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    イデアズ。と🐙のクラスメイトくん。8.5夕飯を終えて少し。腹ごなしと言い訳しながら寮を抜け出て、サムさんの店に向かう。成長期の男子の腹は物の数分ですぐに消化してしまって燃費が悪い。デザート代わりに気になってた菓子パンでも食おうと心に決め、同級生とだらだら廊下を歩いた。
    「例のやつできた?」
    「ほぼ終わり。お前は?」
    「俺ももう少し」
    何気ない会話を交わしつつ、外廊下から内廊下に入る。流石に少し寒いなと薄着して来た事を後悔した。
    「て言うかやっぱ談話室飾り付けした方がよかったのでは?」
    「監視カメラで即バレだろ」
    「やはりか……」
    同じように腕を摩っていた同級生が吐き出した溜め息が白く煙る。それはそうだ、もう十二月も半ば。今はどうにかまだ持ち堪えているけれど、この辺りは割とどっさり雪が降る。ホリデーから戻ってまず最初は雪かきから始まるくらいだ。
    「だって寮長、絶対嫌がるだろ」
    「それな」
    くつくつと笑って、誰もいない廊下をひたすらまっすぐ。内廊下に入ってしまえば適度な室温が保たれていて、もう背中を丸める必要もなかった。廊下の両側に焚かれた火に照らされながら肩を竦める。
    「談話室飾り付けてたら、こんなん必要ないですし……とか言われんのかな」
    「言いそう。それか気配を察して姿を消すか、部屋に立こもるか」
    「んっふ、わかるぅー」
    「でも0時実行だよな」
    「そうそう」
    漸く見えて来たサムさんの店で物色を始めた。買おうと心に決めていたパンとクッキーの大入り袋を抱えてレジを見た。
    「あれ、」
    棚に隠れていて気付かなかったけれど、こんな時間に珍しい。アーシェングロットが立っていた。思わず声を上げてから、しまった、と口を塞ぐ。珍しい時間のアーシェングロットに触れたらろくな事にならないのではないか。失敗したかと改めて彼を見て、ふと、垣間見えた横顔には思わず眉を顰めた。
    「……お、」
    「ああ、あなたでしたか。どうもこんな時間に」
    「あ、うん」
    俺を正面から見据えたその顔はいつもの澄ましたような、少し人を見下したようなその表情で逆にほっとする。だって何だか、さっき見えた横顔はひどく思い詰めたようなそれに見えたから。
    何となく勝手に気まずくなって視線をうろつかせ、アーシェングロットが持っていた小さな箱に気が付いた。
    「なにそれ?」
    「いえ、別に。そんな事より、人の少ないこの時間とは言え、あんなボリュームで話していては迷惑ですよ」
    確かに。まあまあ廊下に響いてたしな。さーせん、と茶化した言葉で謝って、ついでにアーシェングロットの目の前の冷蔵庫の扉を開けて缶コーヒーを取り出した。こいつここにいるけど何も買わないのかな。特に動く様子もないし、まあいいかとドアを閉める。
    「てかお前この時間に珍しいね」
    「え、ああ、まあ……」
    珍しく歯切れの悪い様子に首を傾げるが、こいつにあんまり深入りすると面倒だということはここ最近で漸く学んだので、へー、とだけ言ってレジに向かった。

    店を出た所で同級生と合流する。一拍遅れて出て来たアーシェングロットがちらと連れを見た。目が合うと、ぎょっとした彼が少し遠ざかる。こいつマジで普段の行いのせいで大体の生徒にこんなリアクション取られてんのに平気な顔でいられんの、ハートがオリハルコンすぎないか。
    「寮でお祝いするんですか?」
    「え? ああ、寮長?」
    やや唐突な切り出し方だが、流石にすぐに伝わった。そもそも俺たちがこんな時間にここにいるのは、今夜の寮長バースデーの準備のためだ。日付ぴったりにお祝いするための準備。いやー俺たちなんていい寮生なんだろ。寮長のことが好きとか何とかって言うよりも、どうにか驚かせたい一心なんだけど。
    「まあ一応?」
    「丁度にお祝いとは、イデアさん案外人望あるんですね」
    「人望……かどうかは知らんけど」
    お祝いしてあげたい、と言うよりも、いつもにやにやしながらどんなゲームもあっさり勝ち越していく寮長をマジでびっくりさせたいだけなんだけど。あ、もしかして。
    「お前も来れば?」
    こいつ寮長と仲いいしな。もしかして混じりたいのかな。とか。コミュ障って「入れて」って言いづらくて誘ってくれるの待ちみたいなのよくあるから、つい言ってしまってから二重の意味ではっとした。
    ひとつは、俺とアーシェングロットってそんな気軽に誘うような距離感だったかなということ。もうひとつは、俺の三歩後ろから驚愕に慄く同級生の反応。こいつを連れて行ったらモーゼになるのでは。
    しくじったかも、と顔に出したつもりはなかったけれど、ふとほくろのある口端を持ち上げたアーシェングロットが肩を竦めた。何か少しわざとらしい感じ。
    「折角ですが遠慮します。こんな時間から他寮に行くなんてご迷惑でしょうし。それでは、僕はこれで失礼します。おやすみなさい」
    「あ……うん、おやすみ……」
    悪いことを言ってしまったかな、と何となく思った。気を遣われたと言うか、何と言うか。アーシェングロットの背中が廊下の先の角に消えてから、連れがほっと息を吐いた。
    「よくあいつと普通に会話できますな……」
    「まあ……多少……」
    生返事をしつつ、寮に向かって歩き出す。0時まであと少し。あと数行のプログラムを書いたら、寮生みんなで作り上げた、寮長おめでとうウィルスが完成する。寮長のPCを一時的にジャックして、ひたすらハッピーバースデーの合唱を流すだけのバカシステムだ。けれど、セキュリティが死ぬほどつよつよな寮長のパソコンを一瞬でもハッキングするのは至難の業すぎてみんなで知恵を出し合わなきゃ無理だった。
    「寮長ビビってくれるかなあ」
    隣で楽しそうに呟く。俺はまた、そうだね、とか生返事をしながら、さっき買ったパンの袋を開けた。
    「合唱の後オンライン繋ぐんだろ?」
    「メッセージビデオ撮るよりはディスコのが楽ですからな」
    0時のお祝いはハッキングと、驚いた寮長の顔を見るためのオンライン祝い。部屋に行くとか飾り付けられるとかめちゃくちゃ嫌がりそうだし、準備段階でバレたら絶対邪魔されるから全部オンラインで片付ける。これでこそイグニハイドだ。
    あ、そうか。だったらアーシェングロットの部屋からも繋げるようにしておいてやればよかった。今更もう遅いか。悪いことしたな、なんて俺なりに思いながら帰寮する。
    計らずとも垣間見たアーシェングロットの横顔が何だか少し引っかかり続けていた。
    KazRyusaki Link Message Mute
    2021/04/07 0:22:08

    イデアズ。と🐙のクラスメイトくん。8.5

    アズールの日記(イデアBD編)12/17 20:30の後に読んでいただけると。

    ##モブ太郎物語

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