黒猫はちょっとした福と共に(2019にゃんこの日)外はまだだいぶ寒さが残っていた2月22日。
僕はこの日、再び外の世界に放り出されることになった。
雪が降っているわけではないが、突然外気にさらされた僕の身体は凍えていた。
『あのとき』持っていた黄色いコートを羽織り、
一歩、また一歩と外の世界を歩く。
何の気なしに歩いていた世界が、今は別世界に感じていて。
自分以外の人間が異世界のように感じた。
ちなみにこんな日は、「普通」、親族の誰かとかが迎えに来たりするものだが、
誰かが来るはずもなく。
あのしつこさNO1の「元」上司や、その親族、そしてあのウザいガキは
何かと僕の出所日を知ろうとしていたが、伝えることもしなかった。
こんな日に誰かと一緒にいるなんて、吐き気がしたからだ。
誰かにまた「助けられる」なんて、もう御免だ。
ふとよく知らない道をぼうっと歩いていたものだから、住宅街の道に出た。
その道は「あの街」を思い出させるような風景で、余計気持ち悪くなった。
とりあえず大通りを目指そうと、足早に歩き始めたそのとき。
足元に黒猫が寄ってきたのだ。
「…お前もそうやって僕を憐れむのか?僕は憐れなんかじゃない。あっち行けよ!」
そう言って足をぶんぶん振ったのだが、一向に離れようとしない。
だんだんそうやって振り払うのも面倒になったので
近くの公園のベンチまで黒猫と共に歩き、膝の上にのせてやった。
すると、なぜかその黒猫は満足げに僕の膝の上でリラックス態勢を取り始めたのだ。
こりゃ長時間ここにいろってか…。
仕方なくそのまま自販で買った珈琲を啜りながら空を眺めていると。
一人の腕まくりをした男性が走ってこっちにやってきた。
「足立…!お前俺のしつこさ舐めるなっていっただろう!」
「はぁ…ほんとしつこいな。なんでいつもあなたは僕を捕まえに来るんですか、堂島さん。」
「なんでって、この間の面会でも言ったが、お前も俺の大切な家族だからだろう?
…帰るぞ、足立。それと、お帰り。」