TO麺×$ 24エースは、今まで誰も口にして来なかった事や、見て見ぬ振りをしていた事、後回しにしていた事をひとつひとつ指摘して来た。コンセプトの事、イメージカラー、売り出し方、プラン。収支計画に、ロードマップ。事務所運営に至るまで。
「素人の集まりじゃないっすか」
苦笑されたのは仕方がないと思う。黙って聞いていたアズールも、その一言に肩を竦め、
「悔しいですが、エースさんの仰る通りです」
と両手を広げた。全員の共通認識がそうであるのならば話は早い。それでは、とアズールが広げたノートにいくつかポイントが書かれていた。既にアズールとしても問題だと思う点を書き出していたのだろう。内容はほぼほぼエースが口にしたものと同じだった。
「まずは壊しましょう。一から作り直すんです」
「でもさあ。それって結構オオゴトっすよ。ファンだってゼロになるかも」
「仕方がありません」
本当はその選択はかなり厳しい。俺の実家が支援してくれる活動資金を、リドルやアズールはあまり使いたがらなかった。以前はそれが何故なのかいまいちよく分からなかったけれど、今ならわかる。「アイドル」という職業にプライドがあるからだ。俺は常に一歩引いたところで、何も考えずに二人について来ているだけだったんだと思い知らされる。
「カラーはまあいいとしても、キャラがね。俺が思うに、アズールさんが一番反動でかいと思いますよ」
「どういう事だ?」
分からなければ質問する。知らないことを理解する。何もできない俺ができる、数少ない事だ。
「アズールさんて、今まで自分の中の理想のアイドルみたいな人物像作ってやって来てたでしょ。でも本人はこんな感じじゃないっすか。そのギャップが一番でかいんですよ」
「ギャップ……」
首を傾げた俺にもエースは面倒がらずにきちんと説明をしてくれる。そそ、と頷いた彼が続けた。
「簡単に言うと、アズールさんは今まで清純派でやってたけど、悪女みたいな方が素に近くて似合うってこと。あくまでアイドルとしての範囲すけど」
「素に近いは余計です」
小さく舌打ちをしてメガネを押し上げたアズールがそれでも従順にエースの言葉をメモして行く。アズールの想定と大きく懸け離れていなかったと言うことだろう。
「リドルさんももう少し素でいいと思います。今はちょっと半端なツンデレになってるんで」
「つんでれ?」
眉間を狭めて首を傾げたリドルに、エースが天然かあと呟いた。ペンを動かし続けるアズールが、一旦そこで手を止める。
「キャラ付けと言うやつですね。僕は意地悪な感じの方がいいと言うことですか?」
「意地悪じゃなくて、計算高いって感じじゃないすか。クールって言うか。金に細かいとかもキャラ付けとしてはいいと思いますよ」
なるほど、と口元に左手を添えたまま右手が忙しなく動いた。キャラ付け。きっと、活動を始める前にこういう事をやらなきゃいけなかったんだなと言うことは何となく理解した。
俺が何となく、アイドルやらないか、なんてノープランで言い出したものだから。そんな俺が一番考えなしなのは肩身が狭かった。いや、これから巻き返せばいい。
「俺は? 俺はどうしたらいい?」
「カリムさんはそのままがいいです。滅多にいないレベルのピュアっ子なんで、逆に手を入れたくないっす」
「そ、そうか……?」
腑に落ちない気もしたけれど、アズールもリドルも頷いているから間違いないだろう。今のまま、を保つことに専念することにした。
「カラーはそれぞれ好きなのでいいと思うんすけど、コンセプトはきっちりやりたいすね」
「これは今ここで即決するような事ではないのでじっくり考えたいです。それぞれからも意見が欲しい」
アズールが俺とリドルを見る。ユニットコンセプト。今まではアイドルらしいアイドル、というふわっとしたイメージで来ていたけれど、もっと絞り込んでやって行くと言うことだろう。
「どこでスイッチします? 次のライブで急にと言うのもおかしいですよね」
「アルバムきっかけとかはどうだろう」
「あ、それいっすね。アルバムイメージをそれにして、ウケが悪過ぎたらそのアルバムコンセプトでしたって事でまた方向転換したらいいし」
「それでしたら」
ずっと俺らの座るソファの後ろに控えていたジェイドが口を開いた。右手を上げたまま、視線が集まるのを待って続ける。
「いま、ユニット曲と、それぞれのソロ曲を発注しておりまして、それをコンセプトミニアルバムとして出すのはいかがでしょう」
「あっ、いいっすね! そうしましょう!」
ソロ曲。そう言えば、少し前に発注したとジェイドから聞いた気がする。いつ仕上がるのかとかまでは聞いてなかったけれど、ミニアルバムになるのか。それは楽しみだ。ライブで披露するのも今からわくわくする。
「では進捗確認しておきます」
「頼みましたよ。僕らは自分たちでもユニットコンセプトを持ち寄ることにしましょう。明後日辺りまでに、各自考えて来たいですね」
「わかった」
「おう! 頑張る!」
ぐっと拳を握って声を上げた。俺にできることをひとつひとつ、確実に。頑張るぞおと心の中で呟いた。
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電話のコールは取ってもらえなかったけれど、マジカメにメッセージを送ったら割とすぐに返事が来た。ほっとしてメッセージを打ち込む。
『ソロ曲のご進捗いかがですか?』
お伺いと共に、ユニットコンセプトをこれから決めることになった旨の報告を入れた。コンセプトによっては、それに沿った曲にしてもらう可能性が出て来る。トレイさんはメインテーマをまだ着手していないと言っていた。彼らはツアーの真っ只中であったし、当然だと思う。恐らくイデアさんもそうであろうと踏んでの連絡だったのだけれど。
『それ今から決めんの? 流石に草。曲はできてるけど、コンセプト決めてからでもいいでござるよ。何なら書き直すし』
「それは」
つい声が出てしまった。アズール達が会議をしているダイニングから出て来ていてよかった。こほんとひとつ咳払いをして、返事を打つ。
『いえ、それは流石に。一度聴かせて頂けますか? それにしても完成が早いですね』
さすが天才と言うべきか。返事の後、数分と待たずに僕のメールに受信通知が届いた。差出人は「ネクラ」。仕事が早いなと感心する。
『歌詞も一応つけたけど、もし本人が作詞するなら無視して』
それきり、連絡は途絶えた。早速メールに添付されたファイルを開いて、小さな音で再生してみる。
(…………)
懐かしさすら感じる音階に、心臓が擽られる気がした。これが天才。そう思わせるには充分の出来栄え。音は全てパソコンで作られていて、デモボーカルもシングロイドの声だ。これを、レコーディングの時だけとは言え生楽器でアズールが歌うのかと思うと、にやりとするのを止められない。
「まずは意思確認」
音を止めて、リビングへと歩き出した。この曲を採用するかどうかはアズール次第。そう言えばと足を止め、添付されていたテキストを開いた。
「……おやおや」
それはまるで。片恋を綴ったラブレターのような。決してダイレクトに恋が描かれているわけではないけれど、そこはかとなく淡い憧れが描かれている。
この歌詞を渡すか否か。いや、まずは作曲者を伏せてアズールに話して、作詞をする意思があるかどうかの確認だなと再び歩き出した。