テーマ:月明かりの堂足
「さぁ、堂島さん。あなたの帰るべき世界に着きましたよ。」
「足立っ!」
とんと背中を押され、俺は船から降ろされた。
「僕なんかと一緒にいちゃ、あなたが汚れてしまう。だからここで、さようならです。」
綺麗に笑った足立は、よく火をくれたライターを俺に投げつけ、振り向かずに船を再びこぎ始めた。
「足立ーーーっ!!」
堂島さんをもとの世界に帰した僕は、一人、暗く深い海を引き返していた。
「元々一人だったんだから、どうってことないよ。」
ぽつりと呟いたそのことばも海に沈んでいき、
静けさが広がるばかり。
暗闇はあれだけなれていたはずなのに。
今はその静けさが、暗闇が苦しい。
ふと気がつくと、僕の目には涙が溢れていた。
「ははっ…離れて、初めて気づく、って、やつかなぁ。」
涙が零れ落ちていく目を上へと運び、白く輝く三日月を見やる。
「あぁ…やっぱり、寂しいなぁ。」
どれだけ月を見ていたのだろうか。
気がつくと遠くから声が聞こえていた。
どこか聞き慣れた声。
(まさか、ね。)
僕は涙を粗っぽく袖で拭い、再び船をこぐ。
すると、ひとつの灯りが僕の方へと近づいて来るのが見えた。
その灯りはどんどん僕の方へと近づき、やがて一つの影を僕に見せた。
「足立!行くな!俺と一緒に生きろ!」
「どう、じま、さん…!」
小さな小舟と灯りだけで僕に近づいてきたのは、
先程別れたばかりの堂島さんだった。
勢いよく船を寄せて僕の方へと乗り移ると、僕を倒して馬乗りになった。
「もう離さねぇよ。お前が一人で泣くことはもうさせねぇ。
だから、一緒に生きるために、帰ろう、足立。」
月明かりが白く輝く空の下で、僕と堂島さんは契りの口づけを交わしたのだった。