別の人の彼女になったよどうも、ご無沙汰しています。何年ぶりですかね……あれからお会いしていませんでしたから……もう3年くらい経ちますか? 忙しくしていると時が経つのは早いですね。
「あー……そうね。もうそんなに経つんだね……」
最近はどうしていらっしゃるんですか?
「わざとらしいですなー」
え? 知ってるでしょって? ふふ、そりゃあ。あなたのご活躍は定期的に雑誌や新聞で拝見していますけど。でもご本人の口から聞きたいじゃないですか。先日発表されていたアンドロイド素晴らしかったです。是非モストロ・ラウンジの従業員としてお迎えしたい。
「ああ、従業員型のやつね……多少値引きはするけどタダでは無理だよ。ていうか、モストロも随分増えたね。色んなところで見る気がする」
はい、お陰様でモストロ・ラウンジも順調で随分とチェーン店が増えました。最近は別の事業にも少し手を出し始めたんですよ。ラフにランチができるようなカフェをいくつか。それから、テイクアウト専門店に、レトルトの通販……忙しいのはありがたい事です。
「さすが、商売の鬼ですなあwwそんなんじゃパートナー作ってる暇もないんじゃないの?」
……そうですね。あなたとお別れしてから暫くはがむしゃらに仕事だけしていましたけれど、最近パートナーができたんですよ。
「……へえ。よかったね」
あなたみたいに引き籠らないで、色んなお店に連れて行ってくれるので、ラウンジの勉強になるんです。最近はスポーツ観戦に行ったりして。知ってます? 最近流行りの……いえ、言うほど詳しいわけではないのでやめておきますね。
「そうして~拙者スポーツとかさっぱりですゆえ~~……ま、大事にされてるならいいんじゃない?」
ええ、すごく大事にしてくれる人ですよ。休日にだらしない恰好のままでいると叱られたりするんです。お陰で気に入っていたルームウェアの出番ががくっと減りましたよ。あの、ブルーとブラックのボーダーの……でもこういう服好きそうだなって言うのを着てると、すごく褒めてくれるんですよ。綺麗だって。だから好きだって、言葉をくれるんですよね。耳が痛いでしょう、ふふ。
「あー、ほら、そう言うのって恥ずかしいですし? 言わずともわかってたでしょ?」
まあ、そうなんですけど。でも言葉で伝えるのとそうでないのは結構違いますよ。そのせいか、喧嘩もないんですよ。愚痴を言うと幸せが逃げるよって叱られるのであんまり言わなくなったし。
「wwwまじでwww なにそれ? でもストレス溜まんないの? 愚痴くらい自由に吐き出すべきでは」
ストレス……うーん、今のところはない気がします。案外平穏な時間はストレスとかたまらないのかも知れないですね。
「……でもそれ、ストレスで噛んだでしょう。指先怪我してる。ほんとその癖どうにかしないと」
あ、この指ですか? ……噛んだんじゃなくて、ちょっと食事を作ってた時にちょっと手元が狂ってしまっただけですよ。
「ふーん……まあいいけど。あんま無理しないようにね。で、今後はどうすんの?」
今後ですか……そうですねえ。取り敢えず新設した事業を軌道に乗せて……それからですかね。あんまり夢のようなことばかり並べても実現できなければ意味がないですから。
「へえ? 全世界にモストロラウンジを作るんだって言ってた頃の君はどこに行ったの?」
そんな、……そうですね。全世界にモストロ・ラウンジのチェーン店を創れたら最高ですよね。でもそれには……それはほら、夢物語じゃないですか。いつか月に行きたい!みたいな、そのくらいの。
「ひひっ、月くらい僕なら連れて行ってあげるのに」
……あんまり、夢のようなことを並べるよりは現実的に着実に叶えて行くべきだと、諭されまして……その通りだなって、思ったんです。
「……ふうん」
だって、僕ひとりでは、できないじゃないですか。そんなこと。ジェイド達がいるとは言え、僕だけじゃ……と、言うか、そちらはどうなんですか。恋人はできました?
「あー……いや、今はいないよ」
そうですか……「今は」いない……ま、まあ、あなた顔はいいですしね。声もいいし。身長もあるし。ちゃんと会話ができるようになれば不便ないですし。ただ一日中だらけた部屋着でいるのは感心しませんね。それにちゃんと気持ちは口にすべきです。あと煽るのはやめた方がいいですよ、あれは本当に腹が立つ。
「不満ぶちまけ大会www 痛烈なdisりwww
まあ、子供だったんでござるよ。君といた時は」
……お願いがあるんですが
「このタイミングで? こわ…なに?」
嘘を、ついてくれませんか。ひとつだけ、この場だけでいいんです
「……どんな?」
恋人がいると、嘘をついてくれませんか
「どうして?」
……あなたに、帰りたくなってしまうから。あなたが誰かの物なら、あなたを、今度こそ諦めることができるから
「じゃあ、帰って来たらいいじゃん」
吹き抜けた風と共に投げ込まれた何気ない一言に視界が歪んだ。
そもそも、どうしてこのひとと離れることを決めたんだっけ。
何だかとても下らなくて、けれど譲れなくて、勢いだけで彼の元を飛び出したんだった。
終わる時は一瞬だなと強く思ったことだけを憶えていて、彼を失ってからの事をあまり覚えていない。
今のパートナーだって、アイスブルーの長い髪が彼を思い出させたから付き合った。
彼よりもよっぽどまともな人だったけれど、一緒にいても窮屈だった。苦しかった。
「僕、いまは別の人のパートナーです」
「関係ないね、君が帰りたいと思うなら帰って来たらいい。そもそも“帰る”って言葉を使ってる辺り、君の居場所が僕のところであることを君も認識しているくせに」
広げられた両腕の中は、窮屈さの欠片もなくて。
思い切り吸い込んだ彼の香りで、ようやく呼吸ができた気がした。