理由はいらない 刀派という括りではあまり括られてこなかった。なぜなら、ずっと一振りだったから。どちらかというと、昔馴染みの同じ元主のところに集っていた刀たちと一緒にいたから彼は余計に肩身が狭かったのかもしれない。
小竜景光という刀は、そんな刀派「長船」が実装されてから初めて燭台切光忠に続いてやってきた刀であった。
独特の感性と矜恃をもち、大倶利伽羅のように馴れ合わないわけではないのだがどこかほかの刀たちと一線を引き距離がある。いつもどこにいるのか見当がつかず、本丸内を放浪している。まるで最初期の冒険ばかりしていた秋田藤四郎のようだった。一週間もすれば皆そんな行動にも慣れたもので、小竜を見かけたら燭台切にどこで見かけたと報告してくれるようになった。天気レーダーのようで、小竜自体が一つの台風や積乱雲のように。煙に巻くところは似ているかもしれない。
そしてそんな放浪に燭台切が頭を悩ませ始めた頃、政府主催のシール集めの催しがあり、それほど間をあけずに大般若長光がやってきた。これで、小竜一振りがあちらこちらをウロウロと放浪し続ける日々も終わりかと長船の祖がようやく胸を撫で下ろしたが、実際にはそう上手くは行かなかった。
大般若は人当たりがよく、適当な対応がうまかった。適当な連中は適当な連中でさっさと仲良くなってしまった。すでに伊達に縁のある者たちと同室になっていた燭台切とは別部屋だったので、小竜と大般若で一部屋を与えられたが、大般若が夜な夜な飲み歩きに出るようになると、それはそれで喜ぶと思ったらそうではなく、同じように今度は小竜もまた夜な夜な本丸内をより一層本格的に放浪するようになった。
ここの初期刀は山姥切国広(通称「まんば」で通している)で、初鍛刀は薬研藤四郎だ。本丸内の敷地からは審神者の許可なく男士たちは出ることができないが、遠くまで、行ける範囲まであちこちを散策しているようで、まんばや薬研に色々と聞いて回ることも増えてきたようだった。それなりに毎日を楽しく過ごしているのなら、まあいいか、と燭台切がようやく小竜のことを案じるのに気持ちの落ちどころを見つけた頃に、今度は鍛刀で謙信景光がやってきたのだった。
*
「こりゅうは?」
「もうすぐ出陣だから支度してるんじゃないかな?」
「わかった!」
小豆長光が顕現していないこの本丸で、先に顕現してしまった謙信は兄のように(実際刀派や刀工名で兄弟のように振る舞う刀たちも多い)小竜を慕った。二言目には小竜の名を呼んでいる有様だ。それを微笑ましく思い大般若と一緒になって破顔してしいる毎日だ。
初日に真っ先に長船派ということで、その日の近侍だった加州清光に太刀三振り集められ謙信を託された時には、どうにももじもじとしている少年姿を圧迫するような長身の太刀三振りと言う組み合わせに加州が「誰か短刀呼んでくる?」と苦笑いで思わず言ってしまうくらい気を使われてしまったが、それに真っ先に「大丈夫だよ」と応えたのは小竜で、それから実際に色々と甲斐甲斐しく世話を焼いたのも小竜だった。
寝るのも、起きるのも同室で、見た目が似ていないのに、食事の食べ方がそっくりで、苦手なものを最後まで残しているのもそれでも最後にはちゃんと全部食べて食事を作ることの多い燭台切に「ごちそうさま」と必ず声をかけるのも、一緒だった。
今までは明るい時間帯に入ったことなんてなかったくせに、短刀たちが多い時間帯に風呂に入って謙信と短刀たちの仲を繋ぎ、短刀に紛れて瓶牛乳を飲んでいる姿が見られるようになると、本丸内の冒険に興味関心の強い秋田や愛染、敷地内の最新情報を把握しておきたい薬研などとは会話も多くなった。小竜が薬研に「奥にある沼の先はどうなっているんだい?」と聞くと、「あの先は行き止まりだ。初日に大将たちと確認済だぜ」と言われて、いつか「その先」を見てみたいと謙信が風呂上りの赤く染まった頬をさらに昂奮で赤くさせ薬研に微笑まれた。
内番でも、それとなく見守っていたり、相手も短刀だった時や天気が良くない時は手伝いを買って出ては過剰でない程度に手伝いを行う。
まるで今までの距離間はなんだったんだ、というほどに、謙信が来たことで小竜の行動範囲が広がって、一緒に交友関係も溝が薄くなっていったのがあからさまにわかった。
「謙信はいい緩衝材だね」
「いいことだ。謙信もうまくこの本丸に馴染めたようだし」
翌朝の朝食の仕込みをしていると、なにかつまめるものはないかと漁りに来た大般若と思わずそんな会話をするほどには、小竜の甲斐甲斐しさは謙信と同じくらい微笑ましかった。
ここに大般若がいるのも、夕食後に謙信がうとうとしていたのを小竜が部屋に連れていき、マントを離さないので添い寝をしていたら一緒になって寝落ちした二振りの様子を真っ先に伝えに来たのだ。ただ、大般若が寝るには早すぎたのでつまみを所望しているという状況には燭台切は苦笑するしかなかった。大小の「景光」の仲の良さは本丸中に轟いたといっても過言ではない、と身内贔屓な燭台切は板わさときゅうりの漬物を出してやりながら一人喜ばしさを胸にひっそりと抱いていた。
*
だが、小竜の放浪癖は、完全になくなったわけではない。
短刀と太刀では主戦場が違う。いくら仲がいいといっても本分は刀なので、当然戦にいくものだ。そしてその行先は別になる。
来るのがかなり遅かったので、修行済の短刀たちに連れられて夜戦を行い、経験を重ねた謙信はどんどん強くなっていった。
それに比例して、当然だが、短刀同士のコミュニティが出来ると、小竜はそちらを優先させる。
元々謙信が出陣している日などは以前と同じく本丸中どこを探しても見つからなくて突然ひょっこり出てくるなんてことがザラにあったが、謙信の活動範囲が広がれば小竜の交友関係は再び狭くなってきていた。
「こりゅうは?」
そういって、謙信が小竜を探し回る日が再び多くなってきた。
「こりゅう! みつけた!」
「謙信。どうしたんだ?」
出陣準備をしていたようだが、もう一通りの準備は終わっているようだ。出陣前の待機部屋には他の刀もいたが、瞳を閉じて瞑想をしているのか、単に休息をとっているのか。特に用はなかったが、会話を続けるのはなんとなく憚られた謙信の口が止まってしまうと、小竜が一旦外に出るように促した。
「みおくりにきた。きょうはおそくなるのか?」
「さあ? でも隊長が堀川国広だから、そんなに無理な進軍はしないんじゃないか? 俺の帰りを待ってないで、先に寝ているんだぞ」
「だいじょうぶ! ぼくだって、まってられるぞ!」
「寝る時間になったら、寝てるの。言うこと聞かない悪い子は大般若に叱ってもらおうか」
「う……」
「ははは、冗談だよ。謙信が寝る前までにはきっと帰ってくるさ」
「うん。まってる」
そういって、小指を差し出した謙信の小さな手を見てキョトンとした。なにをしようとしているのかわからない様子の小竜に謙信が胸を張って説明する。
「ほうちょうにおそわったんだ。にんげんは「やくそく」をするとき、こゆびを「きる」っていうんだって」
謙信の小さな手が小竜の小指を絡めた。
「ゆ~びきーりげんまん、うそついたらはりせんぼんの~ます」
「なんだい、それ。恐ろしいことを言うね」
思わず吹き出してしまった小竜に対して頬を膨らませて怒る。
「やくそくをまもるのがだいじなんだぞ!」
「わかってるよ」
「俺が謙信に嘘をついたことがあるかい?」
もう出陣の時間が近かったのだろう。室内から小竜の名が呼ばれた。立ち上がり、謙信の頭を慣れた様子で撫でて、小竜は仲間たちと一緒に出陣した。それに大きく腕を振って見送る。畳み終わった洗濯物を運んでいた燭台切がそんな謙信を見て声をかけた。無事に小竜を見送れたことにホッとする。
「小竜くん、見つかってよかったね。ちゃんとお見送りも出来たし」
「うん。はやくかえってくるってやくそくしたぞ」
「ふふふ。そっか。
ねえ、いつも小竜くんとなんの話してるの?」
「いろいろ」
「はは、色々……」
いまだ掴みきれない小竜のことを知りたくて、つい謙信にカンニングのようなことをしてしまったが、その答えは結局小竜の掴ませない姿ままである。思わず吹き出してしまった燭台切に不思議そうな顔をするものの、再び「う~ん」と考え込んでしまう。
「ああ、いいよいいよ。ごめんね、変な事聞いて」
「ほんとうに、いろいろ。
こりゅうは、はなやきにくわしいんだ。
くものなまえやあめのなまえもおしえてくれる。すっごくおもしろいんだぞ! ときどき、あきたもいっしょにさんぽしてる」
「へえ! そうなんだ!
僕も今度聞いてみようかなぁ。そうだ。畑の野菜のことなら僕や貞ちゃんにも聞いてね。今は江雪さんと桑名くんに譲ったけど、最初に土壌改良に乗り出したの、貞ちゃんだから」
「うん。でも、くわなとこりゅうはなかがいいぞ。
あと、むしはくわなとあいぜんがくわしいんだ」
「……なるほど」
時々来派の部屋から明石の悲鳴が聞こえてくる理由の一端が垣間見えた気がした。
その日の夜、小竜たちの部隊は帰ってこなかった。
その夜、初めて謙信は大般若と一緒に寝た。似たような気配なのに落ち着かない背中を撫でる手の温度が違うことにも、初めて気がついた。
*
「お疲れ様です」
小竜が気が付いた時には、よく見慣れたけれど自分の部屋ではない天井だった。こちらの目が覚めたことで即座にかけられた声の方を向く。
一緒に出陣していた堀川国広はすでに内番姿であった。
「気分はどうですか?」
「悪くないけど、失敗したな。今何時だい」
「まだ明け方ですよ。あ、起きますか? 帰ってきたのが夜中だったんで、どうせ手伝い札要らないねってことで使ってないんですけど。朝餉の時間には間に合いそうでしたから」
「いてて、ああ、なるほど。まあ、そりゃあ無駄に札を使う必要はないよ。ただ……」
「これ、ですよね。それ聞きたくて、僕もここで待ってました」
小さく、ふっと笑った堀川の手には、両手にすっぽりと収まる程度のガラスの器に張られた水に浸された一つの苗だった。
「ああ、済まない。わざわざやってくれたのか」
「そりゃあ、珍しいことしているので、大事なんだろうなと。桑名さんにでも頼まれた苗ですか?」
「ははは。いや、違うよ。アイツだって、遠征時には頼むけど、戦に行くやつには頼まないんじゃないかな?」
「じゃあ、これは?」
「おみやげだよ」
そういう小竜の顔は、とても怪我人と思えぬ穏やかなものだった。
まだ謙信が来てまもない頃、敷地内と案内がてら散歩していたときに話をしたのだ。
あれは? これは? と次々と尋ねてくる弟分に「知らない」と言えなくて、恥を忍んで色々な刀に教えを乞うたり、辞書や辞典を借りて頭に叩き込んだ。知れば知るほど、分からなければわからないほど、初めて知ることが面白くて、次第に当たり前に知らないことのほうが少なくなった。自信を持って応えられることが増えて、その度に謙信は感心してくれる。彼は彼でスポンジのように知識を吸収していくし、短刀たちと仲良くなると小竜が知らないことをまたどんどん知ってくる。知識欲というのは、とてもじゃないが無くなることを知らないようだった。たくさん知って、知らないことなんてない、なんて思ったのに、すぐにまたわからないことが出てくる。それが新鮮で面白かった。
戦う以外になにをすればいいのかわからなかったので、あちこちと敷地内を探検してみたりしたけれど特になにも感じなかったのが嘘のように、謙信によって本丸内は全てが知識によって上書きされた。今の雲の形だと明日は雨が降るかもしれない、この風は南から来ていて湿っているからその線が強いだろう。雨が降ると燭台切が頭痛がするとよく言っているから薬研に薬を頼んでもいいかもしれない。そういえば裏庭にいる百日紅の花が綺麗に咲いたから大般若に知らせてやろう。花の木を愛でながら飲む酒が好きだと話していたから。ああ、そうだ、雨が降ったら根腐りしやすい植物があると江雪が言ってたから、雨が近いと伝えてやってもいい。
なにもかも、知らなかったことばかりだった。
知らないことを、知ることが、楽しかった。
謙信に花の名を教えてやりながら、一緒に平野から借りた図鑑を確認する。
「まだまだみたたことのないはなばかりだな」
「そりゃあ、図鑑だからね」
「いつか、ぜんぶみれるのかな?」
「さあ、どうだろう。遠征とかでもよおく外を見てくるといい」
「うん」
その丸い頭に思わず手を置いて、ふと目に映ったページを自身の指先でなぞった。
「いつか、見つけたら、見せてあげるよ」
「ほんとう? やくそくだぞ!」
そういって嬉しそうな顔を見せてくれたあの日から、どこかに行くたびに本丸にない花を、探していた。
今日、また、「約束」をしたので、思わず普段と違う行動をしてしまったのがいけなかったのだろう。
咲き誇る花の群れを見て、隊員皆で歓声を上げたところで一株失敬してもいいかな、と小竜が言うと日本号が笑った。
「それこそ現代でも咲いてるだろ。歴史改変にはならないんじゃねーか」
「本丸で育てるのか?」
後藤が興味津々と言った様子で小竜の手元を見る。そういうわけじゃないけど、と言いながら隊長の堀川を伺うと止める様子がなかったので、これほど咲いているものなら、と見逃してくれているのだろう。一瞬あった瞳は、優しく半円になった。
その直後、襲撃に遭った。苗を守っていたら、行動が遅れた。なにもかも自業自得である。
謙信との約束を、守れなかったな、と気付いたのは、一度バラけた部隊がもう一度それぞれ合流して問答無用で日本号に背負われた時だった。
「謙信くんへのお土産だったんですね」
「うん」
「じゃあ、朝一番に渡してあげてください。桑名さんは寝ちゃってたし、僕はこれをどうすれいいのかわからなかったのでとりあえず水に浸けておきましたけど、この後ちゃんとどこかに埋めるんですよね?」
「良く行く裏山にでも埋めようかなぁ。日当たりがいいところを探さないと」
「その前に、おなか、空いてませんか?」
「でも、もうすぐ朝餉なんだろう?」
「おみやげ渡してるときにおなかがなってちゃ、長船派としてカッコつけられませんよ」
「それもそうかなぁ」
起き上がると、枕元に小さな握り飯が二つ、いびつなものが並んでいた。
「これ、君じゃないだろ」
「もちろん」
「先に言ってくれよ。喰わないでいたら、燭台切と大般若に何言われるところだったか」
「さあ、僕にはなんのことやら。帰ってきてから気を緩みすぎだとこっちはこっちでお説教喰らってたんで」
そういう彼はしれっとして、部屋に用意されている急須に湯を淹れてくれている。語り口は軽快だが、反省している様子なのはわかった。皆、確かに一瞬油断したからかもしれない。一面に広がる畑に咲く花たちを見て、それぞれが守らなくてはならないものに思いを馳せた瞬間は、きっと戦のことは忘れていただろうから。
この光景を、大切な誰かに見せたいと思ってしまったがゆえに、きっとあの時小竜の行動を咎めるものがいなかったのだから。
差し出されたほうじ茶をありがたく頂きながら食べた小竜のたった二口分の小さなおにぎりは、少し塩辛かった。
*
「「そばの花」」
「そ」
朝餉の時に謙信と会うと涙目で飛びつかれ、腰をやられそうになった。
昨日と同じように並んで食事をしているのだが、チラチラと謙信がこちらを見てくる。
「もうケガはないよ」
「やくそく、まもってない」
痛いところを突かれると、こちらの顔を見て兄貴分のような二振りがひっそりと笑っているのが伝わってくる。謙信は真剣そのものの表情なので、うかうかそちらを睨み付けることも出来やしない。
朝餉後、手入れ部屋に寄って苗を長船部屋に持ち帰り、謙信と大般若に見せると、へ~という声がした。
「あんまり、匂いは綺麗ではないのだなぁ」
「かすみそうのようなはななんだな」
「花というより、正確にはガクだけどね」
改めて自分たち用に買った図鑑を開いてそのページを見せてやる。また同じような「へ~」という反応が面白くて思わず笑ってしまった。
「ちゃんと、昔の「約束」は守ったから、針千本は勘弁してよ」
キョトンとした謙信の頬が赤く染まって「せんぼんもよういできない……」と言ったのを聞いて今度は小竜が大声で笑った。
やはり「指切」を知らなかったらしい大般若は、二振りの会話を聞いて「なにを物騒な会話してるんだ?」と真顔で聞いてきて、ますます小竜の笑い声だけが響いた。
*
「そばの花、結局枯れちゃったんだって?」
「なんで燭台切が知ってんの?」
風呂上りの夜中と言っていい時間に厨に水を取りにいくと、鉢合わせた祖になんでもない風に声をかけられて即座に言い返してしまった。
「謙信が言ってたよ」
「あ、そう。ビックリした。土が合わなかったみたいだ。桑名に言わせると本丸だと標高が合わなかったんじゃないかって。言われてみたらそうだな。かわいそうなことをした」
「仕方ないよ。これでまた一つ賢くなったね、みんな」
はい、と差し出されたコップの水を一気に煽る。
「で、今日は珍しくずいぶん遅いね」
「打刀たちと麻雀してた」
「ちょっと、賭けてないだろうね!?」
「知ってるよ。前科あるんだろう? 安心しなって。ものは賭けてないよ」
「相変わらず嘘じゃないけど、本当を言わない子だねぇ、君って刀は……」
呆れたようなため息をつく燭台切に軽く笑い声を返して、そのまま帰るのかと思ったら、厨に備え付けられた簡易椅子に座った。
「大丈夫? 湯あたり? 飲み過ぎ?」
「どっちでもない」
「ああ、さみしいのか」
「うるさい」
今日、小豆長光が顕現した。
謙信はギャン泣きして抱き着いて、その小さな身体を支えた小豆の身体は、最初から知っていたというように、謙信を受け止めた。
自分たちが、四苦八苦して、謙信とどう触れればいいのか右往左往していたのが滑稽なくらいに。
いつもフラフラしている大般若だって、嬉しいのだろう、今日はずっと自室で二振りを見守っていたし、それを肴に酒を飲んでゆっくりゆっくり小豆と話をしていた。小竜のことはいつも揶揄うような、穏やかだが労わりのある瞳を向ける刀が、リラックスしきっているような様子に、「どこかに行きたい」と思ってしまった小竜の気持ちを、きっと燭台切はわかっている。
その通りだ。きっと、さみしいのだ。
あの小さな刀が、自分の後ろをついてこないのが。
あの刀のおかげでいろんな刀と自分は繋がれたのに、こんな簡単に最初の頃のような「さみしさ」やら「居場所のなさ」やら、「居心地の悪さ」やら、打たれて間もない刀でも、顕現仕立てでもあるまいに、小豆のせいでもないし、小豆にいろんなことを教えてやりたいし、小豆に謙信がいかに頑張っていたかを教えてやるのは自分の役割のはずなのに、胸がすかすかしているのだ。
「ああ、来たね」
その声に、誰か燭台切と約束していたのかと顔を上げて入口を見ると、寝間着姿の謙信と小豆だった。
「こりゅう、みつけた」
「謙信? どうしたんだ。もう寝ている時間だろう」
そういつものようにいうと、頬を膨らませた謙信が小竜の腕を取った。風呂上りで暖かい自分の腕と同じくらい、ぽかぽかしている謙信の身体はきっと眠たいのだろうとわかった。小豆は少し困ったように眉を下げて謙信の反対側の手を離した。それを待っていたように両手で、逃がさない、というように、謙信が小竜の手をしっかりと握った。
「いっしょに、ねるんだぞ」
「え」
「きょうだいなんだから」
「だ、そうだ」
後ろから燭台切に、横から小豆にも、ポン、と背中を押されて、謙信の手を握り返した。
「うん」
「一緒に、寝よう」
ずっと、そうしてきたのだから。