堂足わんどろ_200502_お題:プレゼント堂島さんが出張で1週間ほど家を空けてている間、
僕は久しぶりに独りで家事を切り盛りして過ごしてた。
「このだだっ広いところに一人は…ちょっと色々大変だよね…。」
一軒家で、菜々子ちゃんも一人暮らしを始めて不在な堂島家は、
殆どの部屋がガランとしていて、寂しさを一層強めていた。
初日は堂島さんも夜に電話をかけてきて、声も聴くことができたのだが、
2日目からはメールすらも来ず、音沙汰ない状態となった。
堂島さんらしいといえば堂島さんらしいのだが。
そして驚くことに、
なぜかこの一人の状態に、耐えられなくなっている自分がいた。
今までこんな事はなかったのに。
僕は弱くなったのか。
否。
誰かと共に在ることの大切さを知った…ということなのだろう。
それは…きっと良い変化、なのだろう。
「でもやっぱり…ちょっと…寂しい、かな。」
そんなある日の夜のこと。
僕は久方ぶりに夢を見た。
(ここは…夢、だろうけど…どこだろう。)
見知った稲羽の街のような風景。
だが、少し前の時代、なのだろうか。
街は少し古ぼけた店もいくつかあるようだった。
少しするとまた風景が変わり、
僕は堂島家のリビングの椅子に座っていたのだが、
辺りには誰もいないようだった。
動いてみるか、と立ち上がると、小さな声が和室から聞こえてきたので、
ゆっくりと部屋に寄っていき、襖を少し開ける。
そこから見えたのは、小さな背中になって仏壇の前で座っている堂島さんだった。
(…あ。もしかして……。)
仏壇と、堂島さんの様子から、千里さんが亡くなってすぐの頃の世界…と悟った。
その堂島さんは千里さんに語り掛けていた。
『千里。今日は菜々子に絵本、読んでみたんだ。
ようやく落ち着いて寝てもらえるようになったぞ。
…お前の苦労が、すごくわかった。
…だが、な。…お前の温かい手…優しい声が…聞こえないのは……。
俺もつらい。』
か細く、信じられないくらい小さな声で弱音を吐く堂島さん。
こんな堂島さんは見たことがなかった。
(どう、じま、さん……!!)
そんな堂島さんを抱き締めるべく、手を伸ばした時、
急に意識が遠のき、
気が付くと、僕は天井に手を伸ばして寝ている状態だった。
どうやら転寝をして寝ていたソファーでそのまま眠っていたようだ。
時間はまだ夜中前を差していた。
まだ寝ていないだろうか。
心臓の音が騒がしい中、慌てて僕は堂島さんに電話をかける。
すると少し疲れた声で、「どうした、透。」と堂島さんが返事をした。
「あ、すいません、疲れてます…?」
「ん?あぁ、まぁ少しな。でもお前からの電話だ。嬉しいよ。」
声も少し明るくなっていたので、本当に嬉しいのだろう。
ゆっくり他愛のない話をしたあと、夢のことを話してみた。
すると堂島さんはゆっくり息を吐いた後、こんなことを言ってきた。
「確かにあの頃は千里のぬくもりを失って、しかも事故で…。俺も余裕がなかった。
そんな状態で菜々子ともうまく向き合えてなかったし、足立…お前ともちゃんと
本音で語れていなかった。
だが今は。菜々子と本当の家族になれたと思っているし、
…透、お前とも家族になれたし、愛する相棒だって思っているよ。」
どんな顔をして言っているかも想像できるくらい、穏やかな声をした堂島さん。
それだけで顔に熱が集まっているのを感じた。
「そんなこと言って…僕は全然あなたにお返し…できていないのに。」
「何言ってんだ?『人生の相棒』として、隣に立ってくれているだろう?
それが俺にとっては最高のお返しで、プレゼントだぞ。」
「…!」
迷いのない声でそんなことを言われてしまい、僕は電話越しにも拘らず、
ソファーのクッションに顔をうずめて照れ隠しをしていた。
素直な告白を直接受けすぎて、胸がいっぱいで、言葉も何もでなくなってしまった。
「おい、透?どうした?」
流石に黙っていた時間が長かったのか、堂島さんが心配してきた。
…あなたのせいですよ、と叫びたかったが、そこをぐっとこらえて、
大丈夫、と一言返した。
「…あなたがそう思ってくれているなら、それでいいです。
…けど、僕はもっとあなたにプレゼント、贈りたいと思っているんで。
覚悟してくださいよ、帰ってきたら。」
「ほう…。それは楽しみだな。…全身で贈り物、頼んだぞ、透。」
「…勿論、全身でお届けしますよ、僕の想いをね?…遼太郎さん。」
最後は少し挑発に乗った形での返事となってしまったが、それでいい。
あなたにはもっともっと『幸せ』になってもらいたいから。
…いつまでもずっと笑顔で。
泣き叫びたいくらい、「愛している」と伝え合い続けたいから。
「早く、帰ってきてくださいね。寂しいから。」
「そうしたら、お前への贈り物になるか?」
「勿論。一番大切な人が急いで僕のところに帰ってくるなんて、
最高の贈り物じゃないですか。」
最後はお互いに笑い合って、幸せな時間を締めたのだった。