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    マイダーリン! 騒動の帰り道。打たれた頬の痛みやら、万全にして行ったはずのプロポーズが有効でなかったやら、床に転がされていた屈辱やら、思う所は色々あったけれど、何にしたって一件落着。姫は文字通り永遠の愛とやらを手に入れたし、生徒はみな無事だった。

     口々に疲労を口にしながら生徒達が解散して行く波に従ってアズールも歩き出す。疲れたな、とぼんやり考えて義務的に足を動かしていると、ふと隣に人影を感じて顔を上げた。
    「お、乙~」
     苦笑いを浮かべたイデアが小さく呟き、当たり前のように隣に並ぶ。二人は恋人同士なのだから、隣に並んで歩くことは特に不自然ではないのだけれど。何となく、アズールは霞がかったような頭を持て余したまま、丸で他人行儀に「どうも」とだけ返した。
    「それ着て帰るんですか?」
     並んだイデアはゴースト達に着せられた上質なタキシードのまま、帰寮の波に乗っている。ひとつ後ろでは双子を相手にオルトが兄自慢をしているところだ。アズールの指摘にひとつ頷いたイデアが困ったような振りをする。
    「う、うん、まあ着替えるの面倒ですし? このまま帰ってシャワー浴びてから着替えた方が合理的ですし?」
     丸で何かに言い訳をするようだけれど、イデアとしてはそんな風に言っていなければ、滅多にしない正装をしている自分を保っていられないのだ。そんなイデアの態度を特に気にする様子もなく、アズールが目を細める。
    「お似合いですもんね」
     そもそも、いつもは髪やフードで隠されてしまうけれど、元々の顔立ちはとてもいい方だ。身長もあるし、手足も長く、スタイルもいい。普段着のようなダボついた服ではなく、こうしたぴたりとした服装をするとそれがよくわかる。
     掛け値なしにそう褒めると、ぱっと顔を明るくした彼がむきだしの左耳を赤くした。
    「そっ、そう!? デュフ……」
     その笑い方どうにかしたらいいのに、と思うけれど、今更過ぎて指摘をしても直る見込みはない。ならば黙っておこうとひとつ頷いて、食堂を後にした。



     その文字列に驚いたジェイドが一瞬目を丸くしてからにんまりと笑ったのには、アズールは気付かなかった。店のパソコンで予約一覧を表示させた彼が、仕入れチェックを終えたアズールに声を掛ける。
    「アズール、これ」
    「何ですか?」
     差し出された画面を覗き込んで、思わずぎょっとした。そこに表示されているのは、紛れもなく「イデア・シュラウド」の名前。
    「あれだけ来たがらなかったくせに~どうしたんだろうね~」
    「何か心境の変化でもあったんでしょうか?」
    「さあ……??」
     以前から、食事の際はモストロ・ラウンジへ是非と何度も誘っていたけれど、リア充にしか似合わなさそうなおしゃれレストランには絶対に行かないと豪語していたのに。アズールが誘ったわけでもない今日、彼が自発的にここへ来るだなんて。何かの記念日という訳でもないはずだが、念のため手帳を捲ったみたけれど、やはり特に何も記入されてはいなかった。

     個室に予約を入れていたイデアは、予約の5分前にはオルトを伴ってモストロ・ラウンジに現れた。まさか本当に来るとは、という驚きと同時に、その姿にまた目を剥く。
    「ど、どうしたんですか、その格好?」
     ざわりとホール内の空気がざわめいて、皆の視線が兄弟に集中した。普段であればこの状況から一刻も早く逃げ出そうとするくせに、今日はどうした事かそれらを気にも留めずに、入店したその足でまっすぐアズールの所までやって来る。
    「いやぁーやはりリア充の巣窟に来るにはリア充に認められたドレスコードであるべきと思いまして~、キミも来て欲しいって言ってたし丁度いいかと!」
     滅多に見ないくらいの上機嫌な彼に思わず言葉を失った。身に着けていたのはあの日着て帰ったあのタキシードだ。髪はあの時よりは少しラフになっていたけれど、それでも、後ろにひとつ緩くまとめて左耳の上にサイドの髪をよけ、かなりあの日の出で立ちに近いそれになっている。恐らくオルトが手伝ったのだろう。そのせいか、隣に並ぶ弟は満足げだ。
    「それはそれは……どうぞ、個室の方へ」
     ここへ来るのに着飾って来たのかと思うと少し可笑しかったけれど、それは心の中に留めておいて、一体何が始まるのかと興味津々な他の客の視線から逃れるように、店の奥の個室へと通す。そう広くはない、半円型のソファに二人を座らせて、ソファの端にアズールも腰を下ろした。

     注文を済ませてから少し会話をして、アズールはキッチンに戻る。そこで最初に見たものは、可笑しさが堪えきれないと言った風の双子だった。
    「注文、俺らが持って行くよ~」
    「いえ、結構です、僕が」
    「まあまあ、僕らにも接待させてください。他寮長がいらしたとあれば是非」
    「ちょ、」
     そもそも、何の前触れもなくイデアが来る事なんて想定外だ。来たと思ったらあんな格好で。正直反則だと思う。完全に面白がっている双子を追うようにしてイデアのいる個室へ戻ると、料理を並べるついでにちゃっかりソファに座ったフロイドがオルト越しにイデアの全身を改めて観察してにこりと笑った。
    「ていうかあ、ここに来るだけなのに気合入れ過ぎじゃない?」
    「相当目立ってましたね」
    「ひっ!? そ、それは、そうだけどっ」
     目立っていた、というワードに反応したらしいイデアが慌てて身体を守るように腕を引き、胸の前にぎゅうと抱き込む。怯えている時の癖だ。
     フロイドに絡まれ、テーブル越しに立ったままのジェイドに見下ろされて居心地が悪くなったのだろう。折角タキシードを着こなしていてもその仕草は頂けない。いや、それよりも、アズールには気になる事があった。
    「あ、アズール氏、」
     イデアの座るソファの脇に立ったままのアズールを助けを求める声でイデアが見上げる。ぱちりと視線がぶつかって、何度か瞬いたきいろの目がアズールの表情を見るなりじわじわと不機嫌なそれへと変化していくのがわかった。
    「……あー……ああ、そうだよね、そうか、そうだった、ちょっと担がれただけでいい気になって、そもそもこんな燃える頭のネクラ野郎がちょっといい服着ただけでリア充に対抗できるようなステータス手に入れられるわけないですよね、はー勘違い乙……これだから拙者のようなゴミは救えぬでござる」
    「に、兄さん」
     突然の卑屈モードに慌てたオルトが宥めようと手を伸ばすけれど、完全にスイッチが切り替わってしまったイデアの耳には届いていないようだ。一体何事かとジェイドもフロイドも目を丸くしたまま動向を見守っている。
    「迷惑かけてサーセンしたほんと黒歴史すぐる」
     立ち上がったイデアの膝がテーブルにぶつかって、スープが少し零れてしまった。そちらに一度目をやってから、僅か数センチのところで目の前に立ったイデアを静かに見上げる。
    「貴方本当にそう思うんですか」
    「は? そんっな迷惑そうな顔しなくたって今すぐ帰りますしもう二度と着ないこんな、」
    「ええ、是非そうしてください」
    「……は?」
     きっぱりと言い切ったアズールに、イデアの口元が引き攣った。彼の背後でおろおろするオルトの姿も、何が起こるのかとわくわくしている双子も、アズールの眼には入らなかった。ただ映っているのは、あの日と同じ姿のイデアだけ。
    「そんなもの! 僕の前でもう二度と着ないでください!」
     ジャケットの前合わせをぐいと掴んだアズールの手を咄嗟に振り払おうとするけれど、思いの外強く握られたそれは外れずに、イデアは思わず舌打ちをした。
     良かれと思ってしたことが裏目に出る事など、この人生珍しくも何ともない。アズールが喜んでくれるだろうかという一心でやってみたけれど、どうも失敗したようだ。目の前の恋人は随分と険しい顔をしてイデアを見上げている。絶望にも似た思いで、どうにか言葉を絞り出した。
    「そ、そんなこと言われなくたってもう」
    「僕以外の人と結婚するための衣装なんて見たくありません!!」
    「……え?」
     少しでも自分に自信を持てる格好でと選んだこの服が浮いているという事でも、相談も予告もなく突然ラウンジに来た事を怒っているでもない、アズールの主張に一瞬理解が遅れる。思わず零れた声に、アズールが更に眦を釣り上げた。
    「僕に失礼だと思わないんですか!? ああそうですよね、ゴーストだったとはいえ彼女は女性でしたし、可愛らしい方でしたもんね! そんなに彼女との想い出のそれがお気に召したならずっとそのままでいたらいいじゃないですか!!」
     アズールはそもそも気に入らなかったのだ。イデアの素材がいい事をアズールはよく知っていたし、きっとこういった正装が似合うに違いないと思っていた。顔だって、身体だってよく知っていたアズールからしてみたら、彼がこの手の衣装を着こなすであろう事なんて当たり前の事だった。それを、自分が見繕うよりも先にぽっと出て来た第三者がイデアを好きに着飾って、皆がそれを認めた事が何よりも悔しかった。
    「ア、アズール氏だって似合ってるって言ってくれたから嬉しくて……」
     イデアとしてみたら、アズールがまさかそんな事を考えていたとは露知らず。単純に、エース達が褒めてくれたことが嬉しかったし、それを、アズールも似合っていると言ってくれたのが嬉しくて、ならば彼が喜んだこの服で、以前から来て欲しいと言われていた彼の店に来たのならどれだけ喜んでもらえるかと思っただけだったのだけれど。
    「……わかってます、すみません」
     吐き出して少し落ち着いたのか、しゅんと肩を落としたアズールが俯く。
    「その、き、着替えて」
    「いえ、いいんです。でも、もう嫌です」
    「……うん、これはもう処分するでござる」
     誰に認められたとしても、誰に褒められたとしても、他でもないアズールが嫌だというならもうこれは着る機会はないだろう。
     アズールとしてはこのまま抱き締めて欲しかったけれど、イデアの背中に見えるオルトの邪気のない笑顔と、面白くて仕方がないというフロイドのにやけ顔と、何よりもジェイドが構えたスマホのカメラに大きな溜息を吐き出して、絡めた指先だけで我慢した。



     後日。イデアの部屋を訪れたアズールがローテーブルに座ったイデアの隣に腰を下ろし、やたらと鼻息荒くタブレットを渡して来るものだから一体何事かと画面を覗き込むと、そこには何やら薄い紫のタキシードの絵が描かれていた。
    「イデアさん、どうですか?」
    「な、なにこれ??」
     見たところ、先日のタキシードとは違うデザインの、丸で花婿の衣装のようなそれ。怪訝にアズールを見ると、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに胸を張る。
    「やはり正装はとてもよくお似合いだったので、僕が原案を出してデザインしてもらったんです! もう一着は薄い青なんですけど、イデアさんの髪の色を考慮すると青と青だといまいちかなと思って。イデアさんは手足が長いですし身長もありますから、スタイルに沿ったデザインが絶対に似合うと思うんですよね!」
    「あ……ありがとう……?」
     何と答えていいのかわからず曖昧に礼を告げると、ふふと笑ったアズールがイデアの肩に頭を寄せて、内緒話をするように。
     いつかこれを着て、僕に愛を誓ってくださいね、と囁いた。
    KazRyusaki Link Message Mute
    2021/06/26 21:33:02

    マイダーリン!

    ゴスマリ後日。

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