イデアズ。と🐙のクラスメイトくん。2新しいゲームの発売日には、大体プレイヤー数人がりょうの談話室に集まってあーだのこーだのとソフトを楽しむのが通例となっている。そしてそのままそこで寝落ちるやつがいて、朝目が覚めて、身体が痛いなと思った時点で漸く後悔する所までがお約束だ。
昨日は俺が好きなゲームの続編の発表があって、同士数人とあれこれ語ってたらそのまま寝落ちて、朝食を求めてちらほら談話室に出てきた寮生達に「寝落ち乙〜」と声をかけられている。いまここ。
「身体痛てぇー今日バルガスの授業あったっけ?」
「俺のところはあるけどお前のとこは知らん」
「そりゃそうだ」
隣にいた別のクラスのやつに聞いたって知ってるはずがない。あーあ、これで飛行術なんかがあった日にはマジで放課後呼び出しコース間違いない。さっさと帰って寝たいのに。
「2046号キセキ」
「えっ……めちゃカッコイイあだ名つけられてる……」
大きく欠伸をしたところで呼びかけられて、思わず欠伸が止まってしまった。声の主は寮長だ。こんな朝早くに起きてくるなんて珍しい。いや絶対逆だ。起きたんじゃなくて起きてたんだ。くまが出やすいんだからちゃんと寝りゃいいのに。
「ロボアニメに出てきそうな名前ですね」
「でしょ。それで言うと寮長室の拙者は初号機……!」
「な、なんだと!? ……寮長寝ました?」
「ひひ、まだまだ、まる二日しか経ってないでござる」
「寝てください」
「君らもここで寝ないでよ……見付かると拙者が叱られるんだから……」
むすっとした見るからに寝不足なナチュラルハイな寮長に逆に叱られてしまった。ノリツッコミまでしたのに。寮長寝不足の時は話しやすいんだよな。て言うか、他の寮からどう見えてるのか知らんが、イグニハイドはこれはこれでまあまあ仲がいい。最初だけ時間がかかるけど、慣れるとみんな割と仲良しだ。それは寮長も同じで、寮にいる時は割と普通に会話が成り立つ。
「ちょっとこれ持って行ってくれない?」
「何ですか? 提出書類?」
差し出された紙に首を傾げる。寮生活についての調査書。三枚綴りのそれにきっちりと回答らしき文章がタイピングされていた。これ手書きじゃなくていいのかな、と思うけど、いま重要なのはそこじゃない。
「アズール氏に渡しといて」
「はあ……部活とかで会わないんですか?」
「今日の昼までなの忘れてて……二年生の教室に行くのなんて無理ゲーすぎる……」
わかる。他の学年の教室とか廊下って、何であんなに異次元感あるんだろう。いやでもそれ上級生のフロアじゃない? 下級生のフロアなんて肩で風切って歩きゃいいのに。俺も出来ないけど。
「じゃ、よろー」
引き受けるなんて一言も言ってないのに、さっさと背を向けて歩き出した寮長を起き抜けの頭のままで見送った。まあどうせこれから教室だし。物のついでだと書類を片手に一度部屋に戻ることにした。
シャワーを浴びてそのまま登校したら、思ったより早い時間に到着してしまった。他に行くところもないので教室に向かう。
「ダメです。ご本人がお持ちください」
入口に差し掛かったところで、通る声がぴしりと聞こえた。何事かと様子を見ると、一番前の席を陣取ったアーシェングロットと、隣のクラスのラギー・ブッチ。何を話してるんだと見てみると、ブッチの手には見覚えのある書類が握られている。
「これは寮長の仕事です。直接持って来るようにお伝えください。僕の目の前での押印が必要です」
えっマジか。じゃあこれもダメじゃん。
「も〜、アズールくん頭かたいっすね〜」
面倒そうにぶつぶつ文句を垂れながら教室から出て行くブッチを見送り、ちらと手元の書類を見た。まあ、ダメ元で出すか。
「アーシェングロット」
「ああ、おはようございます」
「おはよう。あー、これさ、寮長に頼まれたんだけど」
書類を差し出すと、メガネの向こうの目が丸くなった。こいつ全体的に色素が薄いよな。人魚だからなのかな。なんだっていいけど。
「あー……やっぱダメ?」
「……いえ、お預かりしましょう。どうせゲームか発明家でまた二、三日寝ていなくて限界…とかそう言った類でしょう」
「正解。すごいねお前」
「そりゃわかりますよ……お使いありがとうございます」
そんなもんか。書類をひらめかせたアーシェングロットに応えるように手を振って、後ろの方の空席に腰を下ろした。まだ一時間目まで時間あるし、寝てようかな。と机に顔を伏せる。
暫くして、未だ他の生徒が来ない教室。
「失敗か……」
悔しそうな声がした。伏せたまま様子を伺うが、教室には俺とアーシェングロットしかいないから、きっとあいつの独り言。俺が寝てると思っているんだろう。少ししてから、俺と同じように机に伏せた。
「提出がてら会いに来させられるかと思ったのに……」
いや無理だと思う。寮長根っからのコミュ障だから。他学年の廊下に踏み入れたくないって断言してたしね。
眠たい頭ではそれ以上考えられなくて、常であればどういうことかと考えてしまうような彼の発言も、夢現の霞の中に消えた。
目が覚めたら目の前にトレインが立ってた。