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    TO麺×$ 26ホールライブまでにリリース予定のアルバム曲作りもあと一曲で完成。元々作曲のスピードは早い方らしいけど、今回は輪をかけて早かった自覚はあった。こんなにやる気に満ちているのは久し振り……いや、初めてかも知れない。とは言え、どうしたって最後の一曲のネタが出て来ない。音の切れ端も、影も、僅かなヒントも枯渇してしまったらしい。
    くわえた棒付きキャンディを転がしながら画面の中のバーを操作していく。五線譜が読めない僕は、この手の作曲ソフトが必需品だ。無意味に何度もバーを行ったり来たりさせながら、無駄にいい声に耳を傾ける。
    『なので、先日の曲を使わせて頂くことにしました』
    「どーぞ」
    パソコンの横に置いたスタンドに設置したタブレットは通話中の文字。表示名は、あの馬鹿でかいマネージャーだ。
    「コンセプトも決まってよかったでござるなあ」
    『聞きますか?』
    「結構でござる。公式発表でみんなと一緒に驚きたいでござるゆえ」
    『そういうものですか』
    納得しかねる言い方のジェイド氏は、どうもオタク心理に対しての理解が足りないと思う。この運営に足りないのはそう言う所だと思うけれど、口を出してやる義理もないので黙っておく。拙者単なるファンゆえ、運営に口を出すなんて愚かな事はしないのでござる。
    『あと、歌詞を少し改変して使わせて欲しいと』
    「どーぞどーぞ。お好きに。あ、その時は作家名アズール氏に変えてくだされ。間違っても連名などと言う事はしないように」
    『ですが、印税が』
    「いらないっつってんの」
    そんな事よりも名前が並べられる事の方が耐えられない。しかもハンドルネーム。無理。第一、今回の件は半分僕がやりたくてやった所もあるから、作曲印税だって別に欲しければあげるくらいの気持ちだ。
    『ではお言葉に甘えて』
    ペンが走る音。彼はアナログ派なのか。背の高い彼が大きな手で万年筆を走らせる姿を想像して、思ったよりも絵になったそれにこれだからイケメンは、と鼻に皺を寄せた。
    「んじゃこれで……」
    『ジェイド』
    『はい?』
    電話を切ろうとした、その時。スピーカーの向こうから柔らかい声がする。瞬時に爆発したかのように心拍数が上がった心臓に思わず飛び上がって、咄嗟に両手で口を押さえた。そうしなければ変な声が出てしまいそうだったから。
    『この前の衣装、ダメ出しされたので発注一旦止めてください』
    『おやおや。どなたから?』
    『エースさんです。ダサいと』
    エースさん? え、エースさん?? エースってまさか、あのライブハウススタッフのエース・トラッポラ? い、いや、そうとも限らないか。エースなんて名前珍しくもない。話しぶりからすると、衣装スタッフか何かだろうか。
    『承知しました』
    『それとケイトさんがひとつイベントを持って来てくださったので調整してください』
    『はい』
    いやケイト氏何してんの。トレイ氏経由で手伝ってるのは知ってるけど、そんなに入り込んでるとは思わなかった。先日のイベント斡旋一発なのかと思ったら違うのか。ああなんか、周りがじわじわと囲い込まれていく感覚が落ち着かない。
    それにしても、ステージの上にいる時のアズール氏はもっと、頑張って可愛い話し方をするし、頑張ってアイドルになろうとしているのが分かってそれがまた可愛かったのだけれど。普段はこんな話し方なのか。あの容姿と声にしっくり来る。冷静で理知的な話し方。秘密を垣間見た気がして、擽ったさに肩を竦めた。
    『……あの、歌詞の件、どうなりました?』
    先刻までのはきはきした話し方が消え、おずおずと切り出されたそれに、またどきりとする。僕の話題だ。アズール氏が、僕の話をしている。途端に落ち着かなくなって、無意味に足の先を擦り合わせた。
    『ああ、オッケーだそうですよ』
    『! 本当ですか。よかった……』
    ああ、可愛いなあ。きっと満面の笑みであるに違いない。ステージの上で見るそれと違って、もっと素直に笑うんだろう。彼女が彼女の理想であらんために創ったアイドル・アズールも好きだけれど、飾らない彼女はきっと、もっと。
    『いま丁度ネクラさんと通話が繋がっていますがお話しますか?』
    『え!?』
    ガターン!
    トリップしかけていたとは言え、反射的にタブレットに伸ばした手で最早叩き落す勢いで、いや、文字通り叩き落して通話を終了させた。慌てて椅子から転げ落ちるように床に座り、壊れてないよな、と確認しながら未だ落ち着かない心臓を持て余してタブレットを抱える。
    なんちゅーこと言い出すんだあのマネージャー。会話なんてとんでもない。何度か深呼吸を試みるけれど、どうしたって上手く呼吸ができない。仕方なく浅い呼吸を何度も繰り返した。
    「………………あ」
    ふわりと降りて来た音符を追い掛けて再びイスに戻る。目の前を踊る音をひとつひとつ捕まえながら一心不乱にソフトに入力して行った。ひとつ、ふたつ、和音、リズム。滞る事なくその作業を続けて行く。頭の中のレオナ氏がスティックを回して、トレイ氏が手を上げた。客席は楽しそうに飛び跳ねて、案外ポップな曲が好きなマレウス氏が一緒に跳ねて、そんな光景を特等席で眺める。
    「できた」
    最後の一曲はどうしようかと、ほんの数時間前まで欠片も思いつなかった癖に。できる時はすぐにできるものだ。一度パソコン上で再生させて手直ししてからメーラーを立ち上げる。メンバーのメールアドレスを呼び出して添付ファイルを送信した。


    ツー、ツー。無機質な通話終了音を前に、そうだろうな、と言う気持ちと、どうして、と言う気持ちがせめぎ合う。ネクラPさんは、コミュ障で人嫌いだと言うし、そもそも僕のような末端の地下アイドルの曲を作ってくれただけでも奇跡のようなものだ。
    「切られました」
    「見たら分かります」
    驚いたような顔のジェイドに、こいつ本気で繋げようとしてたのかと逆に驚く。彼としては先程まで普通に会話をしていたせいで切られたことが意外だったんだろう。
    「そもそも本人がいいと言ってないのに繋げようとするからだろ」
    少しガッカリしたことを悟らせたくなくて強めにそう言うけれど、付き合いの長い幼馴染は当然のようにお見通しで、申し訳なさそうに眉を下げながらもどこか楽しそうににやにやしていた。
    「本当にお好きですねえ」
    「は……」
    好き。そう、好きだ。ファンだから。好きと言う言葉に妙にどきっとしてしまったけれど、ファンだから好きで当たり前だ。彼の創る世界観、音。一見綺麗で、でもどこか濁った所もある音楽。
    「会ってみたいと思いますか?」
    「いえ、別に。先方が望まないでしょうし」
    電話も切られるくらいだ。もしかしてジェイドが無理矢理作らせたとかじゃないだろうな。そんな事よりも、今は折角作ってもらったあの曲を上手く歌えるようになること、書いてもらった歌詞で勉強させてもらう事が先決だ。
    「さて、衣装の件。この後カリムさんとエースさんが来ますから詰めましょう。イベントについてはリドルさんが」
    「承知しました」
    元々僕ひとりでやっていた事は、それぞれみんなが受け持ってくれる事になった。お陰で僕自身のことに専念する時間もできて、これまで全部ひとりで抱えていたのが馬鹿みたいだと思う。僕ひとりのユニットではないのだ。
    「でさあ、この前の店でフロイドさんがさー」
    「あはは! 絶対似合うなそれ! ライブの日はスタッフも衣装つけるか!」
    到着したエースさんとカリムさんの賑やかな会話を聞きながら、小さく笑った。
    KazRyusaki Link Message Mute
    2021/04/12 11:58:50

    TO麺×$ 26

    ##君に夢中!

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