01 暁星の丘にて 青年は走っていた。
身に纏う青の鎧を打ち鳴らし、草原を駆けていく。見た目の重厚さに反し、草を踏みしだく足取りは軽やかだ。散らばる石をよけ、花を飛びこえて進む。
耳元で電子音が鳴った。青年は前方を注視する。
揺れる視界の中に、石柱がうつる。進路に立ちはだかるそれは、身の丈以上の大きさだ。
急停止。身をかがめ、直後、跳躍した。
空色に溶ける鎧が、陽光に照り映えて輝く。
青年はゆっくりと石柱の上に降り立った。翻ったマントが、遅れてその背に漂い落ちる。
着地の姿勢のまま、青年は、台座のうえの石像のように動きを止めた。マントと、彼の柔らかな薄茶の髪だけが風にそよぐ。
(最高だな)
一面の草原。そのうえに広がる青空。
あざやかな2色はエルストの視界を染め上げ、光を浴びて輝いている。
草むらには朽ちた建造物の一部が散らばり、白い雲のように漂っていた。
(お前もそう思うだろう。相棒)
声には出さなかった。
口を開けば合体が解けて、バラバラになってしまいそうな気がしたからだ。それは勿体ない。もっとこの時間を味わっていたかった。
ガウディも、何も話そうとしない。ふたりの間に妙な緊張感があり、それがおかしくて、心地よかった。
機界の住人と響友となって日の浅い青年は、魂と魂を合わせる行為の、目の眩むような高揚感の虜だった。
もちろん召喚師たるもの、必要もないのに、響命術を使うことはない。今もエルストたちは訓練のために、人気のない丘のうえで響命術を発動したのだ。合体を解かないように我慢するのも、響命覚醒の時間を延ばすための修練、という名目がある。
しかしエルストは心密かに、そのような建前とは別に、この時間がいつまでも続けばいいと願っていた。
そして、相棒もまた自分と同じ気持ちであることを、青年は知っていた。
兜についている小さな羽が、エルストの呼吸にあわせて、ゆっくりと動いている。
(気持ちいいな)
青空一面から吹く風がエルストの髪を揺らし、友の機体をくすぐる。表情のないはずの友の、目を細めるイメージが、魂に直接伝わってくる。
それだけではない。無機質な友の肉体には鼓動がないはずなのに、エルストはたしかに、背中越しに友の命の音を聞いていた。
満ち足りていた。
身の奥深くに抱える空白が、すべて埋められているのを感じる。心に、色のない部分が全くない。完全な充足だ。そこに、孤独や、無理解などという寒々しい言葉が存在する余地はない。
(こうしていると)
エルストは心の中で独りごちる。
(お前と俺とは、最初から、ひとつだったんじゃないかとさえ思えてくるな)
運命、という重すぎる言葉も、この充足のまえではしっくりくる。
(俺がお前で。お前が俺で)
ふいに、エルストの指が動いた。
自らの意志ではなかった。ゆっくりと、指が、握られる。手の甲を包みこむ、あたたかな気配を感じた。
目をつむり、ほほえむ。エルストは、その手を握った。何の疑いも、憂いもなく。