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    TO麺×$ 11実は、生まれてこの方真っ向から「運動」と言う物に向き合ったことがない。いや、学生時代はもちろん体育の授業を受けていた訳だけれども、それも「授業の範囲」であって、自らこうして「運動をしに行く」と言うのは初めてだった。
    「おー、立派なビル」
    入り口で建物を見上げたカリムさんが目を輝かせる。当初、事務通いは僕ひとりの予定だったけれど、ついでだからと事務所が三人一緒に手配をしてくれたのだ。正直、心強い。無様な姿を晒したくないと言うのも少なからずあったけれど、この二人にはもう今更だ。
    「何かちょっと緊張するな」
    リドルさんが戦地に向かうような緊張の面持ちで、着替えの入ったショルダーバッグの紐をぎゅっと握る。気持ちはわかる。
    「い、行きますよ」
    「おー!」
    ごくりと喉を鳴らした僕の号令に、カリムさんが軽く返事をした。丸でこれから遊園地に行くようだ。いや、彼女からしたらそのままそうなのかも知れない。運動が得意な人にとって、ジムは楽しいところになるのか。大丈夫、怖くない、何度も言い聞かせながら、自動ドアをくぐった。

    プールにダンススタジオ、エアロバイクにランニングマシン。見たことはあれど触れたことのないマシンたちを横目に受付を済ませる。指定されたロッカーで着替えを済ませて出て来ると、カウンターの所で声を掛けられた。
    「ヴィルさんのご紹介の方ですね?」
    銀髪の男は随分と背が高く、体格がいいのが見て取れる。黒のTシャツが筋肉でぱつぱつだ。
    「はい」
    「どうも。担当のジャックです。ヴィルさんから話は聞いてます」
    ぺこりとお辞儀をしたジャックは、いかつい見た目に反して仕草が礼儀正しい。案内されたのはミーティング用の小さなテーブルセットで、ひとまずそこに座って説明を受けた。
    基礎体力作りに必要な事、筋肉の基本的な理解、ダンス・ヴォーカルに必要な筋トレに、理想の体型等々。今日は初日と言う事で、基礎体力測定とメニュー決め、軽い体験のみと言う事になって、それぞれ測定に赴くことになった。

    結果はもちろん、ぼろぼろだ。一般の人よりはダンスで培った筋肉があるかも知れないけれど、カリムさんやリドルさんと比べたら全然ダメ。ひとり落ち込む僕に、測定の結果を眺めていたジャックさんが目を向けた。
    「いいですね。作り甲斐があります」
    「……気休めですか?」
    「いえ、正直アズールさんが一番作り替え甲斐がありますよ」
    まっすぐな眼が疑う余地も作らず、きっぱりと言い切る。そう言われると、努力次第でどうにかなるのかと思えて来た。努力するのは得意だ。天性の才能なんてものは僕にはない。けれど、足掻くことなら僕にだってできる。
    「がんばりましょう」
    にかっと笑った顔がいかにもスポーツマンらしい爽やかなそれで、黙っている時と随分印象が違うなと考えた。よろしくお願いします、と頭を下げると、彼もつられて同じように頭を下げるものだから、何だか可笑しくなって二人して笑った。

    **********

    受付の近くには、リラックススペースがある。そう広くはないけれど、小休止するためのテーブルや、テレビ、自動販売機が置かれていた。使い慣れたテーブルにどかりと腰を下ろしてウェイトトレーニングでかいた汗を拭いていて、ふと見知った顔が目に付く。
    ジャック・ハウルは学生の頃の部活の後輩だ。一見いかつい見た目だが、人当たりは悪くない。そのせいか、女性であっても案外彼とはうまくやれるのだ。一種の才能か、と感心して立ち上がる。さて、次のメニューはどうするか。施設一覧を眺めていると、背後から声を掛けられた。
    「レオナさん。来てたんスね」
    先刻までランニングマシンの所で女性客と話していたジャックが駆け寄って来る。トレーナーを頼んでいるわけではないが、顔見知りであるせいか姿を見かけるとこうして声を掛けて来ていた。適当に返事をしてから、そう言えば客はよかったのかと彼の肩の向こうへ視線を投げて、おや、と思う。
    「……あいつら新しい客か」
    「え? ああ、そうです。ヴィルさんの紹介で……って、ちょっかい出さないでくださいよ。俺がヴィルさんに叱られちまう」
    「出さねーよ」
    空になったペットボトルで軽く頭を小突いて、そのままゴミ箱に突っ込んだ。あの赤髪には見覚えがあった。いつか、トレイが幼馴染だと言っていたアイドルの女だ。そんなのにちょっかい出そうものならトレイが黙っていないだろう。
    それに、あの銀髪。あれは確か、イデアが入れ込んでると言うやつだ。何かしようものなら、それこそイデアがどう出て来るかわかったものじゃない。バンドのメンバーと言えど、未だイデアという男を掴み切れていなかった。必要以上に交流をしたがらない性格だし、それは俺も同じで、必要以上に踏み込もうとはしない。ゆえに、あいつの思考回路は予測不可能だった。
    「いずれにしろあんなガキに興味はねえよ」
    「まあそうでしょうね」
    呆れたように答えたジャックが俺のトレーニング履歴を確認しながら付いて来る。全体的に幼い雰囲気のある三人は、残念ながら俺の好みとは懸け離れていた。もっと色気のある女の方が好みだな、などと考えながら、ジャックが出して来た次のトレーニングの提案に大きく欠伸をしながら頷いた。
    KazRyusaki Link Message Mute
    2021/04/07 8:10:17

    TO麺×$ 11

    ##君に夢中!

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