隣で欲を満たさせてそこはあの頃の世界そのものだった。
真っ赤に染まった、僕が望む世界。
全てのモノ…生きるモノが心の奥底に眠る欲望のまま生きる世界。
これは夢だと思って、頬を抓ってみたら、痛みを感じた。
おかしい。
僕はさっき、堂島さんと電車に乗っていて。
長旅だから少し眠っておくか?みたいな会話をしていたはずだ。
なのになぜこの世界が広がっている?
…これが白昼夢というやつなのか。
でもどうしてこの世界が現れた?
もう僕は一人じゃないと知ったのに。
自分の欲望を互いに分かち合えることを知ったのに。
それを
堂島遼太郎という、僕の全てを捧げるにふさわしい人に教えてもらったのに。
「どうしてこの世界はまだ僕を望むんだ。」
とりあえずは脱出しなければならない。
入れたということは出口もある。
僕はまた、とぼとぼとこの紅い世界を歩き始めた。
あの田舎の風景が崩された世界。
これもまた僕が願って作りだした世界だったわけだけど、
今はあの頃の世界も悪くはなかったと思っている。
あの頃があったからこそ、今の僕がいて。
今の僕の隣には堂島さんがいるのだから。
そんなことを考えていると、目の前に、堂島さんらしきモノが現れた。
『お前の本当の願いはなんだ。』
「僕の願いはもうかなったさ。誰かと一緒に生きる喜びを知れた。
それを教えてくれたのはあなたでしょう、堂島さん。」
『違う。お前の奥底に眠る、本当の願いは、なんだ。』
「なんだよ…何が言いたいんだよ、あんたは…。」
堂島さんらしきモノは未だ僕を見つめている。
僕の心の奥底をみたいらしい。
でも僕の願いはさっき言ったことがすべてだ。
…すべての「はず」だ。
『疑いを持ったらしめぇだ。お前の奥底に眠る…欲望はなんだ。』
「うるさいよ…。傍にいられるだけでいいって言ってるだろう…!」
気が付くと、僕はあの頃のくたびれたスーツと、手に小銃を持っていた。
『結局お前は、自分の欲望を満たせていないではないか。
だから今もなお、この世界を望んでいる。抜け出せていないんだ。諦めろよ。』
「煩いって言ってるだろう!!」
僕は銃口を堂島さんへと向けた。
銃口を向けても、堂島さんはぴくりとも動かない。
怯えず、ただ僕を見据えている。
『もう一度問う。お前の奥底に眠る欲望は、なんだ。』
「僕の…欲望…本当の、願い、は…!」
そこでようやく、堂島さんに揺さぶられていることに気が付いた。
「足立!大丈夫か?いきなりかくりとなったから驚いたぞ…。
やっぱり車で移動の方が良かったか?久々だしな、電車。」
「どう、じま、さん…?」
「おう。」
「ねぇ、僕、あなたとずっと一緒にいていいんですよね。」
「ったく、隣にいろってさっき言ったばかりだぞ?」
「あなたに好意を持って隣に立っててもいいんですか。」
「~っ?!」
「ねぇ、僕、欲張りだから、あなたから一番をもらいたいんです。」
「…知ってるよ。散々聞いたからな。だから『隣』にいろっていったんだ。」
そういって、乱暴に口づけられたときの煙草の味は、一生忘れないものとなった。