堂足わんどろ_200606_お題:相合傘雨の日は嫌いだ。
どんなに叫んだってなにも伝わらない。
いつも以上に僕がちっぽけだと感じる。
誰も僕を見ていないと感じる。
だから僕はすべてから自分を守るようにあのコートを着て雨の中を進むんだ。
ふと窓の外を見ると、大雨となっていた。
そういえば今日の朝の天気予報で突然の雷雨がどうのこうのって言っていたっけ。
ぼんやりそんなことを思いながらぼーっとしていると、
携帯の着信音が鳴った。
着信元は…。
「ん?堂島さんだ。」
携帯を操作して、電話に出る。
『おぉ、透。すまん、仕事中か?』
「いや、窓の外ぼんやり眺めていました。」
『それじゃちょうど集中力切れたタイミングだったか。
もう少しで仕事は終わるんだが、傘を壊しちまってな。
すまないが、稲羽署の近くの喫茶店まで傘持って来てくれないか。』
堂島さんは、僕が署まで入るのは気が引けるだろうと、
いつも署まで、とは言わず、その近くのところで待ち合わせとしてくれる。
確かに元犯罪者が警察署に来る…しかも元相棒のために、
というのは世間的にどうかと思われるだろう。
そんな思いをもうあの人にはさせたくないので、
僕はいつもその提案に救われ、言葉に甘えている。
「良いですよ。傘もって珈琲でも飲んで待ってます。
せめてタオルはかぶってきてくださいよ?」
電話を切ったあと、簡単に身支度をして堂島さん用の傘を手にする。
そして、僕はレインコートをクローゼットから取り出す。
僕はいつからだったか、傘は持たず、レインコートしかもっていない。
(勿論、防水の靴だったり、レインブーツは持っているが。)
雨は嫌いだ。
とある小説やらでは、雨は「全てを洗い流す」とか、
「浄化する」とか言っていたりするけど。
そんな生易しいものではない。
無常で、非情。
容赦なくすべてをかき消すものだから。
「さて、と。行きますか。」
コートを簡単に羽織ると、僕は喫茶店へと向かった。
喫茶店につき、少しだけ辺りを見回すと、
まだ堂島さんは到着していないようだった。
堂島さんが来るまでの間、珈琲を注文して、窓の近くに座って外を眺めた。
家から出たときよりも雨が強くなってきていて、周りの音もすべて雨音となっていた。
この断続的な音はほんと耳障りだ。
だんだんと顔もしかめっ面へと歪んてき始めたころ、入店を知らせるベルがカランカランと鳴った。
「おう、すまんな、透。」
「そんなに待ってませんよ。お疲れ様です、堂島さん。ついでに珈琲、一緒に飲んでいきませんか。」
「そうだな、ちぃと身体も冷えちまった。」
頭にタオルはかぶっていたが、シャツは雨でだいぶ変色気味だった。
風邪をひきそうな状態だったので、せめて少し体を温めてから帰ることにした。
堂島さんと珈琲を啜りながら世間話をする。
こんな穏やかな時間が来るなんて、10年前の僕は想像できなかっただろう。
だが、どうしても今日は耳障りな雨音が鳴り響き、そんな穏やかな時間も少しずつ崩れていくようだった。
お互いに珈琲を飲み切ったので、喫茶店をあとにして、家路へとつくことにした。
「はい、どうぞ、堂島さん。」
「お前、傘は?」
「僕、傘苦手で。レインコート(これ)で十分です。」
そう言って、少し先を歩き始めたのだが、ぐっと堂島さんの腕に引き留められる。
後ろを振り返ると、身体ごと引き込まれ、抱き込まれた。
「ちょ!ここ、公道!!」
「わかってる。…でも、お前と一緒に歩いて帰りたいんだ。」
少し難しそうな顔をしながら、堂島さんは僕を抱き込む腕に力を込めた。
「お前…雨、嫌いだろう。だからそれを見ないように、これ、着てるんじゃないのか。」
「…!」
どうしてこの人は何でもお見通しなのだろうか。
…刑事の勘、ってやつなのか。
いや、多分違う。
…堂島さんはいつだって僕の本心をつかみ取ろうとしてくれているから。
…だから気づいてしまうんだ。
「ほんと、あなたには隠し事、できないなぁ。」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる。」
「はいはい、鬼の堂島、ですよね~。」
「それもそうだが。…その前に、お前の恋人だ。」
「…っ!」
傘で少し顔を隠すようにすると、堂島さんは優しくキスをした。
「こうやって引っ付いて歩きながらなら、傘も悪くねぇだろう。」
「…そういうことにしておきますよ。」
一つの傘に身体を寄せ合って雨の中歩く。
雨の音よりも互いの鼓動の音の方が気になって。
隣で歩くあなたの喜ぶ姿が気になって。
そんな雨の日は少しは良いものだなと。
そう感じさせてくれるのは、本当に僕のコイビトサマ…
堂島遼太郎さんはすごい人なんだと。
「やっぱり好きだなー遼太郎さん。」
「何だよ、その結論だけの言葉。もう少し説明しろ。」
「そういうところは察しないのも、好きですよ。…あいたっ。」
「ったく、調子に乗るな。」
あなたの嬉しそうな照れている顔をみて歩く雨の中も悪くない。