洗い終わった食器を乾いたタオルで拭きながらしかめっ面をする。
      「俺がやりたくてやってるだけだ。俺としては何で怒られなきゃならないのかが理解できないね。」
      「疲れて帰ってきた奴にさせたくなかったのがわかんないのか!?あー、俺の優しさが無駄になった!」
       やけくそ気味に言い放ったスコットの言葉に対してサムが「自分で言うな」とツッコむと、スコットの機嫌はますます下降していく。
       今日の任務はサムだけだったので、スコットは今夜の食事は自分が作ろうと思っていた。毎日食事を作ってくれるサムへの感謝のためでもあったからだ。
       それなのに買い出しで家を留守にした間にサムが帰宅し、スコットが帰宅する前に夕食を作ってしまったのである。
      「あんたに美味いものを食べさせてやりたいと思うのがそんなにダメか?」
       サムはスコットが渡した皿を受け取って手際良く水分を拭き取った。
      「そうじゃなくてっ……サムに少しでも楽をさせてやりたい俺の気持ちも考えろってこと。」
       差し出されたサムの手にスコットは洗い終わった皿を乗せる。その皿の水気もサムの手によってあっという間に消え失せてしまった。
      「あんたを喜ばせたい俺の気持ちも考えてほしいね。……早く次を渡せ。」
      「はいはい、これで最後だよ。」
       スコットが不機嫌そうに最後の皿を渡すと、サムは目を丸くしてスコットの顔を見た。
      「最後?これで終わりか?」
      「何か問題でも?」
      「早いな。もう洗い終わったのか。」
      「……ケンカしても連携プレーはバッチリだな、俺たち。」
       その事実が二人の仲の良さを表しているようで、不思議と笑みが浮かんでくる。
       こうなってしまえば怒りは萎んで消えてしまい、後は仲直りをするだけとなる。
       スコットとサムは向かい合うと互いの体に両腕を回して抱きしめ合った。
      「サム、ごめん。ムキになって怒り過ぎた。」
      「俺こそ悪かった。スコットの気持ちは嬉しかったんだ。」
       謝り合ってハグをすればケンカはお終い。
       残りの時間は甘く穏やかな時間を過ごすことにしよう。

      End




      ◆今日の蜘蛛蟻:なんだか無性に甘いものが食べたいと思ってドーナッツ1ダース買って帰ったら相手も1ダース買ってた
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       お腹が空いたな、と思った帰り道。
       甘いものが食べたいな、と思って回り道。
       良さそうな店を探すピーターの鼻に届いたのは美味しそうなドーナツの香り。
       甘い香りに誘われてフラフラと店に入れば数えきれないほどたくさんのドーナツ。種類の豊富さは選ぶ楽しさを与えてくれる。
      (スコットさんは何が好きかな?)
       同棲中の恋人の好みを思い出しながらドーナツと見つめ合うが、どれも魅力的で一つだけ選ぶのは無理そうだ。
       それならば何種類も買って帰ればいいではないか。
       「我ながら名案だ」とピーターは笑みを浮かべ、澄まし顔で並ぶドーナツたちを次々と指名する。
       ドーナツを購入し、「ありがとうございました」と店員の声を背に受けながら店を出たピーターの手には大きな箱。その中にはドーナツが一ダースも詰まっていた。
       買い過ぎたかな、と思いながらも家に向かう足はステップを踏みそうな勢いだ。
       腹の虫を鳴かせながら家に帰れば愛しいスコットが出迎えてくれる。
      「見て、スコットさん。ドーナツ買ってきたんだ。」
       そう言ってドーナツの入った箱を差し出すとスコットは「えっ!」と言って目玉が飛び出そうな勢いで目を丸くした。
       どうしたのかと尋ねればスコットは気まずそうにダイニングテーブルを指差す。
       そこにあったのはピーターと同じ柄と大きさの箱。
      「俺もドーナツを買ってきたんだ。ピーターが喜ぶかと思って。……一ダース。」
       ピーターは困り顔で頬をかくスコットに抱きつきながら「僕たちの相性は最高だね!」と頬にキスを贈ったのだった。

      End




      ◆今日の盾蟻:仕事で疲れ切った帰り道、家の明かりが灯っているのを見て不意に泣きたくなった(相手には絶対言わないが)
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       すっかり暗くなった通りを歩きながらスティーブは冷たい風に体を震わせる。
       今日の任務は予定よりも時間がかかった。想定外の出来事が起きるのは当然で、そのための心構えは常にできている。
       しかし、疲れるものは疲れる。超人的な肉体を持つスティーブであっても疲れが溜まるのは避けられず、今日は特に疲れが大きい。
       重いものを引きずるように歩きながらの帰り道は気分まで重くさせた。
       暗い道を寒さに震えながら歩くのは妙に落ち込む。通りすがりの相手から嫌なことを言われたわけでもないのに……というより、誰とも擦れ違わないのだが。
      (なんだか情けないな)
       自分自身に対して苦笑しながら歩くうちに我が家が見えてきた。
       狭くはないが広いとも言いきれない小さな家には柔らかな明かりが灯っている。
      (スコット、まだ起きていたんだな)
       同棲を始めたばかりの恋人には帰るのが遅くなると連絡は入れてある。先に寝ていてほしいとも伝えておいたはずだ。
       それでも彼はスティーブの帰りを起きて待っていたらしい。

      ───ああ、一人じゃないことがこんなにも嬉しい。

       そう思った途端に鼻の奥がツーンとして、目の奥が熱くなって、瞬きを繰り返さなければ涙が溢れてしまいそうな気がした。
       スコットという存在が自分の心に温もりを与えてくれることが幸せで……幸せだからこそ泣きたくなる。
       スティーブは家の玄関の前に立つと頬を軽く叩いた。
       泣きそうになったなんて絶対に悟られたくない。いつも通りの自分でスコットに会いたい。
       「よし!」と小さく声を出してからドアを開ければ、愛しい笑顔がスティーブを迎えてくれた。

      End
      #蜘蛛蟻  #隼蟻  #盾蟻  #腐向け ##蜘蛛蟻 ##隼蟻 ##盾蟻


      診断メーカーのお題で書いたものをまとめました。privatterに投稿していたものです。




      ◆今日の隼蟻:洗う係と拭く係とで別れて、口論しながらも見事な連携プレーで食器を洗う
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

      「だーかーら!今日は俺が夕飯作るって言っただろ!?しかも言ったのは朝!」
       スコットが泡だらけの皿を水で洗いながら怒鳴ると、その隣ではサムが洗い終わった食器を乾いたタオルで拭きながらしかめっ面をする。
      「俺がやりたくてやってるだけだ。俺としては何で怒られなきゃならないのかが理解できないね。」
      「疲れて帰ってきた奴にさせたくなかったのがわかんないのか!?あー、俺の優しさが無駄になった!」
       やけくそ気味に言い放ったスコットの言葉に対してサムが「自分で言うな」とツッコむと、スコットの機嫌はますます下降していく。
       今日の任務はサムだけだったので、スコットは今夜の食事は自分が作ろうと思っていた。毎日食事を作ってくれるサムへの感謝のためでもあったからだ。
       それなのに買い出しで家を留守にした間にサムが帰宅し、スコットが帰宅する前に夕食を作ってしまったのである。
      「あんたに美味いものを食べさせてやりたいと思うのがそんなにダメか?」
       サムはスコットが渡した皿を受け取って手際良く水分を拭き取った。
      「そうじゃなくてっ……サムに少しでも楽をさせてやりたい俺の気持ちも考えろってこと。」
       差し出されたサムの手にスコットは洗い終わった皿を乗せる。その皿の水気もサムの手によってあっという間に消え失せてしまった。
      「あんたを喜ばせたい俺の気持ちも考えてほしいね。……早く次を渡せ。」
      「はいはい、これで最後だよ。」
       スコットが不機嫌そうに最後の皿を渡すと、サムは目を丸くしてスコットの顔を見た。
      「最後?これで終わりか?」
      「何か問題でも?」
      「早いな。もう洗い終わったのか。」
      「……ケンカしても連携プレーはバッチリだな、俺たち。」
       その事実が二人の仲の良さを表しているようで、不思議と笑みが浮かんでくる。
       こうなってしまえば怒りは萎んで消えてしまい、後は仲直りをするだけとなる。
       スコットとサムは向かい合うと互いの体に両腕を回して抱きしめ合った。
      「サム、ごめん。ムキになって怒り過ぎた。」
      「俺こそ悪かった。スコットの気持ちは嬉しかったんだ。」
       謝り合ってハグをすればケンカはお終い。
       残りの時間は甘く穏やかな時間を過ごすことにしよう。

      End




      ◆今日の蜘蛛蟻:なんだか無性に甘いものが食べたいと思ってドーナッツ1ダース買って帰ったら相手も1ダース買ってた
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       お腹が空いたな、と思った帰り道。
       甘いものが食べたいな、と思って回り道。
       良さそうな店を探すピーターの鼻に届いたのは美味しそうなドーナツの香り。
       甘い香りに誘われてフラフラと店に入れば数えきれないほどたくさんのドーナツ。種類の豊富さは選ぶ楽しさを与えてくれる。
      (スコットさんは何が好きかな?)
       同棲中の恋人の好みを思い出しながらドーナツと見つめ合うが、どれも魅力的で一つだけ選ぶのは無理そうだ。
       それならば何種類も買って帰ればいいではないか。
       「我ながら名案だ」とピーターは笑みを浮かべ、澄まし顔で並ぶドーナツたちを次々と指名する。
       ドーナツを購入し、「ありがとうございました」と店員の声を背に受けながら店を出たピーターの手には大きな箱。その中にはドーナツが一ダースも詰まっていた。
       買い過ぎたかな、と思いながらも家に向かう足はステップを踏みそうな勢いだ。
       腹の虫を鳴かせながら家に帰れば愛しいスコットが出迎えてくれる。
      「見て、スコットさん。ドーナツ買ってきたんだ。」
       そう言ってドーナツの入った箱を差し出すとスコットは「えっ!」と言って目玉が飛び出そうな勢いで目を丸くした。
       どうしたのかと尋ねればスコットは気まずそうにダイニングテーブルを指差す。
       そこにあったのはピーターと同じ柄と大きさの箱。
      「俺もドーナツを買ってきたんだ。ピーターが喜ぶかと思って。……一ダース。」
       ピーターは困り顔で頬をかくスコットに抱きつきながら「僕たちの相性は最高だね!」と頬にキスを贈ったのだった。

      End




      ◆今日の盾蟻:仕事で疲れ切った帰り道、家の明かりが灯っているのを見て不意に泣きたくなった(相手には絶対言わないが)
      # 同棲してる2人の日常
      https://shindanmaker.com/719224

       すっかり暗くなった通りを歩きながらスティーブは冷たい風に体を震わせる。
       今日の任務は予定よりも時間がかかった。想定外の出来事が起きるのは当然で、そのための心構えは常にできている。
       しかし、疲れるものは疲れる。超人的な肉体を持つスティーブであっても疲れが溜まるのは避けられず、今日は特に疲れが大きい。
       重いものを引きずるように歩きながらの帰り道は気分まで重くさせた。
       暗い道を寒さに震えながら歩くのは妙に落ち込む。通りすがりの相手から嫌なことを言われたわけでもないのに……というより、誰とも擦れ違わないのだが。
      (なんだか情けないな)
       自分自身に対して苦笑しながら歩くうちに我が家が見えてきた。
       狭くはないが広いとも言いきれない小さな家には柔らかな明かりが灯っている。
      (スコット、まだ起きていたんだな)
       同棲を始めたばかりの恋人には帰るのが遅くなると連絡は入れてある。先に寝ていてほしいとも伝えておいたはずだ。
       それでも彼はスティーブの帰りを起きて待っていたらしい。

      ───ああ、一人じゃないことがこんなにも嬉しい。

       そう思った途端に鼻の奥がツーンとして、目の奥が熱くなって、瞬きを繰り返さなければ涙が溢れてしまいそうな気がした。
       スコットという存在が自分の心に温もりを与えてくれることが幸せで……幸せだからこそ泣きたくなる。
       スティーブは家の玄関の前に立つと頬を軽く叩いた。
       泣きそうになったなんて絶対に悟られたくない。いつも通りの自分でスコットに会いたい。
       「よし!」と小さく声を出してからドアを開ければ、愛しい笑顔がスティーブを迎えてくれた。

      End
      ♢だんご♢
    • スコット受け他まとめ ##アントマン ##蜘蛛蟻 ##スコット ##ロケット ##トニー

      ぷらいべったーに投稿した作品のまとめです。
      CPあり・なしの話がごちゃまぜ。CPありは蜘蛛蟻のみ。
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • ある寒い日のこと #ウースコ  #アントマン  #腐向け ##ウースコ ##アントマン


      自宅軟禁期間のウースコ。
      寒い日にスコットの自宅を訪ねるジミーのお話。

      寒い日は妄想がはかどるので書いてみました。ウースコというよりもウースコ未満かもしれません。
      いつも「ウーさん」と呼んでいるのでCP表記をウースコにしましたが、ジミスコの方がいいんでしょうか?
      とりあえずウースコでいこうと思います。
      短い話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 赤ずきんとおばあさん #蜘蛛蟻  #ピタスコ  #腐向け  ##蜘蛛蟻


      小説投稿機能のお試し。
      ぷらいべったーで投稿したものを少し手直ししました。タイトルのセンスがないのはお許しください。
      ピーターが遊びに来るのを待つ心配性なスコットのお話。
      よかったらどうぞ〜。
      ♢だんご♢
    • 本能が「欲しい」と囁いた #ニガリク  #TWD  #腐向け  #オメガバース  ##ニガリク  ##TWD

      pixivにも投稿した作品です。
      S7のニガリクで、オメガバース設定を使用しています。
      ネタバレになるので詳細は控えさせていただきます。

      好きなように設定を詰め込んでいますが、よかったらどうぞ。


      2018.6.21 一部を修正しました。
      ♢だんご♢
    • 小さなバースデーパーティー ##TWD ##リック ##カール

      アンディの誕生日にグライムズ親子の誕生日ネタで1つ。
      放浪中の親子の誕生日のお話。短いです。
      ♢だんご♢
    • さよなら、私のアルファ #ニガリク  #TWD  #腐向け  #オメガバース  #オリジナルキャラクター  ##ニガリク  ##TWD

      pixivにも投稿している作品です。
      【本能が「欲しい」と囁いた】の続きになります。
      ニーガンが運命の番と出会ったため、サンクチュアリを出ていくことにしたリックのお話。


      オリジナルキャラクターが複数名登場します。出番が多く、ニガリクの子どもも登場するので苦手な方はご注意ください。
      詳細は1ページ目に案内がありますので、そちらをご覧ください。
      ニガモブ要素を少し含みますし、ニーガンがひどい男です。
      よかったらどうぞ。


      2018.6.21 一部を修正しました。
      ♢だんご♢
    • ベッドひとつぶんの世界 #TWD #ダリリク #ニーガン #腐向け ##TWD ##ダリリク

      pixivに投稿したものと同じ作品です。
      S7辺りのダリリク。
      ニーガンの部下になったダリリクと、二人を見つめるニーガンのお話。


      ダリリクが揃ってニーガンの部下になったら、互いだけを支えにして寄り添い合うのかなーと妄想したので書きました。
      寄り添い合うダリリクはとても美しいと思います。
      CPもののような、そうでないような、微妙な話ではありますが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • ちょっとそこまで逃避行 #蜘蛛蟻 #ピタスコ #腐向け ##アントマン ##蜘蛛蟻


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      スパイダーマンFFH後の蜘蛛蟻。
      FFHのネタバレを含むのでご注意ください。
      辛い状況にあるピーターがスコットの家に逃避行するお話。


      FFHが個人的に辛すぎたので自分を救済するために書きました。
      蜘蛛蟻というより蜘蛛蟻未満?
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 数値は愛を語る #蜘蛛蟻 #腐向け #Dom/SubAU ##蜘蛛蟻

      pixivに投稿したものと同じものです。
      Dom/Subユニバース設定で、Switch×Subの蜘蛛蟻。
      ピーターに惹かれながらも寄せられる想いに向き合うことができないスコットさんのお話。
      特にどの時間軸というのはなく、設定ゆるゆるです。


      突然降ってきたネタに萌えてしまったので勢いで書きました。スコットさんがヘタレです。
      特殊設定なので「大丈夫だよ!」という方は、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • プリンシパルとアンサンブル(前半) #TWD #ニガリク #腐向け #夢小説 ##TWD ##ニガリク

      S7の頃。救世主として日々を過ごす主人公が偶然リックと関わり、それをきっかけにリックやニーガンと深く関わるようになるお話。

      夢小説なので主人公はドラマに登場するキャラクターではありません。夢主がキャラクターたちと関わるのを楽しみつつニガリクを堪能する作品です。
      夢小説とCP小説を合わせた作品なので苦手な方はご遠慮ください。
      主人公とキャラクターが恋愛関係になる展開もありませんのでご了承ください。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 家族写真 #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7辺りのニガリク。
      大切にしてる家族写真をニーガンに奪われたリックのお話。

      「ニーガンはグライムズ親子の写真を勝手に持って帰りそう」と思ったので書いてみました。
      特に盛り上がりのない私向けの話です。お暇な時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 道なき未知を拓く者たち③ #TWD #ニガリク ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      「リックを最初に拾ったのがニーガンだったら?」というIFストーリー『生まれ落ちた日』の続編。
      リックは食料調達のためにシェーンとカールと共に森に入り、その最中に事件が起きる。それはグループの運命を変えるものだった。


      ドラマの展開に沿ったストーリーですが、オリジナル要素を盛り込んでいます。納得できない展開になってもご容赦ください。
      ニガリクタグを付けたら詐欺になりそうなくらいにニガリク要素が少ないです。ニガリクを探せ!という気持ちで読んでください。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 僕はコーヒー豆を挽かない #TWD #ダリリク ##TWD ##ダリリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S5でアレクサンドリアに到着した後。
      「生きてきた世界が違う」という理由でリックや仲間と距離を置くダリルを心配するリックのお話。


      ほんのりダリリクの味がするお話です。
      アレクサンドリアに着いたばかりのダリリクの何とも言えない距離感も良いですね。
      タイトルについては深く考えずに読んでいたたければありがたいです。
      地味な話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • Restart #蜘蛛蟻 #ピタスコ #最新作のネタバレあり ##蜘蛛蟻


      ※スパイダーマンNWHのネタバレを含むのでご注意ください。


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      スパイダーマンNWH後。
      パトロール中のピーターがスコットに出会うお話。
      蜘蛛蟻未満だけど後々に蜘蛛蟻が成立するという解釈で書いているので蜘蛛蟻です。


      スパイダーマンNWHは面白い映画でしたね。
      でも個人的にとてもしんどい展開だったので自分を救済するために書きました。蜘蛛蟻は癒やし。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 侵入者との攻防 #ロケスコ #腐向け ##ロケスコ


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      アベンジャーズ・エンドゲームでのロケスコ。
      毎朝ロケットが自分の上で寝ていることに困惑するスコットのお話。


      エンドゲームを観て見事にロケスコにすっ転んだので書いてみました。
      口調が掴みきれてないので違和感があったら申し訳ないです。
      短い話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 亡霊殺し #TWD #ダリリク #腐向け ##TWD ##ダリリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S2終了後のダリリク。
      リックの傍にシェーンの亡霊が見えるダリルのお話。ほんのりシェンリク風味もあります。

      盛り上がりが特にない私得なダリリクです。ダリリク未満かもしれません。
      じんわりとリックへの執着を滲ませるダリルが好きなので書いてみました。
      本当に暇な時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 雛の巣作り #ニガリク  #TWD  #腐向け  #オメガバース  ##ニガリク  ##TWD

      pixivにも投稿している作品です。
      【本能が「欲しい」と囁いた】の番外編。
      ニガリクが番になって1年が経った頃のお話。
      よかったら、どうぞ〜。


      2018.6.21 一部を修正しました。
      ♢だんご♢
    • 罪な味 #TWD #リック #シェーン #カール #ダリル #ニーガン ##TWD


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      リックと誰かの食にまつわるお話。
      時期も長さもバラバラ。基本的にほのぼのですが、ニーガンとの話はほのぼのしてません。


      ・【ピザ】 リック&シェーン
       アポカリプス前。「ピザの魅力には抗えません」というお話。

      ・【ケーキ】 リック&カール
       アポカリプス前。「いつもと違う食べ方をすると楽しくて美味しい」というお話。

      ・【肉】 リック&ダリル
       平和な刑務所時代。「調味料は偉大だ」というお話。

      ・【フルーツティー】 リック&ニーガン
       S7辺り。「悔しいけれど美味しいものは美味しい」というお話。


      リックに美味しいものを食べてほしいと思ったので書いてみました。ニーガン以外はほのぼのしてます。
      よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 特に何も始まっていない二人 #TWD #ダリリク #腐向け ##TWD ##ダリリク

      pixivに投稿した作品と同じもです。
      平和な刑務所時代のダリリク。
      特に何も始まってないけれど仲よしなダリリクの詰め合わせ。

      CPというよりブロマンスなダリリクです。お互いに相手を大事に思ってることが滲み出るダリリクが好きです。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 道なき未知を拓く者たち① #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      「リックを最初に拾ったのがニーガンだったら?」というIFストーリー『生まれ落ちた日』の続編。
      リックの家族を捜す旅に出たリックとニーガンだったが、過酷な世界での旅は簡単なものではなく……。


      ドラマの展開に沿ったストーリーですが、オリジナル要素を盛り込んでいます。納得できない展開になってもご容赦ください。
      長編なのでのんびり書いています。次の章を投稿できるのがいつになるのか不明です。
      完全に私得な話なのでお暇な時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • プリンシパルとアンサンブル(後編) #TWD #ニガリク #腐向け #夢小説 ##TWD ##ニガリク


      S7の頃。前作の続きで、ケガの治療のためにサンクチュアリに滞在するリックを世話する主人公がリックとニーガンの関係性を目の当たりにするお話。

      夢小説なので主人公はドラマに登場するキャラクターではありません。夢主がキャラクターたちと関わるのを楽しみつつニガリクを堪能する作品です。
      夢小説とCP小説を合わせた作品なので苦手な方はご遠慮ください。
      主人公とキャラクターが恋愛関係になる展開もありませんのでご了承ください。
      前編よりも主人公がリックに肩入れしています。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 恋しい、と獣は鳴いた #TWD #ダリリク #ニガリク #腐向け #オメガバース ##TWD ##ダリリク ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7辺りのダリリク・ニガリク。
      リックと番になっているダリルがリックと引き離されて情緒不安定な時にニーガンと話すお話。ダリルとニーガンのちょっとしたバトル。


      「αが番のΩに依存する」という設定で書きたくて書いてみました。会話してるだけなので特に盛り上がりのない地味な仕上がりです。
      気が向いた時にでもどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 彼らが愛したのは「   」です #TWD #セディリク #ゲイリク #ニガリク #妊夫 #腐向け ##TWD


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S8終了後。
      ニーガンの子どもを妊娠したために孤立するリックを支えるセディク、ゲイブリエル、ニーガンのお話。セディクがメインです。

      ※注意
      ・男性の妊娠、出産、授乳の表現あり
      ・リックへの差別、迫害要素あり
      ・全体的に重苦しい展開


      CP要素があるような無いような微妙なところです。
      重苦しい雰囲気の話なのでご注意ください。
      本当に気が向いた時にどうぞ。
      ♢だんご♢
    • 生まれ落ちた日 #TWD #ニガリク #腐向け ##TWD ##ニガリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S1初回。
      ニーガンが病院でリックを見つけるお話。
      S1初回にニーガンを放り込んだだけ。ニーガンの過去について原作の設定を使っているので未読の方はご注意ください。


      S1の時点でニガリクが出会っていたら最強コンビになったのでは?という妄想を形にしてみました。別人感が強いです。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 赤い糸の憂鬱 #TWD #カルリク #ニガリク #腐向け ##TWD ##カルリク ##ニガリク

      pixivに投稿した作品と同じものです。
      S7のカルリク・ニガリク。
      リックとニーガンが赤い糸で繋がっているのが許せないカールのお話。
      特殊な設定がありますが、深く考えない方がいいかも?


      カルリクとニガリクで三角関係が読みたくて書きました。カールの前に立ち塞がるニーガン美味しいです。
      「カールは赤い糸が見える」という特殊設定がありますが、深く考えず雰囲気を味わって頂ければと思います。
      よかったら、どうぞ。
      ♢だんご♢
    • 「大丈夫」の言葉 #TWD #ダリリク #腐向け #ケーキバース ##TWD ##ダリリク


      pixivに投稿した作品と同じものです。
      平和な刑務所時代のダリリク。
      リックが「ケーキ」であることを知ったダリルが思い悩むお話。
      ケーキバース設定を使っています。この話にグロテスクな要素はありませんが、ケーキバース設定自体がカニバリズム要素を含むので苦手な方はご注意ください。


      リックのことが好きすぎて思い詰めるダリルが大好物なので書いてみました。
      盛り上がりの少ない私得な話ですが、よかったらどうぞ。
      ♢だんご♢
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