堂足わんどろ_200704_お題:七夕堂島さんと稲羽で巡回中、商店街を通ると、
お店の至る所で笹の葉が飾られており、
そこにはいくつもの短冊が垂れ下がっていた。
「そうか、今日は七夕か…。」
堂島さんが店の笹の葉を眺めながらぽつりと呟いた。
「そういや菜々子がこの間、
『織姫さんと彦星さんは年に1回しか会えなくて、可哀そう』
なんてこと、言ってたな。」
「別に、会おうと思えば約束破ってでも会えたでしょうにね。」
「馬鹿、会えないからこそ、会えた時の嬉しさってのはでけぇんだろうが。」
七夕の有名なお話…織姫と彦星の話。
諸説あるようだが、織姫と彦星が1年に1度会うことを許された日。
それがこの七夕の日なわけなのだが、
七夕に短冊に願い事を書くと叶う、というのは、
織姫と彦星の話とは全く関係がなく、日本だけ、らしい。
「短冊に願いなんざ書いたところで、叶うわけないのにね。」
そんなこと、少し考えればわかるだろうに、
いつだって人は願掛けにすがってしまうわけだ。
(あぁ、馬鹿らしい。)
堂島さんの後ろについて、商店街を抜けていこうと思ったのだが、
とある店のおばさんに呼び止められてしまう。
「せっかくだ。何か書いていくか、足立。」
「えぇ~。面倒くさい。」
でももし本当に願いが叶うなら。
こっそり書いてみてもいいか…と淡い期待を胸に、僕は願いを短冊に書き、
その店の笹の葉に下げたのだった。
あれから十数年。
僕はとある事件の犯人として刑期についており、
出所後、堂島さんが迎えに来てくれた。
実は刑期中に堂島さんから告白の手紙を受け取っていた。
最初は僕も戸惑っていたのだが、毎回の手紙の言葉に心を打たれ、
「許されるのなら」と、出所後も傍にいることにした。
以降、僕と堂島さんは稲羽の堂島家で一緒に暮らしている。
ありがたいことに仕事にもつけているのだが、
今日はあまり疲れてもいなかったので、すぐに眠れず、
外の月と星が輝いているのをぼんやり見ていたのだった。
ふと、今日は七夕だったからなのか、稲羽のときの七夕の件を思い出していた。
「そういえば、お前、あのとき短冊になんて書いたんだ。」
「うわぁぁ!」
「あぁ、驚かせてすまん。ただいま。」
「お、お帰りなさい、堂島さん…。」
堂島さんがぬっとあらわれ、
まるでテレパシーかと疑うように七夕の話を振ってきたので、
思わず大きな声で驚いてしまった。
「…そんな昔のこと、忘れちゃいましたよ。
堂島さんこそ、何て書いたんですか?」
「…お前、その顔は忘れてないだろう。」
「わーすーれーまーしーたー!」
ぶーぶーと言い合い、お互いに書いた短冊の内容について吐露しない時間が続く。
「ったく、別に恥ずかしいことはないだろう?
…俺は、『大切な人がずっと傍に居られるように、護りたい』だよ。」
…そのときは僕はきっとその中には入っていないのだろう。
「…勿論、お前も大切な人、だからな?」
ゆっくり抱き締め、耳元でそう囁く堂島さん。
愛おしそうに僕の髪を撫でる。
「傍に、いてくれるんだろう、足立。」
ダメ押しとばかりに、愛おしそうにそう呟く堂島さんに身体を覆うように抱き着かれてしまっては、
流石に拒否の声も上げることができず、
僕は「はい」と小さく呟いた。
僕の願い事?
…そうだね。実はもう叶っている。
『堂島さんの傍に居続けられますように。』
織姫と彦星が願いを叶えてくれる日ってのも、案外嘘ではないかもしれないね。