キスの日あっと思った時にはもう遅くて、けれども予想していた痛みはなく、その代わりに視界が黒く覆われた。そろりと目を開けたそこに蒼い髪。
「大丈夫ですか? だから言ったのに」
「最後のやつしまったのはアズール氏でござる〜」
そうでしたっけ、なんて惚けながら床に散らかったパッケージ達に溜息を吐きかける。棚に対してしまわれたゲームの数が多過ぎて、無理矢理棚に押し込んでいるものだから、いざ使う時に強引に引き出そうとしてこのざまだ。
せめて高い所から落ちて来たそれらがそのまま頭の上に降って来なくてよかった。
「片付けますか」
「少し間引こう、か」
尻もちを着いた姿勢から顔を上げると、被さるようにアズールの両脇の床に手を着いた相手もそうしたものだから。思ったよりも顔が近い。絡まった視線にごくりと喉を鳴らしたのはどちらだったか。
恋人でもないその人の蒼い唇が磁力を持っているかのように引き寄せられて、触れた瞬間にぱちりと爆ぜた。
運動部の掛け声と、彼がかけっぱなしにしているアイドルソングと、耳の奥の心臓の音。
初めてのキスの記憶は、そんなもので彩られていた。