縄文堂足_4『足立の坊主、やっぱり守護精霊ついていたのか…しかもやべえやつだな。』
俺がぼーっとしているときに、コウリュウはそんなことを言ってきた。
「お前みたいなものなのか。」
『あぁ。しかもあいつは色々やべぇ。ヒトにつくようなやつじゃないはずなんだ。』
どういう経緯であの守護精霊が足立に着いたかわからないが、身を守る術はあるようだ。
「足立…お前のこころ、もう一度深くまで見せてもらうからな…!」
その決意を、足立からもらった武具飾りに込めるように呟き、俺は外に出たのだった。
いつものように街中を歩いていると通達の布が配られていたので1枚もらうと、
主のミナヅキが、武道大会を開くとかいてあった。
優勝賞品は自ら希望してよいとなっていた。
…決勝はミナヅキと戦うことになるとも。
「これは良い機会かもな。」
俺はこの大会にでて、足立を返してもらうことにした。
(待ってろ。)
だがこれは、俺を釣る罠だと気がつくのはもう少しあととなる。
数日後。
ミナヅキが告知した闘技会が開かれた。
様々なギミックを通り、技術を競いあう。
一見普通の闘技会のように思えるそれは、俺も純粋に楽しんでいた。
勿論勝利は忘れずに。
ふと見上げると、ミナヅキの隣には足立が立っていた。
じっと見つめるも、俺の目線には気づかない。
『遼太郎の坊主。今は耐えろ。マガツの力は本物だ。そう解けることはない。主が死なねぇ限りな。』
「死なせるわけがないだろう。」
いよいよ戦いも終盤、というところで休憩時間が与えられた。
俺は武具を整えるため、研磨で研いでいく。
ふとそのとき、誰かに話しかけられたような気がして、辺りを見回したが、誰もいない。
『こりゃあまた、器用なことをするな、足立の坊主。』
(やはり、お前には見えるか、コウリュウ。)
「?!!お前は…マガツ?」
(あぁ。貴殿の武具飾りに宿る弱い力にいる我なり。)
『足立の坊主はこの飾りにマガツの防御魔術を込めてやがった。
おそらく菜々子嬢ちゃんの耳飾りにもだろう。』
こういう、見えないところでも俺たちを護ろうとする優しさがあいつにはあるんだ。
こんなに愛情を向けてくれていたやつが、心をなくしているわけがない。
(して、コウリュウの主よ、頼みがあるのだ。…我が主を殺してほしい。)
「なんだって?!!」
(真に殺すわけではない。それに近い状態にしてくれたら良いのだ。)
「…そんなことして、どうするつもりだ。」
疑いの目をみながら小さいマガツを見ると、ふんぞり返る態度でこう言った。
(その状態になれば、我が少しだけ勝手に力を振るえるようになる。
その隙に、主がかけた虚無の術を解く。…我はただ、主を元の温かなところへ返したいのだ。)
「…!」
(主は…幼き頃、我の力を引き継いだ。それにより周りから忌み嫌われ、誰からも愛されずにいた。
そんななか、貴殿の愛情を受けて、初めて愛されることの喜びを知ったのだ。
せっかく得た人並みの感情を、主はまた失おうとしている。
どうにかそれを防ぎたいのだ。)
マガツの必死な思いを聞き、俺は協力することにした。
「やり方は任せてもらえるのか。」
「あぁ。我は現状力を振るえない。主の居場所程度なら伝えられる。」
「わかった。休憩の間に済ませたい。居場所を教えてくれ。」
小さいマガツはふわりと浮かぶと、足立のいる方向へと動き始めた。
足立はミナヅキから少しはなれたところの廊下で外を眺めていた。
心をなにも感じない、つめたい表情のまま。
「足立。」
呼び掛けてピクリと反応するも、こちらの方は見ない。
完全に無視を決め込もうとしているようだ。
俺もまた、好きなように行動するために、足立を後ろから抱き締めた。
「捕まえたぞ…。…今度はお前の心も捕える。」
ぎゅっと腕に力を入れると、ぴくりと足立が反応した。
「しつこい。あなた、こんなところで油売ってる場合ですか。」
鋭い目付きで俺を見上げてきたが、もはやそんな目付きだけでは俺は怯まない。
むしろこちらを向いた顔を捕らえ、固定すると、深めの口づけを返してやった。
息を奪うほどの深いもので、足立の意識を奪っていく。
最初は抵抗していた足立だが、
体は感触を覚えているらしく、抵抗が弱まっていく。
(もうすぐ…意識が弱まるだろうか)
マガツが言っていた、死んだような状態に近づけるべく仕掛けたのだが、
これがうまくいくかどうかはわからない。
でもまだこいつに俺への心が残っているなら、響いてくれるはずだ。
そう信じて、無心に足立に欲を灯すな口づけを繰り返した。
「あぁっ、んんっ…!」
少し足立を引き出せたのか、色っぽい声を出しながら口づけに応え始めてきた。
「息するの、忘れるなよ…。もっと『本当のお前』をみせてくれ…!」
体をさらに密着させて少し目覚めた熱を布越しに伝えつつ、口づけを続けていく。
すると、足立はかくりと膝を折り、気絶してしまった。
「よし、マガツ!今なら力使えるか?!」
その呼び掛けに応えるかのように、小さなマガツは何らかの魔術を使い、足立に力を浴びせていた。
その間辺りは再び真っ赤に染まり、異様な世界となっていた。
『主よ、心のままに、思い描く道を進んでくれ…!』
真っ赤な世界が一瞬真っ暗になり、目を瞑る。
少しして、ゆっくりと目を開くと、足立が驚いた様子で俺を見上げていた。
「もう…!どうして、ここまであなたは…!」
「言っただろう。迎えに来たって。」
ぎゅっと腕にしがみつき、額を俺の胸辺りに擦り付ける足立。
どうやら本当の足立が戻ってきたようだ。
「お帰り、足立。一緒に帰るぞ。」
「…ただいま、堂島さん。…一緒に帰りたい。
でもそのまえにしがらみを片付けないと…ですよね?」
少し意地悪そうな表情をする足立。
だがその目には力が宿っていた。
「ちゃんと覚悟もあるようだな。」
「…あなたにここまでされちゃあね。
それに越し砕かれるくらいの口づけもいただいちゃいましたし?
お熱も上がっているようなので…。」
するりと腰を撫で、色っぽい目線を送られた。
それだけで俺の熱も呼び覚まされていく。
「熱を受け止めるのは、全て終わってからにしてくれ。
…さて、と。俺はまずはミナヅキと闘う場を作る。それまで少し待ってろ、足立。」
「はい。待ってます。…遼太郎さん。」
軽く口づけを交わし、額をこつりとすり合わせ、目線を交わす。
互いの心が交わっているのを感じられたところで、
俺は足立の頭をガシガシと撫でて、その場を去った。
背中越しに足立の熱い目線を感じながら……。